OperaがGoogleのエンジン採用の初バージョンをリリース–便利な独自機能による差別化に専念

Operaが今日(米国時間5/28)同社初のChromiumをベースに使ったWindowsとMac用デスクトップブラウザOpera Nextの、プレビューバージョンをローンチした。同社がブラウザのエンジンを自社製からGoogle製に切り替えることを発表したのは今年の2月だった。Googleのエンジンなので、SPDYプロトコルなどもサポートされるが、それだけでなくOpera独自の新機能もいくつかある。

たとえば、ショートカットをフィルタしソートしてフォルダに収めておけるSpeed Dialのタブページが新しくなった。また、ChromeのようにURLと検索クェリが一つのバー(アドレスバー)に統一された。UIのデザインも一新され、モダンなルックスになった。

ユーザがカスタマイズできるニュース発見機能が加わり、“あなたは椅子の背もたれに体を預けたまま、あなたがとくに関心のある国別地域別などに分類された最新ニュースをブラウザ上の一箇所でまとめて見ることができる”、ということになった。それは、Google Newsにカテゴリーによるフィルタ機能をつけたものだ(アート、食べ物、テクノロジ、などなど)。ニュースを選ぶOperaのアルゴリズムは未知だが、使ってみるとまあまあニュースの集め方は妥当だし、Pinterestふうのレイアウトによりニュースを素早くスキャンできる。

“Stash(隠し金庫)”ビューという機能が新たにサポートされた。それは、URLバーのハートのアイコンを押して、今見てるページを素早くブックマークし、あとでその隠し金庫に入れておいた複数のページを1ページ内に小さなサイズで全部表示して比較検討できる、というものだ*。ショッピングとか旅行の下調べのときに便利、と同社は言っている。下の画像が、その例だ。〔*: 余計な訳注: マルチタブやマルチウィンドウは比較検討作業がとてもやりにくいので、このStash機能は全ブラウザがサポートしてほしい…消費目的だけでなく調査作業のときにはほとんど必須だ!。〕

つまり、Googleのレンダリングエンジンに切り換えたことによってブラウザが高速になり、また自社製エンジンという重荷がなくなって、他のブラウザと差別化できる独自機能により専念できるようになった、というプラスの効果が見える。

ただし、なくなった機能もある。Turboモードはあるが(”off-road mode”と改名)、Opera Notes、Link、タブのサムネイルなどなど、Operaファンにとっておなじみの機能がいくつかない。将来復帰するのかも、分からない。

Opera Mail

またこのバージョンから、Operaはメールクライアントを単独のアプリケーションとして切り離した。今ではそれはスタンドアロンのプロダクトとして入手できる。すごく軽いメールクライアントだから、最近のスタートアップたちのメールプロダクトに比べても優れていると思う。またメッセージにラベルを付けたり、添付ファイル(ドキュメント、画像、ビデオ、オーディオファイルなど)のあるメールだけをフィルタする機能もある。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))


GoogleがWebKitをフォークして新レンダリングエンジンBlinkをローンチ, 速さと単純性を追求

Googleがさきほど(米国時間4/3)、WebKitのフォークBlink発表した。Googleの説明によると、Blinkは“包括的なオープンソースコミュニティ”および“WebKitをベースとする新たなレンダリングエンジン”であり、将来的には当然、“WebKitとは異なる方向へ進化していく”。Googleによると、Blinkはスピードと単純性がすべてだ。それはもうすぐChromiumからChromeのさまざまなリリースチャネルへ持ち込まれ、ユーザは近い将来、ChromeのBlinkで実装されたバージョンをデスクトップや携帯やタブレットで見ることになる。

WebKit: コラボレーションは最高だったが

Googleの技術担当VP Linus UpsonとOpen Web PlatformのGoogle側プロダクトマネージャAlex Komoroskeの話では、WebKitをフォークする決定は完全に技術者チームからの発意であり、その動機はただ一つ、WebKitの技術的複雑さと、それがもたらす束縛だ。Komoroskeによると、WebKitプロジェクトにおける他社との協働関係そのものは、たいへんすばらしかった、という。

しかし、プロジェクトの立ち上げまでには難関もあった。Upsonによると、このWebKitフォークの動きに関して、“管理部門からは厳しい質問を大量に投げかけられた”が、結局は、技術的な複雑性を軽減して、Googleのレンダリングエンジンをチームが望む方向に進化させていくことが優先された。

Blinkはスピードと単純性がすべて

Komoroskeによると、具体的な問題としては、Chromium(ChromeとChrome OSを支えるオープンソースプロジェクト)の多重処理を核とするアーキテクチャは、WebKitとの相性があまり良くなかった。GoogleがWebKitでGoogle流を貫こうとすると、WebKitのほかのパートナーたちとの統合という課題が発生し、開発過程の全体を牛歩にしてしまった、とKomoroskeは回顧する。

ChromiumとBlinkはオープンソースプロジェクトなので、誰もが自由にコミットできるが、この種のプロジェクトの通例として、そのためにはプロジェクトの正規メンバーである必要がある。

現時点ではWebKitとBlinkは機能的にほとんど同じだが、Googleの予想としては、長期的には両者は非常に違った方向に進化していくだろう。たとえばKomoroskeは、IFRAMEを別のプロセスとして実装したいと考えているが、それを今のWebKitでやるのはきわめて困難だ。

ただし今のところは作業の中心がアーキテクチャのレベルでの改良なので、機能や見た目の上での違いはほとんどない。Googleによると、今行われている改良とはたとえば。“7つのビルドシステムを取り除き、7000あまりのファイル(計450万行あまり)を一度に削除する”、といった低レベルの作業だ。このような大掃除によって、コードベースがより健康的になり、安定性が増し、バグが少なくなる、とGoogleは期待している。

WebKitプロジェクトは、Appleが同社のSafariブラウザのためにKDEのオープンソース製品KHTMLエンジンをフォークするところから始まった。その後KHTMLのチームとAppleのあいだにいろんなやりとりや経緯があり、Appleは2005年にWebKitをオープンソースにすると発表した。そしてGoogleはそれを、同社のChromeブラウザに採用した。興味深いのは、初期のChromiumが実はWebKitのフォークされたバージョンを使っていたこと。そしてその後、そのフォークがあらためて、WebKitプロジェクトの本流に合流したことだ。

というわけで、今現在WebKitを使ってブラウザを作っているベンダは、実はすでにそれぞれが、きわめて異なった実装を使っているのだ(そして彼ら独自のJavaScriptエンジンも使っている)。

WebKitの開発におけるGoogleの今の役割

目下、WebKitのリビュワーの大多数がGoogleから(95名)で、次に多いのがApple(59名)だ。以下、Blackberry、Intel、Nokia、Samsung、Adobe、Netflixなどが続く。WebKitのリポジトリへのコミットも、その大半はGoogleがやっているから、Googleが脱けたら今後のWebKitがどうなるのか、それを見守っていきたい。Googleの広報は今日、Blinkのチームメンバーは今後も“そうしたければ”WebKitに貢献できる、と言ったが、おそらく、そんな余裕のない人がほとんどだろう。

WebKitに切り換えたばかりのOperaはどうなる?

数週間前にOperaは、独自のエンジンの開発をやめてWebKitに切り換える、そのためにブラウザのベースとしてはChromiumを採用する、と発表した。今回のGoogleの発表がOperaにどう影響するのか、それはまだ分からないが、本誌は同社に声明を求めている。

Operaが切り換えを発表したとき、多くのデベロッパたちがWebKitによる文化的独占を心配した(とくにモバイルのWebで)。GoogleがBlinkを手がけたことにより、その心配はなくなり、イノベーションが再び加速すると思われる。Komoroskeも、GoogleのWebKit離れにより他社もWebKitをよりはやく開発するようになり、Googleのこれまでとはまったく異なる実装(Blink)がその動きを一層刺激するだろう、と言っている。

アップデート: Operaが今、次のような声明を寄越した: “Webがデベロッパにとってさらに一層オープンになりアクセスしやすくなることは、喜ばしい。それは動きの激しいプラットホームであり、継続的かつ迅速な更新が必要とされる。Googleのブラウザ担当者たちと話し合った結果、弊社は今後、オープンソースのプロジェクトすなわちBlinkに貢献していくことを志向したい。弊社からのインプットを有効利用できると思われるさまざまなオープンソースのプロジェクトに対して、これまでもそうしてきたように”。

なぜ”Blink”か?

Googleはなぜ、新しいレンダリングエンジンをBlink(まばたき)と呼ぶのか? Upsonによると、それは当然、スピードと単純性を重視するからだ。しかしブラウザのデベロッパたちには、名前で遊ぶ傾向が以前からある。たとえばChromeは、”chrome”(派手で中身のない外見)をできるかぎり消滅させることと関連している。そして彼によるとBlinkは、90年代にNetscape Navigatorが導入した、古き良き(そして迷惑な)<blink>タグを、人びとに思い出させるためだ。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))


WebKitの独占状態の是非

icon-goldOperaが自前のレンダリングエンジンの開発を停止し、オープンソースのWebKitエンジンを採用することにしたというニュースは各所から大いに注目を集めた。WebKitはGoogleのAndroid向けブラウザでも、またAppleのiOS向けブラウザにも採用されている。すなわちモバイル環境においては、既に事実上の標準の地位を獲得している。そしてさらにその触手をデスクトップ環境にも伸ばしつつあるところだ。既にChromeは、Tridentを採用しているMicrosoftのInternet Explorerや、MozillaのGeckoを採用しているFirefoxと比べてかなりのリードを獲得している。こうした状況の中で、頭に浮かぶ疑問がある。各社が独自のエンジンを開発して、競い合う環境の方が良いのか、それともWebKitを標準として各社に採用してもらう方向が望ましいものなのだろうか。

WebKitはオープンソースのプロジェクトであるので、誰でも開発に参加することができる。Google、Apple、Mozilla、Microsoft、Opera、あるいはブラウザ関連のさまざまな企業が参加しているので、標準的に採用される技術を即座に実装することができる。レンダリングエンジンが統一されることで、開発者の苦労は大いに低減されることとなる。レンダリングエンジンの違いによる細々とした表示スタイルの違いに頭を悩ませないで済むようになるわけだ。

Hacker Newsのスレッドにも多くのコメントが寄せられている。WebKitの開発に集中することで、多くのイノベーションが生み出されるのであれば、WebKit独占の状態は開発者にとっても利用者にとっても良いものとなる可能性があるという論調もみてとれる。

こうした独占に向けた流れに抵抗する筆頭はMozillaだ。これまで独自のGeckoエンジンおよび、その後継となるServoに多大なリソースを割いてきた。Mozilla CTOのBrendan Eich曰く、Mozillaの存在意義をかけて独占には抗っていくつもりだとのこと。また、MozillaエンジニアのSteve Finkは、モバイルかデスクトップかを問わず、WebKit独占を許してしまえばイノベーションが阻害され、少数企業によるプラットフォーム独占を惹起してしまうと述べている。そのような状況になれば、結局は各社利益を追求する迷惑な混乱に支配されてしまうことになるとも述べている。

しかしWebKitはオープンソースであるので、もし開発が滞ったりあるいは特定のステークホルダーが開発を政治的理由によって妨害するようなことがあれば、即時に開発の道筋を分岐させることができるので、独占による悪影響などはないと考える人もいる。

From Google's Chrome Launch Comic Book

但し、ウェブの世界ではこれまでにも「独占の弊害」を経験したことがある。IE5やIE6の時代(Netscapeが舞台を去り、そしてIEは6のリリースが2001年で、IE7が登場したのは2006年だった)には、完全に「停滞」状況になっていた。そうした状況の中、2004年あたりからはFirefoxがスタートし、そしてWebKitをベースとしたGoogleのChromeも2008年に登場してきたのだった。Chromeのミッションはレンダリングエンジンの標準化を試み、そしてJavaScriptの高速化を行うということだった。独占を崩す存在が登場してきたことにより、ウェブプラットフォームは現在のような応用環境に進化したのだとも言えるだろう。

「ウェブ」が今後戦っていく相手は?

Operaは、「独占状態は良くない」と主張しつつ、その言葉とは正反対にも見える道を歩むことになった。Operaもそれなりのシェアを獲得しているにも関わらず、「多くの開発者たちがWebKitのみをターゲットに開発をしているという現状があります」と述べ「先頭に立って独自の道を追求していくことにメリットは少ないと判断しました」とのこと。

Operaの選択した方向は興味深いものだ。結局のところ、ウェブ技術は各社のレンダリングエンジンの違いで競っていくのではないと判断したわけだ。今後の競合相手はネイティブアプリケーションであると判断したわけだ。Operaは「閉鎖的な“アプリケーション”に対抗して、オープンなウェブ技術を推し進めていくつもりだ」とのこと。その戦いを効率的・効果的に進めていくためにWebKitの採用を決めたということだ。

開発者と利用者の着眼点の違い

理想を言えば、さまざまなベンダーが「標準」に則った開発を行って、レンダリングエンジンの違いによる差異などを意識しないで済むというのが良いのだろう。同じコードは同じように表示されるべきだろう。しかし、「標準」を意識しつつも実装により細かな違いがあり、同じような表示を実現するなどということはできなかった。

但し、たいていの利用者はレンダリング方式の違いによるウェブページやウェブアプリケーションの見え方にはほとんど意識を払わなかった。利用者は利用可能な機能(ブックマーク、プラグイン、タブなど)によってブラウザを選択していただけなのだ。そうした機能の多寡や使い勝手によって、利用者はブラウザを切り替えてきたのだ(もちろんあまりに速度が遅いものなどは排除されることになる)。

Mozillaは、魅力的な機能を提供していくためには、ブラウザ全体を自ら手がけていく必要があると述べている。今やWebKitに対する唯一の対抗勢力と言っても良い存在になったMozilla陣営は、自らの言葉を証明するために、利用者にとって真に魅力的な機能を提供していく必要がある。

個人的には、「標準」に基づいた競合がある方がイノベーションサイクルも早まると考えている。ウェブ技術というのは、まだひとつのエンジンに集約してしまうような枯れた技術ではないと思うのだ。レンダリングエンジンが複数存在すれば、余計な作業も増えるだろうし、迷惑に感じられることすらあるかもしれない。しかし将来的にきっと実を結ぶ、「若い時の苦労」になると思うのだ。

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(翻訳:Maeda, H)

ここに来てMozillaの存在意義, WebKitに乗り換えないことの意味

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今週初めにOperaは、Prestoと呼ばれる独自のレイアウトエンジンを捨ててWebKitに鞍替えする、と発表した。Google、Appleに続いて今度はOperaだから、オープンソースのWebKitエンジンは今、大きな支配的勢力になりつつある。しかしMozillaのCTO Brendan Eichは昨夜の記事で、Mozillaは当面、レンダリングエンジンを変えない、との意思を表明した。Mozillaは上記3者のような営利企業ではないので(そのことをふだん忘れている人も多いと思うが)、そのミッションも自ずから異なるのである、と。

Eichは、“Mozillaがふつうの企業なら、Operaと同じことをしただろう”、と言う。“しかしわれわれは企業ではないし、またデスクトップにおけるシェアは、横ばいもしくは伸びていると思われる。それには、Geckoがもたらした短期的な勝利、という側面もある”。

Eichはさらに続けて、“われわれがWebKitの波に乗ってしまえば、そのブラウザはWebKitを核とするChromeと何ら変わりのないものになる。しかし、そのようなモノカルチャーはWebに良いものをもたらさない。WebKit一色でなく、FirefoxがありInternet Explorerがある、という多様性が重要だ”、と言う。しかもEichの見方では、8つのビルドシステムがあり多様なフォークもあるWebKitは、単一の存在ではない(8、AppleのNitro、iOSバージョンのSafari、…)。グラフィクスのバックエンドやネットワークスタックも、それぞれ異なる。“Android 2.3のときWebデベロッパたちは、WebKitの不統一性に苦労したのだ”、とEichは書いている。

またWebKitに切り替えるとしたらその費用は、Operaに比べてMozillaでは相当に大きい、とEichは言う。Operaはデスクトップのシェアが比較的小さいから、切り換えの費用も比較的少ないが、それでも、ささいな額とは言えない。しかしMozillaは、XMLベースのユーザインタフェイス構築言語 XULに、大きな有形無形の投資を蓄積している。それを捨ててWebKitに乗り換えたら、Firefoxアドオンの膨大な資産とエコシステムを失うことにもなる。

独自のエンジンを持つからこそ、Firefox OSやFirefox for Androidなどのプロジェクトも可能になる。中でもとくにEichは、今Firefoxが使っているGeckoエンジンの次世代版Servoに、大きな期待を抱いている。Servoは、マルチコアのCPUと大規模並列処理のできるGPU向けに最適化されている。だから、ブラウザのマルチスレッド化(==内部的並列処理化)ではAppleやGoogleよりも一歩進んだものになる。

Webデベロッパにとって、OperaがWebKitに切り替えたことは大きな意味を持たないだろう。元々、サイトをOpera向けに最適化していたデベロッパは、それほど多くないからだ。デベロッパはむしろ、WebKitへの切り換えを歓迎するだろうし、またMozillaについても、Eichが主張する独自路線の維持が本当に将来のイノベーションを招き寄せるのか、議論したいところではないだろうか。しかしWebも人間社会と同様、健全な多様性こそが、進歩の動因なのだ。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))