【コラム】DEIプログラムが機能していない理由

企業はしばらく前から、DEI(Diversity:多様性、Equity:公平性、Inclusion:包括性)を備えた職場環境の確立に努めてきたが、一昨年からの一連の出来事は、インパクトのあるDEIの取り組みにおいて大半の組織がいかに未熟であるかを浮き彫りにした。

新型コロナウイルス感染症の影響で米国全体の失業動向が大幅に悪化した後、Center on Budget and Policy Priorities(予算・政策優先度センター)は2021年10月、黒人とラテンアメリカ系の労働者が白人労働者に比べて大幅に低い雇用回復率に直面していることを報告した。2021年8月の失業率は、白人労働者の4.5%に対し、黒人労働者は8.8%、ラテンアメリカ系労働者は6.4%であった。

この回復率は民族性に限定されない。2021年中の女性の失業率は男性よりもはるかに高かった。Oxfam International(オックスファム・インターナショナル)の報告によると、パンデミックにより世界中の女性が少なくとも8000億ドル(約91兆円)の収入を失っているという。この数字は衝撃的であり、過小評価されているグループに対してより持続可能で包括的な労働環境を提供するという観点において、全面的に大規模な変革が必要であることが示されている。

成功するDEIは、文化的に多様なワークフォースを実現することに留まらず、ビジネスの成功にとって必要不可欠な要素になっている。2020年にMcKinsey(マッキンゼー)は、多様性に富む企業が多様性に欠ける企業を収益性で上回る公算がこれまで以上に高まっていることを確認し、DEIが企業の業績に重大な影響を与えていることを裏付けた。

しかし、進展は遅い。その理由は何であろうか。企業は、多様な労働文化を支えるための公平で包括的な構造を整備することなく、多様性を優先している。実際のところ、真に多様ななワークフォースを生み出すには、すべての従業員をサポートする公平で包括的なイニシアティブにコミットすることが前提となる。いかにチームが多様であっても、公正なプログラムと包括的な環境を提供しなければ、DEIの取り組みはうまく機能しない。

企業はアプローチを再考し、多様性の前に公平性と包括性を置くように優先順位を再設定して、DEIではなくEIDの取り組みを構築する必要がある。

なぜ公平性が優先されるのか

筆者は黒人女性として、採用やチーム作り、また現在のセキュリティテクノロジー企業での多様性への取り組みの主導など、従業員体験に注力するキャリアを過ごしてきた経験から、職場における人種差別意識や不公平な扱いがどのようなものかを直接知っている。企業は、多様ななワークフォースを支えるための基本的な方針やプログラムを用意せずに、自分たちの組織に筆者を招き入れ、多様性を高めようとしてきた。

自分のような人々に機会を見出そうといくら手を尽くしても、彼らが成功するために必要なリソースと環境の提供なくしては、それは決して十分なものとはなり得なかった。差別に関する苦情はしばしば却下され、支援要請は黙殺された。入社したばかりで将来に期待していた新入社員は、すぐに職場環境に幻滅してしまう。こうした失敗において欠落していた共通項は、多様性の欠如ではなく、公平性を重視していなかったことだ。

従業員体験チームと多様性リーダーの両方にとって、公平と平等を区別することが重要になる。DEIのイニシアティブに公平性を組み込むためには、各人がそれぞれの役割に異なる一連のニーズを持っていることを認識する必要がある。平等とは、すべての人に同じ資源を与えることを意味するが、公平性の概念は、個々の従業員が同僚と同じレベルの成功を収めることができるように、それぞれのニーズに合った資源と機会を与えることに帰結する。

企業がDEIへのアプローチ方法を再構築する上でまず問うべきことは、多様な人材の育成と維持につながる、公平で包括的な基盤をどのように構築するかである。

賃金格差の解消

報酬分析を実施することは、公平性を受け入れ、すべての従業員が同じ雇用機会と給与にアクセスできるようにするための第一歩となる。歴史的に見て、賃金と機会の公平性は過小評価グループには得難いものとなっており、ほとんどのDEIイニシアティブで大きな障害になっている。最近まで、多くの企業は報酬分析さえ行っておらず、いうまでもなく、組織全体にわたる給料レンジや賃金水準の透明性も提供していなかった。

組織の進捗状況を追跡し、弱点を特定するために、総合的な分析を毎年実施すべきである。報酬分析を適切に実施することで、人種、性別、年齢にわたって、組織の賃金の公平性を明らかにできる。

真に公平なシステムは、民族や性別に関係なく、公正な賃金を提供する。これは、企業が依然として苦戦している領域である。PayScale(ペイスケール)が2年前に実施した調査では、白人の男性が1ドル(約114円)稼ぐのに対して、黒人の男性は87セント(約99円)、ラテンアメリカ系の男性は91セント(約104円)であった。男女間の賃金格差はさらに大きく、2021年の女性の収入は男性の84%だった。Pew Research(ピュー・リサーチ)によると「2020年に男性が稼いだのと同じ収入を得るには、女性は42日間余分に働く必要がある」という。

黒人や有色人種は白人と同等の賃金を、女性は男性と同等の賃金を得られるように、賃金格差をなくすことが第一の目標になる。

それは人材の不足ではない、ビジョンの欠如である

筆者がDEIについてよく耳にする抵抗材料の1つは、企業は多様性の向上に努めているが、多様な人材を見つけることができない、というものだ。多くの場合、その主張は人材の不足に言及し、特にテクノロジー業界、つまり技術的能力によって定義される役割に向けられている。しかし、人材不足は誤った前提であり、実際に起きていることは雇用側のビジョンの欠如である。

企業は早い段階で採用活動を誤った基準に集中させ、経験年数や特定のスキルセットを過度に重視している。このアプローチは、多様な人材の採用に効果を発揮しない。過小評価グループの多くは、特定のスキルを習得するための十分なトレーニングや役割の継続につながる機会を与えられていないのである。

レジリエンス(回復力)、クリエイティビティ(創造性)、アンビション(野心)といった適切な特性を有する候補者は、その仕事を行うために必要な技術的能力を短期間で習得する鋭敏性を備えていると考えられる。企業は、独自の経験と生得的な強みがその人を価値ある候補者にしていることを理解し、経験年数を超えて目を向けられるような採用活動を意識的に行う必要がある。

もちろん、これが空いている役割のすべてに当てはまるわけではないと思うが、トレーニングや学習の機会のための道筋があるなら、チームは「完璧な」候補者という考えに広がりを持たせることで、多様性の目標に向けて本格的な前進を遂げることができるだろう。

ERGが鍵となる理由

インパクトのある変革を始める前に、組織の既存の文化と、そこに存在するギャップを明確に理解しておく必要がある。報酬分析は重要なステップではあるが、もう1つの鍵となる取り組みは、従業員リソースグループ(ERG:employee resource group)を通じて自社の人材をサポートするシステムを構築することだ。

あらゆる属性に基づいたERGが存在し得る。女性、黒人、ラテンアメリカ系の従業員、LGBTQの従業員など、これらはほんの数例にすぎない。そしてERGにより、組織全体に多大な支援をもたらすことが期待できる。

成功するERGは、包括性イニシアティブのバックボーンとして機能し、仲間意識を生み出し、従業員に安全で快適な空間を提供して、その体験を共有できる環境を実現する。ERGは、組織内の過小評価グループへの充実した奉仕に貢献するだけでなく、他の文化や人生経験に対するリーダーシップの認識を高めることにも寄与する。

仲間意識を醸成し、個人的な問題やデリケートな問題に関する堅牢な対話の場を提供することを目標とするならば、ERGは不可欠である。彼らは包括性を奨励するとともに、従業員の定着率を劇的に高めることができる。効果的なERGを通じて、従業員のニーズに対する組織の認識はより明確になり、従業員の士気、生産性、職務満足度の向上に役立つイニシアティブに基づいた組織行動が発展していく。

従業員が自分の仕事についてどう感じているかを知りたいなら、彼らに尋ねよう

DEIの取り組みにおけるギャップを見つけることは、企業の規模にかかわらず難しい課題である。よく言われるように、自分が知らないことは自分では分からない。ここでは、従業員調査が大きな違いをもたらすと考えられる。より効果的なDEIプログラムの構築と、従業員体験の成果の向上に役立つ、実質的なデータを発掘できるだろう。

毎月、四半期ごと、あるいは年次の従業員調査を実施することで、従業員満足度に関する深い洞察が得られる。組織の特定のレベルで認識されていないギャップが明らかになり、問題をはらむ事柄への対処を可能にし、DEIの取り組みを拡充させる新しいプロセスの創出につながっていく。

社内調査は非常に有益なツールであり、従業員のモチベーションを高める洞察力のあるデータを提供してくれる。結果を追跡し、進捗を測定し、ベースラインを評価することは、あらゆる大規模プロジェクトに不可欠な要素であるが、労働文化と永続的なDEI構造へのシフトを目指す場合には特に重要だ。

もちろん、リーダーシップからの賛同がなければ、このいずれもうまく機能しない。総合的なDEIソリューションを導入する前に、あるいは積極的な変革に真剣にコミットする準備が整っている場合はEIDを導入する前に、組織の経営幹部が参画している必要がある。真に公平で、包括的で、多様な組織を構築するために、ビジネスリーダーは、これらのイニシアティブが自分たちにとって何を意味するのか、また、これらのイニシアティブを組織にどのように反映させたいのかを明確に示すべきである。

リーダーシップのサポートを得たら、公平な賃金と雇用機会から始めて、持続可能なDEIプログラムの活性化を図る。そこから、安全で快適な空間の構築に着手し、人々が自分らしさを表現できる環境を整える。包括的な作業環境により、従業員は独自の人生経験と多様なバックグラウンドを組織に持ち込むことができ、ひいては、より幅広いオーディエンスとつながるための企業の展望と能力が広がりを見せていく。これらの取り組みが揺るぎなく定着した後は、多様な従業員を惹きつけるのみならず、高い定着率を維持する雇用戦略を展開していくことができるであろう。

成功するEIDプログラムを作り上げることは、家の建築に似ている。装飾を加える前に、まず、頑丈な基礎と壁を用意することが必要である。

編集部注:Candice Bristow(キャンディス・ブリストー)は、Expel Inc.のEIDおよび採用担当ディレクター。

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(文:Candice Bristow、翻訳:Dragonfly)

【コラム】ダイバーシティに関するデータが透明性を欠いている理由

テクノロジー業界では、ダイバーシティが大きな話題となっている。FacebookやGoogleなどの企業が企業文化の向上を目指し、ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンへの取り組みを行っている。しかし分析によると、DEIを推進しているとされるこれらの企業では、こうした取り組みにもかかわらず、過去10年間でダイバーシティに大きな変化は見られなかった。

2010年代に入り、多くのハイテク企業が透明性を示すために年次のダイバーシティに関する報告書を公開したが、データを見てみると問題が浮かび上がってくる。報告書は、ダイバーシティの数値の増減を記載していることが多いが、企業が具体的な変化を起こすのに役立つデータを分析できていないことが多いのだ。

データを活用し、ダイバーシティに影響を与えるシステムを深く掘り下げる

これらの報告書に記載されているデータは、結果を示すものだ。企業がダイバーシティにおける測定分野(人口統計学的コミュニティが一般的だ)において成長したのか、衰退したのかがわかる。しかし、なぜそのような結果になったのか、システムのどの段階で失敗しているのかはわからない。

したがってこれらの報告書は、改善されたプロセスやシステムを測定するという、説明責任の強力な効果を逃しているのだ。

一例として、ある企業のマーケティングデータを見てみよう。

大企業がマーケティングファネルを最適化しようとするとき、マーケティングプロセスのあらゆるレベルのデータを見ることがある。例えば、外部のマーケティング活動から得られるインプレッション数を推定したり、広告からウェブサイトへのコンバージョン数を数値化したり、ウェブサイトの訪問者のうち何人が顧客に転換したかを計算したりする。これらの情報は、パフォーマンスを最適化し、売上を増加させるために定期的に使用される。そしてこれらの情報は、企業が成功するためには収益の創出が不可欠であることをリーダーたちは知っているため、優先的に使用される。

リーダーは採用システムのすべての段階でデータを記録し、分析すれば、採用段階で質の高い分析を行うことができる。データセットには、すべての交流ポイントにおける以下の(しかしこれに限定されない)人口統計学的情報が含まれるだろう。

  • 求人広告のインプレッション数
  • ソーシングチャネルを通じて特定された候補者
  • 面接に来た候補者
  • 面接官による評価結果
  • 内定および承諾された内定

それからリーダーは、プロセスの各段階で、就職可能な人材と少なくとも同等の人口構成のコミュニティを確保することができる。そして結果の改善のために(毎年ではなく)、このデータを利用して、優先的に定期的にシステムに変更を加える必要があるだろう。

採用活動はその一例に過ぎず、他にもさらに有益なダイバーシティデータを活用できるビジネス分野はある。

情報の実用化

リーダーは、説明責任を果たすための情報やより高い公平性と包括性を実現する情報を公開することで、データを実用的なものにするという選択ができる。

以下の各項目の共有を検討してみて欲しい。

  • 人口構成別の給与の透明性と給与の公平性
  • エンゲージメントとインクルージョンのデータ(人口構成別)
  • 人口構成別の昇進率
  • 人口構成別の定着率

このような提言をすると、ジェネラルカウンシルは不安になるかもしれない。しかし、人材、文化、エクイティの分野でイノベーションを起こしている企業は、こうした透明性と説明責任の領域に踏み込んでいる。

さらに、これらのデータを公開することで誠実さを全面的に打ち出している組織は、ダイバーシティを中心とした帰属意識の高い文化の構築に向けて大きく前進している。

データの透明性とデータの説明責任は別物である

私たちはよく、何かを測定できるなら、それを変えることができると信じている。しかし、測定だけでは変化はやって来ない。測定可能な変化に対してステークホルダーに責任を持たせながら、適切なデータ要素を測定することが極めて重要だ。

これが営業ではどうなるのかを考えてみて欲しい。

営業チームは、収益目標の達成に貢献したかどうかで個人の業績を評価する。結果を出さなければ仕事を失うリスクがある。なぜなら失敗すればビジネスに悪影響を及ぼすからだ。

DEIでも同じように、業績評価の目標の一部として、四半期ごと、あるいは毎年、具体的な結果を出すことに責任を持つリーダーが出てくるだろう。だが残念ながら、何が起こったかを報告するだけでは、リーダーたちが結果に有意義な影響をもたらすプロセスを変えるためにさらに行動するようにはならない。

低い数値を基準にしても変化は起こらない

ダイバーシティの報告書では、自社の過去の指標、業界全体、同規模の企業、または地域全体(米国など)に対し、毎年のデータを基準とすることがよくある。このような方法で進捗を測定すると、少しずつの進歩が実際の成果よりも大きく見える。リーダーはこのデータを見て、自分たちは業界標準を満たしているということはできるが、業界の進歩率がごくわずかであれば、それはただ結果を改善する責任がなくなるだけだ。何十年もの間、企業はダイバーシティを正しく理解していなかったのに、なぜその標準以下の実績を基準にするのだろうか?

簡潔にいうと、低い実績を基準にするのはお粗末な行為だ。

基準を設けるなら、少なくとも、ダイバーシティとそのコミュニティに関して上位4分の1に入る成績を収めている企業を基準とすることで、真の意味での改善を目指すことだ。しかしこれによってまたハードルが上がり、リーダーにはより戦略的になることが求められる。

さらに重要なことは、企業は利用可能なタレントプールを(米国の労働統計局のデータや、人口構成や専攻分野別の卒業率を利用しながら)基準として、地理的、業界的、職種的に人材の数が少ない箇所を特定することだ。

例えば、コンピュータサイエンスを専攻した女性の卒業率は、ほとんどの企業における新入社員レベルのソフトウェアエンジニアリング職に就いている女性の割合を大幅に上回っている。

しかし、米国の労働統計局のデータでさえ、誰が雇用対象なのかに関する前提条件に依存しており、真に雇用可能な人々の全体像を除外してしまうという欠陥がある。このことから、これらの基準と地域の人口データを組み合わせれば、効果を示す別のデータセットとして利用することもできる。

もしハイテク企業が、組織内で現在起こっていることについてのデータだけでなく、システミックな偏見が、組織にアクセスできない多様な人材に対してどのような影響を与えているかを示すデータを公開すれば、そのような報告書が行動変革の動機となり、自分たちの組織の成果を向上させたいと考えている他の業界の読者にとって価値のあるものになるかもしれない。

編集部注:本稿の執筆者Fran Benjamin(フラン・ベンジャミン)氏はGood Works Consultingのマネージング・パートナー。Monique Cadle(モニーク・キャドル)氏は、Good Works Consultingの創立パートナーであり、Delfi Diagnosticsの人材担当VP。

画像クレジット:A-Digit / Getty Images

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(文:Fran Benjamin、Monique Cadle、翻訳:Dragonfly)

【コラム】イーロン・マスクやスティーブ・ジョブズ、「独創的」な考え方を持つ脳多様性な人たちも活かすソフト設計とは

ホモ・サピエンスは実に多様性に富んだ種である。地球上のさまざまな地域に起源を持つ私たちは、出自に基づく区別を呈する姿をしており、コミュニケーション手段には何千もの言語が存在する。そしてそれぞれの経験、伝統、文化に基づいた異なる思考パターンを持ち合わせている。私たちの脳は、そのすべてに独自性がある。このような特性をはじめとするあらゆる機能を駆使して、私たちは問題を分析し、意思決定を行う。

これらの要素はすべて、私たちがビジネスを行う方法と、職務を遂行するためにツールを使用する方法に直接影響している。ビジネスを上手く進めることは、ほとんどの人にとって課題をともなうチャレンジングなものだ。しかし、ニューロダイバース(神経学的に多様)の特性を有する人々、故Steve Jobs(スティーブ・ジョブズ)氏がかつて述べたような「think different(異なる考えを持つ)」プロフェッショナルたちは、その才能が企業内でしばしば過小評価されるか、未開拓である、独自の類型となっている。こうした企業は、標準化に価値を置き、通常のワークパターンからの逸脱は限定的であることを好む傾向にある。

ニューロダイバーシティ(神経多様性 / 脳の多様性)の役割

ニューロダイバースな資質を持つ(ニューロダイバージェント)人々は、主流派とは異なる方法で情報を処理する。自閉症スペクトラム、失読症、注意欠陥障害(ADD)を持つ人々もその例として挙げられるが、専門家は全人口の40%がニューロダイバージェントであると考えている。

優秀なセールスパーソンほど粘り強さを発揮し「独創的」な考え方をすることが多いことを勘案し、このパーセンテージはセールス専門職ではさらに高くなると思う人も少なくない。あるセールスチームの誰かがスーパースター級のセールスパーソンであっても、彼らが情報や他者とどのようにやり取りするかに影響を与える神経学的変異を持っているという可能性は低い。こうしたことから、ニューロアティピカル(神経学的に非定型)な人々をセールス組織に統合し、彼らを成功に導く知恵についての非常に興味深い議論が生じている。

例えば、セールスパーソンはCRM(Customer Relationship Managementm、顧客関係管理)ソフトウェアシステムを利用している。このシステムでは、すべての記録、ワークフロー、アナリティクスが標準化されており、ユーザーエクスペリエンスはシステムに設定された1つの方法に限定されている。

だが、このような複雑で柔軟性に欠けるシステムを誰もが最適に使用できるわけではない。特に、ユーザーインタラクションレイヤーが非常に厳しく制限されている場合はなおさらだ。ニューロダイバースな人々の多くは、特に「独断的」なアプリケーションを使うことに困難を感じる。このようなアプリケーションでは、ユーザーに特定の作業方法を押し付ける傾向があり、ときにユーザーの人間性のすべての面、つまり情報を処理し、ワークフローをナビゲートするユーザー独自の方法を考慮しないこともある。そのため、ほとんどのセールス組織において、最も高いパフォーマンスを発揮するセールス担当者は、CRMを最低限しか更新していないことが多い。ノートテイキングアプリケーション、タスク、スプレッドシートなどの基本的なツールで取引のパイプラインを管理しているセールス担当者が多いのも、こうした理由からだろう。

ニューロダイバースなプロフェッショナルは、異なる視点と強みをもたらし、しばしば現状に挑戦する。思考の多様性が、特別なやり方で組織に力を与えるのだ。

企業はニューロダイバースの人材から何を得るべきだろうか?

JP Morgan(JPモルガン)は、2015年にニューロダイバーシティのパイロットプログラム「Autism(自閉症)at Work」を立ち上げた。その結果は注目に価するものであった。このプログラムに参加した従業員は、同僚よりも48%早く仕事を完了し、92%生産性が高かった。オーストラリアのDepartment of Human Services(福祉省)の別のパイロットプログラムの結果によると、同組織のニューロダイバースなソフトウェアテストチームは、ニューロティピカル(神経学的に定型)なチームよりも30%生産性が高くなっていた。

自閉症の人の多くは細部にまで強いこだわりを持つことが知られている。例えば、自閉症スペクトラムの7歳の少年は、歴史上のあらゆる難破船の詳細を暗記している。この種の情報への集中と欲求は、適切な役割に利用されることで、驚くべきポテンシャルが生み出される。自閉症の人材は、データアナリティクス、技術サービス、ソフトウェアエンジニアリングなど、知識経済の急成長分野の一部に理想的に適していることも多い。実際、Tesla(テスラ)のCEOであるElon Musk(イーロン・マスク)氏は、自身が自閉症の一種であるアスペルガー症候群であることを最近明らかにしている

ニューロダイバーシティの別の領域として、独創的な考え方をする人は失読症であることが多い。世界を変革した失読症の人々について考えてみよう。Steve Jobs(スティーブ・ジョブズ)氏、Richard Branson(リチャード・ブランソン)氏、Bill Gates(ビル・ゲイツ)氏。これはほんの一部の例にすぎない。彼らに共通しているのは、世界を違った目で見る能力である。

ソフトウェアのジレンマ

企業はこうしたメッセージを意識し始めている。ニューロダイバージェントの従業員は才能と貢献の巨大な源泉として評価されるべきであるという認識である。同時に、2020年の出来事をきっかけに、あらゆる種類の社会的不公平に対する意識が高まり、より多くの組織がニューロダイバーシティを多様性、公平性、インクルージョンの取り組みの一環として認識するようになった。

しかしこれまでのところ、焦点が当てられているのは、雇用、トレーニング、オンボーディングプロセス、さらにはオフィス設計(私たちがオフィスに復帰した場合)がどのようにしてニューロダイバージェントの人々にとってより包括的になることができるのかということだ。例えば、SAP(エスエイピー)とMicrosoft(マイクロソフト)は、ニューロアティピカルの従業員をより多く雇用する取り組みを拡大している。

こうしたイニシアティブは重要であるが、ソフトウェア企業は一歩進んで、中核的な設計レベルでアプローチを変える必要があると私たちは考えている。

多くのソフトウェアは、ユーザーの視点からすべてのものがどのように感じられ、どのように流れるかについてほとんど、またはまったく配慮することなく、ユーザーに特定の作業方法を課している。そしてその過程で、この硬直的なシステムは、ニューロダイバースな人々を排除してしまう。その結果、ユーザーは日々の業務で課題に直面することになる。これまで提供されてきたツールは、標準化という名の下に、情報の処理方法やワークフローの操作方法に適合していないのである。そして、組織はツールやシステムの適用状況が不十分であることに悩まされている。

このようなことを意図的に行っているベンダーは存在しない。ただ、実行して良い結果を出すのは難しいということである。しかし、あらゆるユーザーを念頭に置き、すべてのユーザーが同じように効率的かつ生産的になれるような、共感できるソフトウェア設計を追求することは、すべてのソフトウェア企業にとってコアバリューとなるはずだ。それは、すべての「ユーザー」が同じではないことを認識し、尊重することから始まる。そうすることで、より多くの人々が自然に利用できる、より柔軟でアプローチしやすいソフトウェアを設計する道が開けてくるだろう。

セールス組織がニューロダイバージェントの人材を多く擁しているとしたら、間違った種類のツールがもたらす影響を想像してみて欲しい。例えば、ADHD(注意欠陥・多動性障害)を持つ人に大量の単調なデータ入力タスクを要求するCRMソフトウェアのようなものだ。熟練した、ニューロダイバースなセールスパーソンが、自分の潜在能力を十分に発揮するには不適切なツールを与えられたために、フラストレーション、潜在能力の喪失、士気の低下が生じてしまうことを想像して欲しい。

業界全体として、ソフトウェアのユーザーエクスペリエンスについての考え方を広げ、柔軟性を主要な設計原則として組み込む時期がきているといえるだろう。

編集部注:本稿の執筆者Pouyan Salehi(プーヤン・サレヒ)氏は、Scratchpadの共同設立者兼CEO。

画像クレジット:Hiroshi Watanabe / Getty Images

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(文:Pouyan Salehi、翻訳:Dragonfly)

【コラム】増えてきたTikTokきっかけの就職、そこに潜むバイアスに注意

ソーシャルメディアは、その登場以来、成功への足がかりとなってきた。自作のYouTube(ユーチューブ)動画が話題を呼び、レコード会社との契約に至ったというストーリーは、ソーシャルメディアプラットフォームの神話となっている。それ以来、ソーシャルメディアは、テキストベースのフォーマットから動画共有のようなビジュアルメディアへと一貫して推移してきた。

ほとんどの人にとっては、ソーシャルメディア上の動画がスターダムに上がるためのチケットになるわけではないが、ここ数カ月、TikTok(ティックトック)に投稿した動画がきっかけとなって職に就いたという話が増えてきている。LinkedIn(リンクトイン)でさえ、最近「Cover Story(カバーストーリー)」という機能を追加し、ユーザープロフィールに動画を取り込めるようにした。これにより求職者は自身のプロフィールを動画で補強できるようになった。

テクノロジーが進化し続けると、正規の履歴書がTikTokの動画だというような世界も来るのだろうか。もしそうなった場合、労働力に及ぼすマイナスの結果や影響として、どのようなことが想定されるだろうか。

なぜTikTokが求職分野に向かっているのか

ここ数カ月、米国の求人数は1010万人と史上最高を記録している。パンデミックが始まって以来、求人数が労働者数を上回ったのは初めてのことだ。雇用側は、空いたポジションに見合った優秀な候補者を集めるのに苦労している。その点から見れば、多くの採用担当者が人材を見つけるためにTikTokのようなソーシャルプラットフォームや動画の履歴書に頼っているのもうなずける。

しかし、労働者が不足しているからといって、その職務に適した人材を見つけることの重要性を疎かにしてよいわけではない。採用担当者にとって特に重要なことは、ビジネスの目標や戦略に合致したスキルを持つ候補者を見つけることだ。例えば、ビジネスを遂行するうえでデータ駆動型のアプローチを採用する企業が増えると、収集したデータの意味を理解するために、アナリティクスや機械学習のスキルを持つ人材がより多く求められる。

採用担当者は、このような新しい候補者を見つけるのに役立つイノベーションに前向きであることがわかっている。採用活動は、以前のように人事チームが紙の履歴書や正式なカバーレターの束をより分けて、適格な候補者を見つけ出すような手作業ではなくなった。また、LinkedInの台頭にともない、オンラインでのつながりを活用するようになり、GlassDoor(グラスドア)のようなサードパーティの求人サイトを利用して有望な求職者を引き寄せることもできるようになった。バックエンドでは、多くの採用担当者が高度なクラウドソフトウェアを使って、受け付けた履歴書を精査し、職務内容に最も適した候補者を見つけ出している。しかし、これらの方法はいずれも、依然として従来のテキストベースの履歴書やプロフィールをアプリケーションの中核としている。

ソーシャルメディア上の動画では、候補者の口頭でのコミュニケーション能力やプレゼンテーション能力など、書面では簡単に伝わらないソフトスキルをアピールすることができる。また、採用担当者が候補者の個性をより詳しく知り、自社の文化にどのように適合するか判断する手段にもなる。このようなことは多くの人にとって魅力的なことかもしれないが、その結果に対する準備はできているだろうか。

クローズアップに対する準備不足

採用活動におけるイノベーションは、仕事の未来にとって重要な位置を占めるが、TikTokや動画の履歴書による過剰なアピールは、採用環境を後退させる可能性がある。求職者が企業に自分を売り込むための新しい手段を提供する一方で、求職者、採用担当者、ビジネスリーダーが注意すべき潜在的な落とし穴があるのだ。

動画履歴書の可能性を広げる最大の要素は、同時に最大の問題点でもある。動画は、スキルや実績よりも人物そのものを必然的に強調してしまうのだ。採用担当者が候補者について最初の評価をまとめるとき、候補者が人種、障害、性別などに基づき保護されたクラスに属しているかどうかなど、通常であれば評価プロセスのかなり後にならないと目にすることのない情報に直面することになる。

ここ数年、雇用主が職場の多様性をどのように優先しているか、あるいは優先していないかに対する意識や監視の高まりとともに、多様性、公平性、インクルージョン(DEI)への関心が急速に高まってきている。

しかし、動画によって候補者を評価することは、無意識、あるいは意識的なバイアスがかかる機会を増やすことにつながり、これまでのDEIにおける成果を台無しにしてしまう可能性がある。慎重に対処しないと、企業イメージに傷をつけたり、差別訴訟のような深刻な事態を招いたりする可能性があり、企業にとっては危険な状況となる。

多様性に対する実績が乏しい企業では、候補者の動画を観たという事実が訴訟で不利に働く可能性がある。動画を見ている採用担当者は、候補者の人種や性別が自分の判断にどのような影響を与えているか気づいてさえいないかもしれない。そういった理由から、筆者が見てきた多くの企業では、採用フローに動画のオプションを導入しても、採用担当者は採用プロセスの後半まで動画を見ることはできない。

しかし、たとえ企業が保護されたクラスに対する偏見を管理しDEIの差し迫った問題に対処したとしても、採用活動に動画を利用することで、神経多様性や社会経済的地位など、十分に保護されていないクラスでは問題が残る。優れたスキルと豊富な実績を持つ候補者が、動画では自分をうまく表現できず、動画を観る採用担当者には頼りない印象を与えるかもしれない。その印象は、たとえ仕事とは関係なくても、採用担当者の意識に影響を及ぼす可能性がある。

また、裕福な環境にある候補者は、優れた機材やソフトウェアを利用して魅力的な動画履歴書の録画や編集ができるだろう。そのような環境にない他の候補者の動画は、採用担当者の目には、洗練されたプロフェッショナルなものとは映らないかもしれない。しかしそれでは、チャンスを得るうえで新たな障壁となってしまう。

職場でのDEIの対処について重要な岐路に立たされている今、雇用主と採用担当者は、候補者を見つけて採用するプロセスにおいて、バイアスを低減する方法を確立することが急務だ。業界を前進させるにはイノベーションが重要だが、最優先事項が損なわれてはいけない。

ボツにされないために

このような懸念にもかかわらず、ソーシャルメディア、特に動画ベースのプラットフォームは、ユーザーがパーソナルブランドを拡大し、雇用の可能性につながる新たな機会を生み出している。これらの新しいシステムは、求職者と雇用者の両方にメリットをもたらす可能性がある。

まず、採用活動で使う従来のテキストベースの履歴書やプロフィールを置いておく場所を常に確保する必要がある。たとえ採用担当者が候補者の能力に関する情報をすべて動画から得られたとしても、カメラに映らない方が自然と安心できる人もいる。採用プロセスでは、書面であれ、ビデオであれ、できるだけ良い印象を与えようとする気持ちが重要だ。それは、自分以外の力を借りても構わない。

その代わりに、候補者や企業は、過去の同僚や上司が候補者を推薦する場として動画を利用することを検討すべきだ。他者による推薦は、単に自分自身で長所をアピールするよりも、応募者の能力に信頼を置いている人がいることも示すため、応募において大きな効果がある。

企業が優秀な人材を獲得しようと躍起になっている昨今、動画の履歴書は、これまで以上に簡単に作成や共有できるため注目を集めている。しかし、この目新しい履歴書の共有方法に飛びつく前に、成功のための準備を確実に整えておく必要がある。

新しい採用活動のテクノロジーの目標は、新たな障壁を作ることなく、求職者が自分自身を輝かせる機会をより簡単に見つけられるようにすることだ。動画の履歴書がそれを実現するには、いくつかの対処すべき重大な懸念があり、雇用主は、今までのDEIへの取り組みの成果を損なう前に、動画履歴書の弊害について考慮することが重要だ。

編集部注:本稿の執筆者Nagaraj Nadendla(ナガラジ・ナデンドラ)氏は、Oracle Cloud HCMの開発担当SVPで、Oracle RecruitingやTaleoなどのクラウド採用ソリューションの開発を担当している。

画像クレジット:C.J. Burton / Getty Images

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(文:Nagaraj Nadendla、翻訳:Dragonfly)

【コラム】多様性、公平性、包括性の面から評価した現在米VC業界の進歩

編集部注:Maryam Haque(マリアム・ハケ)氏はVenture Forwardのエグゼクティブディレクター。Bobby Franklin(ボビー・フランクリン)氏はNational Venture Capital Associationの社長兼CEOで、以前CTIA-The Wireless Associationのエグゼクティブバイスプレジデントを務めていた。

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これまでベンチャーキャピタル業界が多様性に欠けていたことは明らかだが、業界が改善に取り組んでいることは喜ばしい。

そもそもベンチャーキャピタルは業界として、筆者らが測定したものを改善することしかできない。2016年、筆者らは、ベンチャーキャピタルの多様性、公平性、包括性(DEI:Diversity, Equity and Inclusion)の進捗状況を追跡するための厳密な方法論を開発し、2年に1度開催されるVC Human Capital Surveyで、これらのデータを測定し、ベンチマークとすることに着手した。

この調査はNVCA(National Venture Capital Association:全米ベンチャーキャピタル協会)、Venture Forward(ベンチャ―フォワード)、Deloitte(デロイト)の協力を得て実施され、あらゆる種類、規模、ステージ、セクター、地域のベンチャーキャピタル従業員の人口統計データを収集すること、および企業のタレントマネジメントや採用活動の傾向を把握することを目的としている。これまでの調査では、進歩が遅く、落胆させられることもあったが、すべての分野ではないとはいえ、一部の分野では多様性(および多様性を促進するための会社の取り組み)が高まっている証拠を得ることができた。

繰り返しになるが、業界としてのベンチャーキャピタルの改善は、筆者らだけが測定できる。

筆者らは2016年、2018年、2020年に調査を実施し、2021年3月に2020年の成果を発表した。この調査では、2020年6月30日時点で378社の企業から収集したデータを掲載しており、203社だった2018年から大幅に増加している。さらに、145社以上の企業が#VCHumanCapital pledge(誓約)に署名し、DEIのデータを提出することを約束した。

ざっくりとまとめるとデータからは、投資パートナーにおける多様性の改善は、主に女性投資家の採用と昇進によってもたらされていて、黒人やヒスパニック系の投資パートナーの公平な代表性にはほとんど進展がなかったことがわかる。

しかしながら、若手投資家の人口構成が多様化し、多様性を重視したタレントマネジメントや採用手法の導入が進んでいることから、楽観的な見方もできるようになった。業界の前進にはまだ先が長いが、今回の調査で明らかになった重要なインサイトと変化をいくつか紹介する。

多様性の改善に向けた取り組み

多様性および包括性の推進を社内で明確にする企業が増加し、50%の企業がこの課題に責任を持つスタッフやチームを擁している(2018年は34%、2016年は16%)。同時に、多様性戦略と包括性戦略も普及し、43%の企業が多様性戦略を導入(2018年は32%、2016年は24%)、41%が包括性戦略を導入している(2018年は31%、2016年は17%)。

この取り組みは多様性の改善につながる。専任のスタッフ、戦略、プログラムを持つ企業では、投資チームや投資パートナーの性別や人種の多様性が向上している。DEIの重要性が増していることも、より広範なエコシステムにつながっている。過去12カ月の間に、リミテッドパートナー(有限責任パートナー)や投資先企業からDEIの詳細を求められたと報告する企業が増えている。

人材の採用と育成に明るい兆し

ベンチャー企業は比較的規模が小さく、離職率は一般的に低いが、2020年には21%の企業がシニアレベルの投資担当者ポジションが増えたと回答し、43%がジュニアレベルのポジションが拡大したと回答している。ジュニアレベルの投資担当者の人口構成は、性別や人種の多様性が高くなっており、将来の投資パートナーの多様性を示すポジティブな先行指標となっている。

全体的にEI戦略が普及するにつれ、より多くの企業がDEIに焦点を当てた採用・雇用プログラムを開発するようになった。正式なプログラムを持つ企業は33%、非公式なプログラムを持つ企業は74%で、いずれも2016年から着実に増加している。また、企業は2018年に比べて、空席が出た際の候補者を外部に求めることが多くなったと回答している。

しかし、企業は依然として、採用活動の大部分を社内ネットワークで行っていて、(人口構成上)同質な採用結果に結びつくことが多い。外部の候補者を採用するためのパイプは細く、2018年と2020年の調査でほとんど変化は見られない。VC業界の同業者を頼る(78%)、会社の内部で採用をかける(59%)が最も多く挙げられた戦略だった。例外的に、LinkedInなどのサードパーティのウェブサイトやニュースレターへの掲載は、2020年には54%の企業が回答しており(2018年の37%から大幅に増加)、既存のネットワーク以外のより幅広い候補者にアプローチするための手段の1つもなっている。

未だ困難な包括性の評価

人材の獲得後は、包括的な文化と定着率がDEIの進捗を測る重要な指標となる。リーダーシップ開発、メンターシップ、定着に特化したプログラムを実施する企業が増えており、約3分の2の企業が非公式のプログラムを提供し(2016年と比べて20ポイント増)、20%の企業が正式なプログラムを提供していると回答している。

VC Human Capital Surveyで包括性を評価することは困難である。なぜなら、この調査は1社につき1人を代表として行っていて、1人では他の人が感じている包括性の度合いを回答することができないからである。2020年の調査では、企業自体が包括性をどのように評価しているかを測るために、新たな質問を追加した。41%の企業が包括性戦略があると回答した一方で、包括性を評価するために従業員を対象とした調査を行っていると答えたのは26%に留まった。

依然主観的な要素が昇進における重要な考慮事項

多様な人材が業界の最高レベルの意思決定者になるためには、キャリアアップのための十分に構造化され、一貫して適用されるポリシーが欠かせない。昇進に焦点を当てた正式なDEIプログラムを提供していると回答した企業は約20%(2016年の5%から増加)、非公式なプログラムを提供している企業は65%(2016年の39%から増加)である。

昇格に焦点を当てたDEIプログラムは広まっているものの、主観的な要素は依然として昇格決定の重要な考慮事項であり、不平等で偏った結果につながる可能性がある。

ほぼすべての企業が、昇進を検討する上で「ファンドのパフォーマンスへの貢献」(90%)と「取引の組成」(82%)が「非常に重要」または「重要」な要素であると回答した。しかし、最も重要と回答されたのは「ソフトスキル」であり、94%の企業が「非常に重要」または「重要」と回答している。このような主観的な要素は、無意識のバイアスが入り込む可能性が高く、より明確にパフォーマンスに関連する客観的指標による重みづけを損なう可能性がある。

推進力の維持

2020年の調査結果は、社会正義と人種的公平性が国を挙げて注目され、政策立案者がサービスの行き届いていないコミュニティからの資本へのアクセスを向上させようとし、VC業界が新たにDEIに着目し始めた1年の直後という時宜を得たものとなった。今回の調査は、VC業界がどこに注力すべきかを示すとともに、DEIにフォーカスした取り組みの共通のニーズを思い出させる重要な指摘となった。

データは、疎外された複数のコミュニティを代表する人を見ると、1つの人口統計要素内の進歩がより小さくなる可能性があることを示している(例えば女性である投資パートナーの割合は着実に増加しているが、有色の女性である投資パートナーの割合は増加していない) 。

DEIの進歩のペースは遅く、不均一な部分もあるが、楽観できる根拠もある。4月6日、NVCA、Venture Forward、Deloitteは、最新の調査結果をさらに検討し、DEIの課題、機会、業界の戦略について議論するために、業界のリーダーとの討論会を開催した。社内での、また公の場における業界の同業者との建設的な会話を優先事項と考え、協調的な精神で行動し、熟考した具体的なDEI戦略を採用し、意欲的かつ緊急性を持って行動する企業が増えている。

業界がDEIの取り組みに対して勢いを持ち続け、結果を出すことができれば、有意義な進展につながる転換点に到達し、今後の調査に反映されることになるだろう。

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タグ:コラムDEI多様性アメリカ

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(文:Maryam Haque、Bobby Franklin、翻訳:Dragonfly)

スタンフォード大とデューク大が投資家と企業幹部の多様性教育を推進する認証プログラムに参加

テック業界の多様な企業創設者の育成と支援を目的に、ノースカロライナ大学のKenan Flagler Entrepreneurship Center(ケアンフラグラー起業家精神センター)、Opportunity Hub(OHUB、オポチュニティー・ハブ)、100 Black Angels and Allies Fund(ワンハンドレッド・ブラック・エンジェルズ・アンド・アライズ)ファンドによって結成されたパートナーシップに、デューク大学とスタンフォード大学という強力なパートナーが加わった。

このパートナーシップの一環として、スタンフォード大とデューク大に所属する教員は、DEIS Practicum Certificate(DEIS実習修了認定)【訳注:DEISはDiversty(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性)、ソリューションの頭字語】プログラムと、Black Technology Ecosystem Investment Certificate(ブラック・テクノロジー・エコシステム投資認定)プログラムの教師を務めることになる。前者は、単なる人材雇用や補償による公平化を超えて、企業の経営陣が多様性と包括性に組織的な形で関与する方法への取り組みであり、後者はより多くの黒人投資家がスタートアップの支援を行えるようにする取り組みだ。

「団体の組織的レベルで、DEIのような問題と、富の格差という根深い問題に対処するためには、私たちはそうした教育がより多くの人に開かれるよう、力を合わせる必要があります」とEntrepreneurship Centerの事務局長Vickie Gibbs(ビッキー・ギブズ)氏は声明で述べている。「ともに私たちはアクションを起こし、より公平な社会と起業家コミュニティの構築に向けて前進します」。

スタンフォード大学のTechnology Ventures(テクノロジー・ベンチャーズ)プログラム(STVP)とデューク大学からの教員の参加は、プログラムの有効性を高めるだけではないと、OHUBの会長であり、100 Black Allies & Angels(ブラック・アライズ・アンド・エンジェルズ)の共同創設者にしてジェネラルパートナーのRodney Sampson(ロドニー・サンプソン)氏はいう。ノースカロライナ大学とデューク大学で客員教授も務めている同氏は、2つの大学の加盟により、それぞれの大学の卒業生の間でプログラムの周知が行き渡るとも話している。

「これらのソリューションと見識が、この2つの名門大学の卒業生と、その起業家コミュニティの中の認識を高めます」とサンプソン氏は声明で述べている。

サンプソン氏が開発した枠組みには、多面的なアプローチが採用されている。そこでは、多様性、公平性、包括性が事業化されてる度合いを審査するための項目を、取締役会とガバナンス、雇用、昇進、人事における実践の評価、調達とベンダーサービス、イノベーションと製品開発、多様なオーディエンスに届く市場参入のための資源、黒人およびラテン系コミュニティへの投資、そのコミュニティでの事業のインパクトの監視と設定している。

この枠組みは、幸先良くも、他ならぬBrookings Institution(ブルッキングス研究所)から先日発表された、Amy Liu(エイミー・リュー)氏とReniya Dinkins(レニヤ・ディンキンス)氏の共同執筆による論文にも引用された。

「偏見をなくし、本当の帰属意識が持てる文化の創造への取り組みを最高責任者が自ら示すことで、他社との協力に必要な会社と企業幹部たちの高い信頼と信用が得られ、より大きな進歩と持続的な繁栄がその拠点にもたらされます」と同論文には書かれている。

特にスタンフォード大学にとって、多様性と教育実習を受け入たことは、大学での多様性教育の制限を要求する前政権の政策に急いで従わなければならなかった同大学が、汚名回復のためのリハビリに励んでいる今の時期には好都合だった。

「あまりにも長い間、多様性、公平性、包括性は、起業家精神とイノベーションにとって後付けの考え方でした。思慮深く、行動力のある仲間たちと組織的人種差別に対処できることを、とてもうれしく思っています。私たちが力を合わせることで、私たち団体間に重要にして新たなネットワークを構築でき、世界中の教育者や団体とで共有できる教育のための見識を磨くことができます」と、ノースカロライナ大学チャペルヒル校およびデューク大学コヘイン名誉客員教授、STVP主任教員であるTom Byers(トム・ベイヤーズ)氏は話している。

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タグ:DEIスタンフォード大学差別デューク大学多様性

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:金井哲夫)

企業のコンプライアンス点検の質問を自動化するKintentがシードで4.4億円獲得

テクノロジー企業は顧客のセキュリティに関する総点検が必要だが、それは往々にして長い質問表に答える退屈な仕事だ。そのプロセスを自動化するスタートアップであるKintentが米国時間4月1日、Tola Capitalがリードし、テクノロジー業界の多くのエンジェル投資家が参加したシードラウンドで400万ドル(約4億4000万円)を調達したことを発表した。

共同創業者でCEOのSravish Sridhar(スラビッシュ・スリダール)氏は、前のスタートアップである、モバイルアプリのデベロッパーにBaaS(Backend as a Service)を提供するKinveyを売却し、数年の休暇を取り、次に何をするかを決めた。2017年にKinveyをProgress Softwareに売った売却益で、ふところは豊かだった。

Kintenyの経験から彼が直接知り得たことは、彼のその企業をはじめとして、多くの企業が大量のコンプライアンススタンダードを遵守しなければならないだった。そこから、次の企業の構想が生まれた。彼は、企業が自社のコンプライアンス達成度をもっと簡単に知るためのスタートアップを作りたかった。それは、コンプライアンスの現状を測り、改善点を教えてくれるサービスだ。そしてそれを目指して、Kintentを創業した。

「大きなビジョンとしては、企業がコンプライアンスに関して信頼されるための、記録システムを作ることです。その最初のユースケースは、情報のセキュリティとデータのプライバシー方面のコンプライアンスとなります。特にSaaSを開発する企業で、顧客データやPHI(個人健康情報)を保存しているなら、それは極めて重要です」とスリダール氏はいう。

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同社のプロダクトはTrust Cloudという名前だ。彼によると、同社はまずユーザー企業のテクノロジーの実態を、システムとそこに保存される情報のタイプの両面から点検し、彼らが準拠を目指しているスタンダードに対して実際どれほど準拠しているかを調べる。

それからユーザー企業側のデータの分類に基づいてTrust Cloudは、求めるスタンダードへのコンプライアンスを維持するためのベストプラクティスのリストを作る。そして最後に、その後やったことがコンプライアンスにどう影響したかをテストし続けるための方法を伝授する。

同社がローンチしたのは2019年で、2020年の前半まではプロダクトを開発し、2020年10月から有料サービスを開始した。現在では有料会員が35社ある。スリダール氏によると「売上は6桁の上の方だ。ローンチした10月以降、毎月一貫して前月比で20から30%伸びています。顧客の業種はすでに11業種に広がりました」とのことだ。

現在、社員は14名だが、今回の資金で増員を考えている。彼によるとダイバーシティは口先だけではだめで、同社の場合はそれが企業の創立価値の中核にあり、真剣に捉えているという。

「雇用に際しては意図的に多様性に配慮し、会社が出自や人生の背景がさまざまな人たちで構成されるよう努力している」とスリダール氏はいう。

同社はまた、メインのプロダクトであるTrust CloudのDEI(Diversity、Equity、Inclusion)に関する部分を現在作っており、それは無料で提供されるとのこと。これにより企業は、自社のダイバーシティの実態を数値化して把握でき、改善を要する部分もわかるようになる。

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タグ:Kintent資金調達コンプライアンスDEI

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(文:Ron Miller、翻訳:Hiroshi Iwatani)

テック業界における多様性の欠如は「パイプライン問題」が原因ではない、その言い訳の背後にある歴史を分析

テック業界は従業員、経営幹部、ベンチャー投資家の支援を受けた創業者、ベンチャーキャピタル企業、取締役における多様性が圧倒的に欠如しているという問題に長い間取り組んできた。そして業界全体でさらなる多様化に向けて努力をしているにもかかわらず、テック業界の大部分は依然として白人と男性が占めている。

長年にわたり、テック業界における多様性の欠如はいわゆるパイプライン問題に起因している、と多くの人が主張してきた。つまり、テック業界で多様性が乏しいのは、多様なバックグラウンドを持つ有能な人材が不足しているからだという主張である。

Uber(ウーバー)のチーフダイバーシティオフィサーであるBo Young Lee(ボー・ヤング・リー)氏がTechCrunchに語ったところによると、テック業界における多様性の欠如はパイプライン問題によるものでないことを証明する十分に確立されたデータがあるとのことだ。

「パイプライン問題だと主張したいのであれば、まずそのパイプラインから人材を採用したと主張しなければなりません」と同氏はいう。「これはパイプラインの問題というより、採用プロセスの問題なのです」。

しかし、パイプライン問題が存在しないことを示す証拠があるにもかかわらず、パイプライン問題は存在するという考えは、少なくともある程度は一般市民の心理に残っている。多様性、公平性、一体性(DEI)のコンサルティング会社Paradigm(パラダイム)のディレクターであるCourri Brady(クーリー・ブレイディ)氏は、パイプライン問題の神話からまだ抜け出せない人々がいることを認めている。

「私が個人的にサポートしている企業の中にも、パイプライン問題が存在するという認識がある程度残っている企業があります。しかし、いくつかの力学が働いています」とブレイディ氏はTechCrunchに語った。

ブレイディ氏によると、これらの力学の1つは、テック企業内で比較的固定化されている採用プロセスに関係しているという。

優秀な人材を輩出するのは、特定の学校やプログラムといった特定の集団だけであり、そうした人材は多様性に欠けると企業が確信しているなら、問題は長期化するだろう、とブレイディ氏はいう。

AI Now Institute(エーアイナウ研究所)で人工知能におけるジェンダー、人種、権力の研究リーダーをしているJoy Lisi Rankin(ジョイ・リージ・ランキン)博士は、パイプライン問題の歴史を積極的に研究している。今後6カ月以内に、その研究をレポートとして出版し、書籍化する予定もある。ランキン氏は親切にも、これまでの研究の一部をTechCrunchに紹介してくれた。

「大局的には、1970年代以来、人々は何らかのかたちでパイプライン問題を語ってきました」とランキン氏はいう。「それ以前は、ある分野で博士号や修士号を取得しているのは誰か、ある分野で一流の仕事に就いているのは誰かなどが重視され、パイプライン問題は多くの場合いわゆるマンパワー問題のようなものでした。重視されるのは常に個人でした。組織や構造ではなく、人を追跡することが重要でした。だからこそ、パイプライン問題が多くの罪の便利な言い訳になり続けるのだと思います。パイプラインの話をすることで、米国ではすべてが平等であるかのように見えるからです。そして、人々がパイプライン問題という考えを持ち続けるようにする方法を見つけさえすればよいのです。一方で私たちがSTEMパイプラインについて考えるとき、米国における教育は生まれた時からずっと平等であったことがないという事実について語ることはありません。これが真実です」。

もちろんBlack Girls Code(ブラック・ガールズ・コード)、Girls Who Code(ガールズ・フー・コード)、Code.org(コード・オルグ)など、子どもたちにテクノロジーを紹介するためのプログラムはある。しかしランキン氏がいうには、こうした問題はSTEM教育よりも深く浸透している。

「長い間、どこかの大学に入学するには一定のSATスコアが必要でしたし、大学院に入学するには一定のGREスコアが必要でした」とランキン氏はいう。「しかし文字どおり何十年にもわたる研究によると、SATスコアは大学での過ごし方や学生としての在り方にはまったく相関関係がありません。SATスコアは、人種にも関連する家族の裕福さや、家庭教師などを利用できるかどうかと密接に関連します。一方で、大学生の時に取得した資格認定が必要になる場面は次から次へと登場します」。

ランキン氏によると、教育システム全体は、昔から資格認定を通して知識の門番として機能してきた。

「資格認定は、ある種の門番のようなもので、誰が権限を利用できるか、誰が利用できないかを管理するものです」とランキン氏はいう。「シリコンバレーのテック企業が、いかにして実力ではなく均質性を優先しているかを示すために、数年前にこの言葉が新しく作られたのだと思います。シリコンバレーでは、自分と似たような資格を持ち、同じような学校教育を受けた人を採用します。だからといって、資格認定のある人が必ずしも有能であるとは限りません。あらゆる種類の多様性が、さまざまな状況でより良い仕事とより良い成果をもたらすことはよく知られています。しかし特定のタイプのいわゆる資格や証明書だけを重視すると多様性は生まれません」。

「教育以外にもパイプラインは存在します。私が『もう1つのパイプライン』と呼ぶ『ゆりかごから刑務所までのパイプライン』や、『地位が低く入れ替わりが激しいH1Bビザ労働者のパイプライン』などもあります」とランキン氏は述べている。

「パイプラインは『これらの企業が人種差別主義者、白人至上主義者、女性差別者であり、こういった組織や大規模な社会的・世界的資本主義構造こそが根本から変わる必要がある』と発言するための手段ではなく、あらゆる問題を切り離して『私たちはもっと多くの黒人女性をテック業界に迎える必要がある』と発言するための手段です」。

ランキン氏によると、1950年代から60年代にかけて、しばしば女性が手作業でコンピューティングの仕事をしていたという事実は、このパイプラインという概念で捉えられていないという。当時、多くの人がコーディングは女性の仕事だと考えていた。

「コンピューティングが社会的にも経済的にも政治的にも、いかに重要であるかが明らかになってから10年ほどで、この専門的職業は男性がやるものになりました。特定の種類のコンピューティングやプログラミングが文化的に価値を持ち始めると、給料の高い多くの仕事が男性に移っていったことは確かです。仕事の内容が変わったわけではありません。仕事に対する評判が変化したため、仕事の性差のつけ方が変化したのです」。

これらは、ランキン氏が自身の研究論文の中で概説する考えのほんの一部にすぎない。同氏は、この論文が、多様性、公平性、一体性についてのテック業界の会話を変えるきっかけになることを期待している。ランキン氏は、テック業界がパイプラインを言い訳にするのではなく、不平等、人種差別、女性蔑視や、ミクロの不平等がマクロの問題につながる仕組みをもっと重視することを望んでいると述べた。

ランキン氏の報告書には、教育を真に公平なものにするための努力や監視への取り組み、学校から刑務所へのパイプラインなどに関するいくつかの提言も含まれる。同氏はまた、給与データは公開するべきだと考えている。

「給与に関する透明性が高まれば、より実りある会話ができるようになります」とランキン氏はいう。

先にPinterest(ピンタレスト)の元従業員Ifeoma Ozoma(イフェオマ・オゾマ)氏は、カリフォルニア州上院議員Connie Leyva(コニー・レイバ)氏の後ろ盾を受けて、職場での差別や嫌がらせを経験した人々に権限を持たせる法案を提出した。Silenced No More Act(SB 331)(もう黙っていない法)は、あらゆる形態の差別や嫌がらせのある職場環境において機密保持契約の使用を防止するものだ。

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「これは間違いなく正しい方向への第一歩です」とランキン氏はいう。

提案された法案は、レイバ氏が起草し、2019年に施行された「Stand Together Against Non-Disclosures Act」による労働者の保護を拡大するものである。オゾマ氏と元同僚であるAerica Shimizu Banks(エアリカ・シミズ・バンクス)氏は2020年、人種差別と性差別の両方について訴え出た。最終的にはPinterestと和解したが、STAND法は、厳密にいえば、性差別の告発に関して彼女たちを保護したにすぎなかった。この新しい法案は、人種差別の告発についても労働者を保護することを保証している。

「今回の法案はテック業界だけでなく、みなさんの業界にも重要になるでしょう」とオゾマ氏は私に話してくれた。「物事に横断的に取り組まない限り、真の進歩はありません。私たち全員が得た教訓はこのことです。そう私は信じています」。

AI Nowのファカルティディレクターであり、2018年のGoogleストライキの共同主催者でもあるMeredith Whittaker(メレディス・ウィッタカー)氏は、この種の法案は絶対に必要だと述べている。

「構造的な見地から、問題を告発せずに、有害で差別的なテック環境を変えるつもりはありません。それは明らかです」とウィッタカー氏はTechCrunchに語った。「私たちは何十年もDEI(多様性・包括性・平等性)のPRに失敗してきました。何十年もの間、人々はパイプラインを非難してきました。そして、何十年もの間、Ifeoma(イフェオマ)氏、Aerica(アエリカ)氏、Timnit(ティムニット)氏といった優秀な人材は嫌がらせを受け、このような環境から追い出されてきました。そして多くの場合、人々は自分の経験について話すことができないため、差別的環境の深刻な毒性(企業や職場の構造的な業務手順に差別が植え付けられる慣習)が公表されることはありません」。

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また雇用や企業の採用についても透明性を高める必要がある、とランキン氏は述べた。多様性に関する目標をいち早く掲げた企業の1つであるPinterestは、女性エンジニア、マイノリティのエンジニア、マイノリティの従業員の採用率を2020年に公開した。しかし、学校、コーディングブートキャンプ、その他のプログラムとの提携による新規採用者がどれだけいるかなどを公開し、さらに透明性を高める余地がある。

Uberの多様性に関する最新のレポートでは、大学新卒者採用や、多様化するインターンシッププログラムなどについて言及しているが、同社が報告したデータでは、それらの取り組みから採用につながった人数は明らかにされていない。

Uberのボー・ヤング・リー氏によると、同社はトップ・オブ・ファネルのパイプラインを適切に追跡し、有能な人材が集まっているかどうかを確認しているという。これはマンスフィールド・ルールと呼ばれるもので、ルーニー・ルールをさらに2、3歩進めたものである。ルーニー・ルールは、欠員のある役職に対して少なくとも1人以上の多様性に富む候補者と面接することを企業に求めている。Uberがこれに正しく取り組めば、その採用パイプラインの14%は黒人とヒスパニック系になるだろうと、リー氏は2016年ニューヨークタイムズ紙の工学系卒業生に関する記事を引用して述べている。Uberはマンスフィールド・ルールを導入したばかりだが、データの一部を公開する予定があるという。それがどういうものか、まだはっきりしていないが。

一方、Google(グーグル)の多様性に関する最新のレポートでは、ラテンアメリカで1300人以上の女性が、GoogleボランティアとGoogle.orgからの助成金を利用して、どのようにウェブ開発とUXデザインの訓練を受けたかを紹介している。その結果、参加した女性の75%がテクノロジー関連の仕事に就いたとGoogleは述べている。しかしGoogleに就職した女性の人数には言及しなかった。

同じレポートの中でGoogleは、米国内の15のHistorically Black College and Universities(HBCU)、39のヒスパニック系教育機関、9つの女子大学から人材を採用したと述べている。聞こえはいいが、2020年12月に、Googleの元多様性採用担当者であるApril Curley(エイプリル・カーリー)氏は自分が解雇された経緯を明かした。カーリー氏は「黒人やヒスパニック系の学生をパイプラインから締め出すために、あらゆる人種差別的発言が行われていることに気づいた」後、解雇されたという。

「当社には、HBCUと提携して関係強化を図る専用チームを含め、黒人やその他のマイノリティの採用を増やすために、非常に熱心に取り組んでいる大規模な採用担当者チームがあります」とGoogleの広報担当者はTechCrunchに対して述べた。「この取り組みは非常に重要です。2019年には19のHBCUからの卒業生を受け入れ、過去十年間で800以上の学校に採用活動を拡大しました。同時に私たちは、全身全霊を尽くして、開放的で支援的な職場を維持しています。カーリー氏の解雇についての説明には賛同できませんが、同氏の主張へのコメントは差し控えさせていただきます」。

Googleでの出来事であろうと、他のテック企業での出来事であろうと、ランキン氏が問題にしているのは、採用プロセスの透明性が全体的に欠如していることだ。

「独自のパイプラインは問題が多く不公平です。しかし大規模な問題を取り除き、個人だけが注目されないようにするにはどうすればよいでしょう」とランキン氏はいう。

ランキン氏はテック企業の内部で働いているわけではないので、DEI部門の内部事情を語ることはできないが「事態を改善しようとしている優秀な人材がいると信じている」と述べた。

「これは教育と視点の大きな問題です。工学の学位を取得したり、テック企業に就職したりするところまで、どうたどり着けるかが重要であり、深く根ざした歴史的・構造的な問題として人種を考える必要がなかったのです」と彼女はいう。「こうした大きな問題のいくつかを無視すれば都合が良いと思いますが、特にここ数年の出来事を考えると、知らなかったでは済まされません」。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:DEI

画像クレジット:TechCrunch/Bryce Durbin

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(文:Megan Rose Dickey、翻訳:Dragonfly)

バイデン大統領の多様性への取り組みが、ビジネスリーダーの方向性を導く

本稿の著者Elias Torres(エリアス・トーレス)氏は、会話型マーケティング・販売プラットフォームDriftの創設者兼CTOだ。

ーーー

2021年の我が社の目標は44%が女性、14%が過小評価グループで労働力を構成することだった。多少の進展はあったものの、現在のそれぞれの数値は、43%と13%にとどまっている。

この目標がなぜそこまで重要であるかを説明すると、筆者には、17歳の時に母と兄弟とともにニカラグアから米国へ移住した経歴があるからだ。その際、知識があり努力さえすればなんでも達成できる場所が約束されたのだ。しかし、成長の過程を振り返っても、筆者のような立場にあるビジネスリーダー、政治家、校長先生などを見た記憶はない。Marc Benioff(マーク・ベニオフ)のような立場にある黒人やSteve Jobs(スティーブ・ジョブズ)のような立場にあるラテン系の人物が報道されることが一切なかったため、少数グループが活躍できる未来が見えなかったのだ。

だが、2008年のオバマ大統領の選出を機に、社会の認識が非常に速い速度で変わったのだ。これによる有色人種への影響が大きかったことは言うまでもない。新しい政権に切り替わった今、バイデン大統領は「我が国の多様性を反映する」内閣の人選に非常に力を入れている。

彼の政権には、国連大使候補者であるLinda Thomas-Greenfield(リンダ・トーマス・グリーンフィールド)大使や国土安全保障長官候補者のAlejandro Mayorkas(アレハンドロ・マヨルカス)など、黒人およびラテン系コミュニティを代弁する人材が含まれている。

17歳のときの筆者が、元難民が米国の未来の舵を取っているのを見たとしたらどのように感じ、世界観がどのように変わり、成長しただろうと考えたら、多様性へ献身しようという意欲が倍増した。結局は、公的機関が多様性に対してこのように積極的に取り組んでくれたら、確実に企業もそれに続くと言えるのではないか。

各企業には、2021年のDEI計画があるはずだ。我が社の計画は次のとおりである。

アイデアを得るために役員ではなく従業員を活用する

役員室は、より多様な人員で構成されるようにはなってきているものの、最終的に大きな進歩が見られる期待は少ない。進歩とはむしろ、従業員が自身のスキルとやる気がうまく重なり合ったときに見られるのだ。

今年、これを説明するようなことが我が社で起こった。

黒人が主導するビジネスへの新型コロナウイルスによる桁外れな影響を目にして、数名の従業員がアイデアを持って私の元に訪れたのだ。彼らは、我が社の製品を使い長期にわたるシャットダウンの影響を受ける黒人主導のビジネスを救済する方法を見つけたいと考えていた。彼らは、BlackBoston.comの所有者であるWilliam Murrell(ウィリアム・マレル)と協働し、ニーズを把握することから始め、彼と同ウェブサイトのビジターをどのようにつなげるかを考え始めた。Williamのネットワークで作業をすることで我々は、黒人が経営するビジネスにおいてテクノロジーの導入の妨げになっている障壁が何であるか深く理解し、ギャップを埋める反復可能なプロセスを作り出した。

このような判断とその結果としての取り組みは、収益性向上の方法を考えるために多大な時間を費やす役員室で行われたのではない。むしろ、自身のコミュニティを改善したいと願う従業員がアイデアを練り、その方法を生み出したのだ。

こうした取り組みをより一般的なものにするため、我が社は多様性に明るい採用担当者を採用し、チームがコミュニティをより適切に反映できるように尽力した。また、少数グループを面接へ導き、採用判断時の偏見を軽減できるように均衡のとれた採用プロセスを策定した。一方で、退職者から学ぶ姿勢も重要だ。彼らから我が社の改善すべき領域を学び、会社を超えて彼らが成長できるよう促すためだ。

在宅勤務が表現や相互信頼の妨げにならないようにする

現在、人々は通常の営業時間内で勤務していない。育児をこなしながら在宅で仕事をしていたりする。リーダーがその大変さを理解し、自分に引き寄せて考えることが必須である。我が社は、会計年度末を1月に変更したため、営業チームと市場参入チームは年度末に目標を達成するために慌てて仕事をせず、休日を家族と楽しみリフレッシュすることができた。

さらに、社員主導の採用リソースグループ(ERG)の役割を強化・拡大し、同僚同士が表現できる安全なスペースを確保している。相互信頼もビジネスにおいては不可欠である。自身を役員室における象徴と認識する創設者としては、社員が自らを表現でき、個々の成功や失敗から学んだことを共有する場所を用意することの価値を認識しているつもりだ。

こういったことだけでは多様性の直接的な改善にはつながらないが、信頼の構築に大いに役立つのは確かである。

人種や性別だけではなく、多様な視点を受け入れる

我が社が取り組んでいる最後の事項は、外見だけが多様性ではないということを認識することだ。むしろ、考え方やその人の抱えているものの多様性の方が、チームが共通の目標を達成するためにどのように協力するかにとって重要である。

結局のところ、違いを尊重できない文化の構築を進めると、マイノリティを組織の外へますます追いやってしまうことになる。我が社では、多様性、平等、インクリュージョンに焦点を当てることの一環として、民族の多様性と同様に考え方の多様性を認め合うことを推奨し、そして重要な時に問題を提起する社員に対する説明責任を我々自身に課している。

2020年はトラウマの年であり、すべての人が同じ恐怖と不安を共有した。ありがたいことに、このトンネルの終わりには、2つの有望なワクチンと性別や民族の境界線を越えた平等な表現を尊重する価値を知っている新しい政権がある。

このような前向きな発展に関わらず、多様なコミュニティに力を与える取り組みは、確実に維持していかなければならない。つまりは、テック業界に少数グループが十分に進出していないという体系的な問題は、このような取り組みだけでは解決しないだろうが、問題への対処と日々の学びに対し持続的に注意を払うことで解決できると信じている。2020年に目標を達成できなかったとはいえ、2021年は、大統領のリーダーシップの下、オフィスでの平等性を維持できるよう尽力する次第だ(オフィスがどこにあろうとも)。

すべてのビジネスオーナーがこれと同じ取り組みを行ってくれることを期待したい。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:コラムDEI

画像クレジット:Andrii Yalanskyi / Getty Images

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(文:ゲストライター、翻訳:Dragonfly)

SNSでのオンラインハラスメントや虐待に対抗するBlock PartyがTwitterでサービス開始

米国時間1月15日、PinterestのエンジニアだったTracy Chou(トレイシー・チョウ)氏は、ソーシャルメディア上で人々がより安全に感じられるようにすることを目的としたアンチハラスメントのスタートアップBlock Partyを設立した。同社のサービスは現在、Twitter(ツイッター)でのみ利用可能で、人々が自分が見たくないコンテンツをフィルタリングして、Block Partyが「ロックアウトフォルダ(Lockout Folder)」と呼ぶものに保存するというものだ。それは、ユーザーが後でそれを確認したい場合にフィルタリングされたコンテンツのすべてを見つけられる場所となる。

「(そうしたくなくても)これらの人々が存在することを認めるのは重要だと考えています」とチョウ氏はTechCrunchに語った。

存在しないふりをしていると、有益な情報や本物の人脈を逃してしまうかもしれない。

「そこには、失われてしまうかもしれない良いものがたくさんあり得ます」と彼女はいう。「私たちが、Twitterのような公共のプラットフォームを使うのには理由があります」。

よりネガティブな側面があるとすれば、と彼女は説明を続けた。それでもあなたは、あなたの物理的な安全を脅かす誰かがいるかどうかを確認するために定期的にチェックする必要があるかもしれない、と。

「ヘルパー」は、Block Partyのユーザーエクスペリエンスの中で大きな役割を果たしている。ユーザーは信頼できるヘルパーにロックアウトフォルダへのアクセスを許可して、彼らはそこに何か役に立つ情報があるかどうかを知らせたり、単にトロールをブロックしたりすることができる。

「誰か他の人が処理するのを助けてくれたり、懸念される情報にフラグを立ててくれたりすることで、とても気が楽になります。その負担を共有できるのは良いことです。ほとんどのプラットフォームの現在の設計では、虐待を受けている人だけに対処の負担を強いることになっていますから」と彼女は語った。

ロックアウトフォルダは、会社や弁護士などにハラスメントの証拠を提示する必要がある場合に記録を残すツールとしての役割も果たしている。

画像クレジット:Block Party(スクリーンショット)

「人々の生活をより楽にしようとしているのです」とチョウ氏はいう。「報告書を提出するたびに、再び虐待を見なければならないのは、とてもつらいことです」。

Block Partyは、Facebook(フェイスブック)やQuoraのようなプラットフォーム企業で働いていたチョウ氏自身の経験そして、テック業界における多様性とインクルージョンのため積極的に発言する活動家としての彼女の経験から生まれた。Quoraでは、ブロックボタンは、プラットフォーム上で嫌がらせを受けた後、彼女が最初に作ったものの1つだったとチョウ氏は筆者に話してくれた。

「内部にいて、製品やエンジニアリングチームがどのように動いているかを見てきたという視点もあります。」とチョウ氏は語る。「しかし、DEI(Diversity・Equity・Inclusion、多様性・公平・インクルージョン)の活動家としての経験から、チームがマイノリティーを欠く場合に製品の決定にどのように影響を与えるかを見てきました」。

Block Partyは今のところTwitterユーザーだけが利用できるが、目標は他のプラットフォームを追加して、複数のプラットフォームで自分をターゲットにした嫌がらせに対処できるようにするという。またBlock Partyは現在無料だが、サブスクリプションプランを導入する予定だ。それでも, チョウ氏は、無料版が常に存在することを想定していると述べた。

現在までにBlock Partyは150万ドル(約1億5000万円)弱の資金調達を行っている。プレシードラウンドは、Precursor VenturesのCharles Hudson(チャールズ・ハドソン)氏が主導した。他の投資家には、元TechCrunch共同編集長のAlexia Bonatsos(アレクシア・ボナトソス)氏、元RedditのCEOであるEllen Pao(エレン・パオ)氏、Facebookの元セキュリティ最高責任者Alex Stamos(アレックス・ステイモス)氏などがいる。

カテゴリー:パブリック / ダイバシティ
タグ:Block PartyDEI資金調達SNSハラスメント

画像クレジット:

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(翻訳:Nakazato)

多様性・インクルージョンを評価するデータ駆動型プラットフォームKanarysが3.1億円調達

Mandy Price(マンディ・プライス)氏は、1年少し前にKanarys(カナリス)を立ち上げるために2人の共同創業者と一緒に起業家精神を身につけるまでは、すでに弁護士として個人事務所で大きな成功を収めていた。

ハーバード・ロー・スクールの卒業生である彼女にとって、企業のダイバーシティとインクルージョンへの取り組みの成果をハードデータを使って測定するための支援を行う会社を起業する必要はなかったが、立ち上げる必要があると感じたという。

会社を立ち上げてから1年が経過した現在、ファストフードのYum Brands(ヤム・ブランズ)、バスケットチームのDallas Mavericks(ダラス・マーベリックス)、百貨店のNeiman Marcus(ニーマン・マーカス)といった十数の企業がサービスを利用しており、その拡大を支援するため同社は300万ドル(約3億1000万円)のシードファンディングを調達した。

プライス氏にとって、Kanarysを立ち上げようと思ったきっかけは、彼女自身が法律の世界で働いていた経験にある。きっかけとなったのは彼女自身の成功に対する同僚からの些細な嫌がらせや賃金の格差、さりげなく見下した態度ではなく、彼女の経験はユニークなものではなく、何千人もの他の女性やマイノリティが毎日同じ経験に直面していることを知っていたからだった。

「私は職場で、他の多くの女性や有色人種の女性が経験してきたことと同じようなことをたくさん経験してきましたが、自分の子供たちにも同じような経験をさせたくなかったのです」とプライス氏は語る。

そこで、自身もダラス地域の連続起業家である夫のBennie King(ベニー・キング)氏と、テキサス大学オースティン校とハーバード大学の同級生であるStar Carter(スター・カーター)氏とともに、プライスは2019年後半にKanarysを立ち上げた。

同社は、雇用機会均等委員会に提出されるレポートや昇進、採用、福利厚生を含む様々なポリシーの評価を利用して、同業他社との比較でその企業のパフォーマンスを追跡調査している。

「我々が目にする不公平の多くは、構造的・体系的な観点からのものです。Kanarysは、企業がどのように不公平を持続させているかを見極めることができます」とプライス氏は述べている。

Kanarysはまず企業の方針や慣行の独立した評価から始め、四半期ごとに顧客の従業員を対象に調査を実施して、企業が掲げた達成目標をどの程度クリアしているかを確認する。また、既存の人事システムと統合して、給与の公平性や昇進などを追跡する。

このサービスは、同社の300万ドルのシードラウンドを主導したZeal Capital Partners、Rise of the Rest Seed Fund、Morgan Stanley(モルガン・スタンレー)、Jigsaw VC、Segal Venturesから支援を得た。

「組織は通常、個別の介入によってこの問題に対処しようとしてきました」とプライス氏は述べる。「我々が主張しているのは、両方の面から対処しなければならないということです。見られる不公平の多くは、組織的・体系的なポリシーや慣習に基づいています」。

Kanarysは顧客のためにダイバーシティとインクルージョンの取り組みに関する情報を追跡するだけでなく、求職者のためにGlassdoorのような約1000社を含むデータベースを提供している。その焦点は労働者の満足度だけでなく、従業員が勤務先のダイバーシティへの取り組みをどのように見ているかにある。

特筆すべきは、Kanarysの創業者たちは事業を立ち上げ、ベンチャーキャピタルを調達する(あまりにも少ない)黒人起業家の仲間入りをすることだ。同社が提供するデータによれば、2017年の調査では、米国で調達されたベンチャーキャピタルの98%は男性が占めていた。一般的に黒人起業家が受けるVC出資の割合は1%未満で、黒人女性創業者は、ベンチャーキャピタルの資金調達のわずか0.6%(CNN記事)を占めている。

「ビジネスにおけるDEI(Diversity・Equity・Inclusion、多様性・平等・インクルージョン)に焦点を当てることは、従業員のために正しいことであるだけでなく、ビジネス的にも良い意味を持つことがわかっています」とKanarysの創業者兼CEOであるプライス氏は声明で述べた。「KanarysのDEI データは、ダイバーシティ目標とインクルージョンプログラムに関連した実際の横断的なメトリクスを使用して、正確かつ即時に情報に基づいた意思決定を行うことを初めて可能にし、最終的にはビジネス目標の底上げにつながります」。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:Kanarys資金調達DEI

画像クレジット:TechCrunch/Bryce Durbin

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(翻訳:Nakazato)