VR理科実験用ソフトでアジアに進出するLabster

理科の授業にZoomで参加したり、仮想現実(VR)で実験したり。特に後者は、新型コロナウイルス禍のおかげで、今ほど大きな可能性を感じたことはない。

Zoomを超える学習ソリューションの世界的需要は、まさにデンマーク・コペンハーゲンのスタートアップであるLabsterの急成長を促した。同社は、仮想現実を利用して個人がSTEM(科学、技術、工学、数学)教室向けのシナリオに参加できるよう手助けをする企業だ。3月以来、LabsterのVR製品の利用件数は15倍に増加した。

この前代未聞の状況を受け、Labsterは、まさに今勢いを増すエデュテック系スタートアップの仲間に交じり、900万ドル(約9億6000万円)のエクイティー・ベンチャー投資を獲得した。このラウンドを主導したのはGGV Capital。これに、以前からの投資会社であるOwl Ventures、Balderton、Northzoneが参加している。

「新型コロナウイルスがLabsterの認知度を大きく高め、うまくいかないことが多いZoomのみの学習とは対照的な、オンライン授業の良い面を教師たちに提示できました」と、CEOで共同創設者のMichael Jensen(ミハエル・イェンセン)氏はTechCrunchに話した。

Labsterは、人が進める授業をサポート・強化するeラーニングソリューションを販売している。教育機関は同社とサブスクリプション契約を交わすと、そのコースに応じてレベルの異なる仮想実験室が使えるようになる。行える実験は、細菌の増殖と分離から、太陽系外惑星の生物多様性の探査までと、大変に幅広いことが想像できる。それぞれの実験では、シミュレーションに加え、3Dアニメーションによる概念説明、シミュレーションのリプレイ、テスト問題の出題、仮想学習アシスタントなどがLabsterから提供される。

画像クレジット:Labster

Labsterの顧客の大部分は私立学校だが、このコロナ禍の最中に、同社はカリフォルニア州のコミュニティー・カレッジとの契約を成立させた。この提携により、年間ライセンスと提携関係による大幅な成長に支えられたLabsterのユーザーベースに「さらに210万人の学生が加わることになった」とイェンセン氏は言う。

GGVの支援を得て、Labsterはアジアでの地位の強化も考えている。新しい市場に参入する際には、通常は、その市場がどのように機能し、考え、そして最も重要なこととして、どう学ぶかを熟知した現地の戦略的投資家が必要になる。アジア市場は、北アメリカ市場と比べて個人消費が大きいため、エドテック企業にとって大変に儲けの多いところだ。

上海で活動するGGVのパートナーであるJenny Lee(ジェニー・リー)氏が、Labsterの取締役会に加わった。リー氏は、自動化、仮想化、AIベースの教師が、K-12(幼稚園から高校3年生まで)市場と、いたるところで質の高い教師が不足している問題とのギャップをどう埋めるかに関心を示している。

イェンセン氏はまた、アジアのモバイル利用率が北米やヨーロッパよりも高いことから、モバイル対応の充実化にも投資を使うと話している。

今回の投資は、2019年4月にクローズした前回の210万ドル(約2億2000万円)のシリーズB投資から見るとかなり小規模だ。しかも、数百億円規模の投資を決めたMasterClass(マスタークラス)、Coursera(コーセラ)、また報道によるとUdemy(ユーデミー)の勢いとは、明らかな差がある。

この点についてTechCrunchでは「なぜそう控えめな金額のか?」と率直に聞いてみた。

「この900万ドルの資金は、GVVを呼び込む戦略的成長のための資金だったからだ」とイェンセン氏は話した。なお、Labsterの既存の投資家も全員がこのラウンドに参加している。2012年の創業以来、同社は資金調達には比較的控えめだった。今に至るまで、今回のラウンドを含め、Labsterはベンチャー投資として4000万ドル(約43億円)を調達している。

そのためこの新規の資金は、守りの投資ではなく、攻めの投資だとイェンセン氏は言う。世界のドアを開くための戦略的資金だ。

新型コロナ禍で、予想よりも少額のラウンドを決めたエドテック企業は、他にもある。ユニコーン企業であるDuolingo(デュオリンゴ)は、アジア進出のために小さな1000万ドル(約10億円)という調達を行い、国際市場への拡大のための投資家としてGeneral Atlantic(ジェネラル・アトランティック)を招き入れた。

それでもDuolingoのキャッシュフローは黒字だ。Labsterが利益を出しているかどうかについてイェンセン氏は触れなかったが、それが同社の評価額を1億ドル(約106億円)に引き上げた「驚くほど上向きのラウンド」だったことは明言していた。

「私たちの第一目標は、今後も変わらず、利益よりも急速成長とグローバルインパクトです」とTechCrunchに話した。

画像クレジット:Benjamin Torode / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

パンデミックで浮き彫りになるリモートラーニングビジネスのチャンスと課題

バーチャル科学実験室を提供するエデュテック企業であるLabsterは、米国時間4月14日、カリフォルニア州のコミュニティカレッジネットワークと提携して、そのソフトウェアを210万人の学生が利用できるようにすることを発表した。

California Community Colleges は、国内で最大の高等教育システムであるといわれている。Labsterとの提携は生物学、化学、物理学、および一般科学に向けの130種類のバーチャルシミュレーションを115の学校に提供するというものだ。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が学校の閉鎖を余儀なくしているために、多くのエデュテック企業たちは、自社のソフトウェアを無料で提供したり、無料トライアル期間を延長したりすることで対応をしてきた。4月14日に発表されたLabsterの提携の中で、新しくて注目に値するのは、現在の情勢がビジネス上の取引にどのようにつながるかを示す、いくつかの最初の兆候を示している点だ。

コペンハーゲンを拠点とするLabsterは、バーチャルSTEM実験室を教育機関に販売している。Crunchbaseのデータによれば、Labsterはこれまでにベンチャーキャピタルから、知られている限り3470万ドル(約37億3000万円)を調達している。Labsterの顧客にはカリフォルニア州立大学、ハーバード大学、グウィネットテクニカルカレッジ、MIT、トリニティカレッジ、そしてスタンフォード大学などが名を連ねている。

実験装置は大変高価であり、予算の制約により各学校は最新のテクノロジーを導入するのに苦労している。従ってこれまでLabsterの提案してきた価値は、より安価な代替案であるということだった(学生がバーチャル実験室で試薬をこぼしても、掃除の手間が省けるが)。

だが、新型コロナウイルスによるパンデミックの拡大を制限するために、世界中の学校が閉鎖を余儀なくされている中で、その訴求ポイントは少々変化した。現在それは科学実験室に代わる唯一実行可能な手段として、自分自身を売り込んでいるのだ。

多くのエデュテック企業にとって、リモート学習の急増は大規模な実験となった。学校がその運営を完全にデジタル化するために奮闘する中で、エデュテック企業たちは、しばしば自社の製品とテクノロジーを無料で提供している。

例えば先週、セルフサービスの学習プラットフォームであるCodecademy、Duolingo、Quizlet、Skillshare、そしてBrainlyは、生徒と教師のためにLearn From Home Club(在宅学習クラブ)を立ち上げた。それに先立ち、Wizeは同社の試験コンテンツと宿題サービスを無料で利用できるようにしている。また、ZoomはK-12スクール(高校以下の学校)にビデオ会議ソフトウェアを無料で提供したが、その結果は功罪の入り交じるものとなった

Labster自身は、全国の学校に500万ドル(約5億3700万円)分のLabsterクレジットを無償で提供した。こうしたリストは枚挙にいとまがない。

Labsterの今回の新しい取引は、今ならエデュテック企業が大きな費用をかけることなく、新しい顧客を確保できることを示している。

LabsterのCEOで共同創業者であるMichael Bodekaer(マイケル・ボデカー)氏は、この取り引きの価格についての詳細は明かさなかった。彼はLabsterが各々の学校と協力して、それぞれが教師のトレーニングとウェブセミナーのサポートにどれだけ投資できるか、または投資したいかの理解に努めたことを明かした。彼はまた、Labsterがこの取り引きから利益を得ていることは認めている。

「私たちはパートナーをサポートするための準備をしっかり整えたいと思いますが、同時に営利組織としてのLabsterが自分たちに給与を支払えることも確実にしたいのです」とボデカー氏は語る。「しかし、繰り返しになりますが、私たちのコストをカバーできる程度までの大幅な割引を提供します」。

他の多くのエデュテック企業と同様に、Labsterにとっての長期戦略は今回のような短期的な措置が長期的な関係へと発展していくように、学校に彼らのプラットフォームを気に入ってもらうことだ。

「会社として維持できる限り、これらの割引を維持するつもりです」と彼は語る。「当初は8月まで割引を行うつもりでしたが、現在は年末まで延長する予定です。状況によっては、さらに延長する可能性があります」。

価格設定はさておき、Labsterそして実際のところリモートラーニングに焦点を合わせたいかなるエデュテック企業にとっても、本当の実現上の困難はデジタル格差(digital divide)だ。ビデオ会議用のコンピューターや、演習用のインターネット接続さえも利用できない学生もいるのだ。

新型コロナウイルスのパンデミックは、リモート学習に必要なテクノロジーへのアクセスが、アメリカ全土でどれだけ不足しているのかを浮き彫りにした。カリフォルニア州では、Googleは支援を必要としている学生たちに、無料のChromebookと10万箇所のWi-Fiアクセスポイントへの無料アクセス権を提供した。

ボデカー氏によれば、Labsterは現在、モバイルデバイス上でのソフトウェアの提供に取り組んでおり、またGoogleと協力して、自社の製品がChromebooksなどのローエンドコンピューターで動作することを確認している最中だ。

「私たちは、ハードウェアにとらわれず、学生がすでに持っているシステムやプラットフォームをサポートしたいと考えているのです」と彼は言う。「持っているハードウェアが障壁にならないようにしたいのです」。

今回の提携によって、210万人の学生がLabsterのテクノロジーにアクセスできるようにはなったものの、その集団の中でコンピューターにアクセスできない可能性がある学生の割合については直接把握されていない。エデュテックにとっての試練そしておそらくその成功は、ハードウェアとソフトウェアの、どちらにも偏らない真のハイブリッドに依存したものになるだろう。

画像クレジット:doyata / Getty Images

新型コロナウイルス 関連アップデート

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(翻訳:sako)

最先端のバイオテク実験室シミュレーションをゲームエンジンUnity3Dで実装のLabster, 実験教室と教育ゲームの抜本改革を目指す

教育ゲームが生徒たちの積極的で自主的な関心を引き出す、とはよく言われていることだが、でも2011年に創業され今日(米国時間6/28)ステルス状態から脱したバイオテクノロジ教育のLabsterはさらにその先を行って、実験室全体を仮想化した。これで学校や生徒は、高価な器材を買ったり、危険な実験を実物で行わなくてもすむようになる。

Labsterは先週、同社が“電子学習のためのビデオゲーム(eLearning video game)”と呼ぶ実験室シミュレーションソフトウェアを立ち上げた。登録したユーザは最初の三か月、無料で利用できる。その後の料金は実験の内容によって異なり、必要なコンテンツをiPadのApp Storeで買ってダウンロードする。

Labsterはそのソフトウェアのライセンスを大学や学校、あるいは企業の教育用にライセンスしている。現在の顧客は、スタンフォード大学と、香港とコペンハーゲンの大学だ。ソフトウェアは昨年、1万名以上の学生を対象にテストされた。

それでは、Labsterとは何か? 協同ファウンダでCTOのMichael Bodekaerはこう述べる: “要するに科学のビデオゲーム。ゲームを通じて、DNAシークエンシングのやり方などを学び、将来はバイオ技術者や科学捜査官などになっていただく。理論ではなく、実物で学習する。たとえば、殺人事件における法医学的分析なども行う”。

なかなかよろしいようだが、でもそれはディスラプティブ(革新性がある)か? ある、とLabsterは言う。なぜなら、実際に高価な器材を買い専門の実験室を作って教育できるところは、限られているからだ。ソフトウェアは、そんな状況をディスラプトする。

“学生やバイオに関心のある人たちが何十万ドルもするNGSマシンや電子顕微鏡やHPLCにアクセスできることはまれだ。でもうちのソフトウェアを使えば、1日24時間/週に7日間、3Dで描かれた仮想実験室で、そういうすごい機械を使えるし、pHテストやDNAの操作、酵素のシミュレーションなどの数学的シミュレーションを実際に行える。有能な仮想アシスタントがいるので、このクールな新型玩具の使い方を教えてもらえる”、とBodekaerは言う。ソフトウェアはWeb用とiPad用があり、とくに3D要素はUnity3Dを使って実装されている。

また、分子過程の可視化などは、実物でやるよりも3Dアニメによるソフトウェアシミュレーションの方が多数回できるそうだ。しかも実物では、結果は分かるが過程は機械の中にあるので分からない、ということも多い。というわけでソフトウェアによるソリューションは、安上がりというだけでなく、学習内容も濃いのだ。また、ソフトウェア自身が小テストや質疑応答なども行うので、これまた実物実験より学習効果が高いだろう。

それにまた、従来の実験教科では生徒が一定の手順に従うことを強制され、学ぶ者の好奇心が抑圧される。しかしLabsterのソフトウェアベースの教科では、生徒が自分のアクションを選び、いくらでも失敗が許される。失敗から学んだことは、忘れない。というわけで、すぐれたシミュレーションソフトで学んだ方が、実物を使う実験教室よりも良い、と同社は主張する。

競合他社としては、Bodekaerによると、LateNiteLabsとMcGrawHill LearnSmart Labsがメインだ。しかしLabsterが独特なのは、教育の“フロー”を従来の実物教室とは変えていることと、ハイテク器材を仮想化してアクセスを広げていることだ。

“うちの競合他社は、従来の科学教育のフローをそのまま仮想化しているだけだ。それはすでに、多くの学生生徒によって、きわめて非効率であることが実証されているやり方だ。うちでは、学習研究者たちや教授たちと協力して、学習のフローを改革し、科学教育を再発明した。生徒の心を引き込み、楽しくて現実的なシナリオ、対話的な3Dアニメーションなどにより、ナノレベルで起きていることでも説明できる。また、現代的な授業方法により、学習効果の向上と学習内容の保持に努めている”、とBodkaerは主張する。

“しかもうちでは、70万ドルもする次世代型DNAシークエンシングマシンなど最新かつ高度な研究器材を、うちの高度なシミュレーションエンジンを利用してソフトウェア的に実装し提供している。それに対して他社は、従来の学校教育で使われていたような、古くて単純な器材を(シミュレートして)使っている”。

また、プラットホームの違いも大きい。Bodekaerによると、他社はもっぱらFlashだが、LabsterはiPadにより学習をモバイル化した。“競合他社はどこも、死に行く技術であるFlashを使っているから、iPadなどの市場に入ってこれない。うちでは最先端の3DゲームエンジンUnity3Dを使っている。それはクロスプラットホームだからiPadにもAndroidにもMacにもPCにもiPodにすらネイティブにコンパイルでき、Webブラウザにも対応する”。

Labsterのもう一人の協同ファウンダでCEOのMads Bondeは、バイオテクノロジの教育経験がある。同社の現在の資金はは、100万ドルの研究補助金と非株式サポートだが、Bodekaerによると、今数社の投資家たちとシリーズAの可能性について検討している、という。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))