Beyond Next Venturesの共同創業プログラム「APOLLO」から起業第1号、医療系スタートアップALY誕生

Beyond Next Venturesの共同創業プログラム「APOLLO」から起業第1号、医療系スタートアップALY誕生

ベンチャーキャピタル・アクセラレーターのBeyond Next Ventures(BNV)は3月29日、起業家候補人材とともに革新的な事業創造に挑む共同創業プログラム「APOLLO」において、医療系ディープテック企業ALY(アリー)が第1期参加者初の会社登記(2021年12月)を実現させたと発表した。同時に、第2期の募集を開始した。

ALYは、「データ技術で医療分野に化学反応を起こし、前へ進める」ことをミッションとする医療系スタートアップ。「データ分析で医療分野に良いインパクトを与えられる事業」を目指している。

共同創業プログラム「APOLLO」

APOLLOは、ディープテック領域に特化した起業家を対象に、構想段階からともに事業を練り上げ、スタートアップの起業を目指す創業プログラム。特定の事業テーマを選んで共創するという特徴がある。APOLLOが提供するのは、創業資金と成長資金、BNVの研究領域ネットワークを通じた事業に必要な研究シーズの探索や連携、事業構築と成長支援、目標領域に精通する投資家とともにビジネスモデルの策定や創業メンバーの採用などを行う事業構築と成長支援、起業家コミュニティーへの参加となっている。例えばALYでは、創業者・代表取締役の中澤公貴氏が、医療分野に精通するBNV執行役員の橋爪克弥氏と手を組み、創業に繋げている。

現在APOLLOは第2期の募集を行っている。対象となる事業テーマは、医療デジタルイノベーション、医療系IoT、バイオスティミュラント、カーボンオフセット、微生物/発酵、宇宙バイオテック、生殖医療/ファミリーヘルス、ベビーテック/チャイルドテック、インド市場となっている。これらの中で、少子高齢化、健康問題、環境問題などの社会課題の解決を目指す起業家を募集する。

対象者としては、強い挑戦心と起業家精神の持ち主、インパクトの大きな課題解決に取り組む強い意志の持ち主、スタートアップやスタートアップ的環境で新規事業に関わったことのある人を挙げているが、とりわけ、グローバル市場に挑戦する志向性がある人、特定の産業または事業モデルに強い興味と専門性がある人、起業経験がある人、医師、MBA、海外駐在経験者は歓迎するとしている。

説明会は下記のとおり領域ごとに開催される。

  • アグリ・フード領域(バイオスティミュラント、カーボンオフセット、微生物/発酵など)
    ・開催日:4月19日19時~20時
    ・詳細および申し込み: https://apollo20220419.peatix.com/view
  • 医療・ヘルスケア領域(IoMT、医療DXなど)
    ・開催日:4月27日19時~20時
    ・詳細および申し込み:http://ptix.at/Q4428G
  • バイオ領域(宇宙バイオテック、生殖医療/ファミリーヘルス、ベビーテック/チャイルドテックなど)
    ・問い合わせフォーム(https://talent.beyondnextventures.com/apollo)より連絡

Beyond Next Venturesがピッチイベント「BRAVE2021 DEMO DAY」開催、最優秀賞はfcuro・優秀賞をTOWING獲得

Beyond Next Venturesがピッチイベント「BRAVE2021 DEMO DAY」開催、最優秀賞はfcuro・優秀賞をTOWING獲得

シード、アーリー期のディープテック・スタートアップへの出資や支援を行う独立系ベンチャーキャピタル(VC)「Beyond Next Venturesは12月24日、ピッチイベント「BRAVE2021 DEMO DAY」を12月22日に開催し、最優秀賞・優秀賞・準優秀賞を獲得したスタートアップ企業を発表した。

Beyond Next Venturesは、ディープテック特化型アクセラレーションプログラム「BRAVE」を2016年から運営しており、その集大成としてデモデイを実施している。2021年のBRAVEには130以上の応募があり、その中から選抜された医療・農業・材料領域など起業前後のディープテック・スタートアップ8チームが賞金・投資機会の獲得を目指しピッチを実施した。また今回のBRAVE2021 DEMO DAYは、初めて一般公開(リアル会場とライブ配信のハイブリッド)の形で開催しており、約300名が参加したという。過去最大規模となったそうだ。

登壇スタートアップ8チーム(ピッチ順)

BRAVE2021 DEMO DAYの最優秀賞に輝いたのは、救急全身CT診断AI技術により「見逃し」と「時間」の問題に挑む「fcuro」で、賞金200万円を獲得した。優秀賞(賞金100万円)は、人工土壌「高機能ソイル」を利用した持続可能かつ高効率な栽培システムで宇宙農業実現と地球農業発展を目指す「TOWING」(トーイング)が獲得。「せん妄」の発症予測・予防向けAI医療機器を開発する「DELISPECT」(創業前)が準優秀賞および賞金50万円を獲得した。

このほかパートナー賞では、不妊治療はじめ女性を医療面から支えるAIサービスの提供を目指す「vivola」、野菜・果物の不可触部分の残渣を由来とするオーガニックポリマー開発の「EF Polymer」も選ばれている。

またBRAVE2021 DEMO DAYでは、パネルディスカッション「VC パートナーに聞く、ディープテックスタートアップの最前線」も実施され、インキュベイトファンドの村田祐介氏(代表パートナー)、東京大学協創プラットフォーム(東大 IPC)の水本尚宏氏(パートナー)、ファストトラックイニシアティブ(FTI)の安西智宏氏(代表パートナー)がゲストとして登壇した。アカデミアと社会をつなぐ学生団体によるピッチコンテストも開催された。

最優秀賞:fcuro

Beyond Next Venturesがピッチイベント「BRAVE2021 DEMO DAY」開催、最優秀賞はfcuro・優秀賞をTOWING獲得fcuroは、救急現場における「見逃し」と「時間」の問題を解決するための救急全身CT診断AI技術を開発している。

医療現場には、生理データ・血液データ・CT画像データなど、数値化および可視化された情報が存在するものの、迅速性が求められる救命現場ではこれら情報を長時間かけて把握する余裕はないという。実際に膨大なデータに埋もれて重要所見にたどり着けず、救命できないことがあるという。

その解決を図るものとしてfcuroは、AIをはじめ技術の力で情報を適切に整理することで、診断の遅れや見落としが原因で起きる死をなくし、いつどこの病院に運ばれても命が助かる未来を作るとしている。その1歩目として、現場データの中で解釈に最も時間がかかり、見逃しが多いCT画像について、効率的な診断を実現するためのAIおよび表示技術の開発を進めている。Beyond Next Venturesがピッチイベント「BRAVE2021 DEMO DAY」開催、最優秀賞はfcuro・優秀賞をTOWING獲得

優秀賞:TOWING

Beyond Next Venturesがピッチイベント「BRAVE2021 DEMO DAY」開催、最優秀賞はfcuro・優秀賞をTOWING獲得TOWING(トーイング)は、人工土壌「高機能ソイル」を活用した次世代の作物栽培システム「宙農」(そらのう)を開発・販売する名古屋大学発スタートアップ。この人工土壌の技術をベースにし、地球上における循環型農業の発展と宇宙農業の実現を目指している。高機能ソイルとは、植物の炭等の多孔体に微生物を付加し、有機質肥料を混ぜ合わせて適切な状態で管理してつくられた人工土壌という。国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構が開発した技術に基づき、TOWINGが栽培システムとして実用化した。

準優秀賞:DELISPECT(創業前)

Beyond Next Venturesがピッチイベント「BRAVE2021 DEMO DAY」開催、最優秀賞はfcuro・優秀賞をTOWING獲得DELISPECTは、超高齢社会の医療課題の解決を目指し、「せん妄」の発症予測と予防のためのAI医療機器を開発する創業前チーム。

パートナー賞

今回複数のパートナー賞が用意されており、以下スタートアップが受賞した。

  • 大正製薬賞:vivola
  • アストラゼネカ賞:DELISPECT
  • JSR賞:fcuro
  • 帝人ファーマ賞:DELISPECT
  • カゴメ賞:EF Polymer
  • J-オイルミルズ賞:TOWING
  • LINK-J(ライフサイエンス賞):DELISPECT、fcuro、vivo

Beyond Next Venturesがバイオ領域スタートアップ向けシェアラボを6カ月無料で利用できる研究助成制度の公募開始

Beyond Next Venturesは11月8日、同社運営のシェアラボ「Beyond BioLAB TOKYO」における「研究助成制度」第2期の公募を開始したと発表した。対象の研究領域は生命科学分野全般。支援期間は、2022年2月1日~7月31日の6カ月間。募集締め切りは2021年12月31日まで。

Beyond BioLAB TOKYO(東京都中央区日本橋本町2-3-11 日本橋ライフサイエンスビルディング B101)は、2019年2月に開設した都心初のシェア型ウェットラボ。共有機器、専属ラボマネージャーによる支援体制を備え、スタートアップに最適な環境を整えているという。開設以来、累計32社のスタートアップ・研究チームが利用しており、利用者(卒業生含む)の資金調達額は累計32億円以上、事業提携52件、特許取得14件に上るそうだ。

Beyond Next Venturesがバイオ領域スタートアップ向けシェアラボを6カ月無料で利用できる研究助成制度の公募開始

Beyond BioLAB TOKYO研究助成制度では、同社の知見やネットワークの提供、定期的なメンタリングに加え、6カ月間にわたるBeyond BioLAB TOKYOのラボスペースおよび同社オフィスに隣接するコワーキングスペース「B-PORT」のフリーレントを提供する。同制度を通じ、研究成果の事業化に意欲をもつ研究者の活動を支援するとしている。

Beyond BioLAB TOKYO研究助成制度の概要

  • 募集期間:2021年12月31日まで
  • 支援期間:2022年2月1日~7月31日
  • 対象者:知的好奇心に基づきユニークな研究を行なっている方。研究の推進に必要なスキル、アセットをお持ちの方。チャレンジ精神をお持ちの方
  • 対象となる研究領域:生命科学分野全般(同ラボで受け入れ可能なBSL2レベルに限る。動物試料の持ち込み、特定病原体は不可。特定化学物質の持ち込みは可能だが、ダクトレスヒュームフードで対応可能な範囲に限定)
  • 採択予定数:1~2件程度
  • 応募条件:一定程度の研究開発の経験を有すること(所属は問わない)。日本橋での研究推進が可能なこと。国籍・居住地の制限はない
  • 応募方法:「特設ページ」を確認の上、専用フォームから必要書類を提出。必要に応じ面談を実施する場合がある

Beyond BioLAB TOKYO研究助成制度の提供内容

  • シェアラボ「Beyond BioLAB TOKYO」とコワーキングスペース「B-PORT」を6カ月間無料で利用可能:Beyond BioLAB TOKYOは、1席から利用できるオープンラボスペースと個室を完備した、P2 / BSL2まで対応可能な実験施設。高価な実験機器を共有設備機器として用意。B-PORTは、ラボから徒歩5分の同社東京オフィスに隣接し、投資家・研究者・起業家が交流する施設。Wi-Fi、コピー機、郵便ポスト、ロッカー設備あり
  • スタートアップコミュニティへの参画:ディープテック起業家が集うアクセラレーションプログラム「BRAVE」が開催する限定セミナーの受講、BRAVE卒業生・先輩起業家との交流機会の提供
  • Beyond Next Venturesメンバーによるメンタリング:シード期の資金調達、研究シーズの事業化ノウハウ、助成金の活用など、研究開発型スタートアップの成長支援に豊富な経験を持つ同社社員とのメンタリングの機会を提供

CTOなど技術幹部志向のITエンジニア対象、paizaでデジタルヘルス領域アイデアソンの参加者募集開始

ITエンジニア向け転職・就職・学習プラットフォーム「paiza」(パイザ)を運営するpaizaは6月21日、ITエンジニア向け転職サービス「paiza転職」において、「BNV x NCCHE NEXT医療機器開発センター デジタルヘルス スタートアップ創出アイデアソン」参加者の受付を開始した。paizaは、将来CTOなど技術幹部を志向するITエンジニアを約10名募集しており、詳細については「スタートアップ創出アイデアソン!革新的なデジタルヘルス・医療機器を創出」で公開している。

今回のアイデアソンは、Beyond Next Ventures(BNV)主催の創業経営人材育成プログラム「Innovation Leaders Program」の一環として、BNVと国立がん研究センター東病院(NCCHE) NEXT医療機器開発センターとのコラボレーションにより開催するもの。

Innovation Leaders Programは、BNVが提供する創業経営人材育成プログラムシリーズの総称。プログラムでは国内トップクラスの研究チームとともに、将来スタートアップの経営参加を志望するビジネスパーソン、エンジニアがチームで事業プラン作りやブラッシュアップ、資金調達を目指す。過去にはのべ280名が参加、多くのスタートアップ共同創業・参画者を輩出しているという。

NCCHEは、国内屈指の医療研究機関にあたり、その院内にあるNEXT医療機器開発センターは、臨床ニーズに基づいた次世代に望まれる革新的医療機器を開発する専門機関となっている。アイデアソンでは、NCCHE所属医療研究者が温めている事業コンセプトをベースに、チームで革新的なデジタルヘルスサービス(デジタル診断、医療AI、画像診断、予防領域など)のいくつかのアイディアの事業化を目指すことになる。

医療現場の課題を「AI・画像解析・デジタル」で解決するプロダクトを生むという目的の下「実質2日間」で次世代のデジタルヘルスサービスを磨きあげる、短期集中のプログラムとしている。

プログラムで議論するテーマ(シーズ)

  • 人工知能を用いた腹腔鏡下肝切除術におけるリアルタイム手術支援システムの開発
  • 組織深部に存在する微小な癌を検出できるシステムの開発
  • せん妄の早期検知支援システムの開発
  • 医療者から患者への適切な情報提供とコミュニケーションを補助するシステムの開発

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カテゴリー:ヘルステック
タグ:paiza(製品・サービス)Beyond Next Venturesプログラミング(用語)日本(国・地域)

技術シーズ向けアクセラレータープログラム「BRAVE2021 Autumn」が参加スタートアップ募集開始

技術シーズ向けアクセラレータープログラム「BRAVE2021 Autumn」が参加スタートアップ募集開始主にシード、アーリー期のディープテック・スタートアップへの出資や支援を行う独立系ベンチャーキャピタル(VC)Beyond Next Venturesは6月9日、アクセラレータープログラム「BRAVE」(ブレイブ)の2021年秋コース参加者の募集を開始すると発表した。

高度な技術シーズを事業化し成長させることを目標に、2016年にスタートした「BRAVE」は、これまで6回開催され、102チームが参加し、うち45%が起業に成功。卒業後の累計資金調達額は121億円にのぼる日本最大級のプログラム。

デモデイで優秀な成績を収めたチームには、最大200万円の賞金か、金額相当の事業化支援が贈られる。さらに、パートナー企業からの特別賞のほか、総額1億円規模の助成金への推薦、Beyond Next Venturesからの出資が受けられる。

プログラム概要およびエントリー方法

  • 応募期間:2021日8月27日午後11時59分まで
  • 応募資格:高度な科学技術シーズを持つ研究チーム・スタートアップ・カーブアウトを狙うチーム(学生、社会人、国籍、起業の有無は問わない)
  • 募集領域:アグリ・フード、AI、環境・エネルギー、メディカル・デジタルヘルス、バイオ・創薬
  • プログラム期間:2021年10月2日から11月20日までの約2カ月間。デモデイは12月22日に予定
  • BRAVE2021 Demo Day開催日:2021年12月22日
  • BRAVE2021 Demo Day開催場所:日本橋ライフサイエンスビルディング(オンラインで開催に変更する可能性がある)
  • 参加費:無料
  • 申し込み方法BRAVE公式サイトの「APPLY」ボタンより応募

賞金・特典

  • 最大200万円の賞金または金額相当の事業化支援を授与
  • 総額1億円規模の助成金への推薦。Beyond Next Venturesがプロモーターを務める助成金「START:研究成果展開事業 大学発新産業創出プログラム」(JST START)、NEDO STSなど
  • パートナー企業からの特別賞
  • Beyond Next Venturesからの出資

またBRAVEの特徴としては、同社が保有する2000名以上の経営人材プールを活用した経営幹部候補人材とのマッチング、ビジネス・技術・知財・法律などのスペシャリストによる事業プラン・事業計画作成サポート・ピッチ大会/Demo Dayに向けたプレゼンのアドバイスなどの実戦的メンタリングなどがある。BRAVEの卒業生(BRAVE Alumni)だけが参加するコミュニティへのアクセスも可能となるほか、BRAVEのコンセプトに共感しスタートアップとの連携機会を模索しているパートナー企業とのマッチングも実施される。

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カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:アクセラレータープログラム(用語)Beyond Next VenturesVC / ベンチャーキャピタル(用語)日本(国・地域)

Beyond Next Venturesが日本初の研究領域対象「起業版サーチファンド」開始

Beyond Next Venturesが日本初の研究領域対象「起業版サーチファンド」開始

Beyond Next Venturesは2月1日、「0→1」事業創造を支援する仕組みとして「起業版サーチファンド」の運用を新たに開始すると発表した。大学・企業などの技術シーズ事業化を後押しするサーチファンド型スキームは、国内初の取り組み。2023年末までに5社以上のスタートアップの設立を目指す。

また専用サイトよりウェブエントリーを行った者にメールで説明会を案内するとしている。

一般にサーチファンドというと、経営者候補(サーチャー)が投資家と連携し、既存産業の優良企業より案件の探索・買収を実行し、経営に参画するという手法を指す。国内においては中小企業の後継者不足を解決するひとつの手法としても注目を集めているという。

これに対してBeyond Next Venturesが運用する起業版サーチファンドは、それら事業買収モデルではなく、同社によるバックアップの下、経営者候補(サーチャー)が大学・企業などの技術シーズの法人化に関わり、経営者として「0→1」の事業創造にコミットすることを支援する仕組みとしている。

大学・企業などの技術シーズには毎年数兆円規模の研究資金が投入されているものの、事業化して成功する事例はごく少数とされており、その主な要因のひとつが「経営人材不足」にあるという。

研究者が研究成果を事業化したい時、「外部人材を投入する」または「自ら経営を担う」が代表的なパターンとなっており、ビジネス経験の少ない研究者の場合外部人材投入のパターンで企業の事業経験者などを経営陣に迎え入れるほうが成功確率を高められるとしている。

しかしBeyond Next Venturesによると、そういった人材が創業初期になかなか見つからず、研究者自ら事業プランを練り、研究活動と同時に法人化に必要な膨大な業務を行おうとして、つまずいてしまうケースが数多く存在しているそうだ。

同社は、起業家になりたい方(経営候補人材)がより挑戦しやすい仕組みを提供することで、経営人材の発掘・育成と研究成果の事業化促進を実現させ、研究資金を社会に還元していくエコシステムをさらに活性化させるとしている。

経営者候補(サーチャー)が受けられる支援

  • 創業および成長資金の確保:創業資金、創業後の継続投資
  • 有望な技術シーズとの出会い:有望な技術シーズリストの提供、ネットワーク提供、伴走支援
  • 専門領域に即した支援:知財評価・取得、事業および投資採算性評価、事業モデル策定ほか
  • 創業および成長支援:メンバー採用、規制対応、アライアンス、海外展開ほか

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Beyond Next Venturesの2号ファンドが総額165億円で最終クローズを完了

Beyond Next Venturesの2号ファンドが総額165億円で最終クローズを完

Beyond Next Venturesは12月8日、産業革新投資機構(JIC)などからの出資を受け、同社が無限責任組合員として運営する「Beyond Next Ventures 2号投資事業有限責任組合」(BNV2号ファンド)を総額165億円の規模でファイナルクローズしたと発表した。

BNV2号ファンドは、同社のふたつ目の基幹ファンド。主に、大学・研究機関の有する優れた技術シーズを基にしたシードステージのスタートアップや、企業が有する有望技術のカーブアウトスタートアップなどへの投資を実施。2020年12月現在ですでに26社の投資先企業の成長を支援している。

2018年10月のファンド設立後、独立行政法人中小企業基盤整備機構からの出資などを経て、今般、JICなどからの出資を受けて、総出資約束金額165億円の規模でその組成を完了することとなった。

同社は、「起業家と共に、大学等の高度な技術シーズを実用化し、新産業創出とチャレンジする人材を多数輩出することにより社会に貢献する」ことをミッションとして掲示。BNV2号ファンドのファイナルクローズを踏まえ、今後も日本を中心とした研究機関における高度な技術シーズを起業家とともにひとつでも多く実用化し、グローバルなマーケットを狙っていける技術系スタートアップを支援することで、新産業の創出をさらに加速していく。

産業革新投資機構(JIC)は、2018年9月、産業競争力強化法改正法の施行に伴い、従来の株式会社産業革新機構から株式会社産業革新投資機構に商号を変更し発足した投資会社。IoT、ビッグデータ、AIなど、新たな情報技術の社会実装が世界で加速する中、投資に適したガバナンス構造と迅速で柔軟な投資判断により、長期・大規模な成長投資を中心としたリスクマネー供給への要求に応える新たな組織として誕生した。

Beyond Next Venturesは、大学などの研究機関で革新的な技術の開発に取り組む研究者やテック系のスタートアップ企業経営者・起業家と共に新たな産業・イノベーションの創出に取り組む。

  • スタートアップ投資:事業化~成長支援までにわたる投資経験と運用実績を有する。2020年12月時点で47社への投資実績があり、2015年2月に設立した1号ファンドおよび2018年10月に設立した2号ファンドを合わせて計220億円のファンドを運用
  • 事業化支援プログラムの企画・運営:「BRAVE」において、革新的な技術の事業化を目指す研究者や起業家に対して、経営人材候補とのマッチング、事業化実現のための知識・ネットワーク・成長資金を提供。東京都からの委託を受け、創薬・医療系スタートアップの起業や成長を支援するプログラム「Blockbuster TOKYO」も運営
  • シェアラボの運営:ライフサイエンス領域のスタートアップがより低コストで実験などを行えるシェア型ウェットラボ「Beyond BioLAB TOKYO」を東京都中央区に開設
  • 経営チーム組成、共同創業支援:「Innovation Leaders Program」「Co-founders」など、経営人材を求めるスタートアップや研究者と、経営参画・起業したいビジネス人材を、Beyond Next Venturesが保有する人材ネットワークを活用してつなぐことで、強固な経営チーム組成・共同創業を支援

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Beyond NextがインドC-CAMPと提携で相互支援、海外投資も本格化

独立系アクセラレーターのBeyond Next Ventures(BNV)は6月3日、インド・バンガロールのインキュベーターCentre for Cellular and Molecular Platforms(C-CAMP)との業務提携を発表した。

写真右から2人目:BNV代表取締役社長 伊藤毅氏

C-CAMPが拠点を置くバンガロール(ベンガルール)はインドの南部に位置し、「インドのシリコンバレー」と呼ばれるテック企業の集積地であり、技術系大学や医大など、インド有数の大学が数多く集まる都市でもある。C-CAMPはその地に2009年、インド政府科学省によって設立されたインキュベーターだ。

これまでに100を超えるスタートアップを支援してきたC-CAMP。ライフサイエンス分野を中心とした最先端の研究開発、投資、メンタリングの実施や、インキュベーション施設の提供などを通して、インドのスタートアップの事業化・成長支援を推進してきた。

BNV代表取締役社長の伊藤毅氏は、C-CAMPについて「シェア型ウェットラボを運営するなど、我々と似た活動をしているアクセラレーター」と説明する。インドには政府が政策として、予算を付けてバックアップするインキュベーターも多く、再生医療の分野などでアカデミア発のベンチャーの事業化を支援している。C-CAMPもそのひとつ。バンガロールにあるライフサイエンス領域のインキュベーターでは、中核的な存在だという。

BNVも2014年8月の創業時から、アカデミア発のスタートアップ支援を行うアクセラレーターで、2018年10月には2号ファンドを設立。1号ファンドとの累計で150億円近い額となるファンドを運営し、ライフサイエンス分野を中心とした技術系スタートアップへのインキュベーション投資や事業化・成長支援を実施する。今年2月には東京・日本橋に開設されたシェア型ウェットラボの運営を開始した。

今回の業務提携では、両社がインドおよび日本の起業家育成、双方のアクセラレーションプログラムを通した人材・テクノロジーの交流などを目的としたコンソーシアム「C-CAMP Beyond Next Ventures Innovation Hub(CBIH)」を設立。インドにおける技術系スタートアップへの投資やハンズオンサポートなどを組み合わせ、インドと日本双方のイノベーションの創出を目指す。

より具体的には、BNVが日本で投資するスタートアップがインドで事業を展開したり、ラボへ入居したりする際にはC-CAMPがサポートを実施。C-CAMPがインキュベートを手がけるインドのスタートアップには、BNVが日本でのパートナーや投資家の紹介、アクセラレーションプログラムへの参加などで支援する、といった形で両社の経験やネットワークを生かしていく。

また、これを機にBNVでは、インドへの投資を本格展開していく予定だ。BNVが投資を行う現地のライフサイエンス領域のスタートアップについては、C-CAMPがデューデリジェンスや育成をサポートする。

「インドは人口も多く、世界第3位のスタートアップ大国でもある。中でもインドのシリコンバレーと言われるバンガロールは投資機会に恵まれた地域だ。また、インドは今後も発展を続け、中長期的には大市場となる。我々の投資先であるスタートアップにとって、海外の展開先としても有望な国だと考えている。学力や教育レベルも高く、ITエンジニアだけでなく、ライフサイエンス領域でも優秀な人材が多い。今は日本の方が優れた研究もあり、論文も多いかもしれないが20〜30年後、中長期的にはそれが変わっていくとみている」(伊藤氏)

今年8月には創業5年を迎えるBNV。現在、海外では2社のスタートアップに出資しているが、今回の業務提携をきっかけに、インドだけでなくアジア諸国、海外への投資を加速していく考えだ。

基礎研究を企業と支援するクラウドファンディング、アカデミストが第1弾を公開

学術系クラウドファンディングサービス「academist(アカデミスト)」を運営するアカデミストは4月15日、アクセラレーターのBeyond Next Venturesと共同で募集していた「<Beyond Next Ventures × academist> マッチングファンド」第1弾の審査を通過した研究プロジェクト2件のクラウドファンディングをスタートした。

2件のプロジェクトが研究費支援を募るクラウドファンディングの実施期間は6月17日19時まで。目標金額50万円を達成し、ファンディングが成立したプロジェクトには、Beyond Next Venturesから50万円の追加支援が行われる。

研究の発信の場として始まったacademist

アカデミストは、研究費獲得のためのクラウドファンディングサービスacademist、そして学術系メディア「academist Journal(アカデミストジャーナル)」を運営し、研究者を支援する事業を行っている。

両事業に共通するのは「研究者が発信する環境を提供すること」と、アカデミスト代表取締役CEOの柴藤亮介は語る。

柴藤氏は首都大学東京大学院に在学中、理論物理学を専攻していたのだが、隣にいる研究者とやり取りすることもなく、1人で論文を読んだり研究を進めたりする日々を過ごしていたという。

「同じ部屋にいる院生同士でも、研究分野が少し変わるだけで接点もなくなる。まわりの研究者が何を研究しているのか、知る機会が欲しい」と考えた柴藤氏は、分野を超えて、研究者が自身の研究について発表する場をセッティングしてみることにした。

初めは専門が異なれば、説明も分からないのではないかと思ったそうだが、実際に聞いてみると、「研究者が自分のリサーチクエスチョン(課題)を一生懸命説明するので、意外と分かる」ものだったという。そこで他人が進めている研究の大枠が分かることの面白さに触れた柴藤氏は、アカデミア以外の社会や企業に向けて研究を発信することも面白いコンテンツになるはずと考えた。この経験が、アカデミスト設立につながっている。

研究者が情報発信する場として、メディアだけでなくクラウドファンディングのプラットフォームを立てた理由は何か。柴藤氏は「メディアを運営するのは、発信の場としては直球だが、情報をまとめる研究者にとっては、研究を進めながら寄稿をするにはエネルギーも要るし、直接のメリットがない。それならば、研究費が得られるというメリットが見えた方が参加してもらいやすいと考えた」と話している。

2014年、学術系に特化したクラウドファンディングサービスとして公開されたacademist。これまでに、約100名の研究者がプロジェクトに挑戦し、研究費の獲得に成功した総額は約1億円に上るそうだ。

最初は理学系の研究プロジェクトが多かったが、最近では工学系や医学・薬学、それに人文・社会科学系の研究でもプロジェクトを公開するようになっているという。

これまでに公開され、成立したプロジェクトは「無人探査ロボットで東京ドーム1万個分の海底地図を描きたい!」「宇宙における星形成史を辿ってみたい!」といった研究としては王道らしいものから、「カラスと対話するドローンを作りたい!」といった“確かに科研費は取りにくいだろうけれども、何となく面白そう”なものまで、ジャンルも規模もさまざまだ。

筆者は個人的には「南米先史社会『シカン』の発展と衰退の謎を解明したい」という考古学調査のプロジェクトで、リターンに「発掘調査参加」権があるプロジェクトに興味がそそられた(この案件は既に募集を終了している)。

企業とのタッグでさらに研究者の課題解決へ

アカデミストでは研究者の課題解決をさらに進めるため、「企業マッチング型クラウドファンディング」を1月からスタートした。その第1弾として立ち上がったのが、大学発・技術系スタートアップの育成投資を手がけるアクセラレーターのBeyond Next Venturesと研究者を募ったマッチングファンドだ。

このマッチングファンドではBeyond Next Venturesが基礎研究に対し、短期的な成果を目的としない支援を行う。academistのプラットフォームで研究をプロジェクト化し、プロジェクトが目標金額を達成して成立した暁には、クラウドファンディングによる支援金額に加えて、研究原資の一部をBeyond Next Venturesからも追加支援する。

第1弾では基礎研究に「情熱」を持つ研究者を募集した。応募分野は幅広く、医学、生物情報学、社会学、化学、神経科学など多様なジャンルから熱意ある研究テーマが寄せられたそうだ。

今回はその中から、2件の研究プロジェクトが審査を通過し、4月15日から70日間のクラウドファンディングを開始することになった。

今回公開されたプロジェクトの1つは有機合成化学の分野で、従来の方法によらない有機合成の手法を研究したいというもの。「有機化学の発展には、新しい分子の合成ルート開発が求められる。そのためには、今までに知られている手法だけでなく、新たな分子変換の方法を開発することも重要」と考える学習院大学理学部助教の諸藤達也氏が、ケイ素と電子移動を利用する新しい有機分子変換法の開発を目指す

もう1つは神経科学の分野で、他の個体の「意識内容」を細胞移植で再現できるか、という研究だ。リンゴを見て「赤い」と感じたり、食べて「おいしい」と感じたりするとき、その「赤さ」「おいしさ」は意識内容と呼ばれる。非物質である意識内容は、物質である脳からどのように生み出されるのか。東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科助教の田中大介氏が、「細胞移植により、特定の意識内容を生み出している神経基盤を複数の個体間で再現する」というコンセプトを実証するための基礎研究に対して支援を募る。

企業マッチング型クラウドファンディング開始のきっかけについて、柴藤氏は「ひとつはクラウドファンディング達成総額を上げるため、法人の力を借りたかったから」と述べる。またアカデミアの外でヒアリングを進めると、企業の側にも解決したい課題が見つかったという。

「大企業で新規事業を立ち上げる際には、研究者を探しているというケースが多い。それならば、クラウドファンディングを通じて研究者を支援していく中で、そうした人を見つける場をacademistで用意できるのではないかと考えた」(柴藤氏)

アカデミストでは、Beyond Next Venturesに続き、今後他社にも企業マッチング型クラウドファンディングに参加してもらい、研究資金の支援を得たい考えだ。

「ノーベル賞を受賞するような研究は、成果が出るまでに20年、30年かかる。だが大隅良典氏のようなノーベル賞を受賞した研究者が若い頃やっていたような基礎研究が、今はできなくなっている。今、手がけようとしても『それが何の役に立つのか』という扱いを受けているような研究を、もっとacademistでピックアップしたい」(柴藤氏)

アカデミストとBeyond Next Venturesでは、今日の第1弾のプロジェクト開始と同時に、第2弾のマッチングファンドで新たな研究者募集をスタートさせた。第2弾の研究プロジェクト募集は2019年7月26日まで行われる。

「第1弾では『情熱』が審査のポイントだったが、第2弾では『異端』がテーマ」と柴藤氏。「最近話題の量子コンピュータも、最初は異端と思われていた研究から始まっている。なかなか認めてもらえないけれど、必ず世の中のためになるはず、という研究をジャンルを問わず、広く募集する」と研究者支援への思いを語った。

技術シーズと共同創業者をマッチングする「Co-founders」、Beyond Nextが開設

独立系アクセラレーターのBeyond Next Venturesは、大学などの技術シーズ・研究者と経営人材とをマッチングするプラットフォーム「Co-founders」を開設。3月1日からの正式サービス提供に向けて、2月18日、事前登録受付を開始した。

Beyond Nextは2014年8月の創業以来、ファンドやアクセラレーションプログラム、社会人向けの起業家育成プログラムなどを通じて、大学・研究機関発の技術シーズに対する創業支援や投資に取り組んできた。

技術シーズの事業化にあたって、大きな課題のひとつが「経営幹部となる人材が見つからない」ということだ。Beyond Nextではこれまでにも、スタートアップの経営人材不足に対応できるよう、自社内にヘッドハンターと採用支援の専任担当者を抱え、1500名を超える経営人材候補の人材プールを構築。創業前後の研究開発型スタートアップへ経営者候補を紹介している。

Beyond Next Ventures代表取締役社長の伊藤毅氏は、「シリコンバレーをはじめ、欧米ではベンチャーキャピタル(VC)が投資先に人材を紹介するということが、VCの役割として一般化しており、ヘッドハンターを抱えて経営幹部人材を紹介することや、採用支援をすることがVCの機能となっている。日本でも、最近そうした動きがようやく現れてきたが、キャピタリストが自分の人脈で紹介するといったケースが多く、機能として提供できるところはまだ少ない」と説明する。

Beyond Nextは、これまでの取り組みによる実績やノウハウを集約し、今度はオンラインでもマッチングサービスとして提供することで、より多くの技術シーズ・研究者と経営人材との出会いを支援したい考えだ。

Co-foundersでは、技術シーズ・研究者と経営者候補とをオンライン上でマッチングするだけでなく、研究者にはセミナーや個別相談を通じた、組織構築・採用コンサルティングなどを提供。経営人材にも経営者としてのキャリア構築支援を行い、オフラインでも創業チームづくりを支援する。

サービスの登録対象は、シーズの事業化に向けて創業メンバーや仲間を求める大学・研究機関所属の研究チームや、創業前後のスタートアップ。研究分野は、創薬・医療機器・再生医療・ヘルスケア、デジタルヘルスや人工知能、ロボット、食料、農業、バイオ、素材、エネルギー、宇宙などの「ディープテック」と言われる先端技術の領域が想定されている。

また、経営者候補の方は、技術系スタートアップの創業メンバー・アドバイザーなどとして創業チームに参画することに興味を持つ人を登録対象としている。

サービス開始後、当面はBeyond Nextが選抜した創業前後の技術シーズ・研究者約20チームに向けてマッチングサービスを提供。その後順次、掲載する技術シーズ・研究者と経営人材の登録を拡大していく予定だ。

同社のHR支援チームマネージャーで、Co-founderを立ち上げ、運営に携わる鷺山昌多氏によれば、北米でもネットサービスなどの領域では、経営者候補のマッチングサービスの例があるそうだが、ディープテックの領域ではあまり同種のサービスはないという。そこには日本特有の「アカデミアと経営人材との距離が遠い」という事情があると鷺山氏は話す。

「そのため技術シーズが芽吹きづらい。またこれは、起業家を志す人にとってももったいないことだ。Co-foundersは経営者候補のキャリアのつかみ方としても革新的なサービスだと考える。このサービスでの出会いが、0→1を作る画期的な事業を起こすための入り口となれれば」(鷺山氏)

Beyond Next Ventures 鷺山昌多氏(左)と中岡崇氏(右)。Co-founderを立ち上げ、今後の運営に携わる。

Co-foundersは研究者・経営人材ともに、無料で利用可能。プロフィール登録後、Beyond Nextによる審査を経て、利用できるようになる。伊藤氏はCo-foundersを「直接の収益化は考えていない」と述べ、「ポテンシャルのある経営人材が研究者と出会うことで、ファンド活動にもよい影響を与えると考えている」と話す。

「当社の投資先でない技術シーズ・研究者にも使ってもらう想定。それで(アカデミア発シーズの事業化という)エコシステムのためのインフラとなれば」(伊藤氏)

鷺山氏は「転職マッチングサイトは多数あるが、Co-foundersでも、経営者候補の人材が『有望ですてきな研究者に会いに行こう』とカジュアルな出会いからキャリアを開くようになってほしい。研究者と経営人材とのミートアップは、(ハイテクスタートアップ分野の)コミュニティにもつながると考えている」と話す。

またコミュニティという点では、伊藤氏も「これまでのスタートアップコミュニティなどではつながりにくかった地方の研究者にも、サービスを活用してほしい」と話していた。

基礎研究をVC×クラウドファンディングで支援、Beyond Nextがアカデミストと業務資本提携

日本人がノーベル賞を受賞する度に、「日本では基礎研究が軽視されているのではないか」という話が挙がる。歴代の受賞者も講演や会見でこぞって基礎研究の重要性を訴えてきた。2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑氏も受賞発表後、国やメディアなどに幾度も基礎研究への投資を訴える発言を行っている。

こうした基礎研究への支援を、VCとして行おうという取り組みが日本でも現れた。独立系アクセラレーターのBeyond Next Venturesは1月29日、学術系クラウドファンディングサービスを運営するアカデミストと業務資本提携を行い、両社共同で大学などの基礎研究を支援していくことを明らかにした

「このままでは30年先のシーズが育たない」基礎研究軽視への危機感

Beyond Next Venturesは、大学や研究機関発の技術シーズの事業化支援や投資、成長支援に関しては、日本でも有数の経験・実績を持つアクセラレーターだ。2014年8月の創業以来、同社の基幹ファンドであるBNV 1号ファンド2号ファンドを通じて、大学/研究機関発の技術系スタートアップや医療・ライフサイエンス領域のスタートアップの支援を行ってきた。

アクセラレーションプログラム「BRAVE」では、実用化・事業化を目指す技術シーズに対して、知識やノウハウ、人的ネットワークを提供。2019年2月には、東京・日本橋にシェア型ウェットラボ「Beyond BioLAB TOKYO」の開設も予定しており、技術系スタートアップに対して、成長資金だけでなく、環境も含めたさまざまな形での支援を行っている。

また、早稲田大学の公式ファンド運営東海地区5大学の公認ファンド運営にも携わることが決まっている。

アカデミア発スタートアップへの多くの支援を通じて、技術シーズ(種)が生まれる環境をよく知るBeyond Next Ventures。代表取締役社長の伊藤毅氏は、だからこそ基礎研究が軽視されることへの危機感を持つ。

伊藤氏は「最近では大学ファンドなどの大学発スタートアップへの支援、投資も増えている。国の政策的にも大学の先生がビジネスに取り組むことを推奨する環境にある。一方でノーベル賞を受賞するような研究は、すぐに事業化につながるものではない。非常に長い時間をかけて結果がようやく出るものだ」と語り、すぐに実用化ができる技術や研究に資金が偏る現状に、警鐘を鳴らす。

「大学の研究資金でも、国主導の採択プロジェクトでも、アカデミアにビジネスを促す傾向にある。世の中全体が『研究したいならビジネスを先行させよう』という空気になっている。それで、本来なら20年、30年かけて地道に基礎研究するはずだった研究者が、短期成果を目指すことになっている。研究開発に時間を割くべき人がビジネスに時間を取られて、本来やるべきことのための時間がなくなっている」(伊藤氏)

ノーベル賞を受賞した本庶氏の例でいえば、免疫を抑制するタンパク質「PD-1」を1992年に発見したことからはじまる基礎研究が、免疫チェックポイント阻害薬によるがん治療の確立につながっており、今回の受賞対象となった一連の研究には20年以上がかかっている。しかもそれ以前にも本庶氏は、免疫抗体の仕組みについて地道に研究を進め、重要な発見をしているのだ。

基礎研究が軽視されることは「20年30年先のシーズが育たないことにつながる」と伊藤氏は危惧する。こうしてBeyond Next Venturesでは、これまでの技術シーズの事業化支援に加え、長期的視点で基礎研究を支援したいと考え、アカデミストとの連携を決めた。

クラウドファンディングで基礎研究資金を支援

アカデミストが運営する「academist」は、研究費支援のためのクラウドファンディングサービスだ。2014年、研究者が研究アイデアを幅広く伝えることで、研究活動の自由度を広げることを目指して公開された。

今回の提携では、Beyond Next Venturesは基礎研究に対し、academistのプラットフォームを利用して、プロジェクト化してクラウドファンディングに拠出することで、短期的な成果を目的としない支援を行う。研究原資のうちの一部をBeyond Next Venturesが拠出し、残りを賛同するほかの出資者が支援することで、プロジェクトを成立しやすくする。

Beyond Next Venturesからの出資金額は公開されていないが、ファンドとしての投資ではなく会社から出資する形を取る。基礎研究支援事業の第1弾では、大学などから5名程度の若手基礎研究者を募り、研究資金の提供を行う予定だ。

研究の対象領域は定めていないとのこと。伊藤氏は「極論すれば理系でなく、文系でもよい。若手で、やりたいことがあるのに権限がないために研究費などが確保できず、困っている研究者。そしてパッションを持って自分のやりたい研究を突き進められる人を選びたい」と話している。

伊藤氏は「日本のアカデミアの基礎研究力の低下は懸案となっているところ。人口が圧倒的に多いインドや中国では研究者も増える中で、相対的にも日本の研究者の数は減っていく。また労働人口の減少や高齢化、医療費増大などにより、国の財源確保も難しくなる中、研究費の確保も難しくなっていく一方」と研究者を取り巻く環境について説明する。

「国のほかに基礎研究を支援する機関はあるか、といったら、それは民間だ。大企業であっても、基礎研究が衰退すれば、自分たちのビジネスの種はいずれ枯渇する」と伊藤氏は危機感を表す。

Beyond Next VenturesではVCファンドを運営し、アカデミアの技術を世に出すことを事業としているものの、伊藤氏は「基礎研究も大切なことは事実。バランスを取りながら出資していきたい」としている。また「我々が基礎研究支援の取り組みを進めるとアピールすることで、基礎研究支援を手がける仲間を増やしたい」とも話していた。

Beyond Nextが名古屋大・他4大学の公認ファンド運営へ、医師起業家ファンドも設立

独立系アクセラレーターBeyond Next Ventures(以下、BNV)は12月6日、名古屋大学ほか東海地区の5つの大学発スタートアップへ投資を行う、大学公式ファンド「名古屋大学・東海地区大学広域ベンチャー2号ファンド(仮称・以下、東海広域5大学ファンド)」の運営事業者として選定されたことを発表した。

BNVではまた、12月3日に同社のFacebookページ上で、医師起業家への出資を行う「アントレドクターファンド」への取り組みについても明らかにしている。

BNVは2014年の設立後、大学発の研究開発型ベンチャーを対象としてBNV1号ファンドを立ち上げ、2016年にクローズ。ファンド総額は55億円を超える規模となった。また今年の10月には1号ファンドを超える規模のBNV2号ファンドを設立。BNV2号ファンドでは「医療・ライフサイエンス領域へ重点的に支援を行う」としている。

BNVのアカデミア、そして医療・ライフサイエンスへの最近の取り組みについて、同社代表取締役社長の伊藤毅氏に聞いた。

大学発シーズを起業前から成長まで一貫して支援

写真右から名古屋大学総長 松尾清一氏、Beyond Next Ventures代表取締役社長 伊藤毅氏

2019年春に設立が予定されている東海広域5大学ファンドは、東海地区産学連携大学コンソーシアムに参画する名古屋大学、名古屋工業大学、豊橋技術科学大学、岐阜大学、三重大学の5大学発スタートアップへの投資を目的とするものだ。

5大学では、2016年にも日本ベンチャーキャピタルを運営事業者として、名古屋大学・東海地区大学広域ベンチャー1号投資事業有限責任組合(名大ファンド)を設立。名大ファンドの組成が25億円規模で完了したことから、新規ファンドの設立を準備し、今年8月から運営事業者の公募を行っていた。

BNVは、BNV1号ファンドで研究シーズの事業化経験も多数ある。名古屋大学発スタートアップでは、電子ビーム発生装置・素子の開発・販売を手がけるPhotoelectron Soul や、新品種創出プラットフォーム技術を持つアグリバイオベンチャーのグランドグリーンといった企業へ、創業期から出資や事業化支援を行ってきた。

またBNVでは、2016年8月に複数の大手事業会社とアクセラレーションプログラム「BRAVE」をスタートし、実用化・事業化を目指す技術シーズに対して、知識やノウハウ、人的ネットワークを提供している。

伊藤氏は「アカデミアの技術シーズに対する起業前からの支援やアクセラレーションプログラムを持つことが評価されたのではないか」と、今回ファンド運営者として選定された背景について話している。

BNVは、早稲田大学発スタートアップへの出資を目的とした、総額20億円規模の大学公式ファンド組成に関しても、ウエルインベストメントとともに大学と提携して支援を行うことが決まっている(関連記事)。

「これまで培ってきたアカデミアシーズの事業化ノウハウの知見や経験を広く社会に還元するために、複数の大学の公認のアクセラレーターとして事業化支援を行っていく」というBNV。「東海5大学の特許取得件数は合計すると京都大学と同じぐらいある」と伊藤氏は述べ、最大20億円規模で東海広域5大学ファンドの組成と、5大学発スタートアップへの起業準備や事業化支援、出資・成長支援まで、一貫したサポートが可能な体制構築を進めるとしている。

医師起業家ファンドは「医療変革のためのメッセージ」

BNV1号ファンドの投資先企業は、「社長かつ医師」が創業した医療・ライフサイエンス領域スタートアップが約3分の1を占める。キュア・アップサスメドといった医師起業家が創業したスタートアップについて、伊藤氏は「新しい医療・ライフサイエンス分野のプロダクト開発を、スピード感と柔軟性を持って実施できる。臨床医療だけでは救えない患者も救うことが期待できる」と語る。

そうした考えのもと、BNVがスタートした取り組みが「アントレドクターファンド」、医師起業家スタートアップを対象とした投資ファンドだ。

伊藤氏は「医療の現場は、閉鎖的で外部が入りにくい構造もあり、なかなか効率化されてこなかった。医療費増大が問題になる中で、新しい医療機器を使った治療法の確立や、そもそも病気になりにくくするための予防的アプローチなどの担い手は、比較的若いドクター起業家であると僕は信じている」と語っている。

「それを僕はBNV1号ファンドでの投資で実感した。病院やクリニックに新しい治療方法や医療を効率化するプロダクトが浸透するためには、治験をはじめとしたデータが求められる。国の承認にしても、現場の医療関係者を説得するにしても、データとエビデンスがすべてだ。それをきちんと取って説得できる会社でなければ、病院やドクターに評価してもらえない」(伊藤氏)

ヘリオス、メドピア、ドクターシーラボなど、医師起業家が創業し、株式上場を果たした企業の事例も出ていることから「若手の医師起業家は少しずつ増えている」と伊藤氏。「そのチャレンジを後押ししたい」と話している。

ところでBNVでは、2018年から東京都の委託を受け、創薬系スタートアップの起業や成長を支援するアクセラレーションプログラム「Blockbuster TOKYO(ブロックバスタートーキョー)」を運営。BNV2号ファンド設立時にも「特に、医療・ライフサイエンス領域に注力する」とコメントしており、2019年2月には、東京・日本橋にシェア型ウェットラボ「Beyond BioLAB TOKYO」の開設も予定している。

こうして見ると、この領域への支援は、BNVでは既に十分に手当てが進んでいるのではないかと思えるのだが、さらにアントレドクターファンドという形でフィーチャーした理由について、伊藤氏は「社会へのメッセージでもある」と説明する。

「増大する医療費や非効率な医療現場といった課題は、破綻を迎えつつある日本の医療の実情を見れば、今こそ真剣に取り組むべき。これを世の中に知ってもらうために、あえて強調している。僕たちにしてみれば、秘密にしておけばほかの投資家とも競争にならないので、その方がいいのだけれど、あえて『おいしい投資分野があるよ』と教えることで、他者からも医師起業家への投資機会を得たい。そのための明確なメッセージだ」(伊藤氏)

また「ドクターで、起業に少しでも関心があるという人たちに、臨床医師という道だけでなく、起業家としての道もあると知らせることも、アントレドクターファンドの目的」と伊藤氏は言う。

「効率化で医療現場がよくなれば、医師・医療関係者の長時間労働問題の解決にもつながり、よい医療を受けることができる患者さんにもベネフィットがある。もちろん医療費にも大きなインパクトがあるはず。アントレドクターファンドの取り組みを、医療変革のためのメッセージとして届けたい」(伊藤氏)

アントレドクターファンドの規模は10億〜20億円を予定している。第1号投資案件として投資を受けたのは、人工知能技術を活用してインフルエンザの高精度・早期診断に対応した検査法を開発する医療スタートアップ、アイリスだ。アイリスは2017年11月に救急科専門医であり、医療スタートアップのメドレー執行役員も務めていた沖山翔氏が創業した。出資金額は非公開だが、伊藤氏は「BNVがリードインベスターとして、積極的に支援していく」と話している。

都心にシェア型ウェットラボ開設、スタートアップ育成にかけるBeyond Next伊藤氏の思い

Beyond Next Ventures 代表取締役社長 伊藤毅氏

去る10月30日、三井不動産ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK-J)は共同で、東京・日本橋にシェア型ウェットラボを開設することを発表した。2者と協力し、このシェアラボ「Beyond BioLAB TOKYO」を運営するのは、独立系アクセラレーターとして2つのファンドを運用するBeyond Next Ventures(以下BNV)。ラボ開設は2019年2月を予定している。

彼らのライフサイエンス領域におけるスタートアップ支援の取り組みと、開設されるラボとはどのようなものなのか。またBNVがライフサイエンス領域に密に関わるようになった経緯や、今後のスタートアップ支援への思いについても、BNV代表取締役社長の伊藤毅氏に詳しく話を聞いたので紹介したい。

三井不動産、LINK-JとBeyond Next Venturesの協業体制

LINK-Jは、ライフサイエンス領域でのオープンイノベーション促進、新産業創造支援を目的として、三井不動産と産学の有志が中心となって設立した一般社団法人だ。イノベーションの「場の整備」に取り組む三井不動産とともに、国内外のアカデミアや海外団体との連携による「コミュニティ構築」に取り組んでいる。

LINK-Jでは、カンファレンスルームやラウンジ、オフィスなどの各種スペースを日本橋を拠点に提供し、シンポジウムやセミナーなどの交流イベントも開催する。また、BNVが運営する先端技術系のアクセラレーションプログラム「BRAVE」や、同じくBNVが東京都から委託を受けて運営する創薬系ベンチャー育成プログラム「Blockbuster TOKYO(ブロックバスタートーキョー)」への支援なども行っている。

LINK-J設立から2年半で国内外の15大学が参加し、うち8大学は関連施設内にオフィスを開設。そのほか、ライフサイエンス領域のスタートアップやこれらを支援する企業、VC、団体などとも協業している。

今回のシェアラボ開設発表と同時に三井不動産は、BNVが10月に組成した2号ファンドへ出資したことも明らかにした。資金面でもライフサイエンス領域のスタートアップ支援を進める姿勢を明確にしている。

都心にシェア型ウェットラボ開設へ

さて、日本橋はデパートや老舗など、商業の中心地のイメージが強いが、実は江戸時代から薬種問屋が軒を連ね、現代でも医薬関連企業が集積する地域だ。その地で三井不動産がスペースを提供し、LINK-Jも入居する日本橋ライフサイエンスビルディングの地下にシェア型ウェットラボ、Beyond BioLAB TOKYOがオープンする。ラボは三井不動産からBNVヘフロアを賃貸し、BNVが整備してライフサイエンス領域のスタートアップと契約する形で運営される。

ラボの周辺はコレド室町や三越本店などの商業ビルや、オフィスビルが立ち並ぶ都心のど真ん中。そこへ生化学実験や細胞培養実験などが可能なウェットラボが、しかも共用で利用できる設備として登場する。となると「安全性は確保できるのか」「本当に有効な実験ができる施設になるのか」という両面で懸念が出そうだ。

米国では、既にシェアラボ施設が多数あり、多くのバイオ系スタートアップが輩出されている。先に米国の事情を見てみよう。

2017年1月にBNVと業務提携したIndieBioは、年間30のスタートアップを支援するアクセラレーターだ。サンフランシスコのダウンタウンに位置するIndeiBioは、バイオセーフティレベル1および2の設備を持つラボを24時間・365日提供。物理的な施設に加え、4カ月間のアクセラレーションプログラムと25万ドルのシード資金で、バイオテック関連のスタートアップをサポートする。

ニューヨークやノースカロライナ、サンディエゴなど、米国7カ所に拠点を持ち、2009年から累計230社の企業を支援してきたBioLabsも、ライフサイエンス系スタートアップにシェアラボとオフィス設備を提供する。例えばニューヨークのラボであれば、マンハッタンのダウンタウンに位置しており、ニューヨーク大学ランゴンメディカルセンターと提携、ライフサイエンス領域のスタートアップの成長を支援している。

米国のこうしたシェアラボやアクセラレーターは、いずれも物理的施設に加え、アクセラレーションプログラム、場合によっては資金の提供により、バイオ系スタートアップを支援している。また、ラボの周りに起業家や研究者のほか、投資家や事業会社、公的機関が集積することで、事業化が進めやすい環境となっている。

こうした先行事例を踏まえて東京の都心に誕生するシェア型ウェットラボ、Beyond BioLAB TOKYOは、どのような環境を提供するのかを見てみよう。

日本橋ライフサイエンスビルディング地下1階のワンフロア、実験スペース、オフィススペースに事務所エリアも含めて、約445平方メートルを占めるBeyond BioLAB TOKYO。研究開発支援エリアは、ベンチ(実験台)を共有して使えるオープンエリアと個室の実験室に分かれている。共有エリアは基本的にはバイオセーフティレベル1(P1)の実験が可能。個室とオープンエリア内で隔離されたP2実験室ではレベル2(P2)の実験も行える(ただし感染症法で特定される病原体の取り扱いはできない)。

実験室共有機器には、安全キャビネット、オートクレーブ、CO2インキュベーター、超純水製造機、ヒュームフード、PCRシステム、フロア型冷却遠心機、超低温フリーザー、コールドルーム、エアバリアブースなどがあり、生化学・細胞培養実験などに必要なベーシックな機器は一通り備え付けられている。

実験素材のコンタミネーションや取り違えを防ぐため、チームごとに専用の鍵つき冷蔵庫も用意されており、試薬保管庫、廃液保管庫なども整備されている。

ラボの設備ももちろんだが、米国で展開されるシェアラボと同様、アクセラレーションプログラムBlockbuster TOKYOとの連動や、ラボ周辺への起業家、研究者、投資家などの関係者の集積ももくろんでおり、三井不動産・LINK-Jとのコラボレーションによる、ネットワーキングやイベント連携も行っていくということだ。

ラボの入居対象は創業前〜起業直後、そして起業後初期までのスタートアップ。料金は10月30日現在の仮の設定だが、1チーム当たり月額20万円前後を予定している。

BNV代表の伊藤氏によれば、ラボ全体で「1〜2名のチームで10〜15チーム、プラス個室を利用する数チーム、合計20チーム弱ぐらい」の入居を想定しているという。ラボのグランドオープン前の約1カ月をプレオープン期間とし、その時点から、2018年度のBlockbuster TOKYOで採択された21チームのうちの約半数の利用を見込んでいる。

医療・ライフサイエンス領域に注力するBeyond Next Ventures

伊藤氏は「日本では、大学などに対する研究資金は米国の約半分強。米国で年間6.3兆円のところ、日本では3.7兆円だ。一方、大学のライセンス収入は、米国の3050億円に対して日本が約27億円と桁が2つ違う、極端に少ない状態」と説明し、「研究によって得た技術が循環していない。大学の技術シーズを実用化し、社会還元することが急務」と述べる。

BNVは2014年の設立後、大学発の研究開発型ベンチャーを対象として1号ファンドを立ち上げ、2016年にクローズ。ファンド総額は55億円を超える規模となった。そして今年の10月には1号ファンドを超える規模の2号ファンドを設立している。

2号ファンドでは先端技術のなかでも特に、医療・ライフサイエンス領域に注力する、とBNVはコメント。伊藤氏は「日米のライセンス収入の差が100倍あるような状況で、スタートアップ支援のエコシステムを確立するためには、お金が必要なことも事実」といい、「資金調達をひとつのきっかけ、起業の第1歩として活用してもらえれば」とファンドの役割に言及。「3桁億円(100億円〜)規模のファンドを目指す」としている。

ファンドによる資金面での支援に加えて、2016年には技術系アクセラレーションプログラムのBRAVE、2018年には創薬系ベンチャー育成プログラムのBlockbuster TOKYOと、BNVはソフト面でもスタートアップを支援してきた。人材面でもサポートを行い、多角的にアカデミア発スタートアップを支えている。今回のシェアラボ開設により、設備・インフラ面でもこの領域の支援が強化されることになる。

BNVが医療・ライフサイエンス領域にフォーカスした理由のひとつには、地縁ともいうべきつながりもあったようだ。「そもそも2年前、BNVのオフィスを日本橋に移したとき、建物のオーナーが三井不動産で。そこから縁が始まった」と伊藤氏は3者の連携が生まれたきっかけについて話している。医薬の街・日本橋を舞台に、大学発のライフサイエンス系スタートアップが集うLINK-Jに、BNVは会員・サポーターとして参加。LINK-Jのほうも、BRAVEの第1回プログラムからスポンサーとして参画し、現在も公式アクセラレーションプログラムとして取り扱っている。

「こうした縁で、医療・創薬系スタートアップのネットワークを3者で培ってきた」という伊藤氏。「IndieBioの事例なども参考に、アクセスが良い場所に設備を提供し、ネットワークも提供することで、バイオ系スタートアップが起業できる場を作れないか、と考えてきた。Blockbuster TOKYOの運営が決まって、育成環境も整ったので、後は実験できる場所だけ。三井不動産、LINK-Jとの連携により、今日、シェアラボという形が実現した」(伊藤氏)

写真左からBeyond Next Ventures 代表取締役社長 伊藤毅氏、三井不動産 常務執行役員/LINK-J理事 植田俊氏、LINK-J理事/事務局長 曽山明彦氏

VCからアクセラレーターへ

ベンチャーキャピタルといえば、ファンドとしてスタートアップの資金面をサポートするもの、というイメージが強い。だが伊藤氏は「確かにお金には価値がある。だが、技術シーズが社会実装できないのは、資金だけでは事業の形にならないから。そうしたシーズはアカデミアにいっぱい埋もれている」として、BNVの立場について「最近、VCからアクセラレーターへと呼び方を意識的に変えた」と話している。

「すばらしい技術があれば、それに興味を持ってもらわなければ。技術だけでは、ビジネスの人には(その先進性が)理解してもらえない。ビジネスの人が『面白い』と思ってくれるようなプランに作り変えるのも、アクセラレーターとしての仕事」(伊藤氏)

BNVでは、技術シーズを事業計画へ落とし込むサポートも行う。伊藤氏は「起業家がリスクを負ってチャレンジをするなら、支援者のほうも同じようにチャレンジをしないと」と語る。

2017年には社内にヘッドハンターを採用した。実はアカデミア発の技術系スタートアップで事業化が難しいのには、「社長がいない、見つからない」という理由も大きい。この課題を解決すべく、BNVでは1500名の社長候補者をプールして、スタートアップとのマッチングも行っている。また、起業家育成もあわせて行う。

ファンドから環境整備へ。伊藤氏は「とにかく、目の前にある課題を解決していくことだ。そうすることで、新しいことをやる人を、チャレンジを増やしたい」と語る。「自分たちも2014年に始まったばかりのベンチャー。だから枠組みにとらわれずに、できることをやっていきたい」(伊藤氏)

早稲田大学が総額20億円規模の公式ファンド設立へ——ウエルインベストメント、Beyond Nextと提携

早稲田大学は10月30日、同大学の研究成果を活用するスタートアップへの出資を目的とした総額20億円規模のファンド組成を目指し、ウエルインベストメントおよびBeyond Next Venturesの2社と提携契約を締結したことを発表した。契約締結日は10月29日。ファンドが設立されれば、早稲田大学にとっては初の公式なベンチャーファンドとなる。

同大学では、教員や学生が設立したスタートアップに対し、これまで早稲田大学インキュベーションセンターなどを通じて、コンサルタントによる経営相談や施設の提供などの支援を行ってきた。

今回の提携により、ウエルインベストメント、Beyond Next Venturesの両社は、早稲田大学の技術シーズを活用したスタートアップの育成強化に向け、シード、アーリーステージの企業に投資するベンチャーキャピタルファンドを2018年内にも設立する予定だ。

また、早稲田大学と両社では、スタートアップ創出のための各種支援プログラムの企画運営や、事業化可能な研究シーズの発掘、ハンズオン支援などの施策も行っていく。

Beyond Next Venturesは、10月22日に2号ファンドを設立したばかり。同社代表取締役社長の伊藤毅氏は「1号ファンドでは、東京大学協創プラットフォーム開発のLP出資を受けているが、ファンドとして特定の大学色を付ける考えはない」と東大・早大以外の各大学との連携も進める考えを示している。一方で「早稲田大学の公認アクセラレーターとして、今まで以上にシーズの発掘を行い、支援したい」とも述べている。

「メルカリ創業者の山田進太郎氏をはじめ、早稲田大学出身でITベンチャーを創業した人はたくさんいるが、大学発の技術シーズ、特に研究室発の技術はビジネスとして理解されにくく、アカデミアに埋もれているものも多い。技術シーズをビジネス側の人が『面白い』と思ってもらえるようなプランに作り替えて示していくのも、アクセラレーターとしての仕事だ」(伊藤氏)

Beyond Next Venturesでは、早大発のスタートアップに対し、ファンドによる起業後のエクイティ資金の提供のほかに、技術シーズの発表会の運営、同社が運営するアクセラレーションプログラム「BRAVE」への参加促進を通じて、メンタリングや事業化を支援するために必要な人材の提案、ビジネスプランのブラッシュアップなど、実践的なサポートも提供していくとしている。

なお、Beyond Next Venturesは同じ10月30日、三井不動産およびライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK-J)と連携して、東京・日本橋にライフサイエンス領域のスタートアップが利用できるシェア型ウェットラボ「Beyond BioLAB TOKYO」を2019年2月に開設することも明らかにしている。シェアラボ開設の経緯やアクセラレーターとしての思いについて伊藤氏に詳しく聞いたので、近日中にご紹介したい。

Beyond Nextが2号ファンド設立、大学・研究機関発シードに加えカーブアウト投資も視野に

独立系ベンチャーキャピタルのBeyond Next Venturesは10月22日、同社にとって2つめとなる基幹ファンド、BNV2号ファンド(Beyond Next Ventures2号投資事業有限責任組合)を組成したことを明らかにした。設立日は10月1日。設立時点では、第一生命保険、みずほ証券、三菱UFJ銀行、損害保険ジャパン日本興亜、三井住友銀行の5社が出資に参加する。調達金額は非公開だが、総額約55億円となった1号ファンドより大きい規模となるという。

Beyond Next Ventures代表取締役社長の伊藤毅氏は、2014年に大手VCのジャフコを退職し、同社を創業。大学/研究機関発の技術系ベンチャーへの投資を行うVCとして、2015年2月に1号ファンド(Beyond Next Ventures1号投資事業有限責任組合)を立ち上げ、2016年にクローズした。

1号ファンドでは、これまでに技術系スタートアップ23社に投資を実施。その投資対象は、ライフサイエンス、ヘルスケア、ロボットなどの先端分野だ。TechCrunch Japanで取り上げたところだと、例えば、キュア・アップサスメドといった医療機器としてのアプリ開発スタートアップや、手術支援ロボットベンチャーのリバーフィールド、ハイテク衣料のXenomaなどがある。

また同社は、2016年8月に複数の大手事業会社とともに、アクセラレーションプログラム「BRAVE」をスタート。実用化・事業家を目指す技術シーズを対象に、知識やノウハウと人的ネットワークを提供する事業化支援にも取り組む。2017年4月には社会人が働きながら事業化を目指す「Innovation Leaders Program(イノベーションリーダーズプログラム)」の提供も開始した。2018年からは、東京都からの委託を受け、創薬系スタートアップの起業や成長を支援するアクセラレーションプログラム「Blockbuster TOKYO(ブロックバスタートーキョー)」も運営している。

Beyond Next Venturesでは、2号ファンドでも引き続き、大学・研究機関の持つ優れた技術シーズを基にした、シードステージのスタートアップを対象に投資・支援活動を行っていくという。さらに企業が持つ有望技術を独立して事業化させる、カーブアウト投資なども実行していく構えだ。

TechCrunch Japanでは、代表の伊藤氏に2号ファンド設立についてコメントを確認中。追って掲載する予定だ。

Beyond Nextが社会人向け事業創出プログラム「イノベーションリーダーズプログラム」を提供開始

独立系ベンチャーキャピタルBeyond Next Venturesは4月24日、社会人を対象に、仕事を続けながら起業・社内起業に必要な経験やノウハウ、ネットワークなどが得られる実践的プログラム「イノベーションリーダーズプログラム」の提供を開始した。

イノベーションリーダーズプログラムは選抜された社会人の参加者が仕事をしながら、約2か月間、技術シーズの“事業化”に挑戦する事業創出プログラム。起業家・社内起業家を目指す人を対象に、事業計画立案から資金調達前までの実践的な体験が提供される。プログラムを通じて事業立ち上げの経験と、第一線の研究者やメンター、提携先・投資家候補といった起業に必要な人脈を培うことができるという。

同プログラムは報酬の伴わない参加費無料の研修として提供され、参加者は、転職や兼業・副業規定違反のリスクを負うことなく、所属企業で認められている副業・兼業活動の範囲内や、平日夜間・休日といった業務時間外に参加することが可能だ。

Beyond Next Venturesは2014年8月創業、大学/研究機関発の技術系ベンチャーへの投資を行うVCだ。2015年2月に組成したBNV1号ファンド(Beyond Next Ventures1号投資事業有限責任組合)は総額約55億円で、ライフサイエンス、ヘルスケア、ロボットなど先端分野を投資対象としている。

また2016年8月には、複数の大手事業会社とともに「BRAVEアクセラレーションプログラム」を立ち上げ、実用化・事業家を目指す大学発の技術シーズを対象に、知識やノウハウと人的ネットワークを提供する事業化支援を実施していて、2017年4月からは第2期プログラムがスタートする。

Beyond Next Venturesではイノベーションリーダーズプログラムの提供の背景について、「日本市場全体の伸び悩みが今後予測されることを踏まえると、多様性と柔軟性を兼ね備え、イノベーション創出をリードできる人材の需要はより一層高まるものと考えられる」としている。

Beyond Next Venturesの創業者で代表の伊藤毅氏は、2014年に大手VCのジャフコを退職し、同社を設立しているのだが、2016年2月のTechCrunch Japanの取材に対して「ジャフコにいたときに起業の準備をしていたわけでもない」と話していた。そのBeyond Next Venturesが提供する、社会人が参加しやすい新規事業創出プログラム。「新たなBeyond Next」の芽がそこから生まれることがあれば、おもしろいことになりそうだ。

AgICにセメダインが投資、プリンテッド・エレの強力なタッグになるか?

家庭用プリンターで電子回路を「印字」するというユニークなプロダクトでTechCrunch Tokyo 2014のスタートアップバトルで見事に優勝した東大発スタートアップ企業「AgIC」(エージック)が今日、総額1億7500万円の資金調達を行ったことを発表した。同社がTechCrunch Japanに語ったところでは、1月末までにBeyond Next Venturesをリードとし、さらに接着剤メーカーとして誰もが知る、あのセメダインからも調達しているという。

AgIC創業者の清水信哉CEO(写真はTechCrunch Tokyo 2014スタートアップバトルで優勝したときのもの)

Beyond Next Venturesは先日代表のインタビューを記事にしたばかりだが、2014年設立で、主に大学発の技術系ベンチャーを支援していてる独立系VC。代表を務める伊藤毅氏は前職のジャフコ時代には、介護用ロボットスーツ「HAL」を手掛けるサイバーダインや、クモの糸を人工合成するSpiber、次世代ゲノム解析装置の開発するクオンタムバイオシステムズ、バイオ3Dプリンターを活用した再生医療のサイフューズなど、多くの大学発ベンチャーを技術シーズの段階から支援して、社外取締役を務めた経験がある。

投資領域としても金額的にもBeyond Next VenturesがAgICに投資する理由は分かりやすい。しかし、セメダインは一体……!? セメダインがスタートアップ企業に投資するのは恐らく初めてなのではないかと思うが、多くの読者が「なぜ?」と思うことだろう。

AgIC創業者の清水信哉CEOの話を聞くと、背景には「プリンテッド・エレクトロニクス」の広い応用市場を見据えて「導電性の接着剤を作る」という共通の目標があるのだそうだ。そして、これはAgICのピボットと深い関係がある。

回路プロトタイプより、はるかに大きなプリンテッド・エレクトロニクス市場

もともとAgICは、家庭用インクジェットプリンターで導電性をもった専用インクを「印字」して紙の上に電子回路を打ち出すことで、安価にプロトタイプを作るためのプロダクトだった。ハードウェアが絡む製品や研究で、いちいち基板パターンを業者に発注して1週間とか1カ月待たなくても電子回路の試作を繰り返せることから、プロトタイプ作成時のイテレーション速度がグンと上がる。インクジェットのカートリッジを専用のものに差し替えるというハックも注目されたのだった。

しかし、開発と事業化を進めていくなかで別の可能性があることにも気付いたのだそうだ。「当初はプロトタイピング用途ぐらいにしか使えないかなと思っていました。ただ、大手企業と提携したりしていく中で産業用途で使えると気付いたんです」と清水CEOはいう。

ふだん消費者としては気づかないが、家庭用インクジェットだと品質を保証できないという問題があるそうだ。一般ユーザー用途ならときどき印字すべきところでインクが抜けていても問題にならないが、回路だと断線する、ということだから使えない。一方、工場などで使われる産業用のインクジェットプリンターは「構造からして家庭用とはぜんぜん違う」(清水CEO)。産業用インクジェットプリンターの大手であるミマキエンジニアリングと技術提携していくなかでAgICは、「回路プロトタイピング向けの家庭用プリンター・モジュール販売」というビジネスから、「プリンテッド・エレクトロニクス製造」という領域へとピボットを決めたのだそうだ。

IoT・ウェアラブルに必須となる基礎製造技術開発で走り出す米国

プリンテッド・エレクトロニクスは、文字通り印刷による電子製品の製造をさすが、より広い視点で捉えると「フレキシブル・ハイブリッド・エレクトロニクス」と呼ばれる技術フロンティアにおけるカギとして注目されている領域だ。薄く、曲げたり丸めたりできるような電子製品の製造技術には、回路を形成するフィルム、そこに正確に微細にプリントする技術、導電性のあるインク、インクを定着させる接着剤、安定して稼働する回路パターンについての知見など、さまざまな技術が必要となる。

米国ではオバマ政権主導のもと国防省が2015年8月にこの領域でイニシアチブ「FlexTech」をシリコンバレーに発足したのがニュースになっている。政府から7500万ドル(約88億円)、民間から9600万ドル(約112億円)を集めて、向こう5年かけて関連技術の研究開発に投資するといい、96社、11の研究所、42大学、そして14の州・地域の組織がこのイニシアチブに参加している。これは米国内で製造業が空洞化したことに対して、次のフロンティアであるフレキシブルでは主導権を握ろうという危機感に基づく強いリーダーシップの現れであると同時に、市場ポテンシャルを示しているように思われる。東海岸でなく西海岸にハブを作るというのも、これがソフトウェア・ネット産業と連携する領域であると見てのことだろう。

薄くて曲げられる電子製品は、身体にフィットするウェアラブルには不可欠な技術となるだろうし、広い領域に張り巡らせるセンサーネットワークを安価に実現するには「プリントするだけ」で良いプリンテッド・エレクトロニクスの実現が欠かせない。

AgIC創業者の清水CEOは日米間の温度差に危機感を覚えていてるそうで、TechCrunch Japanの取材に対して、こう話す。

「センサーネットワークは、ホワイトハウスが言っている本命です。例えば壁にプリンテッド・エレクトロニクスが使われていてセンサー類が貼ってある。その前を人が通ったかとか、体温はどうだとか、そういうことが分かる。床も同様です」。

国境警備とか陸橋にセンサーを貼るようなことも、安価にできるだろうという。お騒がせ大統領候補のドナルド・トランプ氏が米国とメキシコの国境に「トランプの長城」を作ろうと言ったりしたネタを真に受け、もし作ったらコストがいくらだなんて議論も聞こえてくるが、ロール紙に回路をプリントして何百kmにも及ぶ長大なセンサーネットワークも実現できるのかもしれない。

薄く、曲がるようになったエレクトロニクスは社会の中に入っていくだろう。そのときに重要な要素技術がプリンテッド・エレクトロニクスなのだ、というのがAgIC清水CEOの見方だ。「壁や床にセンサーを貼れば、店舗や商業施設での動態管理に応用できる。ただ、面白い未来もあるが、まだサービスのニーズがあるかどうか見えない」。

いまAgICが狙っているのは床暖房の置き換えだそうだ。

既存家屋に床暖房を入れるためには床を上げて温水パイプを入れないといけない。これが回路をプリントしただけの薄い「電気式ヒーター」であれば、敷くだけで実現できる。いくらでもロール紙でプリントして大きな面積をカバーできるのもメリットだ。

AgICでは、断線やショートが起こらない印刷パターンを自動生成するアルゴリズムを持っているそうで、今は線と線の間のマージンをどのくらいにすべきかといったノウハウをためている段階だという。

すでに国内市場では、マンションのリノベーションを手掛ける業者と具体的な話を進めている。国内だけでなく、「床暖房はまだこれから世界的に伸びる市場」と清水CEOは見る。世界的に見れば、床暖房はまだまだ贅沢設備。ちょうど自動車が贅沢品だったのと同じで、中国などでは、これから床暖房市場は伸びいくだろうという。

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プリンテッド・エレクトロニクスの応用例

セメダインが導電性の接着剤を作る

AgICは前回の資金調達ラウンドで三菱製紙とも資本提携している。これは回路を印刷するためのフィルム及びインクの領域で協業するためだ。プリンテッド・エレクトロニクス実現には、他にも要素技術が必要になる。

その1つが、プリントした回路を定着させるための「導電性の接着剤」だ。これがAgICがセメダインと協力して研究開発を進める理由だそうだ。

セメダインは1923年創業の材料メーカーとして、多種多様な材料を生産している。ただ、これまでは非導電性の接着剤を作ってきた。今回AgICへの出資に伴い、プリンテッド・エレクトロニクス分野に積極的に展開していくという。

「日本の材料メーカーは高い技術を持っています。AgICで使うのは銀粒子を練り込んだ材料ですが、粘度を下げたり、導電性を変えたりといろいろ試しているところです。硬化温度や弾力性、伸縮性などいろいろと見るべきパラメーターがあります。セメダインはどこにでも接着できることと、弾力性が高くて曲げたときにはがれにくいことが強みなのですが、プリンテッド・エレクトロニクス自体は曲げない用途もあります。そういう場合は弾力性が不要ですし、何種類か作っていくことなると思います」

セメダイン単体では、実際の応用に直結した知見を得づらい上に、まだ研究中の材料だと、ちょっと市場に出してみる、というようなことができない。そんな事情もAgICのようなスタートアップ企業との提携の背景にあるようだ。

いきなり50億円の1号ファンドを組成、最大手VCを辞めてBeyond Next伊藤氏が独立した理由

「少なくとも30億円ないと戦えない。だから意地でも金融機関に入って頂きたいと思っていました」

新卒入社で11年間勤めた大手VCのジャフコを2014年夏に退職し、独立系VC「Beyond Next Ventures」を立ち上げた伊藤毅氏はTechCrunch Japanの取材に対して、そう話す。Beyond Next Venturesは大学発の研究開発型ベンチャーを投資対象として創設され、総額50億円となるBNV1号ファンド(Beyond Next Ventures1号投資事業有限責任組合)の組成がクローズしたことを今日発表した。

BNV1号ファンドの出資者には大手金融機関も名を連ねる。主な出資者は、第一生命保険、三菱東京UFJ銀行、東京センチュリーリース、グリーなどの事業会社と機関投資家、それに上場企業経営者などの個人と中小企業基盤整備機構だ。金額的には中小機構の20億円というのが大きいが、生保や銀行が出資しているのは注目に値する。

大学発の技術系ベンチャーへの投資を行うVCとしては、このところ大学が設立するファンドが東大、京大、阪大、東北大などで立ち上がり、総額1000億円のリスクマネーがこの領域に流れ込もうとする動きが出てきている。ただ、投資家がいわゆる「ピン」で独立系VCを立ち上げたのは珍しいし、1号ファンドで、いきなり50億円もの資金を調達したのも例外的だ。Beyond Next Venturesは医療機器やロボット、ハイテク素材などのベンチャー企業に投資していく。すでに3社に投資済みで、最終的なポートフォリオは10〜15社の予定。1社当たり4、5億円程度の投資を予定する。日本の技術系のエコシステムの現状と課題、新産業創出に賭ける思いを創業者で代表の伊藤氏に聞いた。

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Beyond Next Ventures代表取締役社長の伊藤毅氏

37歳でジャフコを退職、不安を抱えつつVC設立

2014年の独立時の伊藤氏は、学齢の2人の子持ち、住宅ローンも残る37歳だった。業界最大手を辞めてまで独立するというのは相当に思い切ったことのように思える。投資組合を作ってVCとして独立する、というのは起業にほかならない。

「よく聞かれるんですよ、お金を出してくれる人とか会社のめどが付いていたんですかって。でも、まったく(笑) ジャフコにいたときに起業の準備をしていたわけでもないんです」

「自分も起業家としてリスクを取って、いったんゼロにリセットしようということです。そこから積み上げて行きたかったんです。(投資する起業家の)相手との信頼関係を築いて行くとき、サラリーマンとして投資しているよりも共感も得られるだろうと、ずっとそう思っていました。一緒に仕事をする人たちも、みんな起業家ですからね」

転職や独立に際して家族に反対される「嫁ブロック」のようなものはなかったのだろうか?

「それもよく聞かれますが、ありませんでした。結婚した頃から妻には起業したいと言い続けていましたし、ぼくが楽しそうに仕事をしているのを見ていたからじゃないですかね。ただ、私自身は本当に不安でした。ファンドに本当にお金が集まるのかどうか……、あまりに不安だったので、まずお酒をやめたりしました(笑)」

37歳で独立という年齢については、もうちょっと若ければ良かったのかと思うことはあるとしながらも遅くも早くもないのでは、と話す。これは日本に限らないが、起業は若者のものと見られがち。でも現実にはシリコンバレーでも30代や40代の起業は多いし、日本でも中堅のベテラン会社員や技術者が起業する例が増える傾向にある。

転機となったのは産学連携グループへの移籍

いつか起業したいと考えていたとはいえ、伊藤氏はVC(投資家)として起業しようとは思っていなかったそうだ。

東工大の理系大学院を修了後、2003年に伊藤氏は大手VCのジャフコに入社した。当時の新卒入社は11人中10人が文系で、理系の院卒は伊藤氏1人だったという。最近でこそ「技術とビジネスを繋ぐ人」が求められているという認識から理系卒の比率も上がってきているそうだが、ジャフコの同期の中で伊藤氏は少し周囲と違った存在だったそうだ。

「ジャフコに入ったのは起業したかったからです。でも仕事をしているうちにVCが楽しいなと思うようになったんです。周りを見渡しても、産学連携分野では自分はそこそこ成果を出していて、得意な方なのかもしれないというカンチガイをして(笑)」

伊藤氏に転機が訪れたのは入社5年目となる2008年のことだった。「産学連携投資グループ」の責任者となったのだ。

「今でもそうですけど、当時ベンチャーといえばITでした。たしか当時、ジャフコ全体の投資担当者は100名弱はいたと思いますが、産学連携投資グループはその中では、かなり小さなチーム。私が引き継いだときには3人だけの一番小さいチームでした」

IT系スタートアップ企業はプロダクトのターゲットが個人向けということも多く、投資経験が少ない若手でも分かりやすい。一方、シーズの発掘がしにくい研究開発型・技術系を担当する産学連携投資グループには入社20年といったベテランが在籍していたという。1996年頃から10年近くやっていたものの、なかなか目立った成果に繋がっていなかったこともチーム規模が小さかったことの背景にある。

リーダーへの抜擢とはいえ、本流ではないグループへの移籍。「飛ばされたのかなと思うこともあった」と伊藤氏と振り返る。

ただ、2014年の退社時点で振り返ってみると、ジャフコ時代の伊藤氏は十分な実績を上げてきたことが分かる。ロボットスーツのサイバーダインの2014年の上場や、人工クモ糸を開発するバイオ新素材のSpiberへの投資と社外取締役として事業化支援を手掛けてきた。ほかにも、超高速DNAシーケンサの「クオンタムバイオシステムズ」などへのリード投資や、空気圧駆動アームによる術者へのフィードバック付き次世代手術支援ロボット「リバーフィールド」などの創業に関わってきた。

このジャフコ時代の経験から「大学のシーズには魅力的なものがあるなと分かった」(伊藤氏)のがVCとして起業した理由だという。新卒時代には何かしらの事業で自分も起業したいと思っていた伊藤氏だが、投資家として成果を上げてきたことから、「これが自分の社会の中での役割」と思うに至ったのだという。

研究開発ベンチャーに再びリスクマネーが戻ってきている

ここ数年でサイバーダインやユーグレナなど大学発ベンチャーでも時価総額が1000億円を超えるような、ロールモデルとなる企業群が出てきた。こうしたことから大学発ベンチャーの領域にリスクマネーが流れつつある。

伊藤氏は「生保も戻ってきた」と言う。1980〜1990年頃、金融機関がCVCを設立してリスクマネーを提供していた時代がある。1983年には店頭登録基準や東証2部上場基準の緩和を受けて大手銀行、証券会社ばかりでなく地銀系がVCを設立する例が相次いだ。「当時、日本全体の成長とともに各VCはリターンを出していました。ただ、リーマン・ショック以降は銀行系、金融系のVCは軒並み撤退して行ったんですね。それが今ちょっとずつ復活しつつあります」。

リスクマネーが再び技術系ベンチャーに戻ってきている背景には市況の変化ということもあるが、伊藤氏によれば、いくつか理由があるようだ。

1つはすでに書いたようにロールモデルとなる企業が出てきたこと。その影には失敗した事例もある。まず、投資する側からみると「ファンドサイズが10億とか20億とかで設立して失敗するファンドを見てきた」と伊藤氏は言う。研究開発型ベンチャーでは黒字化するまで50〜100億円が必要となるようなケースも少なくない。ところが、例えばファンドサイズが10億円だと、1社のシード期のベンチャーに投資できる金額はせいぜい累計1億円程度だ。これでは追加投資ができなくなってしまい、せっかく可能性が出てきていても資金が続かない。いわゆる研究開発型ビジネスの「死の谷」だ。

photo04a「試行錯誤の時代でした。産学連携投資グループを引き継いだときに調べたのですが、初回投資で終わってしまっているケースが多くありました」

「シード段階で投資しても、なかなか計画通りに行かないじゃないですか。でもマイルストーンまで到達していない、だから継続投資はしないっていう基準で一律でやっていたように見受けられました……。それで結果が出ないということがありました。多少の計画のズレは許容して、継続的に資金調達をしていけば次の投資家が入るところまで引き上げていける。投資家として、そこまで辛抱強く支えていかないといけない。これはお金だけの話じゃなく、経営や事業化の支援という面でもそうです」

技術が面白いというだけで投資をしてしまう。そんな目利き時点での失敗も大学発ベンチャーには少なくなかったという。

一方、ハンズオンと追加投資を続けて研究開発のシーズをビジネスとして育てていくモデルでは近年東大系VCのUTECが成功事例を次々と生み出して結果を出している。「少なくとも30億円ないと戦えない」という冒頭に引用した発言は、この辺の成功と失敗を見てきた伊藤氏の覚悟と戦略性から出た言葉といえそうだ。

官製ファンドよりも民間VCを増やせ

研究開発型ベンチャーへリスクマネー供給が増加する流れの背景にはもう1つ、研究開発に対して割り当てられる公的資金、いわゆる国プロとか助成金の動き方が変わりつつあることも見逃せない。

典型的なのは文科省の助成金だ。

従来から大学の研究などをプロジェクト単位で採択して資金を提供しても成果につながらないことが続いていた。これは当然の話だ。VCのように目利きができるわけでも、起業や経営経験者のようにビジネスの構想ができる人がいるわけでもない。何より、リターンに対するプレッシャーもゆるい。助成金を出している側としても「失敗」とは口が裂けても言えないから、助成金の成果として何か発表らしいものさえあれば、「成果が出ました」と言えば終わる。

一方、リターンを出す強烈なプレッシャーにさらされている民間VCは、採算に見合う投資しかしない。例えばBeyond Next Venturesの伊藤氏は50億円の資金を10年間という期限で預かっているが、これを100億円とか200億円にしないと次のファンドは組成できないだろう。もし全然成果が出なかったら失敗とみなされるから、キャリア上のリスクを負っているわけだ。

これは伊藤氏が言っていることではないが、ぼくはここに「キツイ上司」と「ゆるい上司」の違いに似た対立軸があると思う。高い目標を掲げて部下を鼓舞し、プレッシャーをかけて成果を出させる上司が良いのか、それとも放任型の上司が良いのかという話だ。短期的に見れば仕事がやりやすいのは後者かもしれない。でも、自分のキャリア上「あのとき最高の仕事をやった」と振り返るほど結果が出る可能性が高いのはキツイ上司の元で仕事をした場合だろう。「これが成果です」と何かしら発表しさえすれば良いという程度のゆるいプレッシャーの助成金をもらって世界に羽ばたくグローバル企業がたくさん出てくるようには思えない。

伊藤氏は日米の大学での研究開発費の規模と、それによるライセンス収入には大きな違いがあると指摘する。

大学の年間の研究資金は日米でそれぞれ3.5兆円、5.1兆円と1.5倍ほどしか違わない。しかし実用化による大学のライセンス収入となると、それぞれ2500億円と7〜15億円と桁違い。日本は米国の数百分の1にすぎない。このことから、伊藤氏は技術シーズの実用化による社会還元が急務だと指摘する。そしてそのためには技術とビジネスを繋ぐ経験を持った民間VCが欠かせない。

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※Beyond Next Ventures作成の資料より

そういう経緯もあって、2012年から文科省の科学技術振興機構(JST)は大学発新産業創出プログラム(START)というのを始めている。これは大学発の起業前のプロジェクトについて、プロジェクトだけではなく、目利きとなるVC(事業プロモーター)も外部から公募、審査して認定するというモデルだ。認定されたVCが支援するプロジェクトに対して助成金を付ける。このSTARTがうまく行き始めていることから、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)や総務省(I-Challenge)も同様の仕組みで助成金プログラムを走らせている。例えばNEDOの研究開発型ベンチャー支援事業ではエクイティ投資の最大5倍程度(15%:85%)まで交付金を付けることができる。これはイスラエルのモデルを参考にしたもので、VCのリスクマネーを増やす仕組みだ。「シードで1億円投資したいけど、そこまでできない、というときに国が足りない部分をカバーしてくれます。Beyond Next Venturesは、これまでの研究開発型ベンチャーへの支援実績を評価頂き、JSTやNEDOからの認定を受けているので、研究開発型ベンチャーの支援という意味で、そうでないVCに比べて競争力があります」(伊藤氏)

研究開発現場でも意識が変化

もう1つ、伊藤氏が「ようやく技術系ベンチャーもエコシステムが回り始めつつある」と見る理由として、研究現場の意識の変化がある。

「大学の研究現場にいる若い優秀な人たちが変わってきました。大学にそのまま残ってもだいたい研究者としての自分の将来が見えますよね。でも外で独立して会社を作れば違います。資金調達という手段があって、自分の研究を広げつつ加速できる。そういう考えを持つ人がでてきています。7、8年前に私が産学連携投資グループをやり始めたころとは全く状況が変わってきています。人もお金も動くようになってきました」

意識が変化しているのは、研究者たちだけではないようだ。独立した伊藤氏を追いかけるように、ジャフコ時代の同期入社だった植波剣吾氏がBeyond Next Venturesにジョインしている。当初、伊藤氏は植波氏の参加を断ったそうだ。先行きが不透明で、給料が払えるかも分からないという理由からだ。それでも植波氏はジャフコを退社した。そして実際、伊藤氏も植波氏も最近まで無給状態だったそうだ。

植波氏は伊藤氏とはタイプが違うのだという。器用に何でもこなす植波氏は、投資の実績もあったが、ジャフコの中で投資事業を支えるバックオフィス系の業務で頭角を現した。ファンド組成、法務やコンプライアンス、危機管理、広報・IRなどを担当。そうした業務をこなす植波氏が加わったことはBeyond Next Venturesが金融機関から出資を受ける上で追い風になったと伊藤氏は説明する。

「当初、金融機関さんに話をしに行ったときには、『伊藤さん、これは会社の体のなしていませんね』と言われたんです。でも私自身は断られたとは受け取らずに、リベンジしようと楽観的でした(笑)」

ジャフコ時代の同期がジョイン、企業経営者個人からも資金が集まる

ファンドの基本的な設計をどうするのか。預かった資金をどのように適正に管理するのか、投資判断の組織はどうなっているのか、実際に資金を企業に投資する手続はどうするのか。法務・税務などのリスクはどう管理するのか。そうしたことを担当しているのがVC業務全般を広く経験してきた植波氏だ。

「2人で一緒にカバーする仕事も多いですが、大まかに、私がフロント、彼がバックという役割分担です。彼も本当はずっと投資をやりかったのだと思います。でも彼は器用に何でもできちゃうタイプ。複雑な契約書を作ったりする一方で、それこそオフィスの電球交換とかもできちゃうタイプ」

「独立系VCに対して、事業会社や個人投資家が出資するということはあると思います。分野特化で、その領域の経営者らが出資するということですね。でも、それだけだとファンド規模を大きくできません。大きな資金を運用しようと思うと金融機関などの機関投資家からお金を預からないといけませんが、これは難しい。Beyond Next Venturesには植波がいたから体制もきちんと整えられて、機関投資家も資金を入れてくれたのだと思っています」

BNV1号ファンドの50億円の資金のうち20%に相当する10億円程度は複数の個人投資家が出資しているという。出資しているのはIT系の上場企業の著名な創業者や経営者ら。Mistletoe社(連続起業家の孫泰蔵氏がオーナー)も含まれる。スタートアップ企業と同じで最初はエンジェル投資家から、そして次に事業会社、そして金融機関へ、というように伊藤氏は資金を集めていった。つまり、BNV1号ファンドが50億円もの資金を集められたのは、日本でエンジェル投資家の層に厚みが出てきたこととも無関係ではない。

中小機構は民間VCのファンド組成において、調達額と同額程度を出資する独立行政法人だが、まだ実績のない1号ファンドに対して20億円を出すというのは珍しい。

VCとして独立して果たしてファンドの資金調達はうまくできるのか。それが不安で仕方なかったという伊藤氏。しかし出資者の顔ぶれを見ると、そんな伊藤氏への応援の声がたくさん聞こえてくるように思える。Beyond Next Venturesは1号ファンドの運用を始めたばかりだが、大学発で世界に通用するスタートアップ企業が生まれてくるかどうか、今後に注目だ。

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