「人材パイプラインの問題」など存在しない、テック業界の黒人求人活動と採用後の実態

テック業界は白人男性が圧倒的多数を占める場として知られるようになった。しかし、世間で広く信じられている人材パイプラインの問題というのは虚構であり、実際の問題は定着率の低さだ。

Black Tech Pipeline(ブラック・テック・パイプライン)は人材パイプラインの問題という神話の偽りを暴き、黒人テクノロジストたちの就職活動をサポートすることを目的としている。Pariss Athena(パリス・アテナ)氏によって創業されたブラック・テック・パイプラインには3つの主要サービスがある。誰でも料金を支払えば掲載してもらえる求人掲示板、求人およびコンサルティングサービス、およびイベントの講演候補者とのコネクション形成の3つだ。

「ブラック・テック・パイプラインの目標は、黒人テクノロジストのコミュニティが存在していることを広く世間に知ってもらうことだ」とアテナ氏はいう。「我々は黒人テクノロジストたちにフォーカスしている。『人材パイプラインの問題』全体が嘘であることを世間に知ってもらいたいからだ。黒人テクノロジストたちはテック業界に存在している。実際にそこで何年も働いている。ベテラン社員、中堅社員など、経験年数もさまざまだ。でも、それだけでなく、テック業界外の人たちにも波及効果を形成して、彼らに、『ここにあなたと同じような人たちのコミュニティがあって、あなたの就職活動をいつでもサポートしますよ』と伝えたいと思っている」。

現在、データベースには700人近くの黒人テクノロジストが登録されている。7月現在、経験年数ゼロの応募者は8.66%、1~2年相当の経験者は37.33%、2~3年の経験者は27.33%、5~10年の経験者は22%、10年以上の経験者は10.5%となっている。

求人掲示板に掲載された企業は、ブラック・テック・パイプラインの顧客に対して料金を支払う。そうした企業はカスタマイズされたランディングページで、空きのある職種、そうした職種の価値、ダイバーシティとインクルージョンに関する自社の考え方を説明できる。また、その企業は、ブラック・テック・パイプラインのニュースレターやソーシャルメディアプラットフォームでも取り上げられる(両方合わせて4万人を超えるフォロワーがいる)。

「自分がマイノリティーとなる可能性が高い職場で働くということの意味をわかりやすく説明したいと考えている」とアテナ氏はいう。

アテナ氏は、最初の会社でソフトウェアエンジニアの職を解雇され、ツイッターでアクティブに発信するようになってから、黒人テクノロジストのデータベースを作成するというアイデアにたどり着いた。

「実際に作成作業に取り掛かってみると、本当に小さなコミュニティだったが、黒人テクノロジストのコミュニティが存在していることに気づき、興味深く感じた。このボストンという土地柄を考えるとなおさらだった(どこでも状況は同じだと思うが)。それに、私は開発チームで唯一の黒人ソフトウェアエンジニアであったばかりでなく、私がこの業界で働きだしてから、会社全体で黒人は私一人だった」とアテナ氏は語る。

「自分のような黒人エンジニアを見ることはほとんどなく、『ああ、この業界には黒人はいないんだ』と思っていた。ところが、わずかだけど存在することがわかって、『いるじゃない。じゃあ、世界中にどのくらいいるんだろう』と思い、ツイッターで『Black Twitter in tech(テック業界の黒人ツイッター)なんてどうかな』とつぶやいてみた。そのツイートが意外にもあっという間に広がり、世界中の大勢の黒人テクノロジストたちがどんどん投稿してきて、彼らの写真と業界での仕事内容の説明からなる長い長いスレッドが出来上がってしまった。一夜にして、このムーブメントが起こり、Black Tech Twitter(ブラック・テック・ツイッター)のコミュニティが形成された」。

その同じ週に、さまざまな企業がアテナ氏に接触してきて、黒人の求人活動を手伝って欲しいと依頼してきたという。アテナ氏は求人活動の経験などなかったが引き受けた。求職者と雇用主をつなげるために人材データベースを作成し、自動的にデータベースを検索する付随のアプリケーションも用意した。

活動を始めた頃、同氏は、多くの応募者が採用はされているが、その多くは定着していないことに気づいたという。

「つまり問題なのは定着率だったというわけ」と同氏はいう。「白人が圧倒的に多い環境でただ一人の黒人として働いた経験のある者として、何が起こっているのかよくわかった」。

こうした経緯で、アテナ氏はコンサルタントパッケージを作成し、企業に課金するようになる。同氏のコンサルティングを介して応募者が採用されたときは常に、入社後の90日間、隔週でチェックを入れ、応募者の社内での状況を確認するようにした。

「それが、黒人に悪影響を及ぼす会社に応募者を送り込んでいないことを確認するための方法だった」と同氏はいう。「そして応募者の同意を得て、彼らの安全を考慮した上で、彼らから受け取ったフィードバックを雇用主側に伝えるようにした」。

目的は、雇用主に、自社の労働文化、および偏見が埋め込まれたシステムやプロセスを改善してもらうことだ。アテナ氏は当初、このサービスを、単純にツイッターのダイレクトメッセージを使って無料で行っていたが、その後、同氏の立ち上げた会社であるブラック・テック・パイプラインが提供するサービスの一環として雇用主に課金するようになった。

同氏はブラック・テック・パイプラインにかなりの労力を注ぎ込んでいるものの、まだフルタイムの仕事にはなっていない。ゆくゆくはそうしたいと同氏はいう。理想は、コンサルティングの仕事の比率を上げることだという。

「雇用主のためではなく求職者のための社外人事部のようなこの仕事が本当に気にっている」と同氏はいう。「私の仕事は企業を保護することが目的じゃない。企業がひどい有害行為をしていてもそれをカバーしてよく見せるような、そんな仕事はしていない。応募者が採用された後、良い経験を積んでいるかどうか確認し、もしそうでなければ、状況を説明してもらって、対処するのが私の仕事だ。それが本当にやりたいことだ。つまり、変化を起こし、雇用主側に約束を守らせること。演技だけで何も変えようとしない人とは仕事をしたくない」。

これまで12社の求人活動を手伝ったが、採用されたのは9人だけだ。厳密にはもっといたが、「採用されたものの、長続きしなかった人は含めていない」とアテナ氏はいう。低い定着率には、同氏が大企業で経験したいくつかの問題が関連している。

そうした問題の1つに、変化を実現したいと本当に思っている社員と、あまりその気がない上層部との間の断絶がある。また、採用はされたがマイクロアグレッション、つまり排除されていると感じさせる何気ない言動を経験して辞めざるを得ない状況に追い込まれる人もいる。

「そうした事態が起こると、マネージャに報告するのだが、彼らもどう対応してよいのかわかっていない」とアテナ氏はいう。「実際にどの程度深刻なのかわからないとか、偶然じゃないのかといった答えが返ってくる。このように雇用主側に分かってもらえないときは、実際に調査してフィードバックを報告し、その会社との契約を終了する。現在のプロセスを詳細に見て、改善点を指摘するようなことはしない。そうした話の分からない雇用主にそこまでのサービスは提供しなくなった。さっさと契約を終了して、次に進むだけだ」。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ

タグ:差別

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(翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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