シリコンバレーのスタートアップに勤務し大富豪になれるはずの従業員は、お預けになっている将来の大きな報酬を仕事の活力にしている。だが、レイオフされたら、または会社がイグジットを決める前に辞めてしまったら、どうなるのだろう。
Wouter Witvoet(ワウター・ウィボエット)氏は、4番目の社員として働いていたスタートアップを退職した。ストックオプションの権利行使を行うために5万ドル(約550万円)を準備して、何か新しいことをやりたいと考えていた。しかし人事部から、ストックオプション分の税金を支払う義務があると聞かされた。それには180万ドル(約1億9800万円)足りない。オプションの権利が行使できる期間は90日間だ。
「結局、株はすべて失いました」とウィボエット氏はTechCrunchに話してくれた。
その後、ウィボエット氏はSecFi(セクファイ)を設立した。SecFiは当時ホットだったpre-wealth(プレウェルス)マネージメント分野の確立を目指す数少ない企業のひとつとなったのだ。プレウェルスとは、先買い契約と彼らが呼ぶ方法で、スタートアップの従業員がストックオプションの権利を行使できるというもの。IPOまたはイグジットが実現するまで返済を待ってくれる。
名目上の富の活用が新たなトレンドになる可能性は低いが、高成長を遂げるスタートアップが見失いがちな型破りな機会に、機関投資家は目を向ける。一部のヘッジファンドや非公開株式投資ファンドは、この分野で事業を展開し、IPOに束縛された成熟したスタートアップの給料支払いの抜け道を割り引き価格で提供している。
数億ドル規模の取り引きを行う業者も多い。Section Partners(セクション・パートナーズ)は1億2000万ドル(約132億円)を出資して、ストックオプションの期限切れを目の前にした従業員に、ストックオプション権行使金融なるものを提供して「命をつなぐ」手助けをしている。Troy Capital Group(トリー・キャピタル・グループ)のQuid(クイッド)は、2億ドル(約220億円)の資金でOaktree Capital Management(オークツリー・キャピタル・マネージメント)と提携した。サンフランシスコ湾岸地区のESO Fund(ESOファンド)は、2012年の設立以来、この手の資金提供をスタートアップの従業員に対して行っている。
SecFiは、Rucker Park Capital、Social Leverage、Weekend Fundをはじめとするベンチャー投資会社から700万ドル(約7億7000万円)の資金を調達し、以前はいくつもの企業の仲介役を果たしていたが、15日、ニューヨークのヘッジファンドSerengeti Asset Management(セレンゲティ・アセット・マネージメント)と提携したことを発表し、5億5000万ドル(約605億円)の負債融資枠を確保した。
所属するスタートアップが高額なイグジットを確実に果たすとわかっていて、ストックオプションの権利行使のために通常のローンを組むというのは最悪の判断だ。この先買い契約は、ストックオプションそのものが裏付けになるため、償還請求権はそのオプションの額で制限される。スタートアップが好調なら、会社に元金を返し、さらに金利や自己資本、つまり儲けの大半を支払わなければならないが、もしWeWorkのような大失態を演じた場合には、追いかけてくる人間はいなくなる。
さらにステージが高く、出費を抑え、レイオフを視野に入れているスタートアップの場合は、自分のオプションにどれだけの価値があるかを知りたがっているレイオフ対象の従業員が頼れるまともなリソースは少ない。多くの人はQuoraという底なし沼に入り込んで、きわめて個別的な情報を漁ることになる。個人レベルの教育という面ではメリットがあるかも知れないが、そうしたオプションの場合、金融業者はスタートアップ同士の提携を通じて、企業の人事部にマーケティングの一部を肩代わりさせようとする。
そうした巨大なファンドの資金が「プレウェルス」金融サービスに大量に流れるようになれば、SecFiのようなスタートアップが次々と現れ、大富豪になるかも知れないスタートアップの従業員に、ストックオプションで利益を得る以上の道筋を示すプラットフォームを提供するようになるだろう。
画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch
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(翻訳:金井哲夫)