モノを瞬時にお金に変える「カシャリ」は次のメルカリになりうるか

現代の若者が持っているものは、ほとんどが「モノ」だ。口座残高は乏しくとも、10万円以上もするiPhoneを毎年のように買い替えるし、愛用しているパソコンは高額なMacBook Proだったりする。2020年1月に創業し、同年のスタートアップバトルのファイナリストでもあるガレージバンクの「カシャリ」は、そんなモノにあふれる若者たちにはぴったりのアプリかもしれない。

カシャリは、ユーザーの所有物(スマホ、PC、ブランドバッグなど)をスマホで写真に撮ると、すぐに査定額で買い取ってくれるアプリだ。手続きはすべてスマホで完結し、買取代金はセブン銀行ATMや、銀行振込みで受け取れる。カシャリがおもしろいのは、売ったモノを「そのまま使い続ける」ことができる点だ。ユーザーは、アイテムをカシャリから「借り」ながら、売却前と変わらずに使い続けることができる。

リース期間は3カ月。リース終了後に残存価格を支払えば、ユーザーは売ったアイテムを再び買い戻すことができる。あるいはリース期間の延長もできるし、アイテムをそのまま手放したい人は、無料で手配される業者を使って郵送すれば、追加でお金を払う必要はない。たとえば手持ちのMacBook Proを3万8000円で売却して代金を受け取る。それから3カ月間、月額9000円のリース料金を支払う。3カ月後に1万5000円でMacBook Proを買い戻して契約終了という具合だ(差額の4000円はリース料)。この間、Macは常に自分の手元にある。

「お金を工面する手段は他にいくらでもあるのでは」という声が聞こえてきそうだが、若い世代にとっては、実はそうでもない。過去に信用情報に傷をつけてしまった人は、新たにカードローンに申し込んでも簡単にはじかれてしまう。またメルカリでモノを売ろうにも、要らないモノが高く売れるほど甘くはないし、売れるまでにかなり時間がかかる場合もある。カシャリを使えば、「今持っているモノを手放さずに、すぐお金に替える」ことができる。

カシャリのビジネスモデルは「リースバック」と呼ばれ、主に不動産業界で活用されている。資金需要はあるものの、住んでいる家を手放したくない人に対して、不動産会社が家を買い取りそのままリースを行う。リース期間終了後は借り手が家を買い戻すことで、不動産会社はリース料と売却代金で利益を得ることができる。万が一借り手の経済状況が悪化し、買い戻しが行われなかったとしても、家を中古市場で売却すれば、利益を得られるというものだ。

ここまで読んで「それって『CASH』とどう違うの?」と感じた読者もいるだろう。CASHは、2017年に「質屋アプリ」としてリリースされ話題になったが、現在はアイテムを査定して郵送した後に初めて、買取代金を受け取れる仕組みに変更されている。撮影するだけで最短30秒で査定と買取が完了し、申し込み完了の通知が届けばすぐにお金が受け取れるカシャリは、市場ではユニークな存在といえる。

そんなカシャリの最大の強みは査定技術だ。実家が質屋を経営する共同創業者の磯田岳洋氏の知見を用いて、アイテムの撮影方法に独自のメソッドを取り入れる。アイテム毎に異なる撮影ポイントをユーザーに提示し、真贋・状態判定のキーとなる情報を入手。また現在、査定依頼全体の約3割を閉めるiPhoneに関しては、OCRなどを活用することで、近い将来は自動的に査定を行えるようにもなるという。

一方で同社によると、査定依頼の中には偽物のブランドアイテムや、店頭に並ぶ商品の写真を使うなど、「悪意」を持ったユーザーが一定数存在する。これに対してカシャリは、ユーザーのGPS確認や、銀行レベルの徹底したeKYC(本人確認)を行うことで、不正を行うユーザーをできる限り排除する。

DXで既存の市場を若者へ開放

ガレージバンクCEOの山本義仁氏は「質屋は鎌倉時代から続く非常に優れた業態にもかかわらず、近年は衰退の一途を辿っています。特に、若年層からは『怖い』『怪しい』というイメージを持たれてしまっていて、この状況を何とか変えたいと思っていました」と語る。

そんな想いから生まれたサービスがカシャリだった。元銀行員の同氏と元質屋の磯田氏がタッグを組み、「人が持つモノを手軽に換金する」というニーズに応える手段を実現したのだ。

現状、まだ「質屋は怪しい」という従来のイメージを完全に拭う段階には至っていない。一方で、β版アプリのリリースから約2カ月でダウンロード数は2000件超、査定依頼数は1600件以上で、これまで約520万円分のアイテムをユーザーから買い取るなど少しずつ実績を積み重ねてきた。さらに、カシャリのユーザーは20~30代が大半を占め、査定依頼されるアイテムの大部分はデジタルガジェットだ。つまり、従来の質屋とはまったく異なる層の需要を取り込めていることを意味している。

日本を代表するスタートアップとなったメルカリは、「フリーマーケット」という昔から存在するビジネスモデルを、若者に親しみやすいインターフェイスで提供することで爆発的に普及させることに成功した。それと同じように、カシャリが質屋という既存の市場を若者たちに開放することで、すでにそこにあるニーズを掘り起こし、同社が急成長する可能性は大きいのではないだろうか。

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カテゴリー:フィンテック
タグ:ガレージバンク

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TechCrunch Japan

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