コロンビアから学ぶ、テック業界と輸送産業の発展を阻む古い規制

編集部注:Daniel Rodriguez(ダニエル・ロドリゲス)氏はPicapのCEO兼共同創業者で、同社の設立時にベンチャーキャピタルから700万ドル(約7億5000万円)以上を調達した。パイキャップは現在、中南米8カ国に事業展開している。

「この道は通っちゃだめだぞ」と父は言った。

その道がビーチへ行くのに一番の近道なのになぜ通らないのかと、私は父に尋ねた。当時8歳だった私は地図を見るのが大好きで、父が選んだ道に納得がいかなかったのだ。後に、私が最短経路として勧めた道は、私たちや他のコロンビア人家庭に敵対するさまざまな武装グループが問題を起こしていた地区だったことを知った。

数十年にわたりコロンビアを疲弊させてきた紛争について知っている人は多いだろうが、コロンビアのさまざまな機関、権利保護団体および政府が、武力紛争によって制約されない移動手段を確保できる未来の実現を目指し、遂げてきた進歩について聞いたことがある人はあまりいないかもしれない。

実際、コロンビアは世界銀行が発表する「ビジネス環境」ランキングで少しずつ順位を上げてきている。ビジネスチャンスを国内の隅々まで行きわたらせるためにコロンビアの政府機関やリーダーたちがすべきことはまだ山のようにある。新型コロナウイルス感染症のせいで、根深く存在する格差がさらに拡大していることも逆風になっている。しかし、確実に言えることがひとつある。コロンビアがもっと積極的にイノベーションに取り組むなら、繁栄への道筋がさらにはっきりと見えてくるということだ。

筆者はこの10年をコロンビアの繁栄への道を切り開くことにささげてきた。コロンビアで最も権威のあるUniversidad de Los Andes(アンデス大学)で研究しつつ、ベンチャーキャピタルから1000万ドル(約10億7000万円)以上を調達し、2つの会社を立ち上げて、7万人以上のコロンビア人が直接的または間接的に賃金収入を得るのを助けてきた。また、専門職を求めて海外へ移住しなくても自国で十分に良い暮らしができることを若いコロンビア人たちに示して、数百人のコンピュータエンジニアを直接雇用してきた。すでに海外に移住していたコロンビア人数人に声をかけ、母国に戻ってPicap(パイキャップ)で働くように説得したことさえある。

このように筆者は、コロンビアの繁栄と同国のテック業界を築いてきた数千人の有能なエンジニアたちに少なからず手を貸してきたつもりだが、今、その努力が台無しになりかねない状況になっている。というのは、コロンビアでは社会的イノベーションは10年単位で進んでいくと考えられていて、輸送およびテクノロジー関連の規制もその速度に合わせて策定されているため、コロンビアの政府当局と立法部門によるそれらの規制の改訂が遅々として進まないからだ。

コロンビアのテクノロジーと輸送に関する規制は刷新する必要がある。Uber(ウーバー)やパイキャップは、コロンビア政府と規制当局が課す脅威に絶えず悩まれされてきた。それは、あたかも瓶から一度出てしまったテクノロジーという魔神を瓶に戻そうとするような無駄な試みであるだけでなく、双方の成功に欠かせない長期的なパートナー関係を築くための重要な対話を遅らせる行動である。

公共の利益と技術革新を同時に推進する規制の枠組みを策定することは、コロンビアだけでなく世界中の国々にとって緊急の課題だ。新しい輸送モデルとテクノロジーを導入することが有益であることはすでに証明されている。パイキャップと同じように2輪車の配車サービスプラットフォームとしてスタートしたGoJek(ゴージェック)やGrab(グラブ)が良い例だ。両社とも評価額数十億ドル規模の企業に成長しており、商業や金融に関係する各種サービスを促進し、それらがすべて社会に利益として還元されて、消費が伸び、経済活動が明確な形を持ち、新しい形のイノベーションが生まれている。規制の刷新が進めば、パイキャップも他の企業もこれと同じことをコロンビアだけでなく広く中南米全体で実現できる。

コロンビア議会にはテクノロジープラットフォームに対する理解を推進するために大変な努力を重ねているリーダーたちがいる。彼らの努力は称賛に値するが、決して実を結んでいるとは言えない。コロンビアのリーダーたちは今こそ、例えば、民間の輸送サービスが新しい移動手段を推進する市民のための規制を必要としていることを認識する必要がある。医療、輸送、経済活動に関するあらゆるシステムが官民の区別なく新型コロナウイルスによっていとも簡単に弱体化してしまう現実に、世界中の国々が直面している。テクノロジーは、すべての国において、医療、輸送、経済活動を強化するために不可欠な要素になるだろう。我々は、パイキャップが提供しているPibox(パイボックス)などの宅配プラットフォームがソーシャルディスタンスを維持するために各国でますます重要な役割を果たすようになっていることを目の当たりにしている。各国が、パンデミック時の防御策についてだけでなく、今後に向けて自分たちの暮らしを変えていく方法についても、それぞれ独自の方法を考えるべきだ。今ならまだ遅くない。

コロンビアは韓国の例から学ぶことができる。韓国は何年にもわたり、増え続ける世界のシリコンチップ需要に応えてきた。その結果、そうしたチップを製造するLGやSamsung(サムスン)は誰もが知る有名企業となった。韓国政府は、技術進歩を阻害することなく、ノウハウの開発の推進、技術教育への投資、およびテック企業との提携によって、これを実現した。我々のような科学技術者としては、コロンビアという国を長期的に強化するような経済活動の発展に手を貸すことができれば、これほど誇らしいことはない。筆者は未来をこの目で見て、日々その未来を実践している。そして、中南米諸国、とりわけコロンビアは、テック系人材をつなぎ止め、技術投資を引きつける規制の枠組み策定を推進する必要があると思う。さもないと、コロナ禍からの回復期になるであろう今後数年間で、経済状況はますます悪化することになるだろう。

最近コロンビアで、移動プラットフォームの業界団体Alianza IN(アリアンツァ・イン)が設立された。目的は、投資を引きつけ、人材をつなぎ止め、輸送プラットフォームとテクノロジープラットフォームが国の経済の未来に不可欠なパートナーとなる将来に備えるために、コロンビアのMinTIC (情報技術通信省)が取り入れることができる指針について、コロンビアの国会議員や規制当局との対話を進めることだ。テクノロジープラットフォームはすでに存在しているため、アリアンツァ・インの活動は、数百万のコロンビア市民が刷新された規制枠組みの恩恵を受け、輸送およびテクノロジープラットフォームを活用して収入、移動手段を確保し、生活の質を高めるための大きな一歩となる。

昨年、コロンビアのテック系企業は全体で12億ドル(約1287億円)の資金を調達した。筆者と同世代の仲間たちとコロンビアの同胞たちがテック業界のさまざまな場所で働き、わずか20年で成し遂げたこの成果に筆者は感服している。しかし、コロンビアの政治家と当局が、テクノロジーおよびパイキャップなどの新しい移動手段を導入するために規制を刷新する必要性に応えなければ、21世紀のコロンビアの成長は間違いなく妨げられることになるだろう。我々には成長の余地がある。粘り強さと立ち直る力があれば、コロンビアや中南米諸国だけでなく、世界が抱える課題も克服できることを示そうではないか。

筆者は、20年後、いや3年後には、数億人の人たちに利用される再生可能エネルギーや疾病予防関連イノベーションが若いコロンビア人の女性によって開発されるのではないかと期待している。取り除くべき障害はある。そうした障害を取り除く動きがコロンビア全体ですでに始まっている分野もあり、これをテクノロジー分野でも継続する必要がある。筆者は同世代の仲間たちと協力して、引き続き資金を集め、人材をつなぎ止めて、コロンビアが21世紀をリードする国へと発展していくための競争力をさらに強化していくつもりだ。

コロンビア政府と規制当局およびイバン・ドゥケ政権も同じ目標を目指して欲しいと思う。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ

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(翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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