全米で失業保険用に導入された顔認識システムが申請を次々拒否、本人確認できず数カ月受給できない人も

全米で失業保険用に導入された顔認識システムが申請を次々拒否、本人確認できず数カ月受給できない人も

imaginima via Getty Images

米国では失業保険を不正受給しようとする詐欺行為を防止用に申請者が本人かどうかを確認するための顔認識システムを導入しています。ところが、この技術が本人を正しく認識できないケースが発生しており、失業手当の支給を拒否された人々からは不満の声があがっています。AIによる顔認識技術は、一般的に女性や有色人種を見分ける能力が白人男性に比べると劣ると言われています。

問題のケースでは、失業手当を申請した人がID.meにおける顔認識で本人確認ができなかったために手続きを保留され、問題解消のためにID.meにコンタクトを取ろうとしても数日~数週間も待たされたりしているとのこと。

SNSではID.meへの不満や苦情の投稿が数多く見受けられます。カリフォルニア州では昨年の大晦日、すでに失業手当を受け取っていた140万人のアカウントが突然無効化される現象が発生。再度ID.meで顔認識を通さなければ手当を受給できなくなりました。この手続きにも数週間待たされる人が相次ぎ、その間生活費のやりくりを強いられました。このような問題は各地で起こっており、コロラド、フロリダ、ノースカロライナ、ペンシルバニア、アリゾナ州でもID.me導入前は問題なく手当を受給できていた人が、ID.meに顔認識で弾かれ、長くて数か月も手当を受け取れない状態に置かれた例が報告されています。

ViceメディアのテクノロジーニュースサイトMotherboardはID.meのCEOブレイク・ホール氏への取材で、ホール氏がID.meの技術は「99.9%の有効性」があると述べたと伝えています。ホール氏によると、ID.meの顔認識は大量の顔写真サンプルから調べたい顔を探すのではなく、運転免許証などに表示される顔写真との比較を行うようになっているとのこと。また肌の色はこの顔認識には影響しないとのことです。

そのため、ホール氏は「顔認証の失敗は技術の問題ではなく、例えば、申請に使う写真の顔が一部見切れているような写真を使って認識に失敗している」と主張「ID.meで本人確認ができなかった対象者はいません」とまで述べています。

しかし実際に認識が通らなかった人にとっては、この説明は納得いくものではないでしょう。ある人は指示されたとおりに手続きをしたものの、認証拒否が3度も続き、何の説明もなくシステムから閉め出されてしまったと訴えています。どうしたものかと思いID.meのサポートチャットにコンタクトを取るも返答はなく、州の担当者に問い合わせてもID.meに確認せよの一点張りで3週間も放置されました。そして堪忍袋の緒が切れてSNSでID.meへの不満をぶちまけたところ、すぐに先方から連絡が来て数日後に身元確認が通ったと、この人は述べています。

Motherboardによると、ホール氏はID.meのシステムを売り込むため、米国の失業手当の不正受給の額を例に挙げて宣伝しています。しかしホール氏の言うその額は、この2月には1000億ドルと言っていたのが、その数週後には2000億ドルと述べられ、翌月には3000億ドルと主張するようになっていたとのこと。Axiosによる最新の報告では4000億ドルものお金が失業手当詐欺的に受給されているとID.meが述べていると伝えています。ホール氏はこの数値の変化について「データポイントが増えたためだ」と説明しています。しかし、この主張のどれに対しても、額をどうやって算出したかについては返答していません。

米労働省の報告では、2020年3月から10月の間に、不正の可能性がある失業手当の不正受給で摘発した額はを56億ドルとされています。より最近のデータでは損失額が実際にはもっと大きいことが示唆されていますが、省は 「数百億ドル」と見積もっています。

ID.meのテクノロジーで何が起こっているにせよ、この事件は、連邦政府と州政府が顔認識を制限したいと望んでいる理由のひとつを浮き彫りにしているようです。プライバシーやセキュリティに問題がなくとも、また「99.9%の精度」とうたわれるシステムであっても、多くの人々が本来得られるはずのサービスを拒否される可能性があるということです。本当に99.9%の精度でこれならば、特に市民の生活に関わる手続きを行うシステムには、今後はさらに高い精度を導入前に求めなくてはならなくなりそうです。

(Source:MotherboardEngadget日本版より転載)

関連記事
米上院議員が「データ保護局」新設を提案、米国人のデータを取り戻せ
これで誰でもディズニープリンセス、願いをかなえたARアプリへの捧げ物はあなたの生体情報!?
デジタルIDへ独自の道を歩む欧州、危ぶまれる実現性
TikTokが米国ユーザーの「顔写真や声紋」を含む生体情報の収集を表明
スマホ電子チケット「チケプラ」で公演当日まで二次流通可能な顔認証入場システムを提供開始
欧州がリスクベースのAI規制を提案、AIに対する信頼と理解の醸成を目指す
欧州議会議員グループが公共の場での生体認証監視を禁止するAI規制を求める
アリババは自社クラウド部門のウイグル人を顔認識する民族検知アルゴリズムにがく然

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:顔認証 / 顔認識(用語)生体認証 / バイオメトリクス / 生体情報(用語)プライバシー(用語)

【コラム】さらなる電化の普及にはまったく新しいバッテリー技術へのアプローチが必要だ

世界経済の広範な電化への移行により、輸送、家電、医療機器、家庭用エネルギー貯蔵などの業界にわたって、長寿命で高速充電のバッテリーに対する需要が高まっている。この移行のメリットは十分理解されているものの、実際には、バッテリーのイノベーションは社会の大望に追いついていない。

世界の気温が今後5年間で「パリ協定で示された1.5℃の制限を超えて上昇する」可能性は40%と予測する報告もあり、完全に商業化するまでにさらに10年かかることも考えられる次世代バッテリーの開発には、無駄な時間を費やす余裕がほとんどないことは明らかである。

電力供給への圧力の高まりに対応する上で、充電式バッテリーを迅速に拡張して温室効果ガスの排出を世界的に抑制し、気候危機の最悪のシナリオを回避する唯一の方法は、バッテリー構築に対するまったく新しいアプローチである。

バッテリーイノベーションへの挑戦

過去数十年にわたり、バッテリーの専門家、自動車メーカー、Tier 1サプライヤー、投資家などが、主にバッテリー化学に焦点を当てた次世代バッテリーの開発に世界中で数十億ドル(約数千億円)を費やしてきた。しかし、業界は依然として、バッテリーの普及を妨げている2つの大きな技術的課題に取り組んでいる。

  1. エネルギーと電力のトレードオフ:現在製造されているバッテリーはいずれも、電力とエネルギーとのトレードオフに直面している。バッテリーは、より多くのエネルギーを蓄えるか、さもなくばより高速で充電 / 放電を行うか、である。つまり、電気自動車に関して言えば、1つのバッテリーで航続距離の長さと高速充電を両立させることはできない。
  2. アノードとカソードのミスマッチ:今日最も有望とされるバッテリー技術は、リチウムイオンバッテリーセルを構成する一対の電極の負極であるアノードのエネルギー密度を最大にする。しかし、アノードはその正極であるカソードよりもすでに大きなエネルギー密度を有している。一定のバッテリーサイズから最大のエネルギー貯蔵容量を得るには、カソードのエネルギー密度が最終的にアノードのエネルギー密度と一致する必要がある。カソードのエネルギー密度を向上させる突破口がなければ、今日最も期待されているバッテリー技術の多くは、その潜在能力を十分に発揮することができないであろう。現在のところ、一般に使用されているリチウムイオンバッテリーは、オール電化の将来の幅広い用途のニーズを満たすことができない。多くの企業が新しいバッテリー化学を通じてこれらの要求に取り組み、高電力対エネルギー密度比をさまざまな成功の度合いに最適化しようと試みてきたが、大規模化と商業化に必要な性能指標の達成に近づいている企業はほとんどない。

固体バッテリーは究極の目標だろうか?

バッテリーの研究者たちは、高エネルギー密度と安全性の向上を実現する能力を持つ固体バッテリーを、バッテリー技術の究極の目標としてきた。しかし最近まで、この技術は実用性に欠けていた。

固体バッテリーは非常に高いエネルギー密度を有し、可燃性の液体電解質を使用しないため、潜在的により高い安全性が見込まれる。しかし、この技術はまだ初期段階にあり、実用化までの道のりは長い。固体バッテリーの製造プロセスは、特に今後数年間に50ドル(約5500円)/kWhという積極的な低コスト化の実現を目指す自動車業界にとって、コスト低減に向けて改善される必要がある。

固体状態技術の具現化における別の実質的な課題は、単位体積当たりのカソードに蓄積され得る総エネルギー密度の限界である。このジレンマに対する明白な解決策は、より厚いカソードを備えたバッテリーを得ることであろう。しかし、カソードが厚くなると、バッテリーの機械的および熱的安定性が低下する。この不安定性は、層間剥離(材料が層に破壊される破壊モード)、亀裂、および分離を引き起こし、これらすべてが早期のバッテリー故障の原因となる。さらに、カソードを厚くすると拡散が制限され、電力が減少する。その結果、カソードの厚さには実用的な限界があり、アノードの電力を制限している。

シリコンを使用した新しい素材の採用

ほとんどの場合、シリコンベースのバッテリーを開発している企業は、グラファイト(黒鉛)にシリコンを30%まで混ぜてエネルギー密度を高めている。Sila Nanotechnologies製のバッテリーは、シリコン混合物を使用して高エネルギー密度を実現している。別のアプローチは、Ampriusの製品のように、非常に薄い電極と高い製造コストという制約を受ける100%純粋シリコンのアノードを使用して、さらに高いエネルギー密度を生成することである。

シリコンはかなり大きなエネルギー密度を提供するが、これまでその採用を妨げてきた重大な欠点が存在する。この材料は、充放電時の収縮と膨張に起因するバッテリー寿命と性能の制限をともない、製造業者が商業的に採用する前に解決しなければならない劣化の問題につながっている。こうした課題にもかかわらず、一部のシリコンベースのバッテリーはすでに商業的に導入されており、自動車分野ではテスラがEVへのシリコン採用をリードしている。

電化の必須条件は、バッテリー設計に新たな重点を置くことである

バッテリーアーキテクチャとセル設計の進歩は、既存および新興のバッテリー化学による画期的な改善の可能性を大いに示している。

メインストリームの観点から最も注目すべきは、おそらくTeslaが2020年のバッテリーデーに発表した「ビスケット缶(円筒形)」バッテリーセルだろう。リチウムイオン化学を引き続き採用しているが、アノードおよびカソードとバッテリーケーシングの間の正極と負極の接続点として機能するタブを外し、代わりにセル上端すべてを電極にする設計を施している。この設計変更により、航続距離を向上させながら製造コストを削減し、DC電力で高速充電する際にセルが遭遇する可能性のある熱障壁の多くを取り除くことが可能になる。

従来の2D電極構造から3D構造への移行は、業界で注目を集めているもう1つのアプローチである。3D構造により、あらゆるバッテリー化学において、アノードとカソードの両方で高エネルギーおよび高出力性能が得られる。

3D電極はまだ研究開発と検証の段階にあるものの、市場競争力のある価格で高性能製品を製造することにより、2倍のアクセス可能容量、50%の充電時間短縮、150%の長寿命化を実現する。したがって、広範な用途のためのエネルギー貯蔵の可能性を最大限に引き出すべくバッテリー性能を向上させるためには、バッテリーの物理的構造を変更することに力点を置いた解決策を開発することが重要である。

バッテリー競争を勝ち抜く

性能の向上だけでなく、生産性とコスト削減も完璧に実現することが、バッテリー競争における優位性につながる。2027年までに2797億ドル(約30兆円)に達すると予測されている、急速に拡大するバッテリー市場で大きなシェアを獲得するには、世界各国が低コストのバッテリー製造を大規模に展開する方法を見つけていく必要がある。既存の組み立てラインや材料に組み込むことができる「ドロップイン」ソリューションと革新的な生産方法の優先順位づけが鍵となる。

バイデン政権による米国の雇用計画は、野心的な炭素削減目標を達成しつつ、電化のリーダーになるという米国の目標にとって、国内のバッテリー生産の重要性を強調している。こうした取り組みは、バッテリー市場で重要な競争力を維持し、1620億ドル(約18兆円)規模の世界EV市場で最大のシェアを獲得する能力を確立する上で重要な役割を果たすだろう。

突き詰めて言えば、完全な電化に向けた競争で勝利する技術は、性能に最大の影響度を有し、低コストで、既存の製造インフラとの互換性を備えたものとなる。総合的なアプローチを採用し、最先端の化学を微調整しながら、革新的なセル設計にさらに注力することで、世界が切望しているバッテリー性能と迅速な商業化における次のステップに到達することができるであろう。

関連記事
テスラがカナダ企業の特許を使い安価で環境に優しい新バッテリーを開発中
フォードとBMWが全固体電池のSolid Powerに142.2億円を投入
デュポンとVCはリチウム採掘が電動化が進む未来に向けての超重要な投資先だと考える
Fraunhoferがリチウムイオン充電池の10倍のエネルギー密度で水素を蓄えられる素材を開発
次世代型リチウムイオン電池「全樹脂電池」開発のAPBが追加調達、福井県での第一工場設立目指す
テスラは材料科学の革新でバッテリーコストのさらなる低下を目指す、シリコンやニッケルを再研究
テスラが10テラワット時の生産を目指すタブレス構造バッテリーの概要を公開

カテゴリー:ハードウェア
タグ:バッテリーコラム電気自動車Tesla

画像クレジット:PlargueDoctor / Getty Images

原文へ

(文:Moshiel Biton、翻訳:Dragonfly)

iPhoneのWi-Fi機能にバグ、特定の名前を持つWi-Fiスポットに繋ぐとすべてのWi-Fi機能が無効化(回避策あり)

iPhoneのWi-Fi機能にバグ、特定の名前を持つWi-Fiスポットに繋ぐとすべてのWi-Fi機能が無効化(回避策あり)

iPhoneを特定のSSID(ネットワーク名)を持つWi-Fiネットワークに接続すると、Wi-Fi接続機能が完全に無効化されるバグが発見されました。なお、この不具合は回避策が見つかっています(後述)。

セキュリティ研究者のCarl Schou氏はTwitterで、特定のSSID(「%p%s%s%s%s%n」)のWi-Fiネットワークに参加すると、その時点からiPhoneのすべてのWi-Fi機能が無効になることを実証した動画を公開しています。そればかりか再起動しようが、SSIDを変更しようが症状は直らないとのことです。

Schou氏は、この実験はiOS 14.4.2を搭載したiPhoneXSでも成功し(Wi-Fi環境が破壊された)、iOS 14.6でも同じ症状が確認できたと述べています。

ただし、全てのネットワーク設定をリセットして復旧はできると確認されています。すなわち「設定」アプリの「一般」>「リセット」>「ネットワーク設定をリセット」により工場出荷時状態に戻せば、再びWi-Fi接続機能が回復するとのことです。とはいえ、Wi-Fi設定ばかりかモバイル通信ネットワークやVPN設定も削除されることになり、ゼロからやり直すのは楽ではなさそうです。

なぜ、こうした不具合が起きるのか。記事執筆時点では明らかではありませんが、大手コンピュータヘルプサイトBleepingComputerはiOSがSSID名にある「%」記号がついた文字列をテキストではなく変数名またはコマンドとして解釈しているからではないかと推測しています。以前も、こうした特殊な文字列を受信するとiPhoneやiPad、Macなどがクラッシュするバグが発生した事例がありました。

かたやAndroidデバイスでは同じ名前のWi-Fiネットワークに繋いでも問題なかったとの報告もあり、iPhoneに固有の問題である模様です。

このバグが発生したからと言ってハードウェアが故障するわけではありませんが、アップルが公式にバグを修正したソフトウェアアップデートを配信するまでは、頭に「%」が付いたWi-Fiスポットには接続しない方が無難と言えそうです。

(Source:Carl Schou(Twitter)BleepingComputer。Via AppleInsiderEngadget日本版より転載)

関連記事
Android版「Googleアプリ」にセキュリティバグ、検索履歴などほぼすべての個人情報が危険に晒されていた
アップルの新しい暗号化ブラウジング機能は中国、サウジアラビアなどでは利用できない
アップルM1チップで「修正できない脆弱性」CVE-2021-30747が発見される、ただし悪用は困難
macOSのゼロデイを悪用し密かにスクショを撮る新たなマルウェア、アカウント情報も取得可能(11.4で修正済み)
iOS 14.5「Apple Watchでロック解除」はマスク姿なら本人含め誰でもロック解除可能に
macOSにマルウェアがセキュリティ保護を回避できるバグ(macOS 11.3で修正済み)

カテゴリー:セキュリティ
タグ:iOS(製品・サービス)iPhone(製品・サービス)Apple / アップル(企業)Android(製品・サービス)バグ / 脆弱性(用語)

【コラム】SEO担当者はGoogleアルゴリズムアップデートに慌てる必要はない

編集部 注:本稿の著者Eli Schwartz(イーライ・シュワルツ)氏は、10年以上にわたりB2BおよびB2Cの大手企業で働いてきた経験を持つ、SEOの専門家でありコンサルタント。

ーーー

Googleのアルゴリズムアップデートの噂が流れるたびに、SEOコミュニティは大パニックに陥る。皆数字が分析されるまで息をひそめ、アルゴリズム・アップデートを(願わくば)無傷で乗り切ったときには、安堵のため息がもれる。

アップデートが公開され、特にGoogleによる承認があった場合には、Googleが何を変えたのか、新しいパラダイムで勝つにはどうすればいいのかを分析しようとする記事や専門家の分析が相次ぐ。

私はこの悩みはまったくの杞憂だと思う。

Googleアルゴリズムは、あたかも研究室で作られたようなある種の神秘的な秘密のレシピであり、不思議な全知の魔法使いの気まぐれでサイトを盗んだり、サイトに報酬を与えたりするかのように思われている。この時代遅れのスキーマにおけるすべてのSEOとウェブマスターの目標は、この魔法使いを騙して、すべてのアップデートの勝者になることだ。

この考えは、Googleアルゴリズムのアップデートで何が起こるのかに関する根本的な誤解、そしてGoogleに対する根本的な誤解に根ざしている。実際のところ、アルゴリズムは私たちの敵ではない。アルゴリズムは、より良い、より正確なユーザーエクスペリエンスを実現するために設計されているのだ。ここでは、アルゴリズムとの関係を再構築するためのいくつかの視点を紹介する。

Googleは力になろうとしているだけ

まず確認したいのは、Googleは、あくまでも手助けをしようとしているということだ。Googleは、検索する人に快適で高品質なユーザー体験を提供したいと考えている。それ以上でもそれ以下でもない。Googleは魔法使いではないし、そのシステムは恣意的にサイトを奪ったり、報酬を与えたりするためのものでもない。

それを念頭に置いて続けたい。

Googleのアルゴリズムは、大規模で複雑なソフトウェアプログラムであり、実際のシナリオに基づいて常に更新される必要がある。そうしないと、まったくの恣意的なものになってしまうからだ。ソフトウェアのバグが報告されて修正されるように、検索エンジンは何が機能していないかを発見し、解決策を生み出さなければならない。

Googleのアップデートは、他のソフトウェア企業と同様に、自社の製品やサービスを大きく飛躍させるものだ。ただし、Googleの場合は、単なる製品アップデートではなく「メジャーアルゴリズムアップデート」と呼ばれている。

これで、Googleのアルゴリズムアップデートとは何かという知識が身についたことだろう。慌てる必要がないというのはありがたいことではないだろうか?

検索トラフィックが減少しても、必ずしも不利になるとは限らない

大規模なアルゴリズムアップデート後にサイトの検索トラフィックが減少したとしても、それがサイト全体を対象としたものであることはほとんどない。通常、1つのURL群の検索順位が下がっても、他のページは改善されていることが多いようだ。

改善されたページを確認するには、Google Search Consoleを深く掘り下げて、どのURLでトラフィックが減少し、どのURLで増加したかを調べる必要がある。アップデート後にサイトが急激に落ち込むことは確かにあるが、それは通常、そのサイトで勝者よりも敗者が多かったためだ。

トラフィックが減少したとしても、それはアルゴリズムがサイトを懲らしめたからではないことは間違いない。

多くの場合、実際のトラフィックは減少しておらず、クリックに結びついていないインプレッションが減少しただけの可能性がある。最近のアップデートで、Googleは強調スニペットを掲載していたサイトの検索結果を削除した。その結果、インプレッション数は大幅に減少したが、クリック数はほとんど変わらなかった。アップデート後にサイトが勝った、あるいは負けたと決めつけるのではなく、詳細なデータを集めて研究し、より明確な情報を得るようにしたい。

Googleを見習い、優れたユーザー体験を重視する

ユーザーへの高品質ですばらしい体験の提供に注力しているウェブサイトは、アルゴリズムのアップデートを恐れる必要はない。むしろ、アップデートは優れた結果を出すために必要な原動力となることもある。怖がる必要があるのは、ユーザー体験の質が低いために、そもそも検索で上位に表示されるべきではなかったウェブサイトだけだ。

ウェブサイトがユーザーに優れた体験を提供しているのであれば、アップデートによって質の低いサイトが淘汰されるため、アップデートが実際に味方に付いてくれる可能性が高い。

ユーザー体験の質を重視していれば、アルゴリズムの更新でトラフィックが減少するページもあるだろうが、ほとんどの場合、全体としてトラフィックが増加するのが普通だ。何が変化したのかという詳細なデータを調べれば、ウェブサイトはアルゴリズムの更新によって苦境に陥ったり、影響を受けたりすることもなく、特定のURLだけが影響を受けるという見解が裏付けられるだろう。

アップデートは検索エンジンにとっての現実

Googleはアルゴリズムを継続的に更新していくであろうし、そうするべきだ。Googleの一番の目的は、ユーザーを満足させ、維持し続けることができる進化したプロダクトを提供することなのだ。

Googleがアルゴリズムを放置すれば、抜け道を利用したスパマーに蹂躙されるリスクがあることを考えてみて欲しい。スパム的な検索結果を多く提供する検索機能は、AOL、Excite、Yahoo、その他の検索エンジンのように、機能的にもはや存在しないものとなってしまうだろう。Googleは、アルゴリズムを更新することで、関連性を維持しているのだ。

アップデートは検索という行為の一部なのだ。

アルゴリズムではなく、ユーザーを追いかける

オーガニック検索に依存しているすべてのウェブサイトは、必ず変化するアルゴリズムを追いかけるのではなく、もっと重要なところ、つまりユーザー体験に焦点を当てるべきだと私は考える。

ユーザーは、結局のところ検索における顧客だ。サイトがユーザーに貢献していれば、検索体験を保護するために設計されたアルゴリズムの更新に対する免疫がつくだろう。アルゴリズムにおける魔法使いは存在しない。存在するのは、サイトに最適なプロセス、手順、行動を適用する方法を見出したSEOマスターだけだ。

アルゴリズムやアップデートの目的はただ1つ、ユーザーが求めるものを正確に見つけられるようにすることだけだ。サイトがユーザーの役に立っていれば、何も恐れることはない。

【編集部注】この記事は「Product-Led SEO:The Why Behind Building Your Organic Growth Strategy」(製品中心のSEO オーガニック検索における成長戦略を築く際の根拠)からの抜粋となる。

関連記事
グーグルがEUの圧力を受けAndroid検索エンジンの選択画面オークションを廃止、無料化へ
グーグルがモバイル検索のデザインを変更、違いはわずかだがよりわかりやすくモダンに

カテゴリー:ネットサービス
タグ:GoogleSEO検索Google検索アルゴリズム検索エンジンコラム

画像クレジット:

原文へ

(文:Eli Schwartz、翻訳:Dragonfly)

【コラム】3億円のNFTを買っても著作権は手に入らない

編集部注:本稿の著者Harrison Jordan(ハリソン・ジョーダン)氏は、HP.LIFEの創設者兼CEO。

ーーー

現代アーティストにとって、作品を非代替性トークン(NFT)という形でブロックチェーンに紐づけることは、アートをオンラインで販売するための安全で検証可能な方法のように思えるかもしれない。

いくつかの点では、それは正しい。ブロックチェーンは本質的に、すべてのトランザクションについてタイムスタンプ付きのデータを記録し、分散型台帳上で所有権を永続的に示すものだ。ブロックチェーンのトランザクションを見れば、NFTがいつ取引されたのか、誰がその取引に関わったのか、いくら使われたのかを知るのに、必要な情報がすべて得られる。

しかし、NFTのオーナーシップの実態は、想像以上に複雑だ。新しい暗号資産クラスであるNFTは、現行の規制システムにほとんど縛られずに存在しているように見える。しかしアートと組み合わせた場合、考慮すべきオーバーラップがある。現代のNFTエコシステムの法的落とし穴を理解することが、その可能性を引き出すための最初のステップとなるだろう。

ブロックチェーンに著作権は存在するのか?

NFTが著作権の代替となる可能性に大きな期待が寄せられており、NFTが著作権そのものであると信じている人も多い。額面通りに見れば、その混乱は容易に理解できる。

実際には、NFTは資産を表すトークンに過ぎず、資産そのものとはまったく別物だ。すべてのNFTは唯一無二の資産であるため、オリジナルと同じ価値を維持したまま複製することはできない。多くの人はこの独占的な所有権を作品そのものの所有権と同一視しているが、その違いを強調しておく必要がある。

この誤解はさらに奥深くなる。NFTになり得るものの範囲は、著作権の対象となる作品と驚くほどよく一致している。「著作物」の定義は各国・地域で異なるが、本質から大きく外れることはない。例えばカナダでは、著作権の保護は、文学的、芸術的、演劇的または音楽的な作品に加えて、演奏、録音、その他の関連作品にまで及ぶ。創作者がこれらの保護を申請する必要はなく、作品の創作時に国が本質的に提供するようになっている。

もちろんこの保護は、NFT化されるオリジナル作品に対しても保証されている。アート作品が制作され、NFTマーケットプレイスでオークションに出品された場合、その著作権はアーティストに帰属し、対面での取引とほぼ同様に機能する。国際法に準拠した著作権取引のインフラが整っていないため、現在のプラットフォームでNFTの著作権をやりとりすることは不可能だ。

つまり、アーティストと購入者の間で外部契約が交わされない限り、NFTのさまざまな著作権はオリジナルアーティストに帰属することになる。NFTの購入者が所有するのは、ブロックチェーン上のユニークなハッシュと、トランザクション記録、作品ファイルへのハイパーリンクだけだ。

法的パラメータがなければ、不正行為は避けられない

盗難や詐欺の可能性を考えると、NFTの著作権追跡の問題はさらに厄介なものになる。NFTがブロックチェーンに追加されるためには、アップロードした者が「署名」する必要がある。画家が自分の絵にサインするのと同様に、この機能はNFTとその作成者を結びつけることを目的としている。しかし、トークン鋳造者が自分の身元を偽った場合には問題が起こる可能性もある。多くのNFTプラットフォームでは、これは珍しいことではない

この問題は、NFT市場に強力な法的枠組みがないことに起因する。プラットフォームによっては、作成者本人でなくてもツイートやアート作品、ニャンキャットのgif画像でさえもNFT化することができる。その結果多くのアーティストが、自分の作品が盗用され、同意なしにNFTの形で販売されていると報告している。従来のアート市場であれば、明らかに著作権侵害となるところだ。

この問題は、特にNFTツイートのやり取りの中で広まっている。2021年初めには、@tokenizedtweetsと呼ばれるTwitterボットが大量にNFT鋳造を行い、Twitter(ツイッター)とNFTコミュニティに衝撃を与えた。このボットは、作者の同意や通知なしにバイラルツイートからNFTを作成するという方針をとったため、俳優やアーティストなどのクリエイターから反発を買った。「スタートレック」で知られる俳優のWilliam Shatner(ウィリアム・シャトナー)氏は「@tokenizedtweetsがコンテンツを盗み、私がアップロードした画像や私のツイートなど、すべて私の著作権のもとにあるものが無断でトークン化され、販売されている」と懸念を表明した。

強力な法的インフラを持たないプラットフォームでは、盗難や詐欺は当然の結果だ。現在Twitterの利用を禁止されている@tokenizedtweetsの行為は、この問題をよく表している。

何が足りないのか?国際的なコンプライアンス

これまでのところNFTプラットフォームは、NFT販売が表すアートの著作権について、国際的なコンプライアンスの領域に踏み込んでいない。それが起これば、NFTのエコシステムにとって非常に大きな飛躍となるだろう。著作権の行使を強化することで不正行為を最小限に抑えるだけでなく、国際的なコンプライアンスを実現することにより、ブロックチェーン上でのトークンによる著作権交換が可能になるからだ。

1886年に締結されたベルヌ条約は、179の加盟国において著作物が創作された時点で標準的な著作権保護を保証する国際協定であり、そのおかげですでに下地はできている。例えば2014年にはシンガーソングライターのTom Petty(トム・ペティ)が、Sam Smith(サム・スミス)のヒット曲「Stay With Me」が自身の「I Won’t Back Down」とメロディがほぼ同じであるとしてサム・スミスを著作権侵害で訴え、この条約が試された。この訴訟と、トム・ペティの財産へのロイヤルティ支払いを含む和解は、ベルヌ条約の継続的な機能を証明している。

1996年のWIPO著作権条約により、デジタルアートの領域にベルヌ条約の原則が正式に導入されたが、ベルヌ条約加盟国の多くはこの条約に署名しなかった。新たな条約の目途が立たない中、世界政府が残した不足を民間セクターが補わなければならないかもしれない。

国際条約で統一が図られているにもかかわらず、NFTの世界では世界各地の著作権法の多様性に対応できていないのが現状だ。業界を投機的なものからグローバルな機能性へと移行させるためには、国際的な著作権コンプライアンスをこの新興エコシステムに組み込む必要がある。

関連記事
「キャプテン翼」原作・高橋陽一氏代表のサッカークラブ「南葛SC」がFiNANCiEでクラブトークン販売開始
NFTマーケットプレイスを手がける暗号資産取引所コインチェックがCyberZとエンタメ領域で協業
ミレニアル世代が熱狂?NFTを使ったコレクターズアイテムへの投資が今アツいワケ

カテゴリー:ブロックチェーン
タグ:コラムNFTアート著作権アーティスト

画像クレジット:John M Lund Photography Inc / Getty Images

原文へ

(文:Harrison Jordan、翻訳:Aya Nakazato)

Tiger GlobalがフィンテックBharatPeへの投資に向け交渉中、バリュエーションは約2750億円

インドのフィンテックスタートアップのBharatPe(バラペ)は、Tiger Globalがリードする新たな資金調達ラウンドで約2億5000万ドル(約275億円)を調達する交渉が進んでいると、この件に詳しい2人の関係者がTechCrunchに語った。

消息筋によると、この新しいラウンドはシリーズEで、創業3年目のニューデリーに本社を置く同社のプレマネーのバリュエーションは25億ドル(約2750億円)とのことだ。同筋はこの件が非公開であることを理由に匿名を希望した。本ラウンドはまだ終了していないため、条件が変更される可能性があると同筋は注意を促した。

BharatPeは、今回のラウンド以前に、株式で約2億3300万ドル(約256億円)、負債で3500万ドル(約39億円)を調達した。バリュエーションは、2021年2月のシリーズDラウンドで約9億ドル(約990億円)、2020年は4億2500万ドル(約468億円)だった。

関連記事:943.6億円と評価されたインドのQRコード決済サービスBharatPeが新たに113.1億円調達、新たなフィンテックユニコーン誕生か

インドのニュースサイトCapTableがTiger GlobalとBharatPeの交渉について最初に報じ、今回のラウンドでBharatPeの価値は20億ドル(約2200億円)以上になると述べた。BharatPeはコメントを控えた。同社は、Coatue、Ribbit Capital、Sequoia Capital Indiaなどを既存の投資家として抱えている。

BharatPeは、オフラインの加盟店がデジタル決済を受け入れ、運転資金を確保するための同名のサービスを運営している。インドはすでに6億人以上のユーザーを抱える世界第2位のインターネット市場として台頭しているが、国内の多くの地域ではまだオフラインのままだ。

その中には、道端のお茶屋や近所のお店など、インターネットが届かない場所で小さなビジネスを営む商人がいる。BharatPeは、こうした商人にデジタル決済を気持ちよく受け入れてもらうため、政府が支援するUPI決済インフラをサポートするQRコードとPOSマシンを利用している。

600万以上の加盟店にサービスを提供しているBharatPeは、2020年11月までに5万台以上のPOSマシンを導入し、毎月1億2300万ドル(約135億円)以上の取引を可能にしているという。同社は、ユニバーサルQRコードへのアクセスで加盟店に利用料金を請求しておらず、資金の貸し出しによって収益を得ようとしている。今や、その目標の多くを簡単に達成できるようになるはずだ。

銀行になる

インドの中央銀行RBIは現地時間6月18日、2021年初めに経営難に陥った銀行を買収したCentrum Financial Servicesに、小口金融銀行の設立を許可する仮ライセンスを付与した。Centrum Financial Servicesは、BharatPeと協力してこのライセンスを取得した。BharatPeは2社が「対等」なパートナーであると声明で述べた。

Centrumグループのエグゼクティブ・チェアマンであるJaspal Bindra(ジャスパル・ビンドラ)氏は声明で、2社は「新時代の銀行」の創造のために努力すると述べた。

BharatPeはさらに、2つの新しいアプリの立ち上げにも取り組んでおり、そのうちの1つ「PostPe」はQR UPIでの与信を可能にし、もう1つのB2Cアプリは最大12%の金利でピアツーピアの貸し出しを可能にするものだ(担保なし、ただしBharatPeが仲介役を務める)。消息筋によると、これらの新製品は早ければ6月中にも展開される。

関連記事
大ヒットゲーム「PUBG Mobile」のインド復帰をまつわるさまざまな疑問
オンライン学習大手Byju’sがインドで最高評価額のスタートアップに、UBSなどから資金調達
ツイッターがインド政府の要求を受け政府に批判的な4アカウントをブロック

カテゴリー:フィンテック
タグ:Tiger GlobalインドBharatPe

画像クレジット:ANNA ZIEMINSKI / AFP / Getty Images

原文へ

(文:Manish Singh、翻訳:Nariko Mizoguchi

HRテックのGustoが研究開発税額控除サービスのArdiusを買収

政府から無料でお金がもらえるというと、まるで宝くじに当たったような気分になるが、実際には技術系のスタートアップ企業はもちろん、地元の小売店やレストランであっても、米国の研究開発に関する税額控除の対象となる可能性がある。ただこの税額控除は、ハイテク企業の税率をゼロに近づけてはくれるが、中小企業にとっては、膨大な書類の提出や税務調査の費用の可能性のために、受けることが困難になっている。

そこで、この問題を解決するために多くのスタートアップ企業が立ち上げられたが、ここにきて大企業も参入し始めた。

中小企業向けの給与計算サービスから始め、その後従業員の入社手続きや保険、福利厚生などの人事サービスにも事業を拡大してきたGusto(ガスト)は米国時間6月17日、研究開発費の税額控除に特化した税務コンプライアンス自動化スタートアップのArdiusを買収すると発表した。

ロサンゼルスを拠点とする同社は、それまで会計事務所EYで10年以上勤務していたJoshua Lee(ジョシュア・リー)氏が2018年に創業した。買収条件は公表されていない。Ardiusは独立した事業として運営され、チーム全体がGustoに移る。

ここでの戦略はシンプルだ。ほとんどの研究開発税額控除では給与明細書が必要になるが、そのデータはすでにGustoの記録システムに保存されている。現在のArdiusは、多くの給与データプロバイダーからデータを抽出し、それを検証可能な税務書類に変換できる。今回の提携により、両社はGustoの膨大な数の顧客のために自動でそれを実行することができる。

Gustoの共同創業者でCEOのJoshua Reeves(ジョシュア・リーブス)氏は、今回の買収は顧客とシンプルさを重視する同社の長期的な方針に沿ったものだと話す。「我々は、テクノロジーと優れたサービスを融合し、政府をよりシンプルにしたいと考えています」と同氏はいう。「ある意味では、給与計算をよりシンプルに、医療費をよりシンプルに、PPPローン(米政府の融資制度の1つ)や税額控除をよりシンプルにするなど、当社が行っている多くのことは、これらが意図された通りに機能するようにすることなのです」。Gustoはおそらくそうした機能を自社で開発することもできたが、Ardiusを最初の買収対象にしたのは「Time to Market(市場投入までの時間)」が重要なポイントだったと同氏は指摘する。

共同創業者で最高製品責任者のTomer London(トマー・ロンドン)氏は「私たちが長い間この分野に注目していたのは、独善的な製品を作るという当社の当初の製品理念の1つにつながるからです」と話す。人事のような複雑な分野で「私たちは単なるツールではなく、アドバイザーでありたいと考えています。これは、私たちがすでに持っている給与データを数回クリックするだけで、数日後にはそのビジネスにとって本当に重要なキャッシュフローにアクセスできるというすばらしい例です」。また、税額控除については「長い間、私たちのロードマップにあったものです」と述べた。

Gustoは、100以上のサードパーティーサービスと連携しており、プラットフォーム上で統合することができる。リーブズ氏は、ArdiusがGustoの一部となっても、すべての企業(Ardiusの製品と直接競合する可能性のある企業も含む)は、引き続きGustoのプラットフォームのデータに平等にアクセスできることを強調した。同社はプレスリリースで、Boast.ai、Clarus、Neo.Tax、TaxTakerなどを現在Gustoと統合している税務製品の例として挙げた。

もちろん、Ardiusは、研究開発や経済開発の税額控除の分野で登場した数多くの競合企業の1つにすぎない。筆者が以前、2020年のシードラウンドで紹介したMainStreetは、3月にSignalFireがリードした資金調達で6000万ドル(約66億円)を調達したばかりだ。一方、こちらも筆者が2020年紹介したNeo.taxは、総額550万ドル(約6億500万円)を調達している。

リーブズ氏は、この分野が注目されていることと、Ardiusにとっての競争の可能性について、前向きに考えている。研究開発費の税額控除については「アクセス性を高めるものであれば、私たちは賛成です」と語る。「率直に言って、まだ十分に活用されていないため、認知度が高まっているのはすばらしいことです」。また、Gustoのデータやソフトウェアを活用すれば、他の競合他社よりも垂直統合型のソリューションを提供できると強調した。

パンデミックの影響を特に受けたのは中小企業で、中小企業は大企業のような資金力を持たないため危機を乗り切れないことが多いが、Gustoは新しい企業の誕生とともに事業を拡大してきた。リーブズ氏によると、4月に終了した前事業年度は同社の顧客ベースが50%増加したという。「パンデミックや経済危機の中では、給与の支払いや医療へのアクセスなどが非常に重要であることがわかりました」とリーブス氏はいう。Gustoは、中小企業が政府の景気刺激策であるPPPローンを獲得するためのプログラムを開始した

Gustoの主な拠点は、サンフランシスコ、デンバー、ニューヨークで、Ardiusの拠点はLAのままだが、Ardiusのスタッフを含めリモートワーカーの数は増えている。リーブズ氏は今後の買収については言及していないが、Gustoは従業員と企業の両方を対象とした包括的なファイナンシャル・ウェルネス・プラットフォームへの拡大に注力していることから、将来的にはさらなる買収が行われる可能性がある。

関連記事
人事ソフトのRipplingとGustoが広告看板をめぐり「どちらもどっち」な言葉のバトル
最もリクエストが多かった消費税計算、会計ツールを決済大手Stripeは約30カ国で提供開始
米国で固定資産税の節税を自動化するTaxProperが2億円超を調達

カテゴリー:HRテック
タグ:Gusto税金買収

画像クレジット:Grace Cary / Getty Images

原文へ

(文:Danny Crichton、翻訳:Nariko Mizoguchi

Qidni Labsの「水を使わない」携帯型透析装置、埋め込み可能な人工腎臓実現への小さな一歩

この1年、カナダにいる3頭の羊は、自分の腎臓を袖につけていた。もっと正確にいうと、フワフワの毛で覆われた背中にジャケットを着ているのだ。

この3頭の羊は、水を使わない携帯型血液浄化システムを追求しているスタートアップ企業Qidni Labs(キドニー・ラボ)が実施している継続的な動物実験の一環だ。2014年にニューヨーク州バッファローで設立されたQidni Labsは、これまでに150万ドル(約1億6500万円)の資金を調達しており、現在は新たな投資ラウンドに向けて企業精査を行っている。同社が開発したウェアラブル腎疾患治療機器の空気除去システムは、2019年のKidneyX Summitで賞を獲得したこともある。

羊が身につけているジャケットは、Qidni Labsの携帯型血液透析装置「Qidni/D」の試作品だ。そのアイデアは、従来の血液透析装置よりも大幅に小型化し、使用する液体の量を少なくすることで、患者がより動き回りやすくなるというものだ。

「このデバイスと技術は、患者が動き回ることができる血液浄化技術への橋渡しになると我々は考えていますが、これがそのまま最初の製品になるとは思っていません」と、Qidni Labsの創業者でCEOを務めるMorteza Ahmadi(モルテザ・アフマディ)氏は語っている。

CDC(米国疾病管理予防センター)によると、米国では7人に1人が何らかの慢性腎臓病を患っていると言われている。時間の経過とともに腎不全が進行する可能性があり、その時点で透析や移植を受けることが推奨される。その基準となるのが、体重減少、息切れ、不整脈などの症状だ。

透析には大きく分けて、血液透析と腹膜透析の2種類がある。血液透析は、体外に導き出した多量の血液を、特殊なフィルターと透析液という液体に通してまた体内に戻す方法。腹膜透析は、体内に透析液を注入して血液中の老廃物を吸収させ、それを排出する。Qidni/Dは、羊サイズのジャケットに収まる大きさの血液透析装置で、独自のカートリッジとゲルをベースにしたシステムを使うことで、透析を行うために必要な液体の量を削減している(TechCrunchはこの装置の画像を確認している)。初期の動物実験(結果はまだ査読付きジャーナルで出版されていない)では、このデバイスは、従来の透析と同等の適切な値まで、羊の血液中の尿素のレベルを下げることができた。TechCrunchでは、この研究のデータをZoomで確認している。

この羊たちは機能する腎臓を持たず、4時間から8時間半ほどこの機器に繋がれていた。アフマディ氏によれば、これまでのデータから、羊の血液をきれいにするには4時間の治療で十分だと考えられるという。

今回の研究は小規模な動物実験であり、大きな結論を導くことはできない。例えば、この研究では能動的な対照群を設けておらず、羊の血液から除去された尿素と電解質の量を、他の透析研究で公表されている基準と比較している。

この技術を市場に投入できると判断するには、今回の研究だけでは十分ではないものの、Qidni Labsの携帯型透析装置の設計が、さらなる試験に耐えうるものであることを示していると、社内では考えている。

「今回の研究では、データに基づいて私たちは毎日の透析を置き換えることができたと言えるでしょう」と、アフマディ氏はいう。

チームは年内に、さらに羊を使った研究で技術の改良を続けていき、2022年には人による臨床試験を開始することを目指している。臨床試験で安全性と有効性が実証されれば、2023年後半にFDA(米国食品医薬品局)の承認を申請するというのが全体的な目標だ。

腎臓の治療は、負担の大きい治療である透析が主流となっている。多くの場合、腎臓移植によってその負担を軽減することができるにもかかわらずだ。

現時点では、腎臓移植を受ける人よりも、透析を受ける末期腎不全患者の方がはるかに多い。CDCの推計によると、米国には約78万6000人の末期腎不全患者がいるが、そのうち71%が透析を受けており、29%が腎臓移植を受けている。

人工透析事業では、特に業界の約70%を支配する2大企業であるFresenius(フレゼニウス)とDaVita(ダヴィタ)が複雑な歴史から業績不振に陥っており、そのリスクとコストは物議を醸している

腎臓治療の状況は、メディケア(高齢者および障害者向け公的医療保険制度)でカバーされているという点でも注目を集めているが、依然として費用が高額であることに変わりはない。透析と移植は、メディケアの予算の約7%を占めている。このように状況が複雑であるため、いくつかのスタートアップ企業が埋込み式人工腎臓のような代替手段を追求している。

Qidni Labsの現在の製品は、機能しなくなった腎臓の代わりに患者の体内に永久に埋め込まれるという意味での人工腎臓ではない。そうではなく、より移動やすく人工透析を行うためのものだ。Qidni/Dと呼ばれる血液浄化装置が、当面の間はQidni Labsの主力製品となる。

とはいえ、Qidni/Dには、アフマディ氏が期待するように「破壊的」な効果をもたらす可能性のある、いくつかのユニークな要素がある。それは、サイズが小さいことと、必要な水の量が少ないことだ。

CDCによると、平均的な患者は1週間の透析治療の間に、約300〜600リットルの水を必要とする。この水の一部は、血液中の毒素を排出するための透析液に使用される。アフマディ氏によると、Qidni/Dでは1回の治療で使用する水はわずかコップ1杯分で、そのほとんどが透析液に含まれるという。

「私たちが知る限り、水を使わない技術が、大型の動物モデルで血液浄化に長期にわたり有用であることが確認されたのは、おそらく世界でも初めてのことだと思います」と、アフマディ氏は語る。

透析から液体を取り除くことができれば、現状では非常に大変なプロセスを効率化できる可能性がある。それによって、自宅での透析が可能になり(水の安全性に関する要求が緩和される)、感染症のリスクが軽減される(透析中に水による感染症が発生することがある)ことを、アフマディ氏は期待している。

それはまた、埋め込み可能な腎臓の実現に向けた小さな一歩でもある。埋め込み可能な腎臓は、大量の液体を必要としないのが理想だからだ。とはいえ、現在Qidni Labsが重点を置いているのは、あくまでも移動可能な透析だ。同社がこれから行う資金調達ラウンドでは、小規模な臨床試験を行い、カートリッジ式の技術を人体で試すことに注力する予定だ。

「今度の投資ラウンドでは250万ドル(約2億7600万円)を調達し、この技術を少人数の患者でテストしたいと考えています。テストでは患者を既存の既存の透析装置に接続し、透析液の代わりに当社独自のカートリッジを使用します」と、アフマディ氏は述べている。

患者にとって究極の命題は透析を必要としないソリューションではあるとはいえ、Qidni Labsの取り組みは最終的により臓器に近い機能を持つ透析装置を実現するための一歩となるだろう。

関連記事
HACARUSと東京大学がアルツハイマー病やパーキンソン病の治療法開発を目指すAI創薬研究を開始
「のど」撮影画像の解析で診断、アイリスがインフルエンザを判定可能な感染症診断AI搭載医療機器を日本初承認申請
慶應発スタートアップOUIのiPhone装着型眼科診察機器「Smart Eye Camera」がEUで医療機器登録

カテゴリー:ヘルステック
タグ:Qidni Labs資金調達医療腎臓

画像クレジット:Getty Images

原文へ

(文:Emma Betuel、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

デリバリーサービスのGopuffがフリートマネジメントプラットフォームのrideOSを127億円で買収

オンデマンドの商品・料理・アルコールデリバリーサービスのGopuff(ゴーパフ)が、フリートマネジメントプラットフォームのrideOS(ライドOS)を1億1500万ドル(約127億円)で買収した、とこの取引に詳しい関係者が語った。

今回の買収は、フィラデルフィア拠点のスタートアップであるGopuffが、11億5000万ドル(約1265億円)の資金調達を発表してからわずか数カ月後のことだ。バリュエーションは2020年10月の39億ドル(約4290億円)から89億ドル(約9790億円)へと上昇した。2020年秋には3億8000万ドル(約418億円)を調達し、飲料販売会社のBevMoを買収した。Gopuffは、今回の新たな買収にともなう最新のバリュエーションを公表していない。

関連記事:日用品を30分以内に届けるデリバリースタートアップのgoPuffが4100億円超の評価額で約400億円を調達

Gopuffは、米国の650以上の都市で、掃除用品、ペット用品、市販薬、料理などあらゆるものを配達している。30分以内の配達には1.95ドル(約215円)の料金を課し、非常に遅い時間まで、あるいは24時間365日の対応も行う。

このことは、同社が2021年ニューヨークに進出するにあたり、非常に重要な意味を持つ。ニューヨークでは、住民は高い家賃に加えて、フムスからオムツまであらゆるものを午前4時に届けてくれることを期待している。オムツに関して、GopuffはTechCrunchに対し、ベビー用品のカテゴリーを2倍に増やし、何百もの新しいローカル商品を追加したばかりだと語った。また、美容用品や「ベター・フォー・ユー」商品(オーガニック商品と健康的なスナックをミックスしたような商品)の配達にも進出したところだという。

また、2021年5月には英国のFancy Deliveryを買収し、海外市場への初進出を果たした。今後、より複雑で高密度な都市での展開や新たな業種への参入に向け、高度なルーティング、複雑なディスパッチ(配達員の手配)、フリートの最適化を実現するrideOSの技術は不可欠だとGopuffはいう。同社は、この新しい知財を利用して、マルチモーダルデリバリーを強化し、デリバリー時間の短縮を目指している。

関連記事:ローカル配送のGopuffが同業の英Fancy買収に向け協議中

Gopuffは、rideOSを買収することで、ユニットエコノミクスを改善し、配送担当者やパートナーが現場でより組織的かつ効率的に活動できるような新しいツールを開発したいと考えている。rideOSは、Uber、Google、Appleの元社員が中心となって開発した地図やライドシェアのためのプラットフォームで、今回の買収は、規模を拡大し、インスタント・ニーズ・エコノミーを定義する最前線に立ち続けるためのチャンスだと考えている。

「Gopuffのミッションと世界的な野心は、世界中で人や物を効率的に移動させるソフトウェアを開発するというrideOS社のビジョンの自然な延長線上にあります」と、rideOSの共同創業者でCEOのJustin Ho(ジャスティン・ホー)氏は話した。そして「Gopuffの飛躍的な成長を考慮して、2021年末までに人員を大幅に増やし、シリコンバレー、ピッツバーグ、ベルリンでのプレゼンスを拡大する予定です」と語った。

関連記事:ローカル配送のgoPuffが同業の英Fancy買収に向け協議中

カテゴリー:シェアリングエコノミー
タグ:Gopuff買収オンデマンド配送

画像クレジット:Gopuff

原文へ

(文:Rebecca Bellan、翻訳:Nariko Mizoguchi

TikTok広告価格上昇の中、Instagramがライバル機能「リール」広告をグローバルに展開

Instagram Reels(インスタグラム リール)に広告がやってくる。Instagramは米国時間6月17日、TikTokのライバルでもあるショート動画プラットフォーム「リール」での広告を、世界中の企業や広告主に向けてローンチすると発表した。広告の長さはリールと同じ最大30秒で、フォーマットはInstagram Stories(ストーリーズ)で見られる広告と同様に縦型のフォーマットとなる。また、リールと同じようにこれらの新しい広告はループし、ユーザーはリールの他の動画と同様に、リール広告をいいね、コメント、保存、共有することができる。

同社は、2021年初めにインド、ブラジル、ドイツ、オーストラリアなどの一部の市場でリール広告の試験導入を行い、最近ではカナダ、フランス、英国、米国にもテストを拡大した。BMW、ネスレ(ネスプレッソ)、ルイ・ヴィトン、Netflix(ネットフリックス)、Uber(ウーバー)などのブランドが、この新しいフォーマットをいち早く採用していた。

Instagramによるとこれらの広告は、ユーザーがリールコンテンツを閲覧するほとんどの場所(リールタブ、ストーリーズで公開されているリール、発見タブで表示されるリール、Instagramフィードのリールなど)に表示され、ユーザーが投稿した個々のリールの間にも表示されるとのこと。ただし、リール広告が表示されるためには、ユーザーはまず、没入感のある全画面スクリーンのリールビューアーに入っている必要がある。

画像クレジット:Instagram

同社はユーザーがリール広告をどのくらいの頻度で目にするかについては言及しておらず、視聴者がInstagramをどのように利用するかによって、目にする広告の数は異なるとしている。しかし、Instagramは広告自体に対するユーザーのセンチメントや、リールの全体的な商業性をモニタリングしているという。

関連記事:YouTubeショートがトップクリエイターに2022年まで報酬、約109億円のファンド創設

Instagramの他の広告商品と同様に、リール広告はオークションベースのモデルでローンチされる。しかしこれまでのところInstagramは、テストに基づく広告パフォーマンス指標の共有を拒否している。また、広告主がリール広告を始めるのに役立つクリエイターツールやテンプレートも提供していない。その代わりに、リール広告がInstagramの競合他社を含む他の縦型動画広告と似ていることから、同社は広告主がすでにクリエイティブアセットを持っているか、その作り方を知っていると考えているようだ。

縦型動画はすでに消費者をECショッピングサイトに誘導する可能性を示しているが、Instagramはまだリール広告を利用してユーザーを内蔵EC機能であるInstagramショップに誘導していない。同社はアプリのさまざまな部分を結びつけようとしているので、それは自然な次のステップと思われまる。

しかしおそらくその前に、Instagramはリールをより魅力的な目的地にする必要があるだろう。これは、Snap(スナップ)やYouTubeなどのTikTok(ティックトック)のライバル企業が、クリエイターコンテンツに直接資金を提供することで実現していることだ。一方Instagramは、TikTokのスターたちに直接オファーを出していた

リール広告の開始は、TikTokの広告価格上昇のニュースに続くものだ。Bloombergが2021年6月に報じたところによると、TikTokは第3四半期の時点で、米国でホームページのテイクオーバー広告に140万ドル(約1億5000万円)以上を要求しており、第4四半期には180万ドル(約2億円)、さらに休日には200万ドル(約2億2000万円)以上に跳ね上がるという。同社はまだ広告チームを構築中であり、広告主らはまだ動画予算の大部分を同アプリに割り当てていないが、それはユーザー数の増加に追随する傾向がある。そして今やTikTokは、米国で1億人以上の月間アクティブユーザー(MAU)を擁している。

現在、InstagramとTikTokのアプリは、グローバルベースで10億人以上の月間アクティブユーザーを抱えているが、リールはより大きなInstagramプラットフォームの一部に過ぎない。ちなみにストーリーズ機能は約5億人のユーザーに利用されており、アプリのさまざまな領域にトラフィックを誘導するInstagramの能力を示している。Instagramは、6月17日の時点でリール機能のユーザー数を公表することは控えた。

関連記事
Instagramのリールが新機能「Insights」でクリエイター待望のオーディエンス分析データ確認が可能に
Instagramはクリエイターの生活のためにアフィリエイトとショップ機能を導入
フェイスブックとInstagramで「いいね!」の数を非表示可能に、徐々に展開中

カテゴリー:ネットサービス
タグ:Instagram ReelsInstagram広告

画像クレジット:Getty Images

原文へ

(文:Sarah Perez、翻訳:Aya Nakazato)

【コラム】DXを「エシカル」にリードする方法、倫理優先の考え方は従業員と利益を守る

【編集部注】本稿の著者Angela Love(アンジェラ・ラブ)氏はリーダーシップ開発のコンサルティング会社であるThe Daymark Groupの創設者。Fortune 50に名を連ねるスタートアップのリーダーやチームのために、明確さと成功を生み出す手助けをしている。

ーーー

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、ほぼすべての分野でデジタル変革(DX)の必要性が加速されたことは周知の事実だ。この状況下で、企業が成功を収めるために行っている活動は常に注目されている。しかし、企業がどのようにそれを行っているかについては、あまりわかっていない。

端的に言えば、イノベーションとデジタルソリューションの導入が爆発的に進む中で、倫理的配慮が犠牲になることは許されない。

これはモラルの問題でもあるが、同時に最終的な利益の問題でもある。社内外の利害関係者は、倫理的な境界を曖昧にする(あるいは無視する)企業に対して寛容ではなくなっている。このような現実は、組織のリーダーが新たな学習曲線、すなわち「設計段階からのエシックス(倫理)」を含むDXの取り組みを受け入れる必要があることを意味する。

倫理を後回しして生じる問題

エグゼクティブのライフスタイルやゴールデンパラシュート(敵対的買収を防止するために事前に経営陣や役員の退職金を巨額に設定しておくこと)の弊害を指摘するのは簡単だが、倫理違反のパターンは、リーダーシップだけではなく、会社全体の文化に起因することがほとんどだ。従業員個人の価値観に合致しているから(従業員が)倫理的な行動をとる、というのが理想的だが、最低限、倫理違反が組織に与えるリスクを理解しておく必要がある。

筆者の経験では、そのような議論は行われていない。コミュニケーション不足とか、ビジョンの欠如と言ってもいいかもしれないが、ほとんどの企業では、潜在的な倫理的リスクをモデル化することは、少なくとも公式には行われていない。議論があるとしても、上層部のメンバー間で、密室で行われることが多い。

倫理的な問題はなぜもっと大々的に扱われないのだろうか?答えの1つは、ビジネス上のヒエラルキーに関する従来の考え方を捨てたくないことかもしれない。また、積極的な姿勢が支配する強い(かつ皮肉なことに有害な)文化的メッセージに関係しているかもしれない。リーダーが「破壊的思考の文化を作りたい」と話す例もあったが、単にそれを「成長思考が不足している」と発言した従業員に伝えただけだった。

では、どうすればいいのだろうか?筆者が効果的だと思う解決策は3つある。

  • 倫理観を組織の中核的価値観にする
  • 透明性を確保する
  • 倫理的な課題や違反に対処するための戦略を積極的に策定する

これらのシンプルな解決策は、DX以降の倫理問題を解決するために最適な出発点となり、リーダーが会社の中核をよく検討し、今後何年にもわたって組織に影響を与えるような決断をするきっかけとなる。

DXの分野では対人関係の力学が懸念される

DXは、本質的には技術的な作業で、AIやデータ運用などの分野の高度で多様な専門知識を持つ人材が必要とされる。この分野のリーダーには、困難な課題に取り組めるだけの複数のドメインを扱える能力が求められる。

ここに大きな課題がある。技術的に優れた人材を集めれば、専門用語を知らない人を委縮させ、質問することを躊躇させる専門知識に傲慢な文化が生まれるからだ。

DXは、単にインフラやツールの問題ではなく、本質的にはチェンジマネジメントの問題であり、健全な変革を実現するためには、多機能なアプローチが必要だ。企業が犯しうる最大の過ちは、技術的な専門家だけで議論するべきだと思い込んでしまうことだ。その結果、サイロ化が進み、エコーチェンバー(反響室)のようになって、倫理に関する会話ができなくなってしまう。

どれほど技術的な問題であっても、DXを急ぐ場合でも、基本的に人を第一に考えて解決しなければならない。

エシカルなDXには出発点が必要である

DXに関連する倫理的要請のすべてが「人を第一に考えなければならない」という提言のように議論の余地があるわけではない。中には「そこに到達するための出発点はここ」というような、もっと白黒がはっきりしたものもある。

幸いなことに「そこに到達する」のにゼロから始める必要はない。ガバナンス・リスク・コンプライアンス(GRC)の基準を利用することで、解釈の余地がほとんどない高度に構造化されたフレームワークを構築し、デジタルソリューションの設計と導入に向けた強固な基盤を準備することができる。

GRCモデルはスタートアップ企業にも多国籍企業にも有用で、単なるガイダンス以上のものを提供する。よく検討してGRC基準を適用すれば、リーダーシップの評価、進捗報告、リスク分析にも利用できる。ボウリングのバンパーのように、ストライクは保証できないものの、ボールが絶対に溝に落ちないようにすることが可能になる。

GRCベースのフレームワークの作り方を知らない企業もあるかもしれない(ボウリングのバンパーを作れと言われても困るのと同じ)。そのため、多くの企業が、IBM OpenPages、COBIT、ITILなどのあらかじめ製作された基盤を提供している。これらの「スターターキット」に共通する目的は、組織が属する業界や組織に関連するポリシーや統制を特定し、そこから重要なコンプライアンスポイントに線を引くことである。

一般的にクラウドベースで開始されるGRCプロセスは、少なくとも部分的には自動化されているが、組織全体の意見と透明性を必要とする。特定の部門による主導や、厳密なトップダウン方式では、効果的な運営はできない。実際、GRC基準の導入に際して理解しておくべき最も重要なことは、組織のリーダーシップと組織全体の文化の両方がGRCの方向性を完全に支持しない限り、GRCはほぼ確実に失敗するということだ。

倫理を優先する考え方が従業員と利益を守る

経営者、起業家、インフルエンサーなど、今日の社会におけるリーダーは、デジタル競争に「勝つ」ことだけを考えるべきではない。変革は短距離走ではなくマラソンのようなものだが、いずれにしても技術が重要である。競争上の優位性という最終目標を達成するためには「何を行うか」と同様に「どのように、なぜ行うか」が欠かせない。

これは、組織のすべての部門に当てはまる。オーナーや従業員などの内部の利害関係者は、倫理に対する周縁的アプローチを黙認することで、自分のキャリアや評判を危険にさらす。顧客、投資家、サプライヤーなどの外部の利害関係者も、内部の利害関係者と同様に多くのものを失う。この事実をお互いに理解しているからこそ、業界・業種を超えた透明性の追求が可能になる。

自身の監視下での倫理的堕落を許容した個人や企業に対する大規模な攻撃を観たことがあるだろう。同じような経験をするリスクを完全に排除することは不可能だが、リスクを管理することはできる。危険なのは、DXの「技術面から目をそらす」ことによって、全体像を見渡せなくなってしまうことだ。

このリスクを軽減し、真に倫理的な方法でデジタル時代の課題に立ち向かおうとする企業は、組織の内外で、倫理性、透明性、包括性の意味についてシンプルに話し合うことから始める必要がある。そして、必要に応じて行動を起こし、組織全体で先入観を持たずにその会話をフォローしていく。

組織がかつてないほど急速に活動し、変化している今、イノベーションの遅れを心配するのは賢明だが、適切なすべての倫理的配慮を行う時間はある。それを怠ると組織の先行きは危うい。

関連記事
倫理的データ慣行の青写真を描くための4つのステップ
社会貢献するテクノロジー企業に投資するVCが増えない理由
【コラム】パブリッククラウドにおけるセキュリティ課題の解決に向けて

カテゴリー:その他
タグ:コラム倫理DX

画像クレジット:Janis Lacis / Getty Images

原文へ

(文:Angela Love、翻訳:Dragonfly)

急進的なイーサリアムの起業家たちが「DIY性的暴行証拠収集キット」を再定義、支持も非難も受ける野心的なLeda Healthのプロジェクト

投資家たちは彼らを「ディスラプティブイノベーター」(古い価値を破壊し、新しい価値を創造する革新者)と称する。ノースカロライナ州司法長官のJosh Stein(ジョシュ・スタイン)氏は、彼らを「悪質な詐欺師」と表現する。一方、Leda Healthの共同創業者であるMadison Campbell(マディソン・キャンベル)氏とLiesel Vaidya(リーゼル・ヴァイディヤ)氏は、自らを性的暴行被害者の擁護者だと考えている。

Ethereum(イーサリアム)を使用して反体制的ユースケースに取り組んでいるフェミニストたちにとって、Leda Healthの性的暴行被害者のためのDIY証拠収集キットは極めて野心的なプロジェクトだ。これまでのところ16名の連邦議会議員がLeda Healthの発売予定のキット非難しており、ミシガン州のDana Nessel(ダナ・ネッセル)司法長官は「臆面もなく#MeToo運動を利用して金銭的な利益を得ようとしている」と述べている。ニューハンプシャー州ユタ州は、まだ発売前であるLeda HealthのDIYキットをほぼ禁止に近い状態にした。しかし、キャンベル氏とヴァイディヤ氏はこうした動きを受けても躊躇することはなかった。

関連記事:NFT(非代替性トークン)をフェミニストのために使うバンドPussy Riotが「サイファーパンク」の力を示す

キャンベル氏自身も被害者であり、暴行を受けた後すぐに警察に行かない理由を知っている。彼女の場合、トラウマと格闘し、名乗り出ようとする頃には、その声は無力なものになっていただろう。

「あらゆる州において、レイプキット失われています」とキャンベル氏はいう。「性的暴行の被害者が私に連絡をしてきて、この製品は自分の人生を変えてくれるかもしれないと言ってくれたことが、私を前進させ続けている理由です」。

キャンベル氏によると、同スタートアップは2021年秋にこれらのキットの提供を開始し、複数の大学と提携してベータ版を展開する計画だという。この自宅採集キットを補完する支援サービスとして、ライセンスを受けたファシリテーターが運営するセラピーやTransformative Justice(変革的正義)グループが用意されている。

「私たちは企業間取引(Business to Business、B2B)の会社になることを計画しています。大学や企業、軍隊などのパートナー向けです」とキャンベル氏は述べた。「私たちの目標は、最終的に教育機関が学生たちを救済するための製品やサービスの費用負担を行うことです。これが有用であるかどうかを示す多くのケーススタディが必要なこと、そしてそれが難しいことはわかっています【略】説明責任や境界線についての損害を訴えた人々との修復作業を含めて、損害のサイクルを終わらせようとしています」。

医療機関への無料の治療サービスやリソースの提供から始めるのは、簡単なことのように思えるはずだ。しかし、これらのキットは法執行機関や関連診療所が管理するレイプキットよりも法廷での有効性が低いため、被害者に誤った希望を与えてしまうと批判者は主張している。一方で、毎年何万ものレイプキットが警察によって検査されない状態にある。

ヴァイディヤ氏は、Leda Healthのイーサリアムを利用したモバイルアプリは、キットに収集された証拠をタイムスタンプするブロックチェーン技術を使用して、被害者に自分のアカウントを記録する選択肢を提供し、被害者の手に力を取り戻すものだと述べている。

「承諾の証明をビジネスにするものではありません。リソースの提供をビジネスにしているだけです」とヴァイディヤ氏は続けた。

カリフォルニア州リバーサイド郡のJohn Henry(ジョン・ヘンリー)地方検事補は、この種の商品は初めてだろうと語る。理由の如何にかかわらず、すぐに法執行機関に訴えることをためらう被害者に対して、これが助けとなるかどうかを判断するのは時期尚早だという見解を同氏は示している。タイミングも重要な要素の1つだ。被害後すぐに病院に行けなかった場合、生物学的証拠を収集することはできない。

「看護師や警察は、質問すべき内容や、どこでフォローアップすべきか、どのような情報が重要なのかについて、一定の経験と訓練を積んでいます。それは一般市民が持ち合わせていない知見です。私は検察官として、法執行機関や医療関係者による陳述や追加調査を考慮していきたいと思います」とヘンリー氏は述べた。「キットが規制やベストプラクティスと相反する方法で収集されていても、容認できないものではありません。しかし、陪審員はそれを十分に勘案する必要があります【略】証拠が存在しない場合とは対照的に、ある種の証拠の有用性は存在し得ると思います。Leda Healthが良いアイデアなのか悪いアイデアなのかについて、決定的な意見を述べることは現時点ではできません」。

どのような種類のレイプキットであっても、単独では有罪判決や追放措置を導くことはできず、広範な調査の一環として使用されるツールに過ぎない。それでも、被害者が自分のデータを管理するという考えに対し、激しい反発が起きている。

「2019年に、私たちのオフィスに不法侵入がありました」とヴァイディヤ氏は語る。「また、私たちに刑務所行きを求めるソーシャルメディアへの投稿に潜在的な投資家が関わっていたことも記録しています」。

現在も2人は日常的なオンラインハラスメントを受けているとキャンベル氏は言い添えた。

「2019年以降、会議やオフィスから自宅へ帰るのにUberを使用しています。弁護士から地下鉄に乗らないようにと言われたからです。後をつけられるかもしれません」。

物議を醸しているこのキットは、目立たない箱の中にビニール袋、綿棒、説明書が入っており、すべてにQRコードが記されている。ユーザーはLeda Healthのアプリをダウンロードして情報を入力し、破れたショーツなど暴行の証拠になるものを個別のZiplocの袋に保存する。

「ブロックチェーンはアカウンタビリティ(説明責任)を創出します。こうした記録は変更できないからです」とヴァイディヤ氏はいう。「データにアクセスできるのは私とおそらくもう1名の社員だけで、データは暗号化されています【略】時間とプロセスに関するアクセスロックが存在し、法的権限による強制を受けた場合には、データにアクセスできる可能性があります」。

Leda Healthは、複雑なイーサリアムのソフトウェアサポートの大部分をブロックチェーンのスタートアップDeqodeに委託している。DeqodeのエンジニアShivam Bohare(シバム・ボハレ)氏によると、Leda Healthのシステムは、Coinbase Venturesから投資を受けたBlocknativeと、イーサリアムの共同創業者Joe Lubin(ジョー・ルービン)氏が部分的に所有するスタートアップInfuraが提供するイーサリアムのインフラサービスを利用しているという。暗号化されたデータとプロファイルは特定のユーザーアカウントにアタッチされており、セルフカストディ(自己保管・自己管理)のトークンにはアタッチされないため、このアプリのブロックチェーンのアスペクトはすべて内部で発生する。ユーザーはイーサリアムについて何も知る必要はない。

「ユーザーデータへのアクセスは、厳重な認証により保護されています」とボハレ氏は説明する。「データがクラウドにアップロードされた後は、Leda Healthの管理者からの適切な承認がない限り、ユーザー自身のデータにアクセスすることはできません」。

警察によって管理されるキットとは異なり、被害者は弁護士や当局に引き渡すまでキットを物理的に保持することができる。自身のケースが、システムの中で失われる何千ものケースに埋もれてしまうことを懸念するには及ばない。またこのDIYキットは、アプリ内に保存された記録とともに、集団セラピーセッションのような法廷外でのメディエーションにも利用できる。

「米国の裁判システムにおいて、自己収集された証拠は極めて一般的な性質のもので、許容性などの問題について定期的に分析されていることを人々は忘れがちです」と、Leda Healthで顧問弁護士を務めるJiadai Lin(ジアダイ・リン)弁護士は指摘する。

実際、カリフォルニア州モントレー郡で2020年4月、パンデミック対策として開発された暫定的なプロセスの下で、別の民間企業が提供したレイプキットが使用されたことが報告されている

「被害者は自身の身体に関する情報を自らの条件で収集する権利を持つべきであり、起業家はイノベーションに挑む姿勢を持つべきであると私は考えます」とリン氏はいう。「この製品を禁止しようとする立法上の動きは、過度に制限的なものだと思います。そのことが、Leda Healthを支援しようという気持ちをさらに強くしています」。

批評家たちは、同スタートアップの起業家的アプローチを貪欲な機会主義と評している。ハーバード大学ロースクール出身で、ハーバード法律ビジネス協会の共同会長を務めたこともあるRomeen Sheth(ローメン・シェス)氏のようなLeda Healthの投資家たちは、営利戦略がすでにこの分野で活動している非営利団体を補完すると考え、このスタートアップに投資してきた。これまでのところ、Leda Healthはおよそ200万ドル(約2億1770万円)を調達している。

「どの業界においても、ディスラプティブイノベーションは快く受け入れられるものではありません。既存の企業がその精神で活動を開始することはないでしょう」とシェス氏はいう。「私はユーザーを最優先する製品やサービスには前向きです【略】現状維持ではなく、前進への投資に関心を抱いています。Leda Healthは自らの精神を定義しています。その取り組みを通じて、性的トラウマやセクシャルハラスメントを抱えることが恥ずべきものでないことを示し、苦痛やトラウマが取り除かれることを願っています」。

キャンベル氏とヴァイディヤ氏はプロトタイプの開発を終え、Leda Healthではすでに、ライセンスを受けたセラピストが率いる性的暴行被害者支援グループの提供を開始している。

「現在2つのグループが活動中で、5月からはさらに5つのグループが活動を開始します」とヴァイディヤ氏は述べている。

好感を持つか否かは別として、ブロックチェーンに精通した起業家たちが、特に女性に対するサポートが著しく不足している現状に挑戦していることは紛れもない事実だ。

「報告不足、大量のキットの未処理、全般的なサポートサービスの欠如などを含む現状維持に関わる代償は、性的暴行被害者にとって大変大きいものです。Leda Healthは、革新的で低リスクのソリューションが存在することを実証しています」と投資家のDuriya Farooqui(ドゥリヤ・ファルーキ)氏は語る。「また、暴行被害者がすぐに通報しない理由の1つとして、レイプキットで証拠を収集する手続きが侵襲的に感じられ、それ自体がトラウマを助長する可能性があることが挙げられます。Leda Healthが望むのは、選択肢を提供することです」。

カテゴリー:フェムテック
タグ:Leda HealthEthereum

画像クレジット:Leigh Cuen

原文へ

(文:Leigh Cuen、翻訳:Dragonfly)

「音声認識AIの競争に対する懸念が高まっている」とEUが発表

欧州連合はおよそ1年にわたり、AIを使用した音声アシスタントおよびテクノロジーと連携したモノのインターネット(IoT)に関連する競争の影響を調査してきた。今回紹介する1回目の報告では、EU委員会の立案者が表明する潜在的な懸念が、今後の幅広いデジタル法案決定への情報提供に役立つかどうかという点が扱われる。

2020年末に提出されたEUの法案の大部分は、その地域で実行中のいわゆる「ゲートキーパー」プラットフォームに対する法規の事前適用に向けて、すでに準備が整っている。EU全土に適用されるデジタルサービス法にまとめられた、仲介を行う強力なプラットフォームに当てはまるビジネス規範「命令事項および禁止事項」のリストも含まれている。

しかしもちろん、テクノロジーを活用する流れが止まることはない。競争政策を担当するMargrethe Vestager(マルグレーテ・ベステガー)氏はこれまで、音声認識AIテクノロジーに注目してきた。自分の部門で「データへのアクセスがどのようにマーケットプレイスを変えるのか探っている」と彼女が述べた2019年には、ユーザーの選択に対して引き起こされる課題に関する懸念を表明していた。

関連記事:EU競争政策担当委員の提言「巨大ハイテク企業を分割してはいけない、データアクセスを規制せよ」

委員会は2020年の7月に、IoT関連の競争に関する懸念について精査するため、セクターごとの調査を発表し、確かな一歩を踏み出した。

これは、コンシューマー向けのIoT製品やサービスに関連する市場で(ヨーロッパ、アジア、米国で)事業を展開する200以上の企業を対象とした調査に基づき、現在、暫定報告書として公開されている。さらに、最終報告が来年の前期に発表される前に、(9月1日までの)調査結果に対するさらなるフィードバックを要請している。

競争に関して明らかになった潜在的な懸念のうち、主な分野には、同じスマートデバイスで異なる音声アシスタントを使用しにくくする音声アシスタントおよび手法に関連した、独占行為または結託行為がある。また、ユーザー、さまざまなデバイス、サービスの市場との間で、音声アシスタントおよびモバイルOSが担う仲介的な役割も懸念となっている。この場合の懸念は、プラットフォーム音声AIのオーナーが、ユーザーの関係性を管理することで、競合他社のIoTサービスが発見される可能性や可視性に影響を与える可能性があるという点である。

データへの(不平等な)アクセスに関連した懸念もある。調査の参加者は、プラットフォームと音声アシスタントのオペレーターが、ユーザーのデータに対して広範囲にアクセスできると述べた。これには、サードパーティーのスマートデバイスやコンシューマー向けのIoTサービスと通信した内容が、仲介的な音声AIを使用することで取得されてしまう可能性も含まれる。

委員会のプレスリリースには「セクター調査に協力した人々は、データへのアクセスと集積された膨大なデータにより、音声アシスタントを提供する側は、汎用音声アシスタントの改善や市場優位性に関連した利点を得られるだけでなく、関連する業界にも容易に応用することが可能になると考えている」と記されている。

第三者の業者が保有するデータを、Amazonが使用しているという点に関するEU独占禁止法の調査(現在進行中)にも、同じような懸念が表れている。このデータとは、Amazonが電子商取引マーケットプレイスから取得できるデータ(委員会によると、オンライン取引市場で競争を妨害する違法行為になり得ると考えられている)のことである。

その報告で注意が喚起されている別の懸念は、コンシューマー向けのIoTセクターにおける相互運用性の欠如である。「特に、音声アシスタントとOSを提供するひと握りのプロバイダーが、一方的に相互運用性と統合プロセスを管理しているため、自社のサービスと比較して、サードパーティーのスマートデバイスおよびコンシューマー向けのIoTサービスの機能を制限することが可能である」とのことである。

上記の点は特に驚くことではないだろう。しかし、該当する地域で音声アシスタントAIの普及率が低い現段階で、委員会が競争上のリスクに対処しようと努めており、採用できそうな対策を思案し始めているのは注目に値する。

委員会はこのプレスリリースで、音声アシスタントテクノロジーの使用率は世界的に高まっており、2020年から2024年で2倍になる(音声AIの数が42~84億個になる)との予想を発表している。とはいえ、Eurostat data(ユーロスタット・データ)の引用によれば、2020年の調査対象で、すでに音声アシスタントを使用したことがあるEU市民は11%のみであった。

EU委員会の立案者は、デジタル開発の現状に精通し、巨大テック企業の最初の波を抑制する上で、競争政策に関連する最近の失敗から学んだはずである。これらの巨大テック企業は、Amazon Alexa(アマゾンアレクサ)、Googleアシスタント、Apple(アップル)のSiri(シリ)を使って、現在の音声AI市場を間違いなく独占し続けるであろう。競争が脅かされていることは明白であり、過去の間違いを繰り返すことがないように、委員会は目を光らせている。

しかし、ユーザーが利用しやすいウェブサイト、プッシュボタン、ブランド化された利便性をUSPとしている音声AIに対して、政策立案者が競争に関する法整備にどう取り組んでいくのか、これから明らかになっていく点も多いだろう。

相互運用性を強制すると複雑になる可能性があるため、使いやすさという点では好ましくない。また、ユーザーデータのプライバシーなど、他の懸念が浮上する可能性もある。

コンシューマー向けのテクノロジーについてユーザーが意見を述べ、テクノロジーを管理できるようにするのは良いアイデアだが、少なくともまず、選択できるプラットフォームの在り方そのものが操作されるまた搾取されるものであってはならない。

IoTと競争に関する問題が数多くあるのは確かだか、独占プラットフォームがすべての基準をもう一度定めることがないように規制措置を事前に講じることができれば、スタートアップや小規模企業にもチャンスが訪れる可能性がある。

ベステガー氏は声明に対するコメントとして「このセクター調査を開始した時点では、このセクターでのゲートキーパーのリスクが新たに高まっているのではないかと懸念していました。大企業の持つ影響力により、新興ビジネスやコンシューマーに損害をもたらすほど競争が妨げられることを心配していました。現在発表されている最初の報告から、セクター内の多くの関係者が同じ懸念を抱いていることは明らかです。コンシューマーの毎日の生活において、モノのインターネットのすばらしい可能性を最大限に引き出すには、公平な競争が必要です。この分析結果は、今後の法案施行と規制措置に役立ちます。関係する利害関係者すべてから、今後何カ月間でさらにフィードバックを受け取ることを楽しみにしています」と述べた。

セクターごとの報告は、ここからすべて閲覧できる。

【更新】ベステガー氏は調査結果に関するスピーチで、いくつかの行為については、将来的に新たな競争防止違反の訴訟につながる可能性もあると述べた。しかし、そうなるのはまだ先のことであると彼女は強調し、委員会には「懸念の範囲を的確に把握する」必要があるとも述べた。

「これまでのセクター調査の結果により、異なるスマートデバイスとサービスをつなぐオペレーティングシステムと音声アシスタントの主な役割がはっきりしました。この役割により、オペレーティングシステムおよび音声アシスタントのプロバイダーが、競争にマイナスとなる影響を与える可能性があると、回答者は注意を喚起しています。EUでは、Googleアシスタント、Amazon Alexa、AppleのSiriが音声アシスタントの分野で優位に立っています。加えて、グーグル、アマゾン、アップルには、 スマートホームやウェアラブルデバイスのオペレーティングシステムがあり、それぞれデジタルサービスを提供し、スマートデバイスを生産しています」とも語った。

「異なるデバイスとサービスでの通信や相互運用性はほとんどの場合、このような企業に依存しています。加えて、音声アシスタントはユーザーについて多くのことを学習します。スマートデバイスとモノのインターネットサービスは、家にいる時のユーザーの活動に関する大量のデータを生成します」。

「データへのアクセス、ユーザーへのアクセス、切り替えの難しさなど、現時点で明らかになった課題の多くは、デジタルマーケットで法を施行する場合と同じような課題です。実際、デジタルマーケット法に関連して委員会が提案する命令事項および禁止事項について、調査機能によって数多くのケースが報告されています。現段階での事前調査結果と、今後何カ月かの取り組みにより、デジタルマーケット法の対象に関する討議に、セクター調査が寄与することは間違いありません」と付け加えた。

「競争の強化と補完的法的措置によって、すべての人が恩恵を受けられるデジタル経済を作り上げることが目標です。その目標を実現するには、コンシューマー向けのモノのインターネットを含むデジタルマーケットが、どんな規模のビジネスでも参入して成長できる場となり、コンシューマーにとってオープンかつ公平であるかどうかを確かめていく必要があります」。

【更新】委員会の報告に対して、Amazonから送られた声明は以下のとおりである。

スマートホーム分野においては、多くの企業による競争が激化しています。1社だけが勝者となることはなく、勝者となるべきでもありません。弊社では当初からのこの認識に基づいて、アレクサを設計しました。現時点で、アレクサには14万個以上のスマートホーム製品と互換性があるため、デバイスを生産する企業が独自の商品とアレクサを簡単に統合できます。また、1台のデバイスから複数の音声サービスにアクセスできるように、お客様が柔軟に選択できる取り組みとして、音声相互運用イニシアチブ(現在80社が参加中)にも出資しています。

関連記事:グーグルがEUの圧力を受けAndroid検索エンジンの選択画面オークションを廃止、無料化へ

カテゴリー:ソフトウェア
タグ:音声アシスタントAIIoTEUAmazon AlexaGoogleアシスタントSiri

画像クレジット:Joby Sessions/T3 Magazine / Getty Images

原文へ

(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

SF作家に聞く「スペキュレイティブ・フィクション」はこのクレイジーな世界で何かを教えてくれるのだろうか?

マーク・トウェインが「Truth is stranger than fiction(真実は小説より奇なり)」という言葉を残しているが、私たちはこの1年、極めて奇妙な現実を経験してきたと言っても過言ではない。このような混乱と変化の中で、私たちは根本的な疑問に導かれた。それは、スペキュレイティブ・フィクション(現実世界と異なった世界を推測、追求したもの)、そして隣接するジャンルのSFやファンタジーが向かうところだ。私たちの世界の大部分が、これらの作品が描くファンタスティックな世界をすでに体現しているように見える。

そこで筆者は、Eliot Peper(エリオット・ぺーパー)氏とGmailを介して対談する機会を得て、2020年の振り返りと、スペキュレイティブ・フィクションの意義、そして芸術の未来について語り合った。ぺーパー氏は不定期に執筆活動をするフィクションコラムニストで、著書に「Veil」やAnalogシリーズ3部作などのスペキュレイティブ・フィクション小説がある。

この会話は一部編集の上、要約されている。

Danny Crichton(ダニー・クライトン):スペキュレイティブ・フィクションの将来に注目しています。私たちは、パンデミックと数々の深刻な気候変動という、このジャンルの素材ともいえる出来事に直面する1年を経験しました。現実が想像の生み出す扁桃体と隣り合わせのように思われる中で、どのように推測(スペキュレーション)を続けていますか?

エリオット・ぺーパー氏: 現在の事象を通して痛感することは、現実は、フィクションと違って現実的である必要はないということです。世界は複雑であり、いかに理知に富んだ人でも、実際に起きていることをほんのわずかしか理解していません。次に何が起こるかは、誰にもわからないのです。サイエンス・フィクションの中で生きているように感じるかもしれませんが、それは私たちが常にサイエンス・フィクションの中で過ごしてきたからです。あるいは、スペキュレイティブ・フィクションは、いわゆる現実的なフィクションよりも現実的かもしれません。明日は今日とは異なり、私たちが予想するものとは異なるという唯一の確実性があるからです。根本的な変化のない世界を描写することが、空想的なものとなっています。

スペキュレイティブ・フィクションの作家として、私は歴史の熱心な読み手です。過去について読み、求知心を満たして将来の可能性を想像する中で、現在というのは極めて偶発的で、魅力的で、一過性であることを認識しました。私にとって、スペキュレイティブ・フィクションは予想というよりも、ジャズミュージシャンがスタンダードを越えて即興するように、世界の移り変わりをリフするものです。正確という概念は間違いの存在により生じます。この上なく魅力的な演奏は、人々の思い、夢、感情をかきたてるものがあるから、魅了するものとなります。そして、テクノロジー的なレバレッジがあるからこそ、人々はより大きな広がりをもって、良い方向にも悪い方向にも未来を創り出していくのです。

ですから私は、現実がスペキュレイティブ・フィクションに追いつくことを懸念していません。スペキュレイティブ・フィクションは人間の現実体験に根ざしています。すべてのブラックスワン・イベント(連鎖反応を引き起こす予期せぬ事象)は、新しい素材でしかありません。

クライトン:そのことは、現実的なフィクションとスペキュレイティブ・フィクションの境界を曖昧にしてしまい、作品の分類を難しくしているように私には思われます。私にとってパンデミックの現実は、地球全体に新しいウイルスが定着するというブラックスワンではなく(つまるところパンデミックは歴史上広く存在する)、私たちが目の当たりにした「混乱に満ちた対応」というブラックスワンであり、そうした対応はことごとく不秩序を極めたものとなりました。

もし私がスペキュレイティブ・フィクションのシナリオを描くとしても「医学の進歩により治療法が飛躍的なスピードで開発されるが、人々による日常の対応が、自らの行動を通じて死者の数を大幅に増やすことに帰する」と考えることはできないと思います。私はスペキュレーション的なものを思うとき、劇的なもの、例外的な何かを想像しますが、今回のブラックスワンは、私たちの生活のありふれた行動が、事象の流れに影響を与える力を持つことを示しています。

ぺーパー氏:スペキュレイティブ・フィクションは「what if?(もし~だとしたら)」という問いにまつわるものです。もし宇宙飛行士がひとり火星に取り残されたらどうなるか?遺伝子工学者が恐竜を復活させ、アミューズメントパークに閉じ込めたら?すべての人がシミュレーションの世界で生活しているとしたら?私の最新小説Veilのもとになった問いは「億万長者が地球工学を駆使して地球の気候を支配したらどうなるか」というものでしたが、こうした問いは人の心を引きつけます。想像力を呼び起こし、好奇心を刺激します。これも良いことですが、出発点に過ぎません。

スペキュレーション的な設定を成功させるには、ストーリー全体に2次、3次、4次の効果が波及するようにドミノを配置する必要があります。モメンタムを構築するのです。漸進的な複雑性がラチェットのように締め付ける働きを担います。予期しない逆転により、読者を前に進めます。地震がサンフランシスコを平らにするというストーリーであれば、ベイブリッジの崩壊、湾岸高速鉄道の洪水、停電、ガス漏れ、火災など、物理的な影響の可能性を想像するのは簡単です。社会的影響の可能性を想像することは、あまり明確なものではありませんが、少なくとも同等の重要性はあります。人々は隣人を救出するために命を危険にさらすのか、それとも限られた緊急物資のために戦いを繰り広げるのか。知事や大統領は、それぞれの個性、インセンティブ、選挙区を考慮しながら、どのように対応するのか。こうした事象は、ベイエリアの社会構造をどのように再構築していくのだろうか。(これも重要なことだが、Dwayne Johnson[ドウェイン・ジョンソン]氏はどこにいるのか?)人々が事象にどのように反応するかは、事象がどのように展開するかにとって欠かせない要素です。

2020年4月に発表されたLawrence Wright(ローレンス・ライト)氏の「The End of October」は、世界的なパンデミックに対する社会的・政治的反応の複雑で連鎖的な事象の推定という点で不気味なほど的確な作品となっています。Kurt Vonnegut(カート・ヴォネガット)氏の「Galápagos」は、現実的であることが不条理と感じるような世俗的で荒廃した人間の近視眼によって導かれる終末論的なシナリオを描いています。サイエンス・フィクションの中にはテクノロジーの変化における指標に主眼に置くものもありますが、Ada Palmer(エイダ・パーマー)氏の秀逸な「Terra Ignota」シリーズは、想像を絶する厳格さを持つ架空の未来の文化的、政治的、社会学的側面を映し出しています。人間の行動は往々にして、元のシナリオの影響に変化と増幅をもたらし、その過程で新しい世界を形作るXファクターとなるのです。

ただ、これはより深い疑問を示唆しています。フィクションは何のためにあるのでしょうか?

私はフィクションを描くとき、現実の正確な描写や予測を意図してはいません。私は、読者を感動的で、驚異的で、充足感のある旅に導くための体験を生み出そうとしています。現実世界の特に興味深い側面に根ざしたシナリオを推定することにも楽しさはあるかもしれませんが、その成功が正しい方向に向かうとは限りません。成功は、読者が夜深くまで読み進めて、自分では表現できない、忘れられないストーリーの先に何が起こるのかを見い出すことにあります。

Neil Gaiman(ニール・ゲイマン)は、おとぎ話は真実以上のものだと好んで主張しています。それは、ドラゴンが存在することを伝えているからではなく、ドラゴンを倒すことができることを伝えているからです。スペキュレイティブ・フィクションでは、私は深い感情的な真実を明らかにしたり、歴史の流れを形作る根底にある力を明らかにしたりするストーリーに惹かれます。たとえそれが、壮大でありながら、文字通りの詳細についてはおかしいくらい間違っていたとしてもです。これは、テクノロジー的な正確性を追求することが悪いということではなく、単にそれが常に重要なことではないということです。重要なことは、世界の違いを考えさせ、感じさせ、想像させることではないでしょうか。

クライトン:最後の点について、想像力とその変化への力についてあなたがどのように考えているかに興味があります。明らかに、芸術は歴史を通して人々の想像力に持続的かつ強力な影響を与えてきましたし、大きな社会的、文化的、政治的変化にはしばしば芸術的な先例が存在します。しかし、歴史的に見て、少なくとも私の観点からは、その力の一部は、その希少性と意外性にあると思われます。

私たちは今、テレビゲームから映画、テレビ番組のストリーミング、本やグラフィックノベルなど、想像力に富んだ世界に囲まれています。時間の使い方に関する研究を読むと、アメリカ人は起きている時間の大半を想像力に満ちたコンテキストの中で過ごしている可能性があるということです。芸術における想像力の広がりの極まりと、日常生活における変化の極微さとのギャップをますます感じるようになってきたと私は感じます。それは芸術が変化を引き起こす力を脅かしているのでしょうか?スペキュレーションは依然として、行動につながり得る活動でしょうか?

ぺーパー氏:スペキュレーションは、人間であるということの一部です。私たちは選択をする前に、起こり得る結果を想像します。潜在的な未来を空想の中でシミュレートしてから、それを現実にコミットします。私たちの頭の中の予想は往々にして間違っていることもありますが、有用であることも多くあります。良くも悪くも、思考の実験は、私たちの内的生活の基礎になっています。この個人の動的な性質は、人々の集合体へと拡大していきます。より良い未来を想像することは、それを構築するための第一歩です。

芸術は想像の手段です。映画製作者は、人々が鑑賞し、鑑賞する中でそれぞれの想像力を発揮することができるように、自分のビジョンを映画に体系化します。時には文化と呼ばれるものを形成する、さらに多くのプロジェクトへとスピンオフする新たな創造的な試みを生み出すことさえあります。テクノロジーのおかげで、これまで以上に多くの映画、本、歌、詩、写真、絵画、コミック、ポッドキャスト、ゲームが、より多くの人々にとって入手しやすくなりました。想像の世界は、経験するにつれて現実世界の不可欠な部分となり、実際の事象に意味や可能性を重ねていきます。私たちは常にお互いの現実を解釈し、その過程で変換させています。この過程の密度と強さが増しているのは、より多様な次元に沿ってお互いをより緊密に結びつけようとする個体群の増加の結果といえるでしょう。

しかし、テクノロジーは新しい芸術メディアを実現し、人々が芸術を創造し、発見し、体験する方法を変えただけではありません。テクノロジーは人間の選択がもたらす影響を増幅します。ヒポクラテスはmRNAワクチンの発明には至らず、チンギス・ハンは核の黙示録を始めるボタンを押すこともなく、オデュッセウスはコードではなく木でトロイの木馬を作りました。

私たちのツールは、祖先が想像もしなかったような強大な力を私たちに与え、私たちの決定の結果はそれに応じて拡大します。テクノロジーの創意は道徳的に中立であるため、テクノロジーの発展は、時代を超えた人間の営みの問題を解決する上で重要な役割を担っています。良い生活を送り、より大きな善に貢献し、良い祖先になることは何を意味するのでしょうか。それは芸術家が多様で、不完全で、矛盾し、時には非常に価値のある地図を提供するような、道徳的地理学ともいうべきものです。ある意味、テクノロジーが私たちに力を与えるほど、私たちは芸術を必要とするのです。

関連記事
映画「メッセージ」の原作者テッド・チャンが問いかける自由意志の意味
アイザック・アシモフ生誕100年を迎えて
現実に追いつかれた? 未来の民主主義を描いたマルカ・オールダーの最新SF小説『State Tectronics』

カテゴリー:その他
タグ:インタビューSF

画像クレジット:Bonnie Tarpey – Wronski / EyeEm / Getty Images

原文へ

(文:Danny Crichton、Eliot Peper、翻訳:Dragonfly)

NYのトップホテルMint House、新型コロナの影響でそのおもてなしビジネスに変化

ニューヨーク市内の一流ホテルはどこであろう?TripAdvisor(トリップアドバイザー)ユーザーによると、それは Mint House at 70 Pine(ミントハウスアット70パイン)だ。写真を見てみるとその理由は明らかだ。ニューヨーク市内のホテルの部屋は基本的には、必要なすべてのものがコンパクトに収まったお弁当箱のようなものだが、Mint Houseの客室は違う。Mint Houseの客室はまるでマンションの部屋のようであり、旅行者はそれに注目している。

新型コロナのパンデミックにより、Mint Houseの業務形態が変わったが、各国で経済再開が始まる中、同社は出張者と観光客を迎え入れる状態にある。

Mint Houseは2017年に創業し、サービスを拡大しながら2019年には1500万ドル(約16憶円)の資金を得た。当時、Revolution Venture(レボリューションベンチャー)の管理パートナーでMint Houseの投資家であるTige Savage(タイグ・サベージ)氏は同社について「Mint Houseはホテルの良いところとAirbnb(エアビーアンドビー)の良いところだけを併せ持つ最高のホテルだ」と説明した。

同社は従来のホテルとは異なり、Airbnbで借りられる部屋のような客室を提供しているが、ホテルのようなサービスも提供しているのだ。Lyric(リリック)と呼ばれる別の企業も同様のサービスを提供しようとし、最終的に廃業する前に 1億5000万ドル(約164億円)調達していた

Mint Houseはそもそもセカンダリーマーケット(訳者注:ニューヨーク市以外)の出張者をターゲットにしていた。新型コロナが流行する前は主にインディアナポリス、デンバー、ナッシュビル、マイアミ、デトロイトで部屋を提供していた。Mint HouseのCEO Will Lucas(ウィル・ルーカス)氏は当時、こうした市場は、主な市場よりも宿泊状況が悪い場合が多いため、機会があったと説明した。

コロナ禍により、Mint Houseの軌道に変化があった、とルーカス氏はTechCrunchのインタビューで語った。パンデミックになったばかりのころ、サービス業は落ち込んだ。Mint Houseでも利用率が60%から一桁台に落ち込み、顧客への返金に応じて、従業員を一時解雇する必要があった。だが新しい営業チームメンバーを通じて徐々にMint Houseの提供するサービスがパンデミックに適していることがわかった。職場に行けなくなった人々は住む場所と仕事をする場所が必要だったのだ。出張する医療専門家には、第2の我が家が必要になった。一部の大学生は学生寮から追い出されても、授業には出席しなければならなかった。Mint Houseのマンションの一室のような客室は、キッチンといえばコーヒーメーカーと小さな冷蔵庫だけといった従来のホテルの客室と比べて、魅力的なものであった。Mint Houseの客室には、キッチンとリビング、そして最近需要が高まっている仕事スペースが付いているのだ。

パンデミックの状況に慣れてくると、Mint Houseでは宿泊数に大きな変化が見られた。コロナ禍になる前の平均宿泊数は4泊だったが、コロナ禍における平均宿泊数は21泊であった。これは宿泊者のニーズが変わったためだ。会議のために飛ぶ代わりに、長期的にリモートで働く場所が必要とされていた。パンデミックの真っただ中では、宿泊客の81%がリモートワーカーであった。

Mint Houseの主な特徴は、ソーシャルディスタンスを実践するためのようにも見えるが、これはパンデミックの前から採用されていたものだ。宿泊客はフロントデスクでチェックインをする必要がなく、カードキーもない。また食品等を注文して、到着前に部屋に運んでもらうようにできる。このサービスはビジネス旅行者用のホテル以外ではほとんど見かけることはないが、今や観光旅行者にも需要がある。またすべてのロケーションでカスタマーサービスが一元化されている。

2020年はサービス業のほとんどが弱っていたが、Mint Houseはすばらしい成長を遂げていた。パンデミックが始まってから数カ月後、Mint Houseの利用率は新記録を達成した。6月までには、客室の84%が予約で埋まり、2020年はその後も平均して80%以上の利用率を保った。また2020年後半にはポートフォリオを50%以上倍増し、成長した。

パンデミックのどん底からおよそ1年経った現在、Mint Houseは13の市場で24棟のホテルを展開している。

同社はニューヨーク市内では大手と競合しているとCEOのルーカス氏は言及した。

「ニューヨーク市内では2021年、平均して2.2倍のRevPAR(販売可能客室売り上げ)を上げている」と同氏。「当社のCompSet(競合社、この場合は競合ホテル)は、2つのThompson(トンプソン)ホテル、3つのMarriott(マリオット)ホテルとHilton(ヒルトン)ホテルなど、非常に手ごわい大手ホテルだ。当社は利用率ナンバーワン、ADR(平均販売価格)ナンバーワンで、総合してもCompSetを上回っている」。

ルーカス氏は、これらのランキングはMint Houseの強みと従来のホテルブランドからの差別化を示していると確信しているが、さらなる成長のために老舗ホテルブランドからエグゼクティブを迎え入れた。

Mint Houseは最近、新しく数名のエグゼクティブが加わったことを発表した。Domio(ドミノ)、Hilton(ヒルトン)、MGM Hospitality(MGMホスピタリティー)、Marriott(マリオット)で働いていたJim Mrha(ジム・マルハ)氏をMint HouseのCFOとして迎え入れ、TPG Hotels & Resorts(TPGホテルズ&リゾーツ)とStarwood(スターウッド)の元投資担当者兼エグゼクティブのPaul Sacco(ポール・サッコ)氏は最高開発責任者(CDO)として加わった。また、トラベルeコマーススタートアップPorter & Sail(ポーター&セイル)のエグゼクティブであったJess Berkin(ジェス・バーキン)氏は新しくマーケティングおよび通信のエグゼクティブに就任した。

「当社はこれから本当に猛進すると思う」とルーカス氏は自慢げに語った。

世界が再開へと進む中、Mint Houseはアグレッシブな成長戦略に取り組もうとしている。同社は販売可能客室数を倍増し、1カ月以内のロンドンへの進出から初め、最終的には南米まで、全国に進出することを考えている。

2021年も半分を過ぎ、パンデミックも落ち着く中で旅行が再び変化し始めている。Mint Houseの平均宿泊数は2020年の21泊から6泊程度に下がっている。ルーカス氏によると、これは観光旅行者が増加しており、短期出張も戻っている。そしてホームオフィスから離れて、マイアミなどの新しい場所でリモートワークをする新しいタイプのビジネス旅行者もいる。

Mint Houseはホテルと、Airbnbが提供するような短期レンタルの中間に位置付けられる。ホテルが提供する利便性と信頼を提供しながら、短期レンタルのスタイルと心地よさも提供するのだ。同社がその計画を遂行できるのであれば. 最近行ったエグゼクティブの雇用が役に立つはずで、ニューヨーク市内、そして全米ならびに世界でHiltonやMarriottと十分に渡り合っていける。

関連記事
スマホ利用の非接触チェックインが可能な宿泊施設向けaiPassでオンライン決済可能に、VeriTrans 4Gとの連携で実現
自然の中にあるセカンドホームに好きな時に定額で泊まれる「SANU 2nd Home」、SANUが先行申込みの受付開始
スマホ見せればチェックイン、宿泊業界のDXに新たな風をもたらすクイッキン

カテゴリー:その他
タグ:ニューヨークホテル新型コロナウイルス

画像クレジット:Mint House

原文へ

(文:Matt Burns、翻訳:Dragonfly)

AIの中心に人間を据える新しいアプローチのVianai SystemsをSoftBank Vision Fund 2が支援

インドのIT大手Infosysの元CEOであるVishal Sikka(ヴィシャール・シッカ)氏が立ち上げたAIスタートアップVianai Systemsは米国時間6月16日、SoftBank Vision Fund 2がリードするラウンドで1億4000万ドル(約154億円)のシリーズBを調達したことを発表した。

この創業2年のスタートアップによると、このラウンドには業界の名士たちが数多く参加し、これまでの調達総額は1億9000万ドル(約209億円)を超えた。同社はシードラウンドで5000万ドル(約55億円)を調達したが、同社のシリーズAに関しては数字の発表がない。

また、パロアルトに本社のある同社の業務についても、詳報はない。しかしプレスへの声明でヴィシャール・シッカ博士は、同社が開発しているのは「これまでよりもベターなAIプラットフォーム」であり、それは人間の判断を広範なAI能力を発揮するシステムの中心に置くことによって、むしろ人間の潜在能力を増幅する。現在54歳のシッカ氏は2017年にInfosysのトップの座を辞したが、そこに至る数カ月は取締役会や創業者集団との間で考え方の鋭い対立が続いた。

声明では次のように述べている。「VianaiはAIとMLの高度かつ多様なツールを駆使して顧客のデジタル変換(DX)のポテンシャルの増幅を支援しますが、それらのツールの使い方が他とはまったく異なり、人間とテクノロジーの能力を思慮深く結びつけていきます。この人間中心型のアプローチにより、Vianaiは他のプラットフォームやプロダクトの企業から差別化され、顧客がAIの本当の約束を得られるようにします」。

同社はすでに、保険大手Munich Reなど世界最大で高く評価されている企業の多くを顧客として惹きつけている。

主な投資家はJim Davidson(ジム・デビッドソン)氏(Silver Lakeの共同創業者)やHenry Kravis(ヘンリー・クラビス)氏とGeorge Roberts(ジョージ・ロバーツ)氏(KKRの共同創業者)、Jerry Yang(ジェリー・ヤン)氏(AMEの創業パートナーでYahooの共同創業者)である。そしてFei-Fei Li(フェイフェイ・リ)博士(スタンフォード大学の「人間中心型AI研究所」の共同ディレクター)が、Vianai Systemsの顧問団に加わった。

SoftBank Investment AdvisersのシニアマネージングパートナーであるDeep Nishar(ディープ・ニシャー)氏は声明で、次のように述べている「AI革命が進行している中で、Vianaiの人間中心型のAIプラットフォームとプロダクトはグローバル企業に、より良い経営意思決定ができるための、オペレーションと顧客の両面に亘るインテリジェンスを提供します。シッカ博士とVianaiのチームと協力して、AIの約束を満たし、より本質的なDXをサポートしていけることは、極めて喜ばしいことです」。

カテゴリー:人工知能・AI
タグ:Vianai SystemsSoftBank Vision Fund資金調達

画像クレジット:Dhiraj Singh/Bloomberg/Getty Images

原文へ

(文:Manish Singh、翻訳:Hiroshi Iwatani)

プライバシー重視を追い風に快進撃中の検索エンジン「DuckDuckGo」がブラウザとしても使えるデスクトップアプリ開発

テクノロジーとプライバシーの保護をめぐる話題が沸騰を続けている。そこで、ユーザーを追跡しないことでかねてから評価の高い検索エンジンのDuckDuckGo(DDG)がこのほど、2020年末に既存および新たな投資家の混成グループから、主に「二次的投資」で1億ドル(約110億円)あまりのバランスシートの底上げを達成したことを明らかにした。

同社のブログで名が挙がっている投資家はOmers Ventures、Thrive、GP Bullhound、Impact America Fund、そしてWhatsAppの創業者Brian Acton(ブライアン・アクトン)氏、「world wide web」を発明したTim Berners-Lee(ティム・バーナーズ=リー)氏、VCでダイバーシティの活動家Freada Kapor Klein(フレーダ・ケイパー・クライン)氏、そして起業家のMitch Kapor(ミッチ・ケイパー)氏などだ。そうそうたる顔ぶれである。

DuckDuckGoによると、二次的投資であることによって、初期の社員や投資家の一部がその財務状態を強化するとともに、株式の一部を現金化できた。

しかし同社はこうも言っている。すなわち2014年以降ずっと利益が出ている同社は「繁昌」しており、1億ドル以上の年商を各年に報告している。したがって今同社は、外部投資家の鍋で煮られ続ける必要がない。

同社の最後のVCからの調達は2018年で、それは、Omers Venturesからしつこく迫られた1000万ドル(約11億円)のラウンドだった。Omersは、今そのい金があれば目標とする成長、とりわけ国際化を達成できる、と口説いた。

DDGには、他にも発表すべき数値がある。同社によると、そのアプリは過去12カ月で5000万回以上ダウンロードされた。それまでのすべての年を合わせたよりも多い。

また月間の検索トラフィックは55%増加し、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど一部の国ではモバイルの検索エンジンのナンバー2の地位を獲得した(StatCounter/Wikipediaによる)。

上のデータは「我々はユーザーを追跡しないのでその数を挙げることはできないが、マーケットシェアの推計とダウンロード数および各国のアンケート調査などによるとDuckDuckGoのユーザーは7000万から1億と思われる」、と言っている。

ヨーロッパでは、GoogleのAndroid選択画面の変更が迫っている。そこでは、規制当局からの強制により、Googleは同社のOSが動くモバイルデバイスのユーザーに、彼らがデフォルトの検索エンジンを設定するとき競合他社の製品も提示しなければならない。これによってDuckDuckGoの各地での運は、大吉に向かうと思われる。

関連記事:グーグルがEUの圧力を受けAndroid検索エンジンの選択画面オークションを廃止、無料化へ

Googleは、他の検索エンジン企業が、自分がAndroidの選択画面に表示される権利をオークションへの入札で買うという悪習をやめる予定だから、プライバシーなど独自の価値命題を持つライバルで、しかもDuckDuckGoのようにブランド知名度もある企業には、Googleのマーケットシェアを奪うチャンスだ。

DuckDuckGoはブログで、ヨーロッパやその他の地域でマーケティング活動を強化すると確約している。

そのブログ記事は「また弊社の好調なビジネスは弊社に、今すぐにでも使える、オンラインのプライバシーのためのシンプルなソリューションがあることを多くの人びとに伝えるためのリソースを与えている。2021年5月は弊社は、全米の屋外広告やラジオ、テレビなどの広告を駆使し、175の大都市圏でこのことを宣伝してきた。ヨーロッパや世界中のその他の国にも、この努力を広げていきたい」と述べている。

……なのでDDGの二次資金の多くの部分が、同社のグロースマーケティングに投じられるだろう。同社は今、オンラインのプライバシーや、ユーザー追跡、そして長年のデータスキャンダルを背景とする、まるで自分のことが知られているかのような気持ち悪い広告に対する人びとの関心が盛り上がっている今を、好機として利用したいのだ。

Appleが最近iOSユーザーにサードパーティのアプリ追跡とそれを無効にする方法を教えるようになったことも、これらの問題への一般大衆の気がかりを高めている。Appleは下の例のような、Apple自身の良く出来た広告によって、人びとの関心を惹こうとしている。

関連記事:ついにアップルが導入開始した「アプリのトラッキングの透明性」について知っておくべきこと

シンプルで説得力のあるマーケティングメッセージでプライバシーを語ることは容易ではない、と言っても過言ではないだろう。それを考えると今のプライバシー技術は使いやすさとアクセシビリティーの両方でかなり進歩した、と言ってよい。

というわけでDuckDuckGoのビジネスは確かに、ウェブの進化における現在の重大局面にぴったりはまっているようにも見える。同社のブログは「シンプルなプライバシー保護を言い表す代名詞のようなものになりたい」と言っている。ということは、もはや対象はニッチではなく全世界だ。

「あまりにも長く、オンラインのプライバシーに関する議論は懐疑論者たちが支配してきた。もちろんプライバシーは気になるが、でも彼らには何もできないと。今こそ、この悪質な定説を葬り去るべきだ」、とDDGのブログは言っている。

プライバシー追究歴13年のこのベテラン企業には、今後の製品の計画もいろいろある。

同社はすでに2018年に追跡ブロックを検索エンジンに導入したが、今後の計画では、もっと総合的なプライバシー保護機能「何でもありのプライバシー集大成」を展開したい。そこには検索とは一見無縁なメール用の保護ツールもあり、数週間後にベータでローンチできる。そしてそれは「新しい受信トレイを作らなくてもプライバシーを強化できる」そうだ。

ブログ記事はさらに続く。「この夏の終わりごろには、アプリのトラッカーブロックがAndroidデバイスでベータで使えるようになる。ユーザーはアプリトラッカーをブロックできるようになり、自分のデバイスの楽屋裏で起きていることへの透明性が増す。そして年内には、今のモバイルアプリの完全に新しいデスクトップバージョンをリリースする。それはメインのブラウザーとしても使えるもので、我々のシンプルでシームレスな総合的プライバシー機能により、弊社のプロダクトのビジョンである『シンプルになったプライバシー』を現実にしたい」。

それは、今私たちが目にしているプライバシー技術の、もう1つのトレンドだ。検索エンジンなら検索エンジンという特定の一種類のツールで、注意深く、信頼を損なわないようにして堅固な評判を構築してきた者が、ユーザーの成長とともに、さまざまなアプリを取り揃え、完全に総合的なプライバシー保護システムを提供していく。

たとえばメールアプリのProtonMailはプライバシー企業Protonに姿を変えて、エンド・ツー・エンドの暗号化メールだけでなく、クラウドストレージやカレンダー、それにVPNまで揃えて、それらすべてが同社のプライバシー重視の傘の下に整然と収まっている。

プライバシー技術は今後ますます開発が加速度的に進み、これまでのついでの技術からメインストリームの技術へと変貌を遂げるだろう。

関連記事:プライバシー重視の検索エンジン「DuckDuckGo」、カナダの年金基金VCから1000万ドルを調達

カテゴリー:ソフトウェア
タグ:DuckDuckGoアプリプライバシー検索エンジン

画像クレジット:Frank Vassen/Flickr CC BY 2.0のライセンスによる

原文へ

(文:Natasha Lomas、翻訳:Hiroshi Iwatani)

Vivaldi 4.0がメール・カレンダー・RSSフィード機能を引っ提げてリリース

Chromiumベースのブラウザの中でも特に関心を集めていたVivaldi(ヴィヴァルディ)。プライバシー重視のパッケージで、パワーユーザーのために構築されたツールであること、ざっくばらんな性格で有名なOperaの元CEOであるJon von Tetzchner(ヨン・フォン・テッツナー)氏が共同設立者かつCEOであるという血筋がその理由だ。現地時間6月9日、Vivaldiチームは、Vivaldiブラウザのバージョン4.0を発表した。その中には、メール、カレンダー、RSSクライアントのベータ版をはじめ、プライバシーに配慮したLingvanex(リングヴァネックス)エンジンの翻訳サービス「Vivaldi Translate(Vivaldi翻訳)」の提供開始などが含まれる。

Vivaldiは以前からウェブメールサービスを提供しているため、メールクライアントとしてのVivaldiは新しい会社ではない。しかし、ブラウザに組み込まれたオフラインのメールクライアントやカレンダークライアントは、これらの組み込み機能がほぼ標準であったNetscape NavigatorやOperaのような初期の時代のブラウザに戻ったような感じがする。フォン・テッツナー氏は、多くのブラウザベンダーはユーザーを特定の方向(自社のウェブメールクライアントなど)に誘導するためにこれらの組み込み機能を廃止した、と主張する。

フォン・テッツナー氏は次のように話す。「私たちは、『ビジネスモデルが私たちの行動を決めるのではなく、ユーザーが何を求めているのかに焦点を当てよう 』と考えました。(内蔵のメールクライアントには)大きな価値があると考えています。私たちのほとんどは電子メールを使用します。メールを頻繁に使う人も、あまり使わない人もいますが、基本的に誰もが1つ以上のメールアカウントを持っています」「だからこそ、優れたメールクライアントを提供したいと考えました。Operaにこのような機能の多くがあったのはご存じのとおりですが、存在しない機能もありました。VivaldiはOperaのギャップを埋め、さらに多くのことを達成しています。(たとえば)Operaにはカレンダークライアント機能はありませんでした」。

画像クレジット:Vivaldi

Vivaldiメールとカレンダーに関する多くの決定は、Vivaldiチームの趣向に基づいて行われたようだ。例えばVivaldiのメールクライアントでは、Outlookのような通常のフォルダ構造ではなく、フィルタリングシステムによってメッセージを複数のビューに表示することができる。Vivaldiはユーザーによるカスタマイズを重視しているので、従来型の水平表示とワイド表示から自分が使いやすい方を選択することができる。切り替えボタンでメーリングリストやカスタムフォルダにあるメールをデフォルトのビューから除外して、見たいメッセージをコントロールできるのも良い機能だ。また、未開封のメールと未読メールを区別して表示してくれる点も良い。

VivaldiのCEOヨン・フォン・テッツナー氏(画像クレジット:Vivaldi)

IMAPとPOPプロトコルをサポートするほぼすべてのメールプロバイダに対応しているのは予想通りだが、Gmailにも対応する。

新しいビルトインカレンダーも、GoogleカレンダーやiCloudなど、標準的なカレンダープロバイダのほとんどをサポートしている。デザイン上の工夫としては、イベントごとに1~2行表示するのではなく、そのイベントのすべてのデータがカレンダーに表示される。フォン・テッツナー氏自身の好みだそうだ。

「これまでとは違うやり方をしているとは思います。ユーザーの反応を注視していきます」「私がカレンダーに求めていたことの1つは、すべてのコンテンツを見られるようにすることでした。現在一般的なカレンダーでは、テキストを表示するスペースはグリッドの大きさで制限されます。でも、そうする必要はありません。グリッドの大きさが揃っている方が見栄えがしますが、機能的には、テキストがより多く表示される方が使いやすいのです」とフォン・テッツナー氏。

フォン・テッツナー氏は、ユーザーをGoogleやMicrosoftから引き抜きたいのは当然だが、代わりの機能を提供するだけでは十分ではなく、もっと優れた機能を提供しなければならないと考えていると話す。

画像クレジット:Vivaldi

RSSリーダーはまだ基本的な段階で、たとえばフィードのリストをインポート / エクスポートする機能は提供されていない。ここでのアイデアは、エコーチャンバー化(「反響室」のような狭いコミュニティでのコミュニケーションを繰り返すことによって、特定の信念が増幅または強化されてしまう状況)を防ぎ、ユーザーごとにカスタマイズされたニュースの配信を行うニュースリーダーを避けることにある。全体的にフィードリーダーは非常にうまく実装されていて、ローカルのフィードリーダーに必要な機能をほぼすべて提供している。ネットサーフィン中はブラウザがRSSフィードを識別し、URLバーにハイライト表示するので、新しいフィードの購読はとても簡単だ。また、YouTubeをフィード(チャンネル)ごとに購読することもできる(YouTubeではあまり強調されていないが、すべてのYouTubeチャンネルはフィードとして提供されている)。

フォン・テッツナー氏は「フィードでは、(データ)収集を避けることも重要です」と話す。「今のニュースサービスは、ユーザーにより関連性の高いニュースを配信すると理屈をこねながら、あなたが何を読んだかを見て、あなたのプロフィールを構築しています。しかし、私の意見では、ユーザーが特定のチャンネルを購読しているという情報だけで十分だと思っています。私たちが目指しているのは、ユーザーが自分の読んでいるものや購読しているものをコントロールできるようにすることであり、ユーザーの習慣や好みを知ることではありません。私たちには関係のないことです」。

これらはすべて、広告に振り回されないビジネスモデルというVivaldiの基本理念に帰結する。「ユーザーのデータを集める必要も興味もありません」とフォン・テッツナー氏は語る(ただし、ユーザー数や大まかな所在地など、基本的な集計データは集めている)。実際、彼は、ユーザーに関して詳細な遠隔測定を行っても、平々凡々なユーザー製品が仕上がるだけだという信念を持っている。

新しい翻訳機能もその一環で、データはVivaldiのサーバーでホストされ、いずれのサードパーティーサービスとも共有されない。Vivaldi翻訳はLingvanexテクノロジーを使用しているが、それを自社のサーバーでホストしている。結果はかなり良好で、おおむねGoogle翻訳と同等のレベルだ(微妙な差があることもあり、その場合、Google翻訳の方がより正確な翻訳を返すことが多い)。

Vivaldiの新しいオンボーディングフローでは、ユーザーが3つのデフォルトレイアウトから選択できる。ChromeやEdgeのような使用感だけを求めるユーザーのための基本的な「ベーシック」、パネルやステータスバーのようなブラウザの高度な機能を使いたいユーザー向けの「ノーマル」、すべてのツールを使ってみたいユーザーのための「アドバンス」だ。ブラウザに求める要件がユーザーごとに異なることを尊重する機能で、パワーユーザーではないユーザーにVivaldiの導入を促すことにもつながるかもしれない。「アドバンス」ではVivaldi の新しいメール、フィードリーダー、カレンダーの機能がデフォルトで有効になっている。

今のところVivaldiでは利益が出ていない。プリインストールされたブックマークや、検索エンジンとのパートナーシップから多少の収益を得ているが、フォン・テッツナー氏は、Vivaldiが持続可能な企業になるためには、ユーザー数をもう少し増やす必要があると話す。彼はこの考えに満足しているようで、ユーザー1人当たりの収益が比較的低いことにも納得している。「私たちには経験があり、成功したこともあります。当社のような会社の成長には時間がかかります」「私たちが構築しているものをユーザーが気に入ってくれることを願っています。多分気に入ってもらえていると思います。そしてゆっくりと、支払いに必要なだけのユーザーを獲得し、さらに発展させていきたいと考えています」。

関連記事:Vivaldiブラウザーがトラッキングブロッカーを内蔵、Android版も正式版に

カテゴリー:ソフトウェア
タグ:Vivaldiウェブブラウザ

画像クレジット:Vivaldi

原文へ

(文:Frederic Lardinois、翻訳:Dragonfly)

わずか2分でコールドブリューが楽しめるOsmaのハイテクコーヒーメーカー

まったく新しいコーヒーの淹れ方が発明されることなど、そうそうあることではないが、ほぼすべての淹れ方に共通する要素は「熱」である。つまるところ、熱湯を使えばコーヒー豆のフレーバーとコクをすぐに引き出せる。しかし、Osma(オスマ)という新しいコーヒーメーカーを使うと、今までとはまったく異なる技術によって、どの温度のお湯や水でも(何と、氷のように冷たい水でも)濃くて重量感のあるエスプレッソのようなコーヒーを作ることができる。これは業界の次なる目玉製品になりそうだ。

OsmaはデザイナーのJoey Roth(ジョーイ・ロス)氏が取り組んでいるプロジェクトだ。ハイコンセプトのスピーカー関連テック製品を手がけた後に紅茶・コーヒー関連テックに取り組むようになった同氏は今、まったく異なるこの2つの分野を、独特の振動抽出方法という形で統合させる方法を発見した。同氏は長年にわたりいくつものヒット技術を生み出してきたが、Osmaは同氏にこれまでで一番の利益をもたらすかもしれない。

その理由を知るには、コーヒーが通常どのように作られるのかを理解することが役立つ。普通は、コーヒーの粉を熱湯に浸すか、コーヒーの粉に圧力を加えるかしてコーヒーを淹れる。

熱湯に浸す方法の場合、お湯の熱によってコーヒーの粉から油分が溶け出して揮発し、フレーバーが抽出された後のコーヒーかすがフィルター内に残る。具体的にはドリップやポアオーバー、フレンチプレスなどが含まれる。

圧力を加える方法とはつまりエスプレッソのことだ。熱だけでなく、マイクロキャビテーション処理を加えることによってコーヒーの粉に含まれる芳醇なエキスが抽出される。熱と圧力によってコーヒーの粉から二酸化炭素が放出され、それが極小の泡となる。その泡はすぐに破裂するのだが、その過程でフレーバーとアロマが抽出される。

熱湯の代わりに冷水にコーヒーの粉を浸す場合もある。冷水を使うと、熱に弱い成分が消滅せずに残るため、ひと味違うフレーバーが生まれる。残念ながら、冷水でコーヒーを抽出するには何時間もかかるし、濃い目がお好みの場合は何日もかかる場合があり、美味しさに貢献する他の成分がその間に劣化してしまう。さらに、冷水ではエスプレッソは作れない。エスプレッソで抽出するにはスチームが絶対に必要だからだ。

このように、コールドブリューコーヒーには独特の不便がともなう。それにも関わらず、ここ10年ほどの間に一度でもカフェを訪れた人であれば誰でも、コールドブリューコーヒーの人気の高さに気づいたことだろう。季節は問わないが、特に人気が出るのは夏である。突き詰めて言えば氷の上に熱いコーヒーかエスプレッソを注ぐだけのドリンクなのだが、人気は途絶えることがない。ではもし、熱を加えたり、水で薄めたり、何日も待ったりすることなく、濃くて美味しいコーヒーを淹れられるとしたらどうだろうか。それを実現するのがOsmaなのだ。

画像クレジット:Osma

Osmaのシステムは、筆者が知る限り、他のどのブリュー方法とも異なっている。Osmaは基本的に、コーヒーの粉の中に水を繰り返し循環させつつ、それを立位圧力波のようなもので撹拌する。そうすると2分ほどで、エスプレッソほど濃縮されておらず、コールドブリューほどマイルドではないコーヒーが8~12オンス(約240~350ミリリットル)でき上がる。

画像クレジット:Osma

フレーバーの特徴について筆者が尋ねると、ロス氏は「これはまったく新しい方法で抽出されたコーヒーだから、一度味わってみないと分からないと思う」と答えた。同氏は、京都スタイルのスロードリップコーヒーにクリーミーな口当たりとエスプレッソのフレーバーを加えた感じに似ていると言った後、やはりこの例えでは説明しきれないという結論に達した。

ロス氏が安易に例えようとしない理由は理解できる。なぜなら、Osmaの抽出方法は他とは完全に一線を画しているからだ。熱湯ではなく冷水を使う点や、キャビテーション効果を得るために高圧ではなく音波を使う点もさることながら、水を一度限り通すのではなく、循環させる方法を採用している点でOsma Pro(オスマ・プロ)は独特の存在である。

ほぼすべてのコーヒーメーカーは単方向性だ。水が入ってコーヒーの粉に接触し、コーヒーが抽出される。ちなみにパーコレーターは例外だが、そもそもパーコレーターを一番好むというコーヒー愛好家はあまりいない。一方、Osmaの場合は、水を吸い上げてコーヒーの粉に通しつつそれを撹拌し、そこから出た水を元の筒に戻して、それをまた吸い上げ、コーヒーの粉に再び通す。

この循環プロセスは、お好みの重量感に合わせて、早目に止めることも長めに続けることもできるが、ロス氏によると、大抵の人の好みに合うベストな1杯を淹れるのに最適な循環時間は2分間だという。

Osmaの仕組みは、半分は幸運な偶然、もう半分は創意工夫の産物である。ロス氏は、共同創業者のDan Yue(ダン・ユエ)氏と一緒に工業用真空槽の中で水を常温で沸騰させる実験を行ったことがあるそうだ。何とか成功したのだが、その装置はとてもじゃないが消費者に販売できるようなものではなかった。そこでユエ氏が、高温で加熱せずにコーヒーを抽出する鍵はマイクロキャビテーション処理にあるのではないかという仮説を立てた。

いい感じの仕上がりだ(画像クレジット:Osma)

ロス氏は次のように説明する。「ユエ氏の仮説を検証するために実験をいくつも行って、マイクロキャビテーションこそが魔法のスイッチだということを確認した。その後2年間を費やして、コーヒーの粉をぎっしり詰めたバスケットの中で音波を使ってキャビテーション処理を効率的に促進する構造を開発した。サンノゼでChromatic Coffee(クロマティック・コーヒー)を一緒に創業したパートナーであるJames(ジェームズ)とHiver(ハイヴァー)の助けや知恵を借りながら、この構造をOsma Proという製品に仕上げた」。

いつでも好きな時にエスプレッソやコールドブリューのような濃くて冷たいコーヒーを作れることは、カフェ業界の形勢を変える可能性がある。現在のところ、カフェで冷たいコーヒーを出すには、需要を予測して前日またはそれ以上前からコールドブリューを作り始めなければならないため、需要が供給を上回った場合は品切れになるか、もしくは熱いコーヒーを氷の上から注ぐという、一般的ではあるが考えてみればちぐはぐなアプローチを取るしかなくなる。

Osma Proの価格は695ドル(約7万6000円)だ。家庭用に購入するには少し高価だが、ほとんどのカフェで導入されているタイプの機器と同程度の価格である。ロス氏が手がけた他のプロジェクトと同様に、Osma Proの工業デザインはシンプルで美しい。場所を取らない(スタンド型コーヒーミルと同程度)ことや、貴重な冷蔵庫内スペースが大量のコールドブリューコーヒーに占領されることがなくなることを考えると、Osma Proの利便性にさらに納得できる。

生産台数は限定1000台、今のところは(画像クレジット:Osma)

ロス氏は(社名は伏せたが恐らく)有名なコーヒー会社がOsma Proの件で同氏と提携することに興味を示しているのはそのためかもしれない、とはにかみながら言った。小さなカフェを中心に数百台売れることはすばらしいが、ロス氏によると期待を上回る予約注文が寄せられているという。もし数千台規模で注文する大型パートナーが出てきたらどうなるだろうか。それこそ、グローバル展開の足がかりとなるだろう。

ちなみに、これらすべては、残念ながら今では機能していないであろう1台の機器から始まった。筆者が初めて使ったOsmaのコーヒーメーカーは、ロス氏から筆者に送られてきたもので、バッテリー駆動のポータブルタイプだった。そのうえ、生分解可能なコーヒー粉パックと簡略化された音波撹拌処理をテストするためのベータ版だった。しかし、このベータ版はその後の開発に行き詰まってしまった。一方で、その抽出技術は非常に興味深く、非常に美味しいコーヒーが作れたため、ポータブルタイプではなく、当時急速に開発が進んでいたカウンタートップタイプこそが同社の未来だということが早々に明らかになった。

現時点で残るただ1つの問題は、Osma Proで作ったコーヒーの呼び名だ。筆者は「coldpresso(コールドプレッソ)」はどうか、と提案した(「icepresso(アイスプレッソ)」の方が語呂がいいのだが「エスプレッソ」に語感が近すぎる)。ロス氏は「cold flash(コールド・フラッシュ)」という名称を考えたが、呼び方に関する自分のアイデアはどれも何だかあか抜けないと自分で言っていた。どんな名称になるにしても、Osma Proで作ったコーヒーを間もなく地元の「本格派」カフェで楽しめるようになるだろう。Osma Proのコーヒーを試した人、あるいは普段から冷たいコーヒーをたくさん飲んでいる人で、少々高額でもOsma Proを買いたいと思った人は、Osmaのウェブサイトで予約注文できる。

関連記事
スマホ・NFCと連携してプアオーバーコーヒーを自動化するGeesaa
シンプルでポータブルな真空抽出式コーヒーメーカー「FrankOne」

カテゴリー:フードテック
タグ:Osmaコーヒーコーヒーメーカー

画像クレジット:

原文へ

(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

いにしえのASCIIアドベンチャーゲーム「NetHack」への挑戦から見えるAIの未来

機械学習モデルはすでにチェスや囲碁Atari(アタリ)ゲームなどをマスターしているが、Facebookの研究者たちは、AIを世界で最も難しいといわれる、無限に複雑な「NetHack(ネットハック)」に挑戦させて、さらにレベルを押し上げようとしている。

Facebook AI ResearchのEdward Grefenstette(エドワード・グレフェンステット)氏は次のように話す。「私たちはこのゲームで、最も利用しやすい「グランドチャレンジ」を構築しようと考えました。AIを解き明かすことはできませんが、より優れたAIを実現するための道筋を示すことができます。ゲームは、機械を賢くする要素、機械をダメにする要素について仮定を導き出す良い方法です」。

NetHackを初めて耳にする読者も多いだろうが、これは古今東西最も影響力のあるゲームの1つだ。あなたはファンタジー世界の冒険者で、毎回異なるダンジョンでどんどん危険な深みにはまっていく。モンスターと戦い、罠や危険を回避しながら、神と良い関係を築く。これは(はるかにシンプルな元祖「ローグ」の後の)最初の「ローグライク」ゲームで、間違いなく今でも最高で、ほぼ間違いなく最も難しい作品だ。

(なお、NetHackは無料で、ほとんどのプラットフォームでダウンロードしてプレイすることができる)

ゴブリンは「g」、プレイヤーは「@」、ダンジョンの構造は線と点で表すなどの、シンプルなASCIIグラフィックとは裏腹に、NetHackは驚くべき複雑さを持つ。というのも、1987年に登場したNetHackでは、その後も開発チームが交代しながら、オブジェクトやクリーチャー、ルール、そしてそれらを取り巻く無数のインタラクションを増やし続け、活発な開発を続けているからだ。

これこそが、NetHackがAIにとって非常に困難で興味深いチャレンジとなる理由の1つである。オープンエンドなNetHackでは、世界が毎回変化するだけでなく、すべてのオブジェクトやクリーチャーとインタラクションすることができる。インタラクションはほとんどが何十年もかけて手作業でコーディングされ、プレイヤーのあらゆる選択肢を可能にしている。

タイルベースのグラフィックにアップデートされたNetHack。今まで同様、すべての情報がテキストベースだ

「Atari、『Dota 2』、『StarCraft 2』などのゲームを進化させるために必要とされたソリューションは非常に興味深いものですが、NetHackには、それとは異なる課題があります。人間としてゲームをプレイするためには、人間の知識が必要です」とグレフェンステット氏は話す。

NetHack以外のゲームでは、勝つための戦略が多かれ少なかれ明らかになっている。もちろん、Dota 2のようなゲームは、Atari 800よりも複雑だが、考え方は同じだ。プレイヤーが操作する駒、環境というゲームボード、目標となる勝利条件がある。NetHackでもそれは同じだが、もっと複雑怪奇だ。まず、ゲームが細部も含め、毎回異なる。

「新しいダンジョン、新しい世界、新しいモンスターやアイテム、セーブポイントがないなど。ミスをして死んでしまったら、生き返ることはできません。現実の世界に似ていますね。失敗から学び、その知識で武装して新しい状況に臨むのです」と、グレフェンステット氏。

腐食性のポーションはもちろん飲むべきではないが、それをモンスターに投げつけたらどうだろうか?武器に塗るのは?宝箱の錠前にかけるのは?水で薄めたらどうだろう?人間はこれらの行為を直感的に理解するが、ゲームをプレイするAIは人間のようには考えない。

NetHackのシステムの深さと複雑さを説明するのは難しいが、その多様性と難しさはAIのチャレンジに相応しいとグレフェンステット氏は話す。

ニューラルネットワークではなく、(ゲームと同じくらい)複雑な決定木を用いたゲームプレイ用のボットは、何年も前から設計されている。Facebook Researchチームは、機械学習を用いたゲームプレイのアルゴリズムをテストできる学習環境を構築することで、新しいアプローチを生み出したいと考えている。

AIが認識している内容がラベルで表示されたNetHack

NetHack学習環境(NetHack Learning Environment、NLE)は2020年完成したが、NetHackチャレンジはまだ始まったばかりである。NLEは専用のコンピューティング環境にゲームを組み込んだもので、AIはテキストコマンド(指示、攻撃やポーションを飲むなどのアクション)でNLEとやり取りする。

野心的なAIデザイナーにとっては魅力的なターゲットだ。StarCraft 2のようなゲームの方が知名度は高いかもしれないが、ゲーム界のレジェンドであるNetHackで、他のゲームに適用されたモデルとはまったく異なる方法でモデルを構築するというのは興味深いチャレンジである。

また、グレフェンステット氏の説明のように、NetHackは過去の多くのゲームと比較して、利用しやすいゲームだ。StarCraft 2用のAIを作ろうと思ったら、ゲーム内の画像で視覚認識エンジンを実行するために、大規模なマシンパワーが必要だろう。しかし、NetHackはゲーム全体がテキストで構成されているため、非常に効率的に作業を行うことができる。ベーシックなコンピューターでも人間の何千倍もの速さでプレイすることができるので、(他の機械学習の手法には欠かせない)高性能なデバイスを持たない個人やグループでも挑戦することが可能だ。

グレフェンステット氏は「私たちは、大規模な学術研究機関に限定せずに、AIコミュニティに多くのチャレンジを提供できる研究環境を構築したいと考えていました」と話す。

今後数カ月間はNLEが公開され、競技者は基本的に自分の好きな手段でボットやAIを作ってテストすることができる。2021年10月15日に本格的な競技が開始されると、特別なアクセスやRAMのテストなどはできず、制御された環境の中で標準的なコマンドを使ってゲームを操作するように制限される。

競技の目標はゲームをクリアすることで、Facebookチームは、一定時間内にエージェントがNetHackの「アセンション」を何回行ったかを記録する。しかし「どのエージェントでもアセンションがゼロになるだろうと想定している」とグレフェンステット氏は認めている。結局のところ、このゲームは史上最も難しいゲームの1つであり、何年もプレイしている人間でも、数回連続で勝利することはおろか、一生に一度でも勝利することが難しいのだ。その他にも、いくつかのカテゴリーで勝者を判定するための採点基準がある。

このチャレンジが、より本質的に人間の思考に近い、新しいAIへのアプローチの種になることを期待している。ショートカット、トライ&エラー、スコアハック、ザーグ戦術(量で圧倒する戦術)はここでは通用しない。エージェントは論理体系を学び、それを柔軟かつ知的に適用する……さもないと、怒り狂ったケンタウルスやオウルベアに殺されることになる。

NetHackチャレンジのルールやその他の詳細については、こちらを参照のこと。結果は年内に開催されるNeurIPS(Neural Information Processing Systems、ニューラル情報処理システム)カンファレンスで発表される予定だ。

関連記事:AI応用のMRIは4分の1の時間で従来と同等の結果を得られることが盲検法で判明

カテゴリー:人工知能・AI
タグ:Facebook AI Research機械学習ゲーム

画像クレジット:Facebook / Nethack

原文へ

(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)