オクスフォードと武漢の新型コロナワクチン候補の試験結果は良好、人体にも安全

新型コロナウイルス(COVID-19)の流行拡大を防ぐために世界各国で努力が続けられているが、有望な結果が2つ現れている。1つはオクスフォード大学、他は国家重点研究開発計画の資金援助による武漢における研究だ。公表された情報によれば、初期段階の結果ではあるが双方のワクチン候補ともに新型コロナウイルス感染症を引き起こす原因となるウイルスに対する抗体値を高める結果を示している。これらのワクチン候補は人体に投与しても安全だったという。

オクスフォード大学の研究(The Lancet記事)は世界のワクチン開発の中でも最も重要であり、開発が進んでいるものの1つだ。研究対象の1077人は全員が過去にSARS-CoV-2との感染が確認されていない18歳から55歳までの健康な成人だった。この点は非常に重要だ。被験者は実験者側もどの薬剤が投与されているか知ることができないようにランダム化された二重盲検法とよばれる方法で試験を受けているためだ。プラセボ(偽薬)としては既存の髄膜炎ワクチンが用いられた。その結果、ワクチンの追加接種を受けたグループを含めて参加者の100%がウィルスを抑制する中和抗体反応を示した。

参加者の一部は「痛み、発熱、悪寒、筋肉痛、頭痛、倦怠感などの軽い副作用」を示した。いずれも深刻なものではなく、処方箋なしに薬局で購入できるアセトアミノフェンのような鎮痛剤によって緩和される程度のものだった。参加者の状態ははワクチン投与後28日間モニターされた。

この結果により、オックスフォードの研究者は参加者を拡大したフェーズ3の治験に進む 。これはワクチンの認可とこれにともなう大量生産、医療現場へ流通に進む前の重要なステップだ。従来のワクチン実用化は極めて時間のかかるプロセスだったが、今回のオクスフォード大学の開発は驚くほど迅速だった。

一方、中国における研究(The Lancet記事)では18歳以上の603名を対象とし、508名に絞り込んでワクチンないしプラセボを接種した 。報告によれば参加者は副作用を示さなかった。こちらのプログラムもフェーズ3の治験に進む可能性が高い。

2020年7月初め、米国の製薬企業であるModerna(モデルナ)はフェーズ1治験の結果を発表し、実用化を目指して進むと発表している。しかしこのテストは参加者が18歳から55歳までの45人と小規模であり、また今後の大規模な治験でモニターする必要がある重大な副作用の可能性も示されていた。規模が大きく深刻な副作用が報告されていない点でオックスフォードと中国のワクチン研究は非常に有望なようだ。

もちろんこれらは初期段階の治験であり、多くの推測をするには早すぎる。例えば、新型コロナに感染して回復した患者から採取した血清が抗体値のアップにどれほど役立つのかなどまだ研究は充分に進んでいない(NPR記事)。新型コロナウイルスに対する有効なワクチンの実用化まで、関連する人間の免疫システムの研究が今後も続けられる必要があるだろう。

画像クレジット:Pedro Vilela / Getty Images

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

Modernaに続きゲイツ財団が支援するInovioの新型コロナのワクチンが臨床試験へ

米国時間4月7日、FDA(米国食品医薬品局)は新薬臨床試験(IND)プログラムに基づいて新しい新型コロナウイルス(COVID-19)ワクチンの候補を承認した。これにより直ちにINO-4800 DNAワクチンの臨床試験のフェーズ1が開始される。

開発元のバイオテック企業 InovioではINO-4800 DNAワクチンをボランティア被験者に接種する計画で、動物実験では免疫反応の増加が示されるなど有望な結果が得られている。

InovioのDNAワクチン候補は、特別にデザインされたプラスミド(細胞の核外に存在するDNA断片)を患者に注入する。プラスミドを受け取った細胞における、特定の感染源を標的とする抗体生成を増強させるのが目的だ。DNAワクチンは、獣医学においては各種動物の感染症に対して承認を受け、頻繁に利用されているが、人間への使用はまだ承認されていない。

Inovioの新型コロナウイルスのワクチン開発はゼロから始まったわけではない。これまでにも同社はMERS(中東呼吸器症候群)のDNAワクチン候補のフェーズ1臨床試験を完了し、有望な結果が出している。被験者は高レベルの抗体生産を示し、効果は長期間持続している。

Inovioには優れたスケールアップ能力があり、フェーズ1およびフェーズ2の試験を実施するためにわずか数週間で数千人分のワクチンを製造することができた。同社はこの実験にあたってMicrosoftのファウンダー、Bill Gates(ビル・ゲイツ)氏が創立したBill and Melinda Gates Foundationからの支援を受けている。プロジェクトには他の非営利団体からの資金提供もあった。Inovioでは「 臨床試験が成功した場合、追加試験と緊急使用(承認が必要)のために今年中に100万回分のワクチンを準備できる」と述べている。

INO-4800は、FDAから臨床試験のフェーズ1の承認を受けたたワクチンとして2番目となる。我々も報じたとおり、 Modernaも2020年秋の限定実用化を目指して臨床試験を行っている。Inovioの臨床試験に参加する40人のボランティアはすべて健康な成人で、ペンシルベニア大学フィラデルフィア校のペレルマン医学部、あるいはカンザスシティの製薬会社、Center for Pharmaceutical Researchによってスクリーニングされる。 フェーズ1の試験は向こう数週間続けられ、夏の終わりまでまでに被験者の免疫反応、副作用の有無に関するデータが得られるものと同社では期待している。

新しいワクチンの広範な使用の承認が得られるまでには、1年から1年半以上かかるのが通例だが、新型コロナウイルスに対するワクチンの臨床試験開始のペースは並外れて速い。あまり長く待たずにすむことを期待しよう。

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新型コロナウイルス 関連アップデート

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

新型コロナウイルスのワクチンは長期間有効という研究結果

イタリアの研究者による新しい研究によれば、新型コロナウイルスのパンデミックの原因となっているウイルスの変異は比較的遅いという。言い換えれば、人間が感染することを防ぐ効果を持つワクチンが開発されれば地理的に広い範囲で有効なはずで、しかも比較的長期間にわたって効果が続くはずだと考えられる。

画像クレジット:Bloomberg/コントリビューター/Getty Images

この研究は、お互いに独立して仕事をしている2つの異なるチームによって実施された。1つは、ローマにあるLazzaro Spallanzani(ラザロ・スパランツァーニ)国立感染症研究所(IRCCS)、もう1つはAncona(アンコーナ)大学病院の生物医学および公衆衛生局(DSBSP)の法医学部門だ。それぞれ、イタリアの患者から採取したウイルスのサンプルについて、Thermo Fisher Scientificが開発した技術を使って遺伝子の配列を解読した。そして、これらのサンプルを、約2か月前の武漢での流行の際に採取された元のウイルスのサンプルから解読された基準のゲノムと比較した。

遺伝的変異の観点から言えば、これら2つのウイルスサンプルの違いはかなり少なかった。時期的に後となるイタリアのサンプルからは、5種の新しい異型が認められただけだった。この結果からは、SARS-CoV-2コロナウイルスが、複数の個人や集団にまたがる長い感染経路を経ても、それなりに安定した状態を保つことが、今のところは示される。

他のコロナウイルスが、短期間で変異する可能性があることを考えると、これは心強いニュースと言える。一般的な、毎年のインフルエンザを考えてみよう。これは、本質的に絶えず変異しているため、毎年新しいインフルエンザワクチンが開発されている。研究者は、毎年のインフルエンザシーズンには、時間との戦いの中で、どの突然変異株が最大の脅威をもたらすのかを予測し、ワクチンを適応させて、最新の予防接種を受けるよう、人々に促すのだ。

他のウイルスは、非常にゆっくりと変異するか、あるいはまったく変異しないかのどちらかだ。新型コロナウイルスは、どうやら前者に属するようだ。このイタリアの研究だけでなく、John Hopkins(ジョン・ホプキンス)大学や、他の世界中の健康科学研究者によって行われた研究も、同様の見解を支持してる。時間の経過による突然変異を、より包括的に追跡しようという、ある英国のコンソーシアムの取り組みによって、より明確な見解が得られるはずだ。

新型コロナウイルスのパンデミックに関して言えば、それを引き起こすウイルスの遺伝子構造の変化が遅いものであるという説を支持する研究結果は、非常に良い知らせだろう。ワクチンの開発には、まだ少なくとも1年はかかりそうだが、今回の研究結果からすれば、いったんワクチンが開発されれば、その効果は、地球上の広い範囲で、数年間は有効だろうと期待できるからだ。

新型コロナウイルス 関連アップデート

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

Modernaは臨床試験中の新型コロナワクチンを早ければ今秋にも医療スタッフに提供する計画

新型コロナウイルスのワクチン開発にはさまざまなハードルがあり、1年から1年半はかかるとみられていた。しかしワクチンの臨床試験を米国で最も早く開始することを発表していたModernaは、3月23日にさらに詳しい情報を発表した。これによると、同社は一部のグループ、おそらくは医療スタッフ向けに、早ければ2020年秋にもワクチンの提供を開始する計画を進めているという。

ModernaはFDA(食品医薬品局)からの緊急使用許可の利用を検討している。新しい医薬品や検査手法の臨床試験が承認されるためには複雑な手続きが必要だが、現在の緊急事態を受けて新型コロナウイルス関連の診断ツールに関しては、通常の手続きを経ないで進めることが認められている。Modernaのワクチンについてもこれに似た特例が認められるようだ。Modernaのワクチンは米国のNational Institute of Allergy and Infectious Diseases(国立アレルギー感染症研究所)と共同で開発されたもので、臨床試験段階に入る最速のワクチンとみられている。

通常のワクチンと異なり、Modernaのワクチンは新型コロナウイルスを不活性化したものではなく、ウイルスのメッセンジャーRNA(mRNA)を利用している。mRNA法は実際のウイルスが被験者の体内に入らないこと方法で、ワクチンからウイルスに感染してしまうリスクがない。 COVID-19に限らず、不活性化不十分による事故の可能性は、従来のウイルス自体を利用したワクチンの試験や実用のあらゆる段階で問題となり得る。

3月16日に、Modernaはワシントン州における臨床試験の最初のステップとしてボランティアグループにワクチンを提供し始めた。動物実験を行わず異例のスピードで臨床試験を開始したとはいえ、このワクチンが医薬品として一般に入手可能となるのは少なくとも1年後だと考えられていた。Modernaのワクチンが有効であり副作用もないならば、型破りなほど短期間で医療スタッフに対して限定的に利用可能になれば、最前線で働く人々の感染リスクを大いに減少させることができるだろう。

Modernaのワクチンは、COVID-19ウイルスに似ているが無害なタンパク質を投与することで人体に反応を起こさせる。これによりワクチンを投与された身体は、有害なタンパク質と実際のウイルスの撃退に効果的な抗体を生み出すようになる。他にも多数のRNAベースのワクチンや免疫療法が開発中だが、これまでのところ臨床試験段階に到達したのはModernaのみだ。がん細胞のmRNAベースの治療を専門とすModernaは、ボストンで創立されたスタートアップで2018年12月に上場している。

画像:Scott Eisen / Getty Images

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滑川海彦@Facebook

ファイザーもBioNTechと共同でCOVID-19ワクチン開発を発表

製薬大手のPfizer(ファイザー)は、米国時間3月17日、BioNTechと共同でCOVID-19ワクチンの開発に取り組んでいると発表した。BioNTechは、新しいタイプの免疫治療法に取り組んでいるドイツの企業だ。この共同の取り組みは同日、署名済みの同意書により確認された。両社はメッセンジャーRNAベースのワクチンを共同で開発し、人間が新型コロナウイルスに感染するのを防止することを目指す。

画像クレジット:Rost-9D/Getty Images

通常ワクチンは一般の人が使えるようになるまでの開発と認証に、最短でも1年から1年半はかかる。したがって、これが短期的な解決策になると期待することはできない。しかしこの提携は、製薬バイオテクノロジーの分野において最も有名かつ最大の会社と、mRNAベースの免疫療法の最前線で仕事をしている若い企業が結びついた、というところに意義がある。

こうした治療法では、一般的なワクチンのようにウイルス自体のサンプルは使わない。通常のワクチンでは、死んだか弱体化したウイルスを使って、自然な免疫機能を呼び覚まそうとする。その代わりこの方法では、RNAを利用してウイルスと十分に類似したタンパク質を作り出す。それによって人体が、本物の標的にも有効な抗体を作るように促すのだ。

この共同作業は、早ければ4月にも臨床試験が開始されることになる。両社はmRNAベースのワクチンの研究に関して、今回ゼロから始めたわけではない。すでに2018年から、インフルエンザの治療薬を開発するための研究開発に共同で取り組んでいた。

またこの共同作業は、米国とドイツにまたがる両チーム間ですぐに開始される。ただし財務上の取り決めや成果をどのように扱うか、といった詳細については、今後詰めていく必要がある。両社がそうした詳細の決定を待たずに共同開発を始めようとしていることからも、今回のプロジェクトの背景にある緊急性が理解できる。

プロジェクトは、mRNAベースによって開発中の唯一のCOVID-19ワクチンというわけではない。今週の初めにModernaは、独自の新型コロナウイルス免疫治療法について、人間を使った臨床試験をすでに開始したと発表した。それはNIH(米国立衛生研究所)と協力することで、開発を加速した結果だった。

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

米国で新型コロナウイルスワクチンの人間への臨床試験開始

AP通信によると、新型コロナウイルスのワクチンの人間への臨床試験が、米国時間3月16日に開始される。今回の試験は、NIH(米国立衛生研究所)と医薬品メーカーのModernaが開発した実験的なワクチン注射の効果をテストするもの。一般的なワクチンのように、活性なウイルス、あるいは非活性化したウイルスのサンプルを使ったものではない。その代わりに、ウイルスの遺伝子に含まれるメッセンジャーRNAを利用して、ターゲットの免疫反応を引き出そうというものだ。

画像クレジット:Thana Prasongsin/Getty Images

Wall Street Journalは、2020年2月にModernaが開発中のワクチンについて報告している。同社は、このような遺伝子ベースのアプローチによる薬剤治療法の開発を主業務として設立された、比較的若い会社だ。当時の報告では、テストは4月に開始される予定とのことだったが、2月末から現在までの世界的な状況の変化を考慮して、スケジュールが前倒しされたようだ。とはいえ、公衆衛生当局によると、例え今回の治験で効果が実証されたとしても、ワクチンの最終的な検証には、少なくとも1年から1年半はかかるとのことだ。

COVID-19が突きつける継続的な脅威に対処するために、ワクチンを開発しようという試みは、もちろんこのModernaとNIHによる取り組みだけではない。ワクチンと治療法の両方で官民を問わず、多くの取り組みが進行中だ。今回のテストは、ヒトを対象にした臨床試験プログラムとして迅速に対処されたものとなる。

治験者は、実際にはウイルスを注射されるわけではないので、今回のテストプログラムでCOVID-19に感染するリスクはない。ただし、このプログラムにボランティアで参加しているとされる45人のように、若く健康な治験者でさえ、新たに開発されたワクチンを注射するとなれば、まだ知られていないことが多く存在する。この段階で、NIHとModernaは開発中のワクチンが望ましくない、あるいは危険な副作用を引き起こさないことを確認することを目指し、その後、有効性や別の他の安全性を証明するため、さらなるテストが必要となる。

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(翻訳:Fumihiko Shibata)