【編集部注】著者のGian Paolo Bassi氏はSolidWorksのCEO(この投稿者による他の投稿:デザインベース学習が子供たちに主体性を獲得させる)
エンジニアがエンジニアになるのは、物同士が文字通りあるいは比喩的に、一緒に収まる方法を見出すことを彼らが好きだからだ。これは常に当てはまる真実であるというわけではないが、多くの場合に成り立つことだ。今や、これまでの「デザインを実現するエンジニア」と、「エンジニアとして振る舞うデザイナー」の間を隔てる線はぼやけている。いまやデザインマインドセットを持つ人なら誰でも、ソリューションを巧みに生み出せることを、テクノロジーが可能にしている。
多くの組織が、問題解決を考える際に、デザイン思考あるいはそのバリエーションを取り込もうとしている。スタンフォード大学のd.schoolでは、共感で始まり進化し続けるサイクルが取り入れられている;共感し、定義し、想像し、そしてプロトタイプを作りテストする(そしてそのサイクルを繰り返し続ける)。
私がここで述べたいのは、デザイン思考手法だけに特に焦点を当てようということではなく、デザインはエンジニアリング、あるいはプロダクト開発、そしてマーケティングよりも遥かに大切なものであることを認識しようということである。大企業から政府機関に至るまで、或いはスタートアップビジネス(そしてその支え手であるVC)から学校(小中高から大学レベル)までの多くの組織が、デザインマインドセットに移行しつつある。
スタンフォード大学d.schoolのディレクター兼共同創設者のGeorge Kembleは、起業家兼投資家から、教育者へと転身した人物だ。TEDxのSemesterAtSeaにおける、There is No Leader(リーダーはいない) 、という講演の中で、創発的システム(emergent system)はリーダーなしでやっていること;魚や鳥の群れがただ一匹に従うわけでないことなどを説明した。彼らは、観察と小さな変化に基づいて反応しているのだ。彼の話の中心はデザイン思考(design thinking)である。デザイン思考は、スタンフォード大学のデザインのハッソープラットナーデザイン研究所(Hasso Plattner Institute of Design:通称d.school)でメソッドの中核が形作られた。
デザインの達人
デザイン思考という用語が生み出される前は、世界で最も革新的な建築家の一人、Frank Gehryがその実践者だった。彼が手がけたものとして、シアトルのユニークな形状のExperience Music Projectや、オーストラリアのシドニー工科大学の「paper bag」ビジネススクールビルディングなどの名を挙げることができる。何年も前に、私は彼に会いに行った。彼は段ボールブロック、木製ブロック、プラスチックや発泡材などが置かれた倉庫に私を案内した;彼は実際の素材を使いながら、発明とプロトタイピングを行っていた。しかし、彼が私に語ってくれたのは、ソフトウェアを使う前にアイデアを生み出す必要があるということだ。
Gehryにとって、アイデアは(ときに多くのアイデアは)、何らかの秩序を保ちながらも様々な思考を経てやってきていた。彼は、構想段階でははコンピューターによって支援されていないことを私に示した(当時の話だが)。段ボールでモデルを作成することには、多くの時間がかかり、創造性を発揮するための柔軟性がない。例えば、何平方フィートなのか、底面積は、体積は、何人の人がここに入れるのか、ハリケーンのシミュレートができるのか、照明はどのように見えるのか、などの問いかけに対して、段ボールモデルからは簡単に答えを取り出すことができない。なので、物理からデジタルに移動することができなければならないし、その逆もまた真なのだ。
私は毛糸玉と戯れる猫のようなものだ。玉があちらに転がると、猫もそちらへジャンプする。玉が床に落ちれば、猫もそこへ降りる。私は柔軟に対応する。一旦問題を理解したら、私はそれを試してみる。何が上手く行き、何が上手く行かないのかを観察し、そして再び試してみる。前にやったもののように見えたなら、私はそれを棄てる。私は自分の直感を信頼することを学んだ – Frank Gehry
多くの人びとが、デザインが始まるのは、ペンを紙にあてた時、段ボールで何かを作った時、あるいは、ありがちなのはデジタルモデルが3Dデザインソフトウェアの中で形をとる時だけだと思っている。もちろんこれらは皆大切かもしれない。
しかし、デザインが真に始まるのは、私たちが人びとの心をいかなるプログラムの制約からも解き放ったときなのだ ‐ ユーザーが創造プロセスを思慮深く進んでいけるように、ソフトウェアが補助として働き邪魔をしないように。このタイプの自由が実現されたとき、革新が起こりやすくなるのだ。デジタルツールが邪魔をせず、助力と支援を行ってくれるときに、素晴らしいデザインが可能になる。
工学専攻からやってくる技術デザイナーの数が増加している。90年代を振り返ってみると、MITで電気工学とコンピュータサイエンスを学んだ卒業生として、エンジニアリングのバックグラウンドを持つデザイナーは珍しかった。私は変わり者だったのだ。ここ10年ほどは、私たちはより多くのエンジニアリングの背景をもつデザイナーに出会っている… – John Maeda:ベンチャー企業Kleiner Perkins Caufield and Byersのデザインパートナー。
d.schoolやデザイン会社が、問題を解決するためのこうした新しい方向へ向かうのに従って、多くの企業も課題に対処するための新しい方法が必要であることに気付き始めた。あなたが属しているビジネスのタイプは問題ではない、人びとが直面している問題を理解して、それを解決するための創造的な手法を見付けなければならないのだ。私たちが今生きている、このモバイルの席巻する世界では、デザインツールは身につける服のようなものだ ‐ それがどのように作られているかは気にせず、ただ着るだけだ。
こうしたエンジニアリングとデザインの境界の曖昧さは、クラウドとモバイルがもたらす強力なテクノロジーツールで可能になった。ここに、より洗練された手法、例えばデザイン思考を加えてやれば、おなじみの「デザインの未来」への転換点に立つことになるだろう。John Maedaの言葉が示唆するように、デザインマインドセットを持つことは、どんな学位を持っているかには関係なく可能である。それがテクニカルであろうとなかろうと。デザインの未来は、限界を意識せず考え創造することを許す、まるで身につけている服のような、空気のようなツールにかかっている。
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(翻訳:Sako)