先日行われたWearable Tech Expo Tokyo 2014でHAXLR8R(ハクセラレーター)というハードウェアスタートアップのためのアクセラレータでゼネラル・パートナーを務めるベンジャミン・ジョフ氏がイケてないハードウェア・スターアップを12種に分類してリストアップして紹介していた。このリストをシェアすると、スタートアップの世界を良く見ている日本の読者や投資家の中には「あるある!ありすぎる!」と頷きまくって、なぜか、むしろ目が輝くのではないかという気がする。いや、ぼくがそんな気がするだけかもしれないけど。
こんな感じだ。
1. ファンウェア(FUNware:fun=面白いだけのプロダクトでビジネスにならない)
2. イージーウェア(EASYware:実装が容易で誰でも作れるプロダクト)
3. セイムウェア(SAMEware:既存市場の中で新規性がなく差別化ができていないプロダクト)
4. ソリューションウェア(SOLUTIONware:課題もないのに解決法だけ提供している)
5. ベイパーウェア(VAPORware:vaporは蒸発のこと、つまり実装できずアイデアやビジョンだけで終わる)
6. レイムウェア(LAMEware:lameはイケてないという意味、つまり見掛け倒しで実際の機能は事前に喧伝してたものより、スペックがしょぼくて平凡)
7. フェイルウェア(FAILware:うまく製品は実現できたが、そもそも製品自体が間違った存在)
8. レイトウェア(LATEware:市場性も検証されてるけど、競合の目を覚ましてしまい機を逸したプロダクト)
9. ロスウェア(LOSSware:超薄利もしくはマイナスの収益)
10. ボアウェア(BOREware:みんなすぐに飽きて使わなくなるプロダクト)
11. フューチャーウェア(FUTUREware:数年単位で時期尚早、市場がまだないプロダクト)
12. ローカルウェア(LOCALware:局地的なエコシステムに最適化しすぎ)
講演後にHAXLR8Rのベンジャミンと少し立ち話で雑談したのだけど、彼は「あのプロダクトはベイパーウェアとロスウェアのニオイがするよね」などいう風に、いくつか具体的なプロダクト名を挙げながら語っていた。ちょっといくつか具体例で彼の定義を使ってみよう。
例えば、Google Glassはフューチャーウェアぽくあり、ボアウェアでもあるかもしれない。先日10%の従業員をレイオフしたLeap Motionも、ボアウェアとフューチャーウェアの要素が少しあるとぼくは思う。いや、ぼくがLeap Motionでピアノを弾くハックを楽しめないだけなのかもしれないけど、開発しないなら30分で飽きるよね、Leap Motionって。ボアウェアは、多かれ少なかれ現在ウェアラブル・デバイス全般に当てはまる面がありそうだ。最初は嬉しくて身に着けるけど結局実用的価値が低くて飽きたら着けないという。
AppleやGoogleという巨人の目を覚ましたかもしれないPebbleは、このままではレイトウェアになるだろうか? と思ったが、Pebbleにはストアがあり、先行者としてのコミュニティの厚みがあるので、そうでもないかもしれない。
ソリューションウェアは、すごく良さそうなプロダクトなんだけど、そもそもこれでないと解決できない課題ってなんだっけ? というものだ。「大切なのはむしろ解決策じゃなくて、解くべき問題を見つけることだ」とベンジャミンは強調する。
ソリューションウェアとは別に「ハンマー問題」という言葉も彼らは使うそうだ。これは「ぼくはハンマーを持っている、だからきっと釘があるはずだ!」というもので、こうしたプロダクトは市場を見つけるのにより多くの労力がかかるのでHAXLR8Rでは、あまり受け付けないようにしてるそうだ。ベンジャミンは、ソリューションウェアは大学から出てきがちと指摘するが、ぼくは日本の製造業のR&D部門から出てくる「実証実験」と名の付くものにソリューションウェアが多いと感じてる。「世界初!? カラー電子ペーパーによる電車内広告を実験! おお……、でもこれって西日で全然なにを表示してても見えませんが……」というような。
さて、ベイパーウェアは……、例を挙げればキリがなさそう。クラウドファンディングで約束のプロダクトが出てこないケースが増えているという。ベイパーウェアという言葉は、過去にもパッケージソフトウェアの世界で1990年代によく使われた言葉でもある。例えばWindows NTなんかはリリース予定が何度も遅れたために、「NTというのはNext TechnologyやNetwork Technologyの略ではなく、 「not today」(今日は出ない)、「not tomorrow」(明日もムリ)、「not this year」(年内は出ない)、「not telling」(もういつ出荷するか教えない)のことではないか?」と揶揄された。もちろん、Windows NTはその後XPやWindows Serverに続く輝かしい成功を収めたOSファミリーなのでベイパーウェアなどではない。それどころか今はXPがケムリのように消え去ってくれないことが大きな問題になっているのは皆さんご存じの通り。
ベンジャミンはシード期のチームに投資する投資家だから、上記の12の「ウェア」は投資家が何を見て「ノー」と言うのかというリストだ。もちろん投資家向けアドバイスというより、これからハードウェアスタートアップに挑戦しようとしている起業家や、起業志望者に対する「陥りがちなトラップ」のアドバイスだ。ソリューションウェアなんかは、本当に良く陥りがちな錯誤だとぼくは思う。昨夜もAwabarで面白いハードウェア・ガジェットのデモを見た。光る! スマフォにつながる! 何かに使えそう! でも、何の課題が解決するのかぼくには分からなかったし、作った人たちも特にこれだという問題は何も考えてないようだった。
イージーウェアも注意喚起する造語として秀逸だと思う。「純粋なハードウェアはコピーが容易。だからソフトウェアを組み合わせろ」とベンジャミンは言う。GoProのようにコミュニティを作れ、ともいう。プロダクトの周りにできるコミュニティは、競合には一朝一夕にはコピーできないからだ。
ベンジャミンは日本こそハードウェアスタートアップがもっと出てくるべきだし、そのポテンシャルがあるということを、ぼくにアツく語ってくれた。そして「ハードウェアスタートアップということでいえば、日本には本質的に強みと弱みの両方がある」として、以下のように整理した。
・恐れ:起業や失敗、目線の高いチャレンジに対する恐れ
・欠けているもの:自己アピールのスキル、ソフトウェア文化、支援し合う仲間、英語力
・強み:プロダクト・デザイン、品質、ディテールへのこだわり、モノづくり文化
こうしたことは、HAXLR8Rのようなプログラムに入ることで、特に起業初期段階ではずいぶん有利になる、というのが彼の主張だ。
ハードウェアのスタートアップに特化したアクセラレーターのHAXLR8Rはこれまでに、ウェアラブル、ドローン、3Dプリンティング、IoTなどで40チームにシード投資。合計でKickstarterで16キャンペーンを展開して、その成功率は100%。平均で25万ドルをクラウドファンディングで調達してるのだという。「リーン・ハードウェア」を唱導するベンジャミンに言わせると、2013年や2014年というのはハードウェア・ルネサンスの黎明期なのだそうだ。なぜなら、Arduino、Spark Cloud、BLE、3Dプリンティングなどで、従来はそれ自体が困難だった、ハードウェア・プロダクトのプロトタイピングの問題は解決したことが、理由の1つとして挙げられる。それから、中国の深センには安くてスケール可能な製造業者があり、サプライチェーンの全てがあるので、従来よりも遥かに状況が良いこともあるという。HAXLR8Rは実は深センベース。世界中から深センに起業家が集まって、アイデアをすぐに地元の業者に作らせるという高速サイクルが回せる環境にあるのだという。
HAXLR8Rでは2012年以来、年に2度のプログラムを走らせていて、先日の3月31日からは次期夏プログラムの参加チームを募集を開始している。日本のハードウェア・スタートアップの参加を絶賛募集中らしいので、われこそはという人は応募してみてはいかが? 今回のプログラムは7月開始で10月まで。シード資金は2万5000ドルでメンターが付く。最終的にシリコンバレーで行うデモ・デイには米国の投資家に向けてプレゼンもできる。以下がHAXLR8Rの成功キャンペーンの例。これまでにも日本人で採択されたチームは1つあるそうだ。