ユーグレナなど3社、研究開発型ベンチャー支援で20億円規模の新ファンドを設立

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東大発バイオベンチャーのユーグレナがSMBC日興証券、リバネスと組んで「次世代日本先端技術育成ファンド」(通称:リアルテック育成ファンド)を設立した。ファンド規模は当初20億円。上記3社に加えて日本たばこ産業、三井不動産、吉野家ホールディングス、ロート製薬、鐘通が出資者として参加している。今後も参加企業を増やして2015年内に50億円以上を目指すという。多数の大手企業を巻き込むことで、「ヒト、モノ、資金」の面で総合的に支援するプログラムを開始する。各参加企業は資金のみではなく、経営ノウハウや施設・設備の提供、共同での研究や事業開発も実施していくという。

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ユーグレナといえば、社名ともなっている微生物「ミドリムシ」(学名:ユーグレナ)の屋外大量培養に成功したことで業績を伸ばしているバイオ系ベンチャー企業だ。2012年に東証マザーズに上場し、2014年12月には東証一部に市場変更となっている。ミドリムシというと「虫」を思い浮かべる人もいるかもしれないが、実際には光合成を行う藻類で、食糧問題や環境・エネルギー問題を解決するポテンシャルがあるとユーグレナは言っていて、ミドリムシ燃料でジェット機が飛ぶ日を目指している。

今回のファンド設立で音頭を取ったのはユーグレナだが、SMBC日興証券は研究開発型ベンチャー企業の上場支援の実績を持っていて、志が一致したんだとか。またリバネスはといえば、理系修士号・博士号取得者のみで運営されている科学教育などで知れる企業で、これまでにも研究開発型ベンチャー企業の育成プラットフォーム「TECH PLANTER」を提供してきた経緯があるという。

ユーグレナは第1回日本ベンチャー大賞の内閣総理大臣賞を受賞するなど注目度は高く、その分、技術者やベンチャー企業からの相談や出資依頼が多く集まるようになっていたそうだ。自分たちの経験からも企業連携によるベンチャー企業支援の体制構築の必要性を感じていた、という。

また、日本の研究開発系ベンチャー企業が海外企業に買われることで日本発の技術が海外に流出してしまうことへの危機感もあった、という。TechCrunchのメールでの取材に対してユーグレナ自身は具体的社名などは出さなかったが、Googleに買収された東大発ベンチャーのSchaftなどが念頭にあったのかもしれない。

ところで「リアルテック」は耳慣れない用語だが、ロボティクスやバイオ、IoT、アグリ、エネルギーなどのネットだけに完結しない技術分野を指すそう。こうした研究開発型ベンチャーは技術開発や事業化に時間とコストがかかる。国内でも近年、ネット系のVCは数が増えてきたし、IoTを標榜するVCも登場してきているが、大学発の研究開発の世界とは距離があった感は否めないと思う。大企業を辞める理由があまりない人材の流動性が低い日本では、リスクを取ってイノベーションを推し進めるスタートアップのようなチームと、大企業が共同で事業や価値を作っていく「オープンイノベーション」が必要だという声はよく聞くし、そうした活動や、それを支援する政策も増えているように思う。今回のファンドはベンチャー投資促進税制を利用している。これは投資額の80%までを損金算入することで法人税の対象から除外する制度だ。

各社の主な役割は以下の通り。

ユーグレナ:バイオ、アグリ領域における共同研究、事業化支援
SMBC日興証券:上場準備体制構築、大企業連携・紹介支援
リバネス:「TECH PLANTER」を活用した科学技術の発掘と研究者の育成、創業支援ならびにシード・アーリーステージのベンチャー企業を対象とした育成プログラムの提供
日本たばこ産業:ヘルスケア分野等の研究・ベンチャー企業の支援
三井不動産:研究開発拠点、オフィス等のファシリティ支援
吉野家HD:飲食業への展開や農業、畜産技術に関するノウハウ支援
ロート製薬:医薬品やヘルスケア領域における共同研究、ノウハウ支援
鐘通:研究開発型ベンチャー企業の製品販売などを通じた支援

Open Network Labが第10期のデモデイを開催、最優秀賞はKUFUの「SmartHR」に

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Open Network Lab(Onlab)が手がけるインキュベーションプログラム「Seed Accelerator Program」。2010年4月から続くこのプログラムもすでに第10期。4月2日にはその成果を発表するデモデイが開催された。

第10期には80チームが応募。ステルス(非公開)1チームを含めて合計7チームが採択された。デモデイに臨んだ6チームの概要を紹介する。

MOOB「MAKEY

ユーザー同士でメイク方法を共有する、いわば「クックパッド」のメイク版。ユーザーはメイクのビフォーアフターを投稿、閲覧できる。新規投稿数は3カ月で3倍に増加。サービス運営に加えて、花王やコーセーとコラボしたメイクのリアルイベントなども開催しているという。4月中旬以降サービスを本格化する。

フラップ「FLAP

「美容室」ではなく「美容師個人」にフォーカスしたマッチングサービス。12月にブラウザ版をリリースしている。美容師が得意な技術などを投稿。それを見たユーザーは、自分の気に入った美容師に対して予約を取ることができる。現在は登録美容師の42%が情報を発信し、35%が継続利用している。また美容師の7.5%がこのサービスを通じて新規顧客を獲得した。

KUFU「SmartHR

労務手続きをクラウド上で解決するサービス。これまで手書きで書く必要のあった各種の書類をオンライン上に入力するだけで自動的に生成する。ランディングページ公開後、2週間で125社(社員数ベースで1449人)の利用申し込みがあり、テストした10社の全社が「お金を払っても利用したい」と回答したそうだ。将来的には政府の公開するAPIと連携。さらに財務など各種業務システムとのつなぎ込みを検討している。

TSUNAGU「tsunagu Japan

訪日旅行者向けの英語メディアを運営。「日本のライフスタイルを知るコンテンツ」「まとめ記事形式の観光記事」の2つに特化した独自記事を配信している。現在のユニークユーザーは43万人、Facebookページは100万人、アンバサダー(記事拡散支援のユーザー)は320人。diggTripZillaと連携。7月をめどにUU100万人を目指す。将来的にはホテルや飲食などジャンル特化型メディアを提供する。

iDEAKITT「LifeCLIPS

書き手満足度重視のテキストベースSNS。書き手にとって重要なのは投稿の手軽さと表現の自由さを重視している。現在高校生から60代までが文章を綴っている。現在2万以上のCLIP(投稿)がなされている。アクティブ率は50%。平均滞在時間は10分を超える。アクセスの7割はモバイルからだというが、投稿される文字数は平均で400文字以上と長文が多い。3月31日にはiPhoneアプリもリリースした。(以前の記事はこちら

マミーケア「HouseCare

1時間2500円のハウスクリーニングサービス。ここは最近スタートアップが続々参入している領域でもあるが、HouseCareの強みは「速さ」。申し込みしたユーザーの37%が当日〜2日以内のブッキングを実現している。スタッフは日本語と英語に対応。もちろんレビューなどの仕組みも整えている。

最優秀賞はKUFUの「SmartHR」に

デジタルガレージ代表取締役グループCEO林郁氏をはじめとする審査員がBest Team Award(最優秀賞)に選んだのはKUFUのSmartHRだった。

僕もプレゼンを聞いていて「今人事労務が抱えている課題を解決する」という点では6チームで一番明快だと思ったのだけれども、ちょっと気になったのはサービスの参入障壁の低さだ。ビズグラウンドの「Bizer」なんかも、実はこのあたりの領域を狙っているサービスだったりするし、大手企業だって参入の可能性がある領域だ。

実際審査員の間でもこの点で評価が分かれたそう。林氏は「まだ完成していないがマーケット広い。だが参入障壁は低い。ささっと(資金)調達して勝負して欲しい」と評していた。

なおOnlabでは第11期のプログラム参加者を募集中だ。支援内容についても第10期からアップデートしているので、詳細はこちらの記事を確認して欲しい。

コロプラが子会社設立で学生特化の投資を始めたので、理由を聞いてきた

昨日報じたとおり、コロプラが学生起業に特化した投資活動を開始する。100%子会社のコロプラネクストを新たに設立し、コロプラ創業メンバーで代表取締役社長の馬場功淳氏がメンター、同副社長の千葉功太郎氏がエバンジェリストとして起業を支援する。

TechCrunch Japanでは早速、新会社代表に就任した山上慎太郎氏、新会社で投資を担当するキャピタリストの緒形仁暁氏、エバンジェリストの千葉功太郎氏の3人に話を聞いた。

左から緒形仁暁氏、山上慎太郎氏、千葉功太郎氏

日本のネット業界の発展のために必要なこと

コロプラネクストの1号ファンドの規模は非公開だが、特別大きいというわけではなく出資額も1社あたり数百万円から多くても1000万円程度という。分類としてはCVC(コーポレートVC)ということになるが、コロプラとしてはキャピタルゲインを狙っているわけでも、事業シナジーを考えた投資をするわけでもないという。投資対象も、代表者が学生であることと、ネットを使った事業を展開していることという2つがあるだけで、ゲーム分野に限らない。

エバンジェリストの千葉氏は「自分の時間の半分を投入する。飛び込んでくる学生起業家には全員会う」と意気込む。年商が500億円を超え、従業員数も500人に迫る伸び盛りのベンチャー企業の副社長として半分の時間を使うというのは、かなりのリソースの割き方だ。なぜそこまでするのか?

「いや、もうこれは業界貢献です。稼ぐという観点でいえば、われわれはゲームを作っていたほうがいいのです。でも、短期的にはそうかもしれなくても、中長期では違うかもしれません。長い目で見ればネット業界に注目が集まらないといけないと思っています。日本のネット業界が発展していくには、われわれのような事業家が次世代の事業家を育てていく、自分たちが得てきた何かを伝えていくというのが大切なんです」

「子を持つ親たちが、自分の子どもに行かせたいと思うような業界にしないといけない。医者とか弁護士とかピアニストとか、そういう職業に就かせるために親は子どもに投資するわけじゃないですか。教育をする。でも、プログラマにしようとか、ネットサービスを作れるようにしようとか、起業家にしようとか、そういう人って今のところ多くないですよね」

「起業家がうまくいって、若くしてしっかりと利益もだし、社会に必要だと思われる会社を作る。良い人材が活躍して、そういうストーリーが出てこないと、ネット業界が変わっていかない。コロプラネクストでは、そこを応援したい」

コロプラネクストは内部的なKPIを持ってはいるものの、目指しているのは数ではなく、「スター」と呼べるような人材の輩出。3〜5年でスター的な起業家が2、3人も出てくれば、という。これまでネット業界は、ITバブルやライブドア・ショックなどで否定的イメージで捉えられることもあったが、「2000年代前半のITイメージと違う、その次となるITのイメージを作っていかないといけない」と千葉氏は言う。

すでにコロプラネクストで投資を検討している会社は数社あるといい、4月にも発表予定だ。事業計画アドバイス、設立事務のサポート、オフィス活用、プロダクトアドバイス、定期面談、学生起業家コミュニティのための勉強会・懇親会の開催などを通して支援していく。

千葉氏は、今までも非常に多くの起業家志望の学生に会ってきているが、起業を推めづらいもどかしさもあったそうだ。「かつて起業したら、というアドバイスをしてしまったことがあるんですが、人事から怒られました(笑)。この人は起業したほうがいいと心底思ったとしても、これまでならコロプラに来たらというべき立場でしたからね」。

千葉氏は、これまで20年近くに渡って自分と同世代や後進にあたる世代で、多くの起業家志望の学生たちを見てきた。起業で成功した人もいれば、そうでない人もいて、そこの目利きができるという。

支援することで成功率を上げたい

たくさんの学生に会ってきたという意味では、コロプラネクストで「キャピタリスト」との肩書きで活動を開始した緒形仁暁氏も同じだ。もともとは前職ではスタートアップ企業の採用担当をしていたことから、むしろ千葉氏よりも学生に会っているという。

「1年で1000人以上というペースで、これまで起業に興味があるような学生たちに会ってきました。ただ、その後を見てみると、意外に就職していることが多いのです。9割ぐらいでしょうか、ほとんどです。それで話を聞いてみると、ささいなところで躓いていたりするんですね。財務の知識がなかったとか、仲間と喧嘩したとか。こうしたところでは支援できることがあると思っています。やるなら成功率を上げたいんですよね。知識があるかないか、ゴールが描けてるかどうかで最終的に全然違ってきますから。成功率を上げれば、もうちょっと面白いことが起きるんじゃないかと思います」

「学生なので視野が狭くなりがちということはあります。事業アイデアも身の回りのことから出てくる。そこはいったん崩すということもやりますが、最終的には事業を選ぶのは本人たちです。起業家が持つ信念とかポリシーを大切にしたいです。だからこそ本気でやる粘りが重要ですね」

山上氏は、大手銀行を経て上場株を中心にアセットマネジメントを行う会社にいて新興企業を見てきた人物だ。2000年にさんざん持ち上げられた後にITバブルが来て、「ほら、言わんこっちゃない」と叩かれた時期を見てきた。「あれから15年が経って、ネット業界も認知が上がってきたなと思います。波がありつつも、存在感が大きくなってきている。時間とともに社会にも受け入れられていくと思っています」

2015年の現在の日本のスタートアップ業界は資金供給過多ではないか、という見方もあるが、学生向けについては、そうでもないと山上氏。

「学生相手というのは手間がかかります。だから逆に真空地帯というかスイートスポットになっていたのかなと思います。ほかのVCはやりませんよね。でも、(コロプラ創業社長の)馬場がエンジニアなので、そういう視点でも見れるのが強いと思っています」

TechCrunch Japanを読んでいる学生諸君! プロトタイプも事業プランも、何もない状態でも会って話を聞いてくれるそうだから、起業に興味がある人は、コロプラネクストのページから申し込んでみては。


2014年のスタートアップ投資額、6年ぶりに1000億円超え―JVRが調査報告

リーマン・ショックの2008年以降下降線をたどっていた未公開ベンチャー企業の資金調達状況が2014年には大きく改善して、資金調達額は前年比1.58倍の1154億円となった。6年ぶりの1000億円超えとなる。2006年から継続して調査を続けているJVR(ジャパンベンチャーリサーチ)がまとめた数字だ。

1社あたりの調達額7250万円は前年比185%

1社あたりの資金調達額も中央値が7250万円と前年の4000万円から1.8倍と増えている。資金調達を行った企業の数は減少しているものの、1件あたりの金額が増えている。TechCrunch Japanでも日々お伝えしている調達額が増えていることは感じているが、この調査でも資金調達額の大型化が浮き彫りとなっている形だ。ただし、TechCrunchが主にIT関連のニュースをお伝えしているのに対して、JVRの調査にはヘルスケア、バイオ、医療、環境、エネルギー分野も含まれる。業種別の傾向としては、IT関連の企業数が増加傾向にあり、2014年は49%となっている。また、インターネットを利用したビジネスモデルを持つ企業の調達件数は2006年以来、ほぼ一貫して増加傾向にあり、2014年にその割合は80.5%となっている。

シード・アーリーからシリーズA、Bへ重心が移動

また資金調達を行った企業の設立年数を見てみると、設立1年未満の社数割合が減少する一方で、1年以上の割合が増加。1年以上5年未満が35%を占めるようになっている。調達額の大型化と合わせて、この傾向の背景には、2011年、12年に生まれたシード、アーリー対象のアクセラレーターの卒業組がシリーズAやBといった調達に成功する例が増えていることがある。以下のグラフは、それを顕著に示している。レポートでは「米国での一般的な調達額として、シリーズAで2億円、シリーズBで5億円、そしてシリーズCで10億円と言われているが、日本も同様の規模に近づいてきている」としている。

10億円以上の調達は7社→16社→25社と増加

資金調達の大型化により、10億円以上資金を調達した企業は前年比1.56 倍の25社だった。2012年に7社、2013年は16社だった。以下に資金調達ランキングの上位50社の一覧を画像で掲載する(クリックで拡大)。

以下の表は投資総額によるVCのランキングだ。投資金額のVCのランキングで上位31社中CVCが6社、外資VC7社と、CVCと外資VCが健闘しているのも目を引く。

優先株も実はすでに半数以上の63%で利用

かつて日本では優先株の利用はほとんどないと言われてきたが、ここ3、4年で一気に増えているようだ。JVRのレポートによれば、会社設立から上場までの資金調達で優先株を利用した企業数は2001年以降で1年当たり2、3社程度だった。これが今回VC9社の情報開示を受けて調査した結果、対象調査企業となった2014年に資金調達を行った127社のうち優先株の利用は59社で46.5%。この比率は、株式の種類が不明の企業を除外した場合には63%となる(調査に協力したVCは、ジャフコ、産業革新機構、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、グロービス・キャピタル、東京大学エッジキャピタル、DBJキャピタル、サンブリッジグローバルベンチャーズ、グローバル・ブレイン)。ある独立系VCのキャピタリストによれば、今や投資案件は「ほぼ全て優先株」といい、エンジェル投資やレイターをのぞけば、優先株の利用はもはやVC業界でデファクトではないかと話している。背景には、もともと投資家が引き受けるリスクが創業者に比べて大きかった面が優先株によって緩和されて、より大胆にリスクを取って投資しやすくなることがあるという。特に残余財産の分配権が重要で、事業立ち上げに失敗した場合に投資を回収しやすくなるなどのメリットがある。

このほか、今回のJVRのレポートで目を引くのは海外比率だ。創業メンバーから日本のスタートアップとみなされるものの法人登記を海外で行っている「海外企業」の割合が8%となり、大阪(近畿)の6%を抜いてしまっている。より大きなマーケットを目指す海外志向が1つの傾向として数値に出ている形と言えそうだ。


スタートアップ大量氾濫の時代、VCもディスラプトしないと対応できない

[筆者: Aaron Holiday]

編集者注記: Aaron Holidayは645 Venturesの協同ファウンダ。Cornell Techで起業家育成を担当。

最近の10年間で、合衆国で各年に誕生するスタートアップの数は推計16000から20000に増加し、ソフトウェアスタートアップに投じられるベンチャー資金は年間50億ドル弱から190億ドルに増加した。

そして最近の5年間では、これらのスタートアップに関する数テラバイトものデータが、Web上に氾濫した。下図は、App Annieのトラフィックの推移と、CrunchBaseにある企業プロフィールの数の推移を示すグラフだ。

これらの数字はベンチャー産業の活況を表しているだけでなく、ファウンダになる人びとの多様化と、新しいイノベーションハブの勃興をも示している。そしてスタートアップの形成過程のこのような変化と多様化にもかかわらず、ベンチャーキャピタリストがファウンダを支援育成するやり方は、現代のソフトウェアのイノベーションと、シード段階のスタートアップに関するデータの氾濫に、乗ずる努力を怠っている。そういう意味で今VCは、時代から取り残されつつある。

新人ファウンダの出自の多様化

まず、学部と院の両方で、学生たちの起業家指向が大きく高まっている。その原因の一部は、大学と学生の増加に対して、大企業の(とくに役員〜中上級管理職レベルの)椅子の数が少なすぎることだ。学生たちは、既存企業への就職という狭き門を、最初から避けようとする。

そして、大企業へ入って出世することを諦めた学生たちは、スタートアップの創業者になり、あるいは創業初期のスタートアップに参加する。

またこれらのスタートアップが根付いて育つハブも、シリコンバレーやボストンのように、背後に名門大学/研究機関と技術系上場企業が控える伝統的な立地から、さまざまなリソースや人材や優れた中小企業の技術が潜在している新しい都市へと拡散しつつある。

そういう新興テクノロジハブの一つであるニューヨークの場合は、市にスタートアップ育成振興施策があるだけでなく、同市におけるスタートアップ形成の過程をドキュメントするDigital.NYCのようなサイトまで、市が制作している:

VC投資案件数: ニューヨーク都心(青、左端)、ニューイングランド(赤)、中西部(草色)、ロサンゼルス/オレンジ郡(紫、右端)

スタートアップのデータと量が多すぎてこれまでのVCのやり方では対応できない

スタートアップの活動が地理的にも人的にも多様化していることと並行して、シード段階のスタートアップに関するインターネット上の情報量も指数関数的に増加している。スタートアップのファウンダやプロダクトの人気、競合他社などなどに関するデータはほんの数年しか存在しないが、それら断片的データの多くはAPIから容易にアクセスでき、高成長スタートアップが発しているシグナルをリアルタイムで捕捉することもできる。

今では、スタートアップに投資する投資家は、プライベートな企業に関するパブリックな(==公開)データにアクセスするDataFoxやMatterMark、CB Insightsなどのツールを利用できる。しかしまだ、ベンチャー投資の意思決定とポートフォリオ作成のためにこれらのツールを活用しているところは、多くない。

最近の10年でテクコミュニティには大きな変化があったが、初期段階(アーリーステージ)向けのベンチャーキャピタルのやり方は20年前と同じだ。従来型のVCたちは個人的な人間関係からネタを拾い、標準性のない各社独特のやり方で投資案件の構築と提供を行っている。

そういう、人づての情報と、慎重な投資手順、事前調査、厳しい性格判断などが、従来型VCの、投資の意思決定のベースになっている。この方法は、前々世紀かそれ以前から、優秀な有限責任社員を選ぶために使われてきた。ポートフォリオ企業の選別も、ゼネラルパートナーの個人的なネットワーク(既存のポートフォリオ企業など)や地域社会の顔役、事業の支援者たち、そして一部のVCの経験やノウハウに基づいて行われていた。

上位のVCたちも、こういう伝統的なパターンで投資案件を構築してきたし、今後何年もこの方法を使っていくだろう。でも上で述べたように、今では、既存VCたちの個人的・伝統的ネットワークに引っかからない、新世代の創業者が増えている。また投資案件構築のペースも、今や従来の手作業的なやり方では遅すぎて、毎年大量に誕生する新しいファウンダたちの資金ニーズには、逆立ちしても対応できない。これまでのVCのやり方は、要するに、スケールしない/できない。

優秀な投資候補はアルゴリズムで拾え

今、プログラミングとソフトウェア開発の過程と費用は、ますます軽量化しつつある。したがって、多くのファウンダにとって、起業の敷居も低くなっている。起業資金へのアクセスも、昔に比べるとずいぶん容易だ。こういう変化が、学生たちでも気軽に起業するようになった今の傾向の原因でもある。またリーンスタートアップ(lean startup)などの新しい創業哲学も、起業を気軽で手早い起業実験として行う動向に火をつけている。

そこで今では、従来型のシードからシリーズAへという投資パターンのすぐ隣に(下図右)、実験から芽生える新しい形のシード市場が、すでに相当な規模で育っている。それを仮に、 “Gulf of Startup Experimentation”(スタートアップ実験の湾)と呼ぼう。この湾の外(下図左)には、従来型シーディングの大海がある。

この湾の中には、才能ある技術者や、プロダクトマネージャ、デザイナー、いろんな業種職種にわたるドメインエキスパート(domain expert, 特定分野の専門家)たちの集団がいて、実験を他が真似できない高成長のスタートアップに変える能力を持っている。一部のエンジェルたちや、アクセラレータ、シード投資家などが、湾内の実験を資金的に支えている。これらスタートアップのファウンダたちはもっぱら独学で、その企業はProduct HuntやAngelList、CrunchBaseなどから、もっぱらオンラインで知られるようになる(従来的な…スケールしない…人間関係のネットワークではない)。

今後確実にシリーズAになりそうな企業をこの湾内で効率的に見つけるためにVCは、湾内のベストファウンダを選り分け、パートナーしていくための高度な知恵を必要とする。情報源として人間的知性と人間関係だけに頼ることは、もはや許されない。この湾内ではいつも大量の実験が高速で生起しているから、これまでの評価や審査のやり方では対応できない。未来のダイヤモンドの、良質な原石を見つけるためには、テクノロジの利用がどうしても必要だ。

シードから初期段階投資へ、という流れも、その対象候補を見つけるためには人工知能のアルゴリズムを併用して、湾内で行われているさまざまな実験を知ることが必要だ。投資家はまた、スタートアップの経営管理チームの価値創造に影響を与えるさまざまな機会を、ソフトウェア(とくにビッグデータ分析)を使って見つけるだろう。これらのアルゴリズムによってVCは、ゼネラルパートナーとファウンダとの関係のあり方や投資戦略を分析し、そのVCにとってもっともふさわしいファウンダのタイプを、前もって見つけることができる。

VCの事業展開をソフトウェアとアルゴリズムを使って効率化し、大量起業の現代および未来に、VCが落ちこぼれることなくしっかり対応していくやり方は、まだ始まったばかりだ。投資の意思決定に補助的ソフトウェアや統計モデルを実験的に利用しているVCも、すでに数社あるが、まだ、総合的なソフトウェアとインテリジェントなアルゴリズムが日々の業務(候補の発見からポートフォリオ企業の管理までの全過程)の完全なベースとなって、優秀な投資対象スタートアップを確実に見つけているところは、ほとんどない。

VC業界が変わるためには、VCそのものにも新人が続々登場して、ソフトウェアの効果的な使い方を人びとに見せつけ、その知識を全業界に共有していくことが必要だ。

[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))


ミサイル着弾でも帰国しない、サムライ榊原氏が率いる新ファンドは「イスラエルと日本の架け橋になる」

創業間もないスタートアップを育成投資するインキュベーター。日本での草分け的存在として知られるサムライインキュベートが1月12日、5号ファンドを設立すると発表した。これまで国内約80社に投資してきた同社だが、新ファンドでは、シリコンバレーに次ぐ「スタートアップの聖地」と言われるイスラエルの企業に積極的に投資していく。

「聖地」から世界を狙うスタートアップを支援

TechCrunchでも報じたが、サムライインキュベート創業者の榊原健太郎氏は5月にイスラエルに移住し、7月に同国最大の商業都市であるテルアビブに支社を設立。起業家の卵が寝食を共にする住居兼シェアオフィスの「Samurai House in Israel」を構え、イスラエルから世界を狙うスタートアップを支援している。

イスラエルがどれくらい「スタートアップの聖地」なのかは、データが物語っている。人口わずか776万人のイスラエルにおけるベンチャーキャピタル(VC)の年間投資額は2000億円と、日本の約2倍。人口1あたりの投資金額では世界1位だ。SequoiaCapitalやKPCB、IntelCapitalといった世界の大手VCが現地のスタートアップに投資し、これらの企業をIT企業の巨人が買収するエコシステムができているようだ。

例えばFacebookは2012年6月、iPhoneで撮影した友達にその場でタグ付けできるアプリを手がけるFace.comを買収。このほかにも、Microsoftは検索技術のVideoSurfを、AppleはXboxのKinectに採用された3Dセンサー技術のPrimeSenseを、Googleは地図アプリのWazeを買収。日本でも、楽天がモバイルメッセージアプリ「Viber」を9億ドル(約900億円)で買収して話題になった。

ちなみに、TechCrunch編集者のMike Butcherは「テルアビブで石を投げればハイテク分野の起業家に当たる」と、スタートアップシーンの盛り上がりを表現している。実際のところを榊原氏に聞くと、「道端でも飲食店やクラブでも起業家だらけ」とのことで、本当らしい。

テルアビブの市役所には、TechCrunch編集者のコメントが掲げられている。左から2番目が榊原氏

ファンド規模は10倍に、要因は日本企業が注ぐ熱視線

新ファンドでは、イスラエルと日本のスタートアップ110社以上に投資する。イスラエルについてはファイナンスやセキュリティ、ヘルスケア、ロボティクス、ウェアラブル分野のスタートアップ40社が対象。この中には、ベネッセ出身の寺田彼日氏らが現地で創業した「Aniwo(エイニオ)」も含まれる。

日本人とイスラエル人の混合チームで構成されるエイニオが手がけるのは、起業数が年間3000社と言われるイスラエルのスタートアップの事業スライドを収集・公開するサービス「Million Times」。起業家や投資家、一般ユーザーが交流できるプラットフォームを作ろうとしている。榊原氏は「事業スライド版のGoogleを狙える」と評価していて、1000万円の投資が決まっている。

イスラエル企業の投資先としては、自分の足を動画撮影することで足の形をモデリングする、靴の通販サイトで使えそうな画像解析技術であったり、自分の周囲数十センチの空気だけを浄化するウェアラブル空気清浄機を手がけるスタートアップなどに投資する予定だという。

新ファンドの規模は約20億円になる見込み。サムライインキュベートの過去のファンドを見ると、1号が5150万円、2号が6200万円、3号が2億1000万円、4号が2億4000万円。創業間もないスタートアップを対象にしていることもあり規模が小さかったが、5号ファンドでは10倍となる。

ファンド規模拡大の要因の1つは、日本企業がイスラエルに注ぐ熱視線だ。前述の通り、イスラエルからはイケてるスタートアップが数多く輩出されていて、イノベーションを迫られる日本の大企業にとって、魅力に映ることだろう。かといって、イスラエルの現状はわからない。そんな大企業が、新ファンドへの出資を希望するケースが増えているのだという。

大企業マネーの背景には「過去のファンド実績がある」と榊原氏はアピールする。1号ファンドでは、スマートフォン向けの広告配信サービスのノボットが、創業2年目にKDDI子会社のmedibaに15億円で売却。3号、4号ファンドの実績は明かしていないが、1号ファンドは7倍、2号ファンドは10倍以上のリターンが確定しているという。

ノボット以外の投資先としては、個人が独自の旅行を企画して仲間を集うトリッピース、、個人がコンテンツを販売できるオンラインサロンプラットフォームを手がけるモバキッズ、スライド動画作成アプリ「SLIDE MOVIES」や日記アプリ「Livre」など他ジャンルのアプリを手がけるNagisaなどがある。

イスラエルの技術と日本企業の架け橋に

日本進出を狙うイスラエルのスタートアップにとっても、「渡りに船」の存在のようだ。日本の四国ほどの面積に人口がわずか776万人のイスラエルは国内市場がないに等しく、敵対するアラブ諸国からなる周辺国の市場も見込めない。だからこそ、「最初から欧米やアジアを視野に入れるスタートアップが多い」と榊原氏は話す。

「イスラエルの起業家は0から1を生み出すのが得意。イグジットの意識も高くて、『このプロダクトはキヤノンに使ってもらえる』とか『ドコモにピッタリ』とか言ってくる。新ファンドは、イスラエルの技術を日本企業と連携させる架け橋になれる。」

5号ファンドでは、イスラエルに登記するスタートアップについては、一律で1億円の評価をして、1000万円を上限に投資する。国内のスタートアップは引き続き、B2BおよびC2C分野に注目し、一律で3000万円の評価をして、450万円を上限に投資する。現時点でイスラエル企業15社、日本企業5社への投資が確定しているという。

ミサイルが飛んできても帰国しない「ラストサムライ」

3月の取材時に、「日本の住居を完全に引き払って、背水の陣でイスラエルに挑戦する」と語った榊原氏。移住後は支社設立のために、ヘブライ語を話す日本人に協力してもらって銀行口座を作ることや、イスラエル人の保証人探しに奔走することに始まり、現地でのプレゼンスを高めるために人と会いまくる日々だったと振り返る。

7月8日には、イスラエル軍がガザ地区への軍事作戦を開始。それ以降、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスとの争いで、イスラエルには1000発以上のミサイルが着弾している(ほとんどはミサイル防衛システム「アイアンドーム」が迎撃している)。7月末に実施したイスラエル支社のオープニングパーティーでは「ミサイルが飛んできても日本には帰らない」と宣言。現地では「榊原こそラストサムライ」と喝采を浴びた。

住居兼シェアオフィスのSamurai House in Israelでは、現地の起業家や投資家にアピールするために、毎週のようにイベントを開催。寿司を作ったり剣道を教えるなど、日本をテーマにしたミートアップを60回以上やってきた。「最初はどこにも投資できないんじゃないかと不安もよぎった」という榊原氏だが、今では「イスラエルは日本人にとってブルーオーシャンな市場。リターンを得るのは難しくない」と自信をのぞかせている。

Samurai House in Israelでは毎週ミートアップを開催している


ディズニーやナイキに見る、大企業がアクセラレータで成功するためのキーワード

編集部注:この原稿はScrum Venturesの宮田拓弥氏による寄稿である。宮田氏は日本と米国でソフトウェア、モバイルなどのスタートアップを複数起業。2009年ミクシィのアライアンス担当役員に就任し、その後 mixi America CEO を務める。2013年にScrum Venturesを設立。サンフランシスコをベースに、シリコンバレーのスタートアップへの投資、アジア市場への参入支援を行っている。

Disney Acceleratorのデモデー(筆者撮影)

 
「部長、そろそろうちの会社もアクセラレータを始めた方がいいんじゃないでしょうか?」

こうした会話が世界中で行われているのではないかと思うくらい、さまざまな大企業がアクセラレータを始めた、もしくは計画しているという話を耳にする。事実、企業が主体となって行うベンチャーキャピタル、いわゆるCVC (Corporate Venture Capital)の規模は近年拡大を続けており、米国では2014年の3Qに過去最大の投資額(9億9360万ドル)となり、スタートアップへの投資額全体の10%にも達している。スタートアップが生み出すイノベーションを取り込もうと多くの大企業が必死に取り組んでいる様子が伺える。

私は、アーリーステージのベンチャーキャピタルとして、そのソーシング(投資先企業の発掘)の一環として、毎月1つか2つのアクセラレータのデモデー(支援企業の発表会)に参加をしている。その経験から、本稿では大企業が運営するアクセラレータの「トレンド」、そしてその「成功のキーワード」をご紹介したい。

ディズニーからナイキまで

日本では、携帯キャリアのKDDIが2011年からいち早くアクセラレータに取り組んでいるが、近年でもNTTドコモや学研、オムロンなど、新たにアクセラレータをスタートするというニュースも多い。

一方、米国では昨年くらいから大企業によるアクセラレータの動きが加速している。ディズニー、マイクロソフト、スプリント、ナイキ、クアルコム、カプラン、RGAなど様々な業種、業態の大企業が争うようにアクセラレータの運営を開始している。

「総花型」から「特化型」へ

2005年に設立され、DropboxやAirbnbなどを生み出したY-Combinatorに代表される「アクセラレータ」という業種であるが、元々は「テクノロジースタートアップ全般」を対象にするアクセラレータが多かった。その後、雨後のタケノコのようにアクセラレータそのものの数が増えたことと、テクノロジースタートアップがカバーする領域が非常に多様化したことなどを背景として、ここ数年は「特化型」のアクセラレータが増加している。具体的にはヘルスケアに特化したRockHealth 、教育に特化したImagine K-12、エンタープライズに特化したAlchemist、IoTに特化したLemnos Labsなどがある。総花的なアクセラレータはすでに淘汰が急速に始まっており、今後この「特化型」のトレンドはさらに進行していくものと考えている。

「アクセラレータ支援企業」の存在

冒頭にも述べたように多くの大企業でアクセラレータの展開が検討されている状況であるが、そこで問題となるのが「どうやって運営するのか?」という点だ。ディズニーやクアルコムにそう言う人材が最初からいたのか? それとも、新たに採用したのか?

そういうした大企業の悩みに答えているのが、「アクセラレータ支援企業」の存在だ。

米国で代表的な「アクセラレータ支援企業」は、コロラド州ボルダーに本拠を置くTechStarsだ。ナイキやディズニーなど、近年成功を収めている大企業アクセラレータの多くはTechStarsが仕掛けたものだ。TechStarsは2006年に、Y-Combinatorなどと同様に専業アクセラレータとしてスタートしたが、近年支援事業に力を入れている。

TechStarsの支援内容は非常に幅広く、基本的にアクセラレータ運営に必要な業務のすべてを担ってくれる。必要となる予算はかなり大きいと聞いているが、ウェブサイトの構築・運用、支援先企業の募集、審査、メンタリング、デモデー運営など通常3カ月の運営期間に必要な作業のほとんどがマニュアル化されている。ウン億円を支払ってTechStarsとパートナーシップを組めば、どんな大企業でもすぐにアクセラレータをスタートできるというわけだ。日本では、私がアドバイザーを務めるアーキタイプ社などが同様のサービスを提供している。

成功のための「3つのキーワード」

最後に、数多くの大企業によるアクセラレータを見て来た立場から、成功のためのキーワードを3つご紹介したい。

①「アセットへのアクセス」

数多くのアクセラレータがある中で、成功した先輩起業家が運営するアクセラレータでなく、なぜ大企業を選ぶのか?そのシンプルな答えは、スタートアップにはない、数多くの既存アセット(資産)が大企業にあるからだ。それは、販売チャネル、コンテンツ、ブランド、キャラクター、技術、特許、人材、設備など、企業によって様々だ。

今年、ディズニーがスタートしたアクセラレータ、「Disney Accelerator」は、ディズニーが持つ様々なキャラクターやコンテンツを、採択企業が自由に使ってよいと謳ったことで話題となった。実際に、デモデーでは、多くのキャラクターやディズニーランドなど、スタートアップであれば誰もが実現したいと思えるパートナーシップがすでに実現していた。

「自分たちがもつどんなアセットがスタートアップにとって魅力的か?」そこからアクセラレータの検討を始めてもいいのかもしれない。

②「トップのコミットメント」

アクセラレータやCVCなどは、新規事業の一環として一部の部署が主導して行われることも多いと思う。しかしながら、それでは会社全体でその重要性が理解されず、うまくいかないことも多い。一方で、最近はCEOや経営陣が自らアクセラレータにコミットし、積極的にスタートアップのイノベーションを取り込もうとする例を見かける。

例えば、昨年スタートした広告代理店、RGAによるIoT特化型のアクセラレータ、RGA Acceleratorでは、CEO自らがデモデーのオープニングに登場し、趣旨や意気込みを説明していた。「スタートアップのイノベーションを本気で取り込む」という外側に向けての強いメッセージになると同時に、前述の「アセットへのアクセス」という大企業としてはなかなか難しいテーマも、トップもコミットして進めることで実現が可能になるという側面もあるのかもしれない。

RGA Acceleratorのデモデー(筆者撮影)

③「レイターステージ」

通常、アクセラレータというと「創業間もないスタートアップ」を対象にすることが多い。だが最近は、Y-CombinatorがQ&A大手のQuaraをバッチに加えたり、Disney Accleratorでもすでに大きな実績のあるロボットの企業、Spheroなどがバッチに加わっていた。

アクセラレータの意義の一つは、まだ形になっていない新しいアイディアを3カ月という短期間でものにするというものであるが、当然うまくいかないことも多い。一方で、すでに実績のあるレイターステージの企業であれば、そうしたリスクもなく、大企業側のアセットを提供することで大きな成果も期待できる。つまり、最初からパートナーシップとしての成果を狙いながらバッチに加えるという訳だ。こうしたパートナーシップドリブンのアクセラレータというのも、大企業が主導する形としては今後増えて行く形態のような気がしている。

大企業のイノベーションにスタートアップとの連携は不可避

私はサンフランシスコを中心に投資活動を行っているが、ニューヨークやロスアンゼルスにも多くの投資先企業がおり、非常に重要視している。それはサンフランシスコに限らず、かつて大企業に行っていたような優秀な人材がこぞってスタートアップをスタートしているからであり、その流れは加速することはあっても逆戻りすることはないと感じているからである。

「うちの社内の技術の方が優れている」
「そんなの社内で同じことできるじゃないか」
「うちの事業と競合するかもしれない」

大企業の中でスタートアップとの取り組みにはまだまだ反対意見も多いかもしれない。ただ、今後の大企業のイノベーションにはスタートアップとの連携は不可避だ。ぜひ、御社でも経営陣を巻き込み、スタートアップのイノベーションを取り込む活動をスタートしてはいかがだろうか? 本稿が少しでも参考になれば幸いである。


成功する起業家に必要なのは「若さ」か「経験」か――国内キャピタリストに聞く

11月18日〜19日に東京・渋谷ヒカリエにて開催中の国内最大級のスタートアップの祭典「TechCrunch Tokyo 2014」。2日間に渡って国内外のテクノロジービジネスにまつわる多数のプログラムが展開されているが、18日午前には「若さか社会経験か?成功する起業家に必要なもの」というテーマで、国内屈指のベンチャーキャピタリスト4人によるパネルセッションが行われた。

パネリストの詳細は以下のとおり。モデレーターを務めたのは、TechCrunch Japan編集長の西村賢。

・秋元 信行 氏(株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ 取締役副社長)

NTTグループのコーポレートベンチャーキャピタルとして、スタートアップ支援プログラム「ドコモ・イノベーションビレッジ」を始め、グループ全体のオープンイノベーションを進める。

・松本 真尚 氏(株式会社WiL 共同創業者 ジェネラルパートナー)

ベンチャーと大企業との連携推進を大きなミッションとしながら、日米を中心に投資をしている。最近ではgumiやメルカリへの投資が話題となった。

・丸山 聡 氏(ベンチャーユナイテッド株式会社 チーフベンチャーキャピタリスト)

ユナイテッド株式会社(前ネットエイジ)の子会社として投資事業を展開。インターネットビジネスの黎明期からシードアクセラレーターとして携わる。過去の投資先はmixiやエニグモなど。

・田島 聡一 氏(株式会社サイバーエージェント・ベンチャーズ 代表取締役)

サイバーエージェントの100%子会社。アジアを中心に8カ国11拠点において、シードステージ、アーリーステージを中心に投資活動を行う。

起業家に求められるのは「若さ」か「社会経験」か

―投資のステージによっても異なるかもしれませんが、シードステージやアーリーステージに投資されていると、やはり起業家は若い人が多いのでしょうか?

丸山(以下、登壇者の敬称略):うちはまだできたばかりですが、今のところ20代の起業家に投資していることが多いです。社会人未経験の人もいるし、社会人2〜3年の人も。なぜ彼らに投資しているかというと、生活費が安いからですね。その分、長い間挑戦できるので、僕らの投資スタイルにとってはアドバンテージになります。

秋元:うちも「ドコモ・イノベーションビレッジ」というインキュベーションプログラムをやっていますが、投資先全体のポートフォリオを見ると、ミドルステージ以降の人たちが多くなっているので、あまり学生はいません。それは、うちがベタベタのストラテジックリターンを目的としたコーポレートベンチャーキャピタルの志向なので、本体やグループ会社とのシナジーを追求しようとすると、シードの段階では、なかなか話を進めるのが難しいからです。

松本:年齢はあまり気にしたことはありませんが、うちの本社があるシリコンバレーでは、起業家の平均年齢は35〜40歳くらいが多いんですよね。我々の場合は、ある程度知見を持っている方に対しての投資が日米ともに増えています。

田島:うちの場合、事業会社で一定の成果を出した方が起業するときや、一度起業して会社を売却した方の二度目のチャレンジのときに投資するケースが多いです。それは失敗経験を積んでいる分、成功に対してショートカットできそうな方が多いからという理由と、「サービスじゃなくて産業を売りたい」といったような目線の高い方が多いという感覚があるからです。IPO時に時価総額1000億円を狙っている企業が多いですね。

―起業家の良し悪しについては、どのように見極めていますか?

松本:うちのメンバーは皆インターネット業界に15〜16年くらいいるので、起業家の方ともどこかしら友人関係でつながっている場合が多いです。シリコンバレーに(ベンチャー)村ができているように、日本でもベンチャー村みたいなのができてきているんですよね。まったくお会いしたことがない方は、いっしょにお仕事をされたことがある方にアポをとって、ボードメンバーすべての人物評価をしていただいて、それをある程度信用しながら進めていくことが多いです。

―逆に、若い人がデビューするには、どうすればいいですか?

丸山:今はシードアクセラレーションプログラムが増えているので、そういうところに入っていく方法もありますが、全体で言うとマジョリティではないと思います。大半の人は、まずサービスを作ってみるというところから始めています。起業の前から、ふわふわした段階の事業プランを元に、1〜2年かけてメンタリングをしながら投資に至るケースも多いので、僕らのようなベンチャーキャピタリストを使ってもらうのもひとつの手かなと。

マーケットを「取られる」のか「取りに行く」のか

―肌感覚として、何割くらいの起業家がグローバルを目指していますか?

丸山:世界に目を向けている起業家は日本では圧倒的に少ないですね。極端かもしれませんが、1対99くらいの感覚。本当に世界を見ている人は少ないと思います。今の世の中って簡単にグローバル展開できるので、まずは可能性を模索してみようという意味で、身近な問題を解くだけではなくグローバルに挑戦してみようという話はしています。

―起業家からすると、言葉の違いも大変だし、日本のマーケットは結構大きいし、イグジットも見え始めて……という「プチイグジット問題」(小さなイグジットを目指してしまいがちということ)のようなものがあるように思いますが、その辺りについて、どう思われますか?

松本:僕らはその“プチ感”をなんとか打破したいと思っています。gumiやメルカリにも、「そのまま上場するのではおもしろくないから、世界で戦うための金を調達しよう」と言ったんです。日本で数百億円で上場するということは、グローバルで1000億、2000億を目指せる環境があるってことじゃんっていう話もしますし。

世界中の人が困っているのであれば、課題を解決する対象が日本人だけである必要はない。自分のプロダクトで世界中の人を喜ばせたいという「志」さえあれば、国境なんて関係ありません。日本でゆっくりやっている間に、いつの間にか海外でメジャーになっていたなんてことになるのは残念なので、作った瞬間に5カ国対応くらいすれば? と思いますね。

田島:僕らは東南アジアで(投資を)やっているんですけれど、たとえばインドネシアの起業家は、インドネシアのマーケットが大きいので東南アジアに出て行きたいという人はあまりいません。でも、タイやベトナムやマーケットが小さいので、みんな東南アジアに出て行きたいと言います。日本でもこれと同じことが起こっているのかなと。つまり、日本の中にはそれなりのマーケットがあるので、その中でやっていけばいいと思っている人が多いんじゃないかと思うんです。

隣の韓国は、スマホの普及率が8〜9割になっていますが、マーケットがないので外に出て行きたいという勢いが極めて強い。取られるのか、取りに行くのか。世界大戦になってきているので、市場機会に気付いて、どんどんアジアや世界を取りに行くような起業家が増えればいいと思っています。


TBSがアイリッジと資本業務提携――O2O領域で新事業も検討中


東京放送ホールディングス(TBS)グループでベンチャー投資を手がけるTBSイノベーション・パートナーズ(TBS-IP)が11月11日、O2Oソリューションを手がけるアイリッジとの資本業務提携を発表した。

出資額は非公開だが、数千万円程度と見られる。アイリッジは2008年の設立で、これまでに代表取締役社長の小田健太郎氏の古巣であるNTTデータのほか、KDDIやデジタルガレージ、みずほキャピタルパートナーズ、三菱UFJキャピタルなどから資金を調達している。金額的にも今回の調達は、業務面でのシナジーを重視したものと考えて間違いない。

TBS-IPは、5月にソーシャルメディアを中心としたビッグデータの分析事業を手がけるデータセクションとの資本業務提携を発表している。この発表の際、テレビとソーシャルメディアの解析結果を組み合わせてどのように事業にするかが重要ということを聞いたのだけれども、今回もそれと同じような取り組みらしい。アイリッジが持つO2O向けソリューション「popinfo」とテレビやイベント運営などの関連事業を連携することで、互いの価値が向上するような取り組みをしていきたいのだそうだ。

例えば日本テレビは、ソーシャル視聴サービス「JoinTV」を使って「O2O2O(On Air to Online to Offline:テレビ番組やCMからネットに、さらにネットから実店舗などに誘導する仕組み)」なる、テレビだからこそできる新しいマーケティングの手法があるとアピールしてきた。これと同様…かは分からないけれども、TBSも提携先の持つソーシャルメディアのデータやO2Oソリューションを組み合わせることで、新たなマーケティングやビジネスモデルの模索を進めるという。

アイリッジのpopinfoは、位置情報や時間、ユーザー属性と連動してスマートフォンにプッシュ通知を行うソリューション。同社ではこれを軸に、O2O施策の企画からアプリ開発、運営までをワンストップで手がけてきた。これまでの導入事例はジーユーや東急電鉄など大手クライアントはじめとして250アプリ、合計1500万ユーザー(アプリごとのユーザー累計)が利用しているという。

すでに具体的な新事業がアイリッジ側から提案されており、実現に向けて調整を進めている段階だそう。とはいえテレビ局は免許の必要な事業ということもあって、大企業の中でも提携などには慎重な体質があることは確か。「たとえシステム的にオーバーになろうが、ベストエフォートではなく『ミスがない』という事業を行いたいという声はある」(TBS-IPの片岡正光氏)のだそう。だが片岡氏は「そこで外部の新しいプレーヤーと組むからこそイノベーションは起こる。すでにデータセクションについても複数のプロジェクトを社内で進めているが、アイリッジともそういった事例をうまく活かしていきたい」と今後の展開について語った。


インフィニティ・ベンチャーズが3号ファンド設立、中国出資ではリクルートと連携

インフィニティ・ベンチャーズLLP(IVP)は11月6日、3つめのファンドとなる「Infnity e.ventures Asia III,L.P.」を設立したことを明らかにした。

ファーストクローズの金額は約3200万ドル(1ドル110円換算で約35億円)。ファンドに出資するのはリクルートホールディングス、大和証券グループ本社、サミーネットワークス、ORSO、ミクシィ、ユナイテッドなどの法人のほか、個人経営者など。IVPは2009年に1号ファンドを立ち上げているが、これにはKDDIやミクシィが出資していた。IVP共同代表パートナーの小林雅氏によると、「当時に比べて、規模の大きい事業会社において新規事業開拓のニーズが増えている」とのことで、事業会社による出資が多くなっている。

また10月に上場したばかりのリクルートホールディングスもファンドに出資するが、今後はリクルートグループで海外に特化投資に特化したコーポレートベンチャーキャピタルである「合同会社RGIP」などとも連携して中国での投資を進める。今後IVPでは海外の大口投資家なども含めて、2015年前半に1億ドル規模までファンドを拡大するとしている。

IVPはこれまで、1号ファンドからの累計調達額は約1億2800ドル(1ドル110円換算で約141億円)で、これまで国内外合わせて40社以上に投資をしている。投資金額に対して投資先のバリュエーション(評価額)は3倍だそう。小林氏にもう少し詳しい話を聞いたところ、これまでのイグジット事例として最も大きいのは1号ファンドで出資したグルーポン・ジャパン。

2012年末にクロージングした2号ファンドでは、企業名は非公開とのことだがすでに一部の株式を売却しているほか、中国で決済事業を手がけるYeahkaやアプリ解析のApp Annieをはじめとしてバリュエーションが100万ドル超の企業が4社ほどある状況。「現時点で大きなイグジイットは無いが、含み益は見えている」(小林氏)。3号ファンドでもこれまで同様に日本と中華圏での投資に注力する。


ベンチャーキャピタル、IoT(モノのインターネット)に狙いを定める―過去1年で投資3億ドルに急増

編集部: この記事の筆者、Christine MageeはCrunchBaseのアナリスト

日本発のパーソナル・モビリティ、Whillからワイヤレス充電のuBeamまで、家庭や自動車やオフィスにイノベーションを起こそうとするIoT〔Internet of Things=モノのインターネット〕のスタートアップが何百万ドル単位の資金調達に成功する例が相次いでいる。Kickstarterなどのクラウンドファンディング・プラットフォームではスピーカーやバッテリー充電器にもなるスマート・クーラーボックスとかカスタマイズできるスマートウォッチなどがヒットを飛ばしている。

それにとどまらず、最近ベンチャーキャピタルもホームオートメーションやホームセキュリティーの分野への投資を急増させている。GoogleのNest買収SamsungのSmartThings買収といった大型買収に刺激されて、この分野へのベンチャーキャピタリストの関心がかつてなく高まっている。

過去1年でベンチャーキャピタルは97回のラウンドで3億ドルをIoTスタートアップに投資した。しかも案件の半数は最近の四半期に実施されている。四半期での シードラウンドの件数は過去最高を記録している。

この件数急増の一因はIoTを対象としたアクセラレーターの整備によるものだ。R/GA、TechstarsのニューヨークのIoTアクセラレーター、Microsoft Venturesがシアトルに開設したホーム・オートメーション・アクセラレーター、 グローバルなアクセラレーターのHAXLR8Rなどがその目立つ例だ。ベンチャー投資家がIoTスタートアップの動向を注視していることはシードラウンドだけでなくSeries Aラウンドの数も新記録だったことでも推測できる。

Galvanize VenturesのNick Wymanは「この分野への投資を決断したもっとも大きな理由はIoTこそ将来だというコンセンサスが出てきたことだ。ビッグデータの取得と利用、スマート・ホーム、ホーム・セキュリティー、いずれもIoTテクノロジーが中心的な役割を果たすことになる」と説明する。

先週、GalvanizeはIoTスタートアップのKeen Homeへの投資ラウンドを実施した。これには損保のAmerican Family Insuranceやコミュニケーション企業のComporiumが戦略的投資家として参加している。Keenの最初の製品はスマート換気システムで、家の所有者は部屋ごとに換気をコントロールすることで室温を快適に保ちながら省エネを実現できる。「われわれは今後新しく現れてくる市場に投資している」とWymanは言う。Galvanizeは室内ガーデニングのスタートアップ、Grove Labsや家庭でビールを醸造するキットを開発したBrewBotにも投資している。

Keen Home自体はパズルの小さなピースかもしれないが、家のスマート化というその全体像は巨大だ。個別システムが多数登場すると、それらを協調させるハブの存在が強く求められるようになる。

BoxGroupDavid Tischは現在の状況を「Apple (Homekit)にせよ、 (Nest)、(SmartThings)、GE (Wink)にせよ、こうしたホームオートメーション・プラットフォームが最終的にどのような形を取るのか、まだ見えていない。今のところIoTエコシステムはまったく不透明な状況だ」と考えている。

Tischは去る7月のSamsungの買収に先立って、SmartThingsの1500万ドルのラウンドに参加していた。しかしそれ以後はホームオートメーションの分野で大きな投資の決断をしていない。先行きへの不透明感が、件数は多いものの大型投資案件が比較的少ないという傾向を招いているようだ。IoT分野での大勢が決まるまではあまり大きなリスクを取りたくないというのが投資家の心理なのだろう。ただGoogleなりAppleなりによってホームオートメーションのハブの事実上の標準が成立すれば、投資家には朗報だが、一部の消費者は、そういった巨大プロットフォームにもっとも重要なプライバシー情報をコントロールされたくないと反発するかもしれない。

HAXアクセラレータから巣立ったForm Devicesはそういった懸念に答える形で、 「ソフト・セキュリティー」を提唱している。これは従来のセキュリティーがカメラやセンセーといったデバイスに依存する「ハード・セキュリティー」だったのと対照的なアプローチだ。今週、 Kickstarterでプロジェクトを公開しているが、このシステムは24時間常時セキュリティー情報を記録するのではなく、ソフトウェアによって「何らかの異変」が感知されたときのみ、情報の記録を開始する。ユーザーは大量のプライバシー情報が外部のシステムに蓄積されてしまうことに対する不安を覚えずにすむわけだ。

「いずれにせよ、IoTの進展によって収集されるデータの量は飛躍的に増加する。それにともなってこのデータを効果的に処理、分析することから大きなチャンスが生まれ、ビジネスのあり方に革新が起きる。家庭、自動車、オフィスからIoTが始まろうとしている。その影響はドミノ倒しのようにあらゆる分野に急速に広がっていくだろう。インパクトは巨大だ」とR/GAのConnected DevicesプログラムのJenny Fieldingは予想する。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


マーク・アンドリーセン、スタートアップのバーンレートが過大と18回連続ツイートで警告

シリコンバレー最有力のベンチャーキャピタル、Andreessen Horowitzの共同ファウンダー、マーク・アンドリーセンは得意の連続ツイートでスタートアップのバーンレート〔ベンチャーキャピタルから投資された資金をスタートアップが支出する速さ〕が過大だと強く警告した。先週、ベンチャーキャピタリストのBill Gurleyがした発言に同意して、アンドリーセンは「自分も憂慮している」と述べた。

ツイートでアンドリーセンは「スタートアップはぴかぴかのオフィスや大量の採用などに金を使いすぎている。これらは成功の見掛けを与えるだけで、砂上の楼閣だ」と厳しく批判した。アンドリーセンは(名前こそ挙げなかったものの)こうしたスタートアップはやがて「泡と消える」と断言した。

アンドリーセンは連続18ツイートを「憂慮している」と締めくくった。

〔日本版:アンドリーセンのオリジナル・ツイートは原文参照。現在もTwitter上で活発な議論が続いている。アンドリーセンが高いバーンレートを批判する理由は数多いが、その一つは安易な人員採用の弊害だ。「すべての問題を新たな採用で解決する安易な態度を生む、採用するのは簡単だがレイオフするのは難しい、社員が増えれば内部コミュニケーションが煩雑になり意思決定が遅くなる」などの点を挙げている。〕

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


“活動量計もどき”はいらない–オムロンが30億円規模のベンチャー投資

京都府京都市に本社を置く大手電機メーカーのオムロンが、7月1日付で投資子会社のオムロンベンチャーズを設立。コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)として、2016年までの3年間で30億円規模のベンチャー投資を実施することを明らかにしている。

オムロンと言えば、コンシューマ向けの健康医療機器から制御機器や電子部品、車載電装部品などさまざまな事業を展開している。時価総額ベースで1兆円近い大企業がこのタイミングでベンチャーと組むことを決めた理由はどこにあるのか。

実は日本最古の民間VC設立にも関わったオムロン

実はオムロンは、日本最古の民間VCの設立にも関わっているそうだ。オムロン創業者で当時の代表だった故・立石一真氏が、京都経済同友会のメンバーとともに1972年に立ち上げた「京都エンタープライズディベロップメント(KED)」がそれだ。同社は日本電産などへの投資を行い、1979年に解散している。ちなみにKEDの設立から約2週間後、東京ではトヨタ自動車などが出資する日本エンタープライズ・デベロップメント(NED)が設立されているそうだ。

オムロンベンチャーズ代表取締役社長の小澤尚志氏

最近では通信キャリアだってテレビ局だってCVCを立ち上げているが、オムロンもそんな流れを受けているのだろうか。オムロンベンチャーズ代表取締役社長で博士の小澤尚志氏に率直に聞いたところ、「(オムロンベンチャーズを)立ち上げる中で知ったのだが、案外世の中ではやっていたとは知らなかった」と語る。

オムロンでは、2011年から10年間の長期経営計画「VG2020」を掲げており、その中でも2014年以降では「地球に対する『新たな価値創出』へつながる新規事業づくりに取り組む」としている。この経営計画の中で、ベンチャー投資の可能性を模索していたのだそうだ。

「オムロンは『ソーシャルニーズの創造』を掲げてきた会社。世の中で解決しないといけない課題を技術というよりはコアバリューとして提供してきた。例えばオムロンが世界で初めて提供した自動血圧計。これによって、これまで病院に行って看護師を必要としていた血圧測定が、家庭にいながら実現できるようになった。これは健康状態を手軽に見られる、より長く健康に生きたいという課題を解決しようとしたもの」(小澤氏)

オムロンは「課題解決のための会社」と語る小澤氏。もちろん自社に技術があればそれは活用するが、技術がなければ世の中の別の場所から獲得してくることもいとわないという考えだという。「本質的には、持っている要素技術でどんな課題を解決できるかを考えるのではなく、まず先に課題とその解決方法を考えている」(小澤氏)

しかしそうは言っても大企業の中でイノベーションを起こすのは難しいのは小澤氏も認めるところで、「いいモノを安く作るのは得意だが、新しいモノを作るのはなかなか大変」と語る。そこでオムロンベンチャーズを立ち上げ、速いスピードで投資し、協業できる体制を作る狙いがあるという。

オムロンベンチャーズは、ファンドを組成せず、オムロングループの資本をもとに投資を行う。対象とするのは「安全・安心センシング」「ライフサイエンス」「ヘルスケア」「ウェアラブルデバイス」「IoT」「環境・エネルギー」「農業関連」といった分野。オムロンベンチャーズがオムロングループ各社の新規事業のニーズをヒアリングし、協業の可能性のあるスタートアップを中心に、数千万円から数億円程度の出資を行う予定だ。すでにセンシングや農業関連の分野では具体的な話が進んでいるとのことで、第1号案件については、早ければ9月にも決定する予定だ。

モノづくりのノウハウをスタートアップに開放

小澤氏によると、今後は加工機や成形機など、自社グループの設備に関しても投資先に開放することを検討しているそうだ。「例えばfoxconnのようなEMS(Electronics Manufacturing Service:電子機器の受託生産サービス)がハードウェアベンチャーを助けているところがある。我々もハードウェアを安く製造できるノウハウや検品のノウハウなど、一通りの『モノづくり力』を持っている。そしてグローバルなネットワークもある。逆にベンチャーマインドやそのスピード感、テクノロジーは弱い。ならば我々がやるべきなのは、自分たちの能力やアセットをシェアすることだ」(小澤氏)

例えばスマートフォンアプリであれば、ここ数年のクラウドの普及によってスケールのための課題はある程度解決されたかも知れない。だがモノづくりとなるとQCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)が求められる。その課題を解決するパートナーとしては最適だと小澤氏は語る。

ハードウェアのQCDまでケアできる連携体制と聞けば、ハードウェアスタートアップにとっては期待が高まるかも知れない。実際、ハードウェアスタートアップ関係者から、部品の調達や組み立てに苦労したという話を聞くことは多い。

しかしこの取り組み、M&A先の発掘のための施策にも見えなくもない。小澤氏も「本音を言うとそれがないわけではない」と可能性については否定しないが、あくまでM&Aありきという話ではないと続ける。「M&Aは場合によりけりだと思っている。パートナーという距離のままのほうがいいケースとよくないケースがあると思っている。グループに入った瞬間、大企業のしがらみだってあるはずだ」(小澤氏)

「活動量計もどき」のウェラブルデバイスはいらない

さて、オムロンベンチャーズの投資領域には「ウェラブル」とあるが、オムロンと言えばこれまでにも歩数計や活動量計など、(今時のウェアラブルデバイスとは方向が異なるが)ヘルスケア関連のウェアラブルデバイスを提供してきたメーカーだ。どういうスタートアップと連携する可能性があるのか、改めて聞いてみたところ、小澤氏は以下のように語った。

「血圧、活動量、睡眠時間については、(デバイスを)持っているのでもういいんじゃないかなと思っている。だがこれらのデータを使ってアプリを開発してもらう、さらには身体的な情報だけではなくて、意思やメンタルに関する情報までを取得しないと総合的な健康というのは見ることができないと思っている。活動量計もどきのウェラブルには正直興味がなくて、もっと先を一緒に考えたい」


KDDI ∞ Labo第6期最優秀賞はブラウザー間コンテンツ配信「MistCDN」

KDDIが2014年3月にスタートしたインキュベーションプログラム「KDDI ∞ Labo(KDDI無限ラボ)」の第6期プログラムが終了した。7月14日には第6期参加チームが東京・ヒカリエでプレゼンを実施し、最優秀チームにはブラウザー間でコンテンツ交換を行うP2P型コンテンツ配信プラットフォーム「MistCDN」を運営するMist Technogiesが選ばれた。第6期プログラムは一般に公表されていないサービスアイデアを持つ5チームが参加し、KDDIが「独自性」「市場性」「完成度」の観点で最優秀チームを選定した。

アクセスが集中するほどパフォーマンスが向上

MistCDNはユーザーのPCにコンテンツをキャッシュし、同じコンテンツを視聴するユーザーのPC間でコンテンツを交換するコンテンツデリバリネットワーク(CDN)。アクセスが集中するほど配信元となるPCが増え、転送速度が向上する仕組み。PC間の通信は、Web標準技術の「WebRTC」を採用している。MistCDNを導入するウェブサービス運営者は、コードを数行挿入するだけで利用できる。

アカマイに代表される従来のCDNは、アクセスが集中するほどサービス品質が低下する傾向にあるが、「MistCDNはアクセス集中を味方にするのが強み」とMist Technologiesの田中晋太郎氏は話す。逆に言えば、アクセスが集中していない状況は従来のCDNに分があるとも言える。田中氏によれば、従来のCDNをディスラプト(破壊)するのではなく、お互いの強みをウェブサービス運営者が使い分けられる環境を提供したいのだという。

現在はHTML5コンテンツ配信やライブストリーミング配信を行っていて、14日には無料トライアルキャンペーンを開始した。正式サービスの時期や料金は未定だが、コスト面では従来のCDNと比べて平均60〜80%削減できるとしている。

子どもの日常のベストシーンを集めた成長シネマを自動作成できる「filme」

14日に行われたプレゼンでは、来場者の投票により決定する 「オーディエンス賞」も発表され、スマホで撮影した動画を選んでコメントを添えるだけで動画日記が作れるアプリ「filme(フィルミー)」を開発するコトコトが選ばれた。日々の動画が20日分たまると、その期間の成長を振り返れる「成長シネマ」を自動的に作成できるのが特徴。成長シネマは独自の動画編集エンジンにより、子どもの表情や動き、声を自動検出し、日々の動画の中からベストシーンを集める。

動画の保存容量に制限がある無料プランに加え、容量無制限で成長シネマを毎月1枚無料でDVD化できる有料プランを用意する。コトコトの門松信吾氏は「動画版のフォトブックのポジションを目指す」と言い、将来的にはDVDの送付先となる祖父母をターゲットとしたシニア市場や、動画編集技術を転用することで旅行を含めた「思い出市場」も視野に入れているという。8月に正式サービス開始予定で、14日には事前登録を開始した。

第6期プログラムのチームはこのほか、ユーザー投票や審査に通過したクリエイターのみが出店できるハンドメイドジュエリーのECサイト「QuaQua(クアクア)」を運営するダックリングス、独自のクローラーと女子大生キュレーターによって厳選した女性向け媒体の記事を配信する「macaron(マカロン)」を手がけるSPWTECH、ネイティブアプリのユーザー行動を動画として記録して解析するツール「Repro(レプロ)」を開発するReproが参加した。

第7期はセブン&アイやテレビ朝日などのパートナー企業が支援

第7期プログラムは、7月14日より参加チームの募集を開始した。第7期の特徴は「パートナー連合プログラム」として、セブン&アイ・ホールディングスやテレビ朝日など13社が参加すること。これによってスタートアップは、セブン&アイに流通チャネルとの連携をサポートしてもらうことなどが可能となる。

KDDI ∞ Laboのラボ長を務める江幡智広氏は、「各社のアセットをスタートアップに提供して新規事業創出のきっかけが作れれば」と話す。KDDI ∞ LaboのようなCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)は一般的に自社の事業との相乗効果を求めて運営されるが、江端氏は「すぐにシナジーは求めず、スタートアップの成長をひたすら願う」としている。

パートナー連合プログラムに参加する各社は、スタートアップとの協業を通じて新事業シーズの発掘、経営資源の活用やスピード感の不足を補うのが狙いだ。13社のうちセブン&アイ、テレビ朝日、三井物産、コクヨ、プラスの5社はメンタリング企業としてスタートアップをバックアップする。このほか、近畿日本ツーリスト、ソフトフロント、大日本印刷、東京急行電鉄、凸版印刷、パルコ、バンダイナムコゲームスがサポート企業として名を連ねている。

KDDIは14日、新たに約50億円規模の「KDDI新規事業育成2号ファンド」を設立することも発表している。


若手独立系VCのANRIが20億円規模の新ファンド–ポートフォリオも公開

佐俣アンリ氏(前列左から2人目)と投資先の起業家たち

2年前のTechCrunch Japanに、「独立系ベンチャーファンドのANRIを立ち上げたのは28歳の若き投資家」という記事があったのだが、今年30代に入ったばかりの独立系ベンチャーキャピタリストである佐俣アンリ氏が、7月に入って2つめのファンドとなる「ANRI2号投資事業有限責任組合」を始動させた。

ファンド規模は20億円程度を目指すとのことだが、まずはIT系事業会社を中心にして、ファーストクローズで5億円を集めている。これは若手の独立系ベンチャーキャピタルが手がける金額としては大きな規模だ。投資の対象とするのはシード、シリーズAでの調達を目指すスタートアップで、1社につき500万円から最大で1億円程度と、柔軟に出資をしていく予定だという。「シードからシリーズAまでを一緒にやっていきたい。実はこの時期はプロダクトの急成長期。それなのにファイナンスのために経営者のリソースが大きく取られることが多い。その負担を減らすのが投資家の根本的な役割だと思う」(佐俣氏)

新ファンドは、国内スタートアップへの投資を中心にするものの、東南アジアや米国といった海外のスタートアップへの投資も視野に入れているとのこと。投資領域については、「PayPalマフィアは今、社会問題の解決のために投資をしている。同じように世界の大きな問題を解決したい」(佐俣氏)とのことで、「IT」と通貨や物流、交通といった「社会インフラ」とのかけ算に挑戦するようなスタートアップに注目していくという。また、これまで同氏は1人でファンドを運用してきたが、年内にももう1人のパートナーが参画する予定だという。

業界関係者からは漏れ聞こえてきたりするものの、実はANRIは投資先のポートフォリオを一部しか公開していなかった。今回の調達にあわせて改めて話を聞いたのだけれど、これまでにコイニー、クラウドワークス、ラクスル、uuum、スクー、ペロリのほか、U-NOTEやスマートドライブなどに対して、おもにシード期に投資を実行してきたという。新ファンドの投資領域と同じく、決済や印刷、クラウドソーシングをはじめとして、社会のインフラを目指すスタートアップが多い気がする。イグジットこそしていないものの、成長フェーズの企業が並んでおり、ファンドとしても順調だ。

実は僕は佐俣氏が学生の頃からの知り合いなのだけれど、正直ここ1、2年で人間的にも成長していると感じていたし、周囲のベンチャーキャピタリストからもそう聞くことが多くなっている(本人にも言ったので書いておくと、学生の頃などは「なんかやたら起業に詳しい、ツンツンした兄ちゃん」という印象だったし…)。

そんなことを正直に伝えたところ、佐俣氏はちょっと笑って「本質的には一生懸命なところは昔から変わらないんですが」と言いつつ、「昔はハンズオンという言葉を使って、『俺がやってやる』とも思っていた。でもそれはおごりだった。例えば、投資家として事業を分かっているつもりで投資先に半分だけコミットして、実はそれが邪魔になっていることに気づけなかったこともあった」と振り返った。

佐俣氏はこう続ける。「独立して自分の名前でお金を預かることで、そんな批評家からプレーヤーになったと思う。起業家と投資家の関係は太陽と月みたいなもの。投資家は起業家がいてこそ初めて輝くものだから、起業家に輝いてもらう環境を作りたい」


金融庁「ファンド販売規制」の衝撃、独立系VCが連名で反発の声

金融庁が5月14日に公表した「プロ向けファンド」の販売制限案が、一部のスタートアップ業界関係者に衝撃を与えている。改正案の骨子は、ファンドの個人への販売を1億円以上の金融資産を持つ人に限るというもの。政府は金融商品取引法の政令などを改正し、8月1日から施行する。

こうした動きに対しては6月9日、磯崎哲也氏ほか独立系ベンチャーキャピタリストらが販売制限に反対するパブリックコメントを政府に提出。「日本の成長戦略の成功に大きく関わる独立系ベンチャーキャピタルファンドの新たな組成・発展を著しく阻害しかねない」と懸念を表明している。

プロ向けファンドとは

いわゆるファンド業務(ファンドの運用や販売勧誘)を行う場合は本来、「金融商品取引業」を行う者として金融商品取引法上の「登録」が必要。これに対して、ベンチャーキャピタル(VC)ファンドを含むプロ向けファンドは、「登録」でなく「届出」でよいこととされ、販売勧誘規制が緩和されている。

届出をした業者は、証券会社や銀行などの「プロ投資家」(お役所用語で「適格機関投資家」と言う)が1人でもファンドに出資していれば、49人までは一般投資家もファンドに勧誘できるようになっている。国民生活センターが公開しているグラフによれば、次のようなイメージだ。

規制の背景は消費者トラブル

改正案が公表された背景には、「誰でも勧誘できる」制度を悪用する一部のプロ向けファンド届出業者の存在がある。

国民生活センターによれば、いくつかの業者が不特定多数の一般投資家への勧誘を前提としたプロ向けファンドを組成し、投資経験の乏しい高齢者に「必ず儲かる」と勧誘したり、リスクを十分に説明せずに出資契約を結ぶケースが続出。2012年度に同センターに寄せられたプロ向けファンド業者に関する相談件数は1518件に上り、3年前に比べて約10倍に増えている。

また、プロ向けファンド届出業者の一覧を掲載している金融庁のサイトによれば、4月30日現在で業者の届出件数は3546件。このうち、連絡が取れなかったり、営業所が確認できない「問題届出業者」は614件と、全体の約17%を占めている。

消費者トラブルが相次いだことを受けて金融庁は5月14日、プロ向けファンドの販売先を「適格機関投資家と一定の投資判断能力を有すると見込まれる者」に限定する改正案を公表。ここで言う「一定の投資判断能力を有すると見込まれる者」とは以下を指している。

1)金融商品取引業者等(法人のみ)
2)プロ向けファンドの運用者
3)プロ向けファンドの運用者の役員、使用人及び親会社
4)上場会社
5)資本金が5000万円を超える株式会社
6)外国法人
7)投資性金融資産を1億円以上保有かつ証券口座開設後1年経過した個人

個人投資家からの出資のハードルが高くなる

独立系のベンチャーキャピタリストらが改正案で問題視しているのは、ベンチャー企業の創業や経営、新規上場に精通した「エンジェル」をはじめとする個人投資家からの出資のハードルが高くなることだ。

磯崎氏らが提出したパブリックコメントでは、小規模独立系のVCはエンジェルからの出資に一定割合を依存しているが、今回の改正案はエンジェルの出資が要件を満たさないことになるおそれがあると指摘。その結果、独立系VCの投資活動が阻害される可能性があるとして、次のようにエンジェルの重要性を訴えている。

機関決定を要する会社やファンドからの出資と異なり、エンジェルは意思決定が迅速で、かつ多様な領域のベンチャーに対して関心がありますので、新しい可能性へのチャレンジには不可欠なものであります。このただでさえ少ない日本のエンジェルの活動が、形式的な要件でさらに制約されてしまうことは、日本の今後の成長戦略にも大きな足かせとなってしまいかねません。

端的に言えば「個人はVCに出資するべからず」ということ

パブリックコメントに磯崎氏とともに名を連ねる、East Venturesの松山太河氏はFacebookで、「端的にいえば『個人(エンジェルなど)はベンチャーキャピタルに出資するべからず』『大企業だけはベンチャーキャピタルファンドに出資してよし』という内容」と、改正案に危機感を示している。

ベンチャーユナイテッドの丸山聡氏は自らのブログで、独立系VCへの影響を危惧している。「若手にとっては最初のファンド組成をするということはとっても大変です。出資をする適格機関投資家を見つけられたとしても、金融機関などは出資することはまずないですし、上場企業からの出資というのもハードルが高い」。仮に、金融庁が「投資判断能力を有する者」と定義する「投資性金融資産を1億円以上保有し、かつ証券口座開設後1年経過した個人」が見つかったとしても、その資格を満たしていることを届出事業者が確認しなければならない点が最大のハードルだと指摘する。

「そもそもファンドに出資してくださいってお願いにいって、資格を満たしているかどうか確認のための書類を出してくださいって言われたら、なんか面倒だから出資はやっぱり難しいなっていうことになるのが世の常な気がするんですよね。。。」

個人投資家からの投資のハードルが高くなるという点については、金融庁も「投資判断能力を有する者以外の者が、プロ向けファンドを購入できなくなるという社会的費用が発生するおそれがある」と認識。しかし、現状では「適切な勧誘によりプロ向けファンドを購入している投資家の大部分は投資判断能力を有する者であると考えられることから、その影響は限定的」として、規制強化によって不適切な勧誘による投資家被害が減少するメリットのほうが大きいとの見解を示している。

パブリックコメントでは、ベンチャーキャピタルに投資をする場合について、リスクや資産の状況、判断能力などを考慮し、問題が発生する可能性が低いと考えられる投資家については、規制の対象外とするよう求めている。具体的には、過去にファンド運営の経験を持つ個人、上場企業の役員と大株主、公認会計士や弁護士などの士業資格者らを、販売規制適用から除外すべきだと訴えている。

「独立系ベンチャーキャピタリスト等有志」名義で提出されたパブリックコメントには磯崎氏と松山氏のほか、赤浦徹氏、加登住眞氏、木下慶彦氏、郷治友孝氏、榊原健太郎氏、佐俣アンリ氏、孫泰蔵氏、中垣徹二郎氏、村口和孝氏といった独立系ベンチャーキャピタリストや個人投資家が名を連ねている。このほかの賛同者に対しては、パブリックコメント窓口から提出期限である6月12日17時までに、意見を提出してほしいと呼びかけている。

アメリカほどではないとはいえ、広くは伝わらないが日本でも新規株式公開(IPO)や合併・吸収(M&A)を果たすなどして成功した個人が、エンジェルとなって次世代のスタートアップに投資するケースが増えつつある。今回の規制強化は、消費者トラブルが増えていることを受けての対策ということは承知のうえだが、ベンチャーを取り巻くエコシステムに悪影響を与えない落とし所を見つけてほしいものだ。

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TaxCredits.net


500 Startupsの最新デモデーから日本にも関係のありそうな5社をご紹介

5月8日(米国カリフォルニア時間)、500 Startupsがデモデーをマウンテンビューで開催した。これまで500 Startupsはマウンテンビューでアクセラレータープログラムを実施してきたが、今回デモデーに参加したスタートアップは、500 Startupsとして初めてサンフランシスコで実施したアクセラレーター・プログラムに参加した面々だった。

1000社以上の応募の中から選ばれた29社がプレゼンテーションを行ったが、今回は、日本の皆さんにも関係がありそうな企業にしぼって何社か紹介をしよう。

Remark

Remarkは、動画生成のための共同作業のための環境を提供する。全米だけでも25万人の動画関連のプロフェッショナルがいると言われている中で、彼らとのコラボレーションは主にEmailや電話などを使って非常に骨の折れる作業だった。Remarkは、米国企業に限らず、日本企業にとっても、コンテンツマーケティングのための動画や、急拡大している動画広告市場に向けても、効果的な動画生成環境を提供してくれることは間違いない。こういったクリエイティブな労働力に関してもクラウドソーシングが重要になっていく中で、非常に強力なツール、協働環境を提供してくれる。既にTEDやGeorge Town大学が導入している。

SoundBetter

SoundBetterは、ミュージシャンのための音楽制作に関わる仕事のクラウドソーシングを提供する。音楽制作には、楽曲自体を作ってレコーディングをした後にも、ミックスやマスタリングといったポストプロダクションが必要になるが、SoundBetter上で、これらの専門家を探してクラウドソースすることが可能だ。創業者のShachar Giladはミュージシャン、プロデューサーとしての経験と、AppleやWaves Audioのソフトウェア開発にも携わった経験があり、楽曲制作者とその周辺の支援者の両方の立場から、現場の課題を解決するためにSoundBetterを創業した。日本からもSoundBetter経由で5000人のプロフェッショナルに仕事を依頼することができるし、逆に、日本にいながらも、世界中から投稿されている5万件以上の(例えば、ハリウッドの)楽曲制作に関するプロジェクトに携わることができる。

Shippo

Shippoは、1つのシンプルなAPIで、イーコマースの配送を簡単に低コスト化する。既に、150万パッケージの配送を受注していて、2014年のランレート(今年のこれまでの売り上げから通年の売り上げを予測したもの)は、100万ドルを想定している。また、eBayのグループ会社であるエンタープライズ向けイーコマースプラットフォームのMagentoとの統合を発表し、Magento上で製品を販売するセラーは、背後にあるShippoのAPIのおかげで、何も気にすることなくDHL、UPS、FedEx、US Postal Service等から最安値の配送オプションが選択されるようになっている。通常のUS Postal Serviceで依頼した場合26.65ドルかかる配送料が、5.82ドルとなり78%をセーブすることができる。日本製品のブランド価値は高いので、例えば、日本から海外向けに発送する販売業者やイーコマースサイト運営業者には、強力なツールとなることは間違いない。

EquipBoard

EquipBoardは、ミュージシャンなどのセレブリティが使用している楽器やツールなどを見つけて購入することができるサイトだ。僕も子供の頃にギターを弾いていたので、大好きなミュージシャンが使用するギターや、エフェクター、シールドなどを雑誌の写真を隅から隅まで凝視して、いくつもの楽器屋を回ったことを覚えている。僕は今でも、大好きなサッカー選手のはいているスパイクや、プロのサイクリストが使っているホイールやサイクルコンピュータをいつも一生懸命Googleで調べている。EquipBoardは、このようにセレブリティやアスリートのファンが集う場所でもある。これからスポーツやファッション等にも分野を拡大していくとのことで、大いに期待している。

WhalePath

WhalePathは、ビジネスのためのオンデマンドのリサーチをクラウドソーシングで提供している。毎年、ビジネスのリサーチには、240億ドルもの費用が投じられている。WhalePathでは、より一般的で、時間もかかり、高コストな既存の大手リサーチ会社よりも、3倍早く、半分のコストで、100%カスタマイズしたリサーチを提供する。このために、すでに200人以上のハーバード大学やスタンフォード大学、UCバークレー等の修士および博士取得者に直接仕事を依頼できるようにしているのみならず、AfterCollegeを通じて、300万人いると言われている同様の卒業生にもアクセスできるようにしている。2014年は、100万ドルのランレートを見込んでおり、パナソニックやオラクルのような大手企業も既に採用している。WhalePathは、日本に関する需要が拡大すれば、リサーチャーを日本からも募ることを検討しているとのことなので、今後、日本企業が米国や英語圏での調査を依頼するときに便利であるのみならず、米国企業が、日本のリサーチャーに日本語でしか見つけることができないリソースをもとにしたリサーチを依頼できるようにもなっていくかもしれない。

なお、全社のリストはここから参照できる。

(情報開示:筆者はAppSocially Inc.として、500 Startupsの6期生のプログラムに参加している。今回はTechCrunchの記者としてデモデーに招待された)


Y Combinatorの社長Sam Altmanしぶしぶ認める: “うちは独占的アクセラレータだ”

Y Combinatorはスタートアップのアクセラレータの世界を支配している、と思っておられるあなた、YCの社長のSam Altmanもそう思っているのだ。

TechCrunch Disrupt New Yorkのステージで壇上インタビューを担当したTechCrunchのファウンダMichael Arringtonは、Altmanから、ちょいと物議を醸しそうな話を引っ張り出そうとして彼に、“YCがアクセラレータのエコシステムから酸素の99.9%を吸い取っているのではないか”、と尋ねた。Altmanは、ハードウェアなど特定の分野でクールにやってるアクセラレータはほかにもいる、と反論した。

ただしAltmanは、YCはほかの育成事業を経てきたスタートアップにはあまり投資しない、と言葉を加えた。

“そういう意味では、そのほかの段階の投資と違ってアクセラレータの分野には独占がある、と思う”、と彼は言った。

Arringtonは、Y Combinatorが独占だと思うか、としつこく食い下がった。気まずそうな一瞬の沈黙のあとAltmanは、“そうだね。うちは優秀な企業だけをつかまえてる。うちの仕事のいちばん難しい部分、精力の90%を取られる部分がそこだね”、と答えた。

AltmanがYCの社長になったのは2月で、それ以降彼は、YCの投資から起きうる紛争やいわゆる“信号送出リスク(signaling risk)”*の軽減に努めてきた。たとえば投資構造の改革YCのパートナーたちによる投資の制限などを通じて。〔*: signaling risk, 緩い任意のパートナーシップの場合、その後の投資が継続せず、それが、対象企業の内情に関する“悪い信号”として世間に流れること。また逆に、間違った“良い信号”もありえる。〕.

また技術的な面では、デベロッパを一人から三人に増やし、今後もっと増やす予定だ。Altmanによると、今進めている二つの主なプロジェクトは、Hacker Newsのアグリゲータと、同社独自のインターネットツールだ。“VC企業を本当にスケールする方法は、ソフトウェアだ”。

さらに、本誌も記事にしたように、YCはStartup Schoolを国際展開した。

Altmanは、企業が初期の理想や焦点を失う理由について、こう言うWeb: “伝道者(missionaries)だった者が金目当ての傭兵(mercenaries)になってしまう”。とくに問題なのが、IPOだ。

“公開企業になることは、多くの企業にとって、たいへんなことなんだ”、と彼は言う。“FacebookやGoogleは、四半期ごとに恐ろしい顔をしてやってくる数字のプレッシャーをうまくあしらっていると思うが、ぼくが見たかぎりでは、対応の下手な企業がほとんどだね。本来の仕事そっちのけで、この‘四半期問題’に翻弄されてしまうんだよ”。

そしてAltmanの説では、“彼らのいちばん多い間違いは、視野狭窄的に、短期的な最適化に勤しんでしまうことだ”。良い企業とは、長期的な最適化に正しく取り組む企業だ、と彼は主張する。

[ここにスライドが表示されない場合は原文を見てください。]

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))


資金調達の好機: VCのスタートアップ投資がバブル崩壊以降の新記録を達成

今は、猫も杓子も資金を調達して会社を作ろうとしているように感じられる。それには理由がある。まさに彼らは今、確かにそうしているからだ。二つの研究調査によると、成長期にある非公開企業がベンチャーキャピタリスト(VC)たちから調達した資金の額は、2001年以来、今が最高である。

MoneyTreeの調査では、今年のQ1に調達された総額は94億7000万ドルだ。この数字は、2001年のQ2に記録された115億ドルから今日までで、最高である。ちなみに前年同期は60億1000万ドルという、ほどほどの額だった。

もうひとつ、DJX VentureSourceの調査では、今年のQ1の投資額が100億7000万ドルで、2001Q2は上と同じく115億ドルだ。

どっちが正しいかはともかくとして、トレンドは明白だ。今は大量のドルが資本市場に投入されて、投資家たちはあらゆるステージの企業に資金を注入しようとしている。NASDAQは高く、IPOの窓が開き、そして豊富な現金を抱える業界の巨人たちがより多くの人材と製品を買おうと躍起になっている。

バブルか? 答は人によって違うが、今が金の動き的には保守的な時代だ、と真顔で言う人は一人もいないだろう。SquareのIPOが遅れている、Box’のS-1が疑問視されている、Kingの公開人気がないなどの傷(きず)はあるけど、そのほかの企業は公開による新たな資金の導入にきわめて積極的だ。

そんな例は山ほどある。

ただし、物差しは正しい物差しを持つ必要がある。上の数字は、投資の水準が2001年半ばのそれに達した、と言っている。しかし、その前については何も言っていない。BusinessInsiderの、いみじくも“VCの投資はドットコムバブルのころのレベルからほど遠い”と題された記事は、下のようなグラフを載せている[データは上記のMoneyTreeの調査より]:

つまりVCの投資は、2001年の大きな爆発以前と比べれば今の方が記録的に高いのだが、この前のバブルに比べると依然として小さいのだ。

2008年のクラッシュの前では、2007Q4の84億5000万ドルがVC投資の最高だが、しかし2000Q1/Q2では280億ドルとバブっている。それは、今の水準のほぼ3倍である。そして今、資金は主に、売上9桁以上の、安定した大企業に行くことが多くなっている。

市場の均衡は完全でなく、相当な額の愚かなお金が、愚行へと投資されている。でも2014Q1の全体としては、成熟期の大きなトップ企業へ大金が行く傾向から見ても、パニックにはほど遠い。

画像: FLICKR/Luz Bratcher; CC BY 2.0のライセンスによる(画像はトリミングした)

[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))


「日本の起業家よ、小さなIPOで満足するな」、Atomicoが問う日本のスタートアップの課題

時価総額が50億円とか100億円程度で上場するのが本当に良い選択肢なのか? ――今の日本のスタートアップ界に対して、こういう問いを発しているのがベンチャーキャピタル「Atomico」(アトミコ)だ。

AtomicoはSkype創業者のニクラス・ゼンストローム氏が2006年に創設したグローバルなVCで、これまでXobniFabSupercellRovio(Angry Birds)、Last.fm6WunderkinderThe Climate CorporationJawboneなどに投資してきた。日本と関係のあるところだと、元DeNA共同創業者の渡辺雅之氏がロンドンで創業したQuipperや、東京・渋谷にありながらチームもサービスもグローバルなGengoといった投資先もある。Atomicoは2013年末に約480億円の資金を集めて3号ファンドをスタート。日本市場への積極参入もしていくという段階にある。

東京・神谷町にあるAtomicoオフィスで岩田真一氏に話を聞くと、最初に指摘したのが日本のスタートアップ・エコシステムの抱える課題だった。

「途中下車駅」を用意し、大きく育つスタートアップ企業を

「日本では起業家や経営者の先輩として、3億円ほど調達して企業評価額数十億〜百億円程度で上場するという“小さなIPO”がたくさんあります。懸念してるのは、こうした事例をみて日本のスタートアップ企業が小さくまとまってしまいがちなことです。海外では、このぐらいの規模の資金ならIPOではなく、VCから調達しています。上場コストをかけずに、スピード感を持って成長したほうがいいケースもあるはずです」(岩田氏)

岩田真一 氏(Atomico バリュクリエーションチーム)。日本市場における投資先企業とパートナー企業との連携構築、投資先企業のビジネス機会の拡大を支援するバリュークリエーションチーム所属。日本における投資先発掘(ソーシング)も担う。東京を拠点に日本市場での活動に注力。Atomico参画以前は、Skype Japanで代表取締役を務め、日本市場での戦略的パートナーシップの開拓に従事。Skype以前は2001年にアリエル・ネットワークスの設立に参加し、P2P型アプリケーションの開発全体を統括。慶應義塾大学理工学部を卒業後、ロータス(現日本IBM)、マイクロソフトでソフトウェアエンジニアとしてキャリアをスタート。

起業家が成功すること自体は素晴らしいし、もっと起業家を賞賛することが日本にも必要だと岩田氏は話すが、その一方で、日本から1000億円や1兆円といった規模の「メガベンチャー」が出てこずに、小さくまとまりがちな理由の1つは、現状のエコシステムに欠けているものがあるからではないかという。先輩起業家の背中を見て、成功とはこういうものだという「型」を見てしまうと、より大きなポテンシャルを持った起業が出てこなくなるからだ。

数十億円のバリュエーションでエグジットすることでリターンを得る、という比較的短期少額の投資・回収モデルのVCやシードアクセラレーターの存在も、この傾向に拍車をかけている。

「先日、とある会社の創業者2人と会ったんですね。すごくお金をたくさん稼げているというんですが、IPOしないって彼らは言うんですよ。でもそんなに業績良好なら投資家が来てるでしょと聞いたら、来てないというんです。つまり比較的短期のエグジットによるリターンがある程度織り込めないと、日本の一般的な投資家は投資しないんですね」

「VCやシードアクセラレーターによって日本のスタートアップ企業の足元が固まっています。日本の投資家が求めてるのは、短期間で数十億円以上のバリュエーションでエグジットできるもの。だから、ニッチなものであっても、それなりのキャッシュフローが生まれるとか、IPOの可能性が高まるとか、大きな規模でなくてもリターンが出るというものに投資が集まりがちなんです」

日本のスタートアップ企業が小さくまとまりがちなのは、シードファンドや比較的小規模のVCが増えている一方で、「その後」に大きめの金額を投資して成長させる担い手が続かないことが課題という。

「日本でもシードアクセラレーターを中心に500万円や1000万円という資金調達が増えて、スタートアップを始めやすくなっています。そうしたアーリーステージに投資するアクセラレータやエンジェル投資家は、創業間もないスタートアップ企業が、まだ何千万円という(小さな)企業価値にときに、すごく大きなリスクを取ってリードインベスターとして投資しているので、それなりのリターンを求めるのは当然です」

「ただ、1000億円のプロダクトやアイデアに育てていくためには、初期の投資家たちへのリターンを確保しながら大きくしていくことが必要で、そのためにはエンジェル投資家や初期投資家が希望すれば、例えば1つのアイデアとして“途中下車”できるようなエコシステムを作っていくというのがあります。より多くエンジェル投資家が生まれ、かつ日本でも長期的な視点でより大きな成長を目指すことにつながると考えています。われわれAtomicoは、その点で貢献できると考えています」

岩田氏が「途中下車」と表現するのは、リレーでバトンを渡すようにステージごとに投資家が変わっていくモデルを指している。長い投資期間を考えていない投資家と、長い目でスタートアップ企業を支援し、より大きな成長を狙う戦略の矛盾を解消するためのアイデアだ。シードファンドの投資家から、より大きな規模のファンドに引き継ぐ形でシリーズA、シリーズB、シリーズC……と資金調達を続けて、IPOまでに大きく事業規模をスケールするという成長シナリオだ。

起業したばかりで、まだプロダクトに市場があるかどうか、市場に受け入れられるかどうか分からない段階で投資をするのは「プロダクトリスク」を取る行為。一方、プロダクトに市場性があると分かった段階で、その事業を大きくするのはまた別のチャレンジで、ここで経営や組織運営、マーケティングで失敗することもある。そこの「エグゼキューションリスク」を取るVCや投資家は、シードファンドやエンジェル投資家とは別という。

「途中下車する駅を作れば、そこで降りたい人(エンジェル投資家)もいるでしょう。各投資家の性質によって違うはずなんです。われわれがエグゼキューションの面でスケールさせる役割を担っていければ、日本のスタートアップ・エコシステムが盛り上がっていく可能性は高い。シリコンバレーでは、そういうステージごとの投資家の分業が行われていますよね。シードやアーリーステージの投資家と、ミドル、レイターの投資家で、どちらがベターかという話ではありません。取っているリスクの段階が違うんです。ノウハウや経験値も違います。日本のVCやシードステージの投資家が持っているノウハウに、我々はかなわない部分は多くあると思います。ローカルマーケットの知見についても、われわれは日本のVCにかなわないかもしれない。それが役割分担として補い合えると思っています」

進化するファンド、国際展開を積極サポート

2012年末に組成された3号ファンドは規模が大きいが、最初からAtomicoがそうだったわけではない。Atomico創業者のニクラスとともにファンドの資金調達から投資先の発掘や交渉を行う田村裕之氏は、これまでのAtomicoの歩みを、こう振り返る。

田村裕之氏(Atomico パートナー)。Atomico CEO 兼共同創業者のニクラスと共にファンドの資金調達、投資先の発掘、交渉、投資を行なう。アジア市場における投資先企業の事業戦略を支援する。リーマン・ブラザーズ NY本店でキャリアをスタートし、香港の独立系投資銀行、東京のアドバイザリーファームの起業、Skypeの日本戦略アドバイザーを経て、Atomicoに参画。ノースウェスタン大卒。

「以前はAtomicoでもシードファンディングもしていたんですが、いまはアーリーグロースステージ以降が対象です。Atomicoはファンドとして進化しています。2006年の1号ファンドは、外部の資本がない状態でした。約100億円で20数社に投資しました。すでにAtomico以前にリードインベスターがいて、面白い会社に投資していくという形でした。気象の分析データに基いて農家に天災時の保険を提供するThe Climate Corporationなどがそうです」

「2号ファンドはプロアクティブに、リードインベスターとしてやっていこうということになりました。別にシリコンバレーじゃなくても起業して成功できる、というのが前提でした。このときは機関投資家をファンドに入れてアーリーからレイターステージの投資を手がけました。QuipperのようなアーリーステージのものからRovio(Angry Birdsの開発会社)といった売上や利益が出ている会社です」

Atomicoの創業者のニクラスにしても、そのほかのメンバーにしても、かつてSkypeを各国市場で立ち上げてきた経験とノウハウの蓄積があるという。こうしたノウハウと各国にある人的ネットワークを活用して、起業をサポートするというのが、Atomicoのもう1つのVCとしての差別化戦略という。

「3号ファンドでは資金を提供するだけではなく積極的にサポートをしていくという方針です。シリコンバレー以外の市場は、起業家にとってエコシステムが充実していません。メディアのアウトレットだったり、BizDevのサポートだったり、消費者や企業社会でのテクノロジーベンチャーの受け入れのスピードも違います。ここには特定市場のみを対象にするのとは異なるチャレンジがあるのではないかと感じていました。起業時と異なる市場に事業展開するステージに到達しているスタートアップ企業や起業家に対してサポートを提供していく、ということです」

Atomicoはロンドンを本拠地として、北京、サンパウロ、イスタンブール、東京、ソウルと世界に6拠点を置いている。Skype創業者のゼンストローム氏を含む4人のパートナーのほかに、投資担当と、バリュークリエーションという2つのチームにそれぞれ7人ずつ、合計18人で構成されている。Skypeの各地域で展開を経験し、文化的な特徴などに深い洞察を持つメンバーが、各地で人的ネットワークを使ってサポートする、という。

例えば、あるサービスが「画期的だ」という理由ではブラジル(あるいは日本)のユーザーには使われないという。ブラジルでは「みんなが使うから使う」という特性が強いという。こうした文化的な違いによってプロダクトやマーケティングを個々にチューニングしていくことが必要だという。

「ただ、Atomicoとしては起業家がいちばんだと思っていて、こういう考えもあるんじゃない? とデータをインプットするだけです。そうしたアドバイスを受けると、起業家は自分で考えて決断するもの。われわれとしてはプロダクトの個々の話よりも、そういうダイナミズムを大事にしたいですね」

先進国と新興国とでシナジーを出す戦略

グローバル市場におけるスタートアップ投資を見た場合、新興市場と先進国という2つの異なるグループがある。この2つを行き来してシナジーを出せるのも、Atomicoの強みという。

「投資先でみると新興市場と先進国があります。まだポートフォリオは完成ではありませんが、投資先の社数は同じぐらいで、比率は1対1ぐらいです。新興市場と先進国は違います。新興市場からは、世界に出て行く企業やプロダクトは期待していません。ですから、その国でエグゼキューションを上手くやってるところに投資するというのが戦略です。ここでは、先進国のスタートアップのノウハウや技術を新興国に持ってくることができます。KPIをトラッキングするだとか、先進国のトレンドを新興国でインプリするといったことで、ここで大きなアービトラージが取れます。ローカル市場ごとの細かいマーケットのダイナミックが分かるので、先進国のスタートアップのノウハウを持っていくことができるんです」(田村氏)

日本からメガベンチャーが出てくるという見通しはあるのだろうか?

「日本は先進国ですが、スタートアップのエコシステムとしては新興国ですよね。プライベートキャピタルの資本規模も小さいです。一方、日本は市場としては十分に大きく、地域のトップはヤフーや楽天のように大きいわけです」(田村氏)

「だから海外に行く前に日本を取ってからにしようという発想になりがちです。日本のスタートアップ企業は、グローバルマーケットに着手するのが遅くなりがちです。われわれが入ることで早い段階で世界展開ができる可能性があります。実際には、もうちょっと待ったほうがいいとか、そのマーケットには行かないほうがいいというアドバイスをすることもあるのですけどね。競争に勝つためには国内にフォーカスしろ、ということもあるわけです。われわれには、そういうアドバイスができるのです」(岩田氏)

「日本からメガベンチャーが出てこない理由には、そもそも資本がないということもあるでしょうね。長期成長のためにやることって、プロダクト周りだったり、BizDevだったり、そこに時間をかけることによって、最終的に規模感が大きくなるものも出てくる。プロダクトを進化させていって企業規模を1000億円にしていく期間というのが、もうちょっとあっても良いのではないかいうことです。時価総額が50億から100億で上場するのが本当に良い選択肢なのか。そのギャップを埋めるために、われわれがエコシステムに変革を起こす」(田村氏)

「アイデアとか良い発想を持っている個人は日本にもいっぱいいます。それを実行する人もいる。他国に比べて何かが遺伝的に欠けているわけではありません。ですから、日本からグローバルに成功するスタートアップ企業が絶対出てくるだろうという確信を我々は持っています。ただ、プロダクトのノウハウを持っていて、能力が秀でている創業チームでも、マーケット関係のノウハウはないかもしれない。そこをアクセラレートする、という段階はある。われわれはそこでリスクを取っていきます」(田村氏)

「われわれだけでなく、日本市場を投資対象とするVCが生まれたり、新規参入するなどして、VC間の競争が増えるのは良いこと。起業家のオプションが増えますからね。データ集めをして、リスクを最小限にするというのが投資の1つのスタイルですが、VCによって、いろんな違いがある。いろんな視点の投資家がいて活性化するのはいいことですよね」(岩田氏)

日本の場合、資本も人も大企業に偏在しがちという状況がある。大企業とスタートアップ・エコシステムの関係はどうなるのだろうか?

「企業の目的にあった開発をしているのと、(スタートアップ企業が)マーケットが求めるものを開発するのは違います。ここはノウハウというより、政治かもしれません。大企業から出てくるものは、自分たち(企業)のニーズにはいいかもしれないけど、市場が本当にほしがっているものじゃないことがある」(田村氏)

「バルクで新人を何千人も雇って、ゼロから研修して、全てをインハウスで作るという発想は、もう時代に合いません。かつては、R&Dで出てきたものは売れました。昔は研究すれば売れる製品が作れたんですね。でも、今は細分化していてモジュールの組み合わせになっています。そういうところはスタートアップ企業に任せればいいと思うんです。ヘンな稟議もなく新しいプロダクトを生み出せる。それを買ってあげるというのが大企業の役割かもしれませんよね」(岩田氏)

「今までは、大企業とスタートアップ企業とうい2つの世界が合流することはなかったですが、それも変わってくるでしょう。どこかの時点でティッピングポイントがやってくると思います。大企業はマーケットを良く分かってますから、ある程度スタートアップ企業のプロダクトにトラクションが出てきたら、M&Aで持ってくるというような動きが増えるでしょう。このとき、これまで日本企業が製造業でやってきたように、プロダクトを外のマーケットに持って行くというのと同じことは、できないことではないはずです」(田村氏)