バンクがDMM.comからMBOにより独立——5億円で株式譲渡、「CASH」「TRAVEL Now」は継続

即時買取サービス「CASH(キャッシュ)」、あと払い旅行サービス「TRAVEL Now(トラベルナウ)」を運営するバンクは11月7日、MBO(マネジメントバイアウト)を実施し、親会社のDMM.comから独立したことを発表した。

MBO実施はバンク代表取締役兼CEOの光本勇介氏個人によるもの。DMM.comが保有するバンクの全株式を買い取ったということだ。バンクが提供するサービスは、引き続き新体制のもとで運営される。

DMM.comは2017年10月31日にバンクの全株式を光本氏から70億円で取得し、子会社化していた。DMM.comのリリースによると、光本氏への株式譲渡(売却)金額は5億円。ほかに買収後、運転資金として20億円の貸付があったということだが、この貸付金についてはバンクから5年で返済することで合意しているという。

バンクはMBOにともない、「よりスピーディーで柔軟な経営判断が行えるとともに、DMM.comのグループ会社として積んだ経験を活かしながら、CASHやTRAVEL Nowを中心に、 新規事業をふくめ、創業時からの経営理念『見たことのないサービスで新しい市場をつくる』を引き続き掲げ、バンクが得意とするインターネットビジネスによる新しい価値の提供に邁進していく」とコメント。

また、光本氏は自身のブログ上で以下のように述べている。

年末に近づき、来年の各事業のチャレンジや新規事業などを考えていく過程で、
私がイメージする投資規模やアクセルの踏み具合などを考えたとき、DMMから卒業をさせていただいた方が、
よりスピーディで柔軟な経営判断・動きが行えると判断をしました。十分な話し合いをさせていただいた結果、
DMMからもご理解をいただき、このようなアクションに至ることとなりました。

光本氏は、来週開催されるTechCrunch Tokyo 2018で、11月16日に行われるパネルディスカッションにも登壇予定。テーマは「新型旅行サービス」に関するものだが、今回のMBOについても、直接話を聞ける機会になるかもしれない。

DMM.comがアダルト事業を分社化、上場の可能性は否定

仮想通貨から英会話までさまざまなビジネスを展開するDMM.com。同社は2月21日、これまで同社が展開してきたアダルト事業を2018年3月1日をもって分社化すると発表した。当該事業は、2017年12月26日付けで設立された新会社デジタルコマースに承継される。

分社化にいたった背景としてDMM.comは、「2018年には、グループ創立20年となり、企業として節目となる年を迎えるにあたり、グループ全体の企業価値の最大化を目的に、この度、成人向け事業の分社化を決定致しました」と述べている。

石川県のレンタルビデオ屋として開業したDMM.comは、2000年代からさまざまな事業へとビジネスの幅を広げてきた。近年ではスタートアップの買収にも積極的で、2017年にはクラウドストレージ「POOL」のピックアップや、音楽アプリ「nana」の開発を行うnana musicなどを買収してきた。なかでも話題になったのが、DMM.comによるCASHの買収劇だ。サービスを開始してから2ヶ月弱のスタートアップを70億円で買収するという、同社のスピーディーな買収手腕に注目が集まった。

そのDMM.comが、1990年代初頭から手がけてきたアダルト事業を分社化した。DMM.comグループ傘下の社名やサービス名には、「DMM〇〇」といったような“冠つき”のものが多い。そんななか、アダルト事業を承継する新会社には「デジタルコマース」という、一見するだけではDMM.comグループだと分からない社名がつけられている。そのことからも、同社が分社化によって企業イメージの変更を狙っているようにも見える。

そうなると気になるのが、DMM.comグループの上場だ。DMM.comのリクルートページには、2017年2月期の売上高が1823億円(ただしこれは分社化する以前の数字)とあることからも、同社が上場するだけの実力を備えた企業であることは確かだ。

TechCrunch Japanの取材に対し、DMM.comは「現時点で上場の予定はなく、今回の分社化は事業構造を明確化させるため」(広報部)と、現段階での上場の可能性を否定している。

サービス運営2カ月弱での大型イグジット、買取アプリ「CASH」運営のバンクをDMM.comが70億円で買収

左からバンク代表取締役兼CEOの光本勇介氏、DMM.com代表取締役社長の片桐孝憲氏

“目の前のアイテムを一瞬でキャッシュ(現金)に変えられる”とうたう買取アプリ「CASH(キャッシュ)」。そのコンセプト通り、ファッションアイテムなどをアプリで撮影するだけで即査定というシンプルで素早い現金化のフローもさることながら、サービスローンチからわずか16時間でユーザーからの申し込みが殺到し過ぎてサービスを2カ月ほど停止したこと、さらにはその16時間で3億6000万円分の「キャッシュ化」がされたことなどとにかく話題を集め続けている。そんなCASHが創業から約8カ月、サービス運営期間で言えばわずか2カ月弱で大型のイグジットを実現した。

DMM.comは11月21日、バンクの全株式を取得、子会社化したことを明らかにした。買収は10月31日に合意。買収金額は70億円。代表取締役兼CEOの光本勇介氏をはじめ、6人いるバンクのメンバーは引き続きCASHを初めとしたサービスの開発を担当する。今後は、DMMグループの持つ資本力やシステム基盤、サービス体制を連携させることで、拡大成長を目指すとしている。

「リリースしてから思ったことは、僕たちが取りたい市場には想像した以上のポテンシャルがあるということ。ただ、需要があるからこそ、競合環境も厳しくなると考えた。市場が大きくなる中で、それなりの自己資本も必要。(資金を調達して)一気にアクセルをかけなければならないこのタイミングでの戦い方を考えている中で今回の話を頂いた」

「DMMグループはいわば現代の超クールな総合商社。金融にゲームから、水族館にサッカーチームまで持っている。一方で僕たちみたいなサービス運営が2カ月、売上もこれからの会社の買収も数日で決めてしまう。こんなに“ぶっ込んでいる”会社はない。大きい市場を取りに行こうとしているときに、経済合理性をいったん置いてでも挑戦する会社がサポートしてくれるというのは、とても心強い。困っていることや強化したいことを相談すると、ほとんど何でもある。例えば物流まで持っているんだ、と」

光本氏は今回の買収についてこう語る。

一方、DMM.com代表取締役社長の片桐孝憲氏は、同年代(片桐氏は1982年生まれ、光本氏は1981年生まれ)の経営者である光本氏を自社に欲しかった、と語った上で、「(光本氏は以前ブラケット社を創業、イグジットした上で)2回目でもいいサービス、いいチームを作っていると思っていた。もともとDMMでも(CASHのようなサービスを)やるという話はあったが、結局チームまではコピーできない。とは言えバンクを買収することは不可能だと思っていたので、ちょっと出資ができないかと思っていた」と振り返る。

買収のきっかけとなったメッセージ

片桐氏は以前から競合サービスの立ち上げについてDMM.comグループ会長の亀山敬司氏と話していたが、10月になって事態が動き出したという。片桐氏の海外出張中に、以前から面識があったという亀山氏が、光本氏に直接メッセージを送り、翌日の食事に誘って買収の提案を行ったのだという。その後はトントン拍子で話が進み、約1カ月で買収完了に至った。「きっちりとCFOがデューデリジェンスもしているが、基本的に口頭ベースで合意したのは5日くらいのスピードだった」(片桐氏)

ちなみに今回の買収、光本氏にはロックアップ(買収先の企業へ残って事業の拡大をする拘束期間。通常2〜3年程度付くことが多い)が設定されていないという。「もし明日辞めても、『そっかー……』というくらい。ロックアップというのは意味がないと思っている。僕が担当した会社(DMM.comが買収したnana musicとピックアップのこと)はロックアップがない。経営者との関係性や経営者のやる気がなくなったら意味がないから。僕がバンクを経営できるわけではない。モチベーションを上げるためのソースがないと無理だと思っている。(買収は)事業を付け加えていくことというよりは、いい経営者にジョインしてもらうこと」(片桐氏)

光本氏は先週開催したイベント「TechCrunch Tokyo 2017」にも登壇してくれており、その際にも尋ねたのだけれども、現状CASHに関する細かな数字については非公開とのこと。「まだ運営して2カ月くらいのサービスなので、僕たちもまだデータをためている段階。ただ、2カ月前に再開して、改めて確信したのは、今までは二次流通や買取の市場——つまり『モノを売る』という手段の一番簡単なものがフリマアプリだと捉えられていたが、(より手軽という意味で)その下はもっとあったのだということ。この市場はフリマアプリと同様に持っていけるポテンシャルがある。それをただただ構築していきたい」(光本氏)

また、少額・即金という資金ニーズに対応するCASHに対して、FinTechをもじって「貧テック」と揶揄する声もあったが、「全く理解できない。前提として僕たちは1円でも高く買い取れるよう努力している。今の時点でも、不利に、安く買いたたいているわけではない。『この価格ならノールックで買い取らせて頂ける』と提示しているだけだ」と反論した。

バンクはDMM.com傘下で開発体制も大幅に強化する。すでにDMMグループからの出向も含めて人数を拡大中で、2018年中には100〜150人規模を目指して採用を進めるとしている。また当初はCASH以外のサービスも展開するとしていたが、「機会があれば(DMMと)一緒に新しい事業をやっていきたい。会社としてはやりたいネタがいっぱいある。まずはCASHに注力しつつ、新規の事業も出していきたい」(光本氏)と語っている。

なお11月20日にはヤフーがオークションサービス「ヤフオク!」内で、ブックオフコーポレーション、マーケットエンタープライズと連携した家電・携帯電話・ブランド品などの買い取りサービス「カウマエニーク」を公開している。こちらはブックオフ店舗持ち込みか宅配による買い取りだが、フリマに続いて買取のマーケットにも続々動きがありそうだ。

目指すは脱ガラパゴス、DMM.com発「スマートロボット」は世界で戦えるか

DMM.comが1月27日、ロボットの販売・製造を手がける新事業「DMM.make ROBOTS」をスタートした。ロボット同士がインターネット経由でつながって成長・進歩する「スマートロボット」を普及させることで、国内ロボット産業の「脱ガラパゴス化」を図りたいという。

同日に開催された記者発表会では、「日本のお家芸が再加速する」と期待が寄せられた一方で、「何に使うか見えてこない」という冷めた見方も。果たして、スマートロボットは世界に通用するのか。

世界初のロボットキャリア事業

同社によれば、DMM.make ROBOTSは世界初のロボットキャリア事業。聞きなれない言葉だが、携帯キャリア事業をイメージするとわかりやすいかもしれない。DMM.comは通信会社のように、製品の販売やプロモーションを担当。一方、ロボット開発ベンダーは携帯端末メーカーのように、設計・開発・製造だけに従事する。いわば分業制だ。

クラウド上には、ロボットを進化させるためのIoT環境「DMMロボティクスクラウド」を構築。ここでは、ロボット向けにアプリやファームウェアを配信したり、DMM.comのコンテンツ販売も想定している。ユーザーの行動データを解析してレコメンドすることも可能。不健康な生活を送るユーザーには、ロボットが健康促進に必要な情報を伝えるようなイメージだ。



提携するロボット開発ベンチャーは富士ソフトユカイ工学プレンプロジェクトロボットゆうえんちの4社。特別タイアップ企画として、デアゴスティーニの部品付き週刊マガジンでお馴染みの「ロビ」の完成品を販売する。

DMM.comはこれらのスマートロボットを10億円分買い取り、ウェブ上の販売プラットフォームで売り出す。2015年で30億円、2017年で100億円の売り上げを目指す。

ロボット産業はビジネス視点が欠如している

DMM.comロボット事業部の岡本康広氏は、「日本に欠如しているのはビジネス視点。1社独自で開発することがほとんどで、技術連携もなかった」と、ロボット産業のガラパゴス化を指摘する。

DMM.comといえば2014年11月、東京・秋葉原に総額5億円の設備を備える、ものづくりスペース「DMM.make AKIBA」をオープンしたことが話題になったが、ロボットキャリア事業では、この場所にロボット開発ベンチャーに開放。詳細は明かされなかったが、各社が持つロボットの要素技術を集める仕組みを作ることで、イノベーションを起こせると力強く語った。

将来的に事業化した場合には、DMM.comとして出資することも視野に入れているという。


日本のお家芸が危機

「このままでは日本のお家芸が世界に追い越される」。こう危惧するのは、前述の「ロビ」や、世界で初めて国際宇宙ステーションへ打ち上げられた「キロボ」などを開発したことで知られる、ロボ・ガレージ代表取締役社長の高橋智隆氏だ。これまでのロボット研究はビジネスを見据えてなかったと言い、「世界の流れを考えずに、研究者の興味のあるものしか作ってこなかった」と問題点を指摘する。

日本とロボット開発で火花を散らす米国に目を向けると、シリコンバレーではビジネスマインドを持った起業家たちが次々とロボット業界に参入。ネット業界の巨人も、こうしたロボットベンチャーを買いあさってきた。

例えばGoogleは2013年6月、人型ロボットを手がける、東京大学発の「SCHAFT(シャフト)」を買収したほか、映画「ゼロ・グラビティ」の特殊撮影でも使われたロボットアームを開発するBot & Dolly、4足歩行ロボ「BigDog」を手がけるBoston Dynamicsといったロボット開発ベンチャーを次々と傘下に収めている。

日本から世界で通用するロボットを生み出すためには、それなりの投資が欠かせないと高橋氏。過去数年のロボット業界は「どこかがリスクを背負ってくれるのを待っていた」とみる。DMM.comが開始したロボットキャリア事業については「リスク承知で参入してくれた」と高く評価。日本の技術と知を集めることで、日本のお家芸であったロボットが再び加速するのではと期待感を表した。

一方で冷めた見方も

脱ガラパゴス化を目指すロボットキャリア事業に期待が高まる一方で、冷めた見方もある。1月27日に開催された記者発表会にゲスト参加した堀江貴文氏は、「ぶっちゃけ何に使うか見えてこない。ロボットで生活が変わるには、結構時間がかかりそう」とバッサリ。スマートロボットを購入するのは、「エンタメに興味がある物好きぐらい」という見解だ。

初年度に30億円の売上目標を掲げるDMM.comだが、これは現実的な数字なのか。この点について、DMM.comロボット事業部の岡本氏に単調直入に聞いてみると、「アーリーアダプター層が中心となるが、一部のロボットはファミリー向けにも十分訴求できる」と自信をのぞかせている。

初年度に販売するのは、人工知能搭載で会話ができる「Palmi」(29万8000円)、外出先から伝言ができる「BOCCO(ボッコ)」(2万9000円)、運動神経が売りという「PLEN.D(プレン・ディー)」(16万8000円)、ダンシングロボット「プリメイドAI」(9万9000円)の4種類。

記者発表会では製品の体験会が開催され、実際にいくつかのロボットを見せてもらったので、動画を貼っておこう。