細分化され分断化されたインターネットが、私たちの上にもたらされていることに疑いの余地はない。サイバースペースがさまざまな国によって制御され規制されるスプリンターネット(splinternet、splinter=バラバラのnet=ネットから作られた造語)は、もはや単なる概念ではなく、いまや危険な現実となっている。「ワールドワイドウェブ」の将来が危機に瀕している。いまや自由で開かれたインターネットを支持する政府や提唱者はたちは、情報や大衆を管理するためにウェブを隔離しようとする独裁主義的体制の潮流を食い止める義務があるのだ。
中国とロシアはどちらも急速に、デジタル独裁主義につながるインターネットの監視を強化している。今月初めにロシアは、全面的なサイバー戦争のシミュレーションを行うために、全国土をインターネットから切り離す計画を発表した。そして先月、中国は2つの新しい検閲規則を施行した、新たに禁止されるべき100のコンテンツカテゴリを定義し、ショートビデオプラットフォームに投稿されるすべてのコンテンツに対して、レビューを必須としたのだ。
確かに中国とロシアはインターネットを破壊するかもしれないが、決して彼らだけがそうした行為を行っているわけではない。キューバ、イラン、そしてトルコの政治家でさえも「情報主権」の推進を始めている。なおこの「情報主権」という言葉は西側のインターネット会社によって提供されているサービスを、制限はあるものの管理がより簡単な独自製品で置き換える行為を婉曲に表現したものだ。そして2017年の調査では、サウジアラビア、シリア、イエメンを含む多数の国が「実質的に政治的動機のあるフィルタリング」を行っていることが判明した。
このデジタル制御は、独裁主義的体制を超えて広がっている。徐々に、特定のウェブサイトから外国人を締め出そうとする動きが増えているのだ。
例えば、BBCのiPlayerを介して英国の市民が利用できるデジタルコンテンツは、徐々にドイツ人には利用できなくなっている。韓国は、北朝鮮に属する通信社のニュースに対してフィルタリング、検閲、ブロックを行っている。独裁的にせよ民主的にせよ、これまでこれほど多くの政府が、積極的に自国民のインターネットアクセスを制限したことはなかった。
スプリンターネットとデジタル独裁主義の影響が、こうした個々の国の国民をはるかに超えて広がっている。
2016年に、米国の貿易当局は、海外のインターネット幹部たちが貿易障壁として定義するものを、中国のグレートファイアーウォールが生み出したと非難した。インターネットのルールを制御することによって、中国政府はBATとして知られている国内インターネットの3巨人を育てた(バイドゥ、アリババ、テンセント)。彼らは政府の超厳格な体制と足並みを揃えている。
WeChatなどの、これらのインターネット大手が生み出すスーパーアプリは、検閲用に構築されている。その結果は?元Google CEOのエリック・シュミットは、次のように述べている「中国のファイアウォールはインターネットを2つに分断するだろう。米国が西側のインターネットを支配し、中国がアジア全体のインターネットを支配することになるだろう」。
驚くべきことに、米国企業がこのスプリンターネットの推進を手助けをしている。
Googleは、何十年にもわたって中国市場への参入を試みてきたが、中国政府の厳しい検閲とデータ収集との共存が困難であったため、2010年3月には、Googleは検索エンジンおよびその他のサービスを中国から引き揚げることを選択した。しかし現在、2019年になってGoogleは完全にその姿勢を変えた。
Googleは、プロジェクトDragonflyと呼ばれる、まったく異なる中国のインターネットプラットフォームを通じて検閲を受け入れている。Dragonflyは、Googleが西側で提供している検索プラットフォームの検閲付バージョンだが、重要な違いは、デリケートな問題に関する公開クエリに対する結果がブロックされることである。
世界人権宣言(UDHR)には「すべて人は、意見及び表現の自由を享有する権利を有する。この権利は、干渉を受けることなく自己の意見をもつ自由並びにあらゆる手段により、また、国境を越えると否とにかかわりなく、情報及び思想を求め、受け、及び伝える自由を含む」(第19条:国連公式ページより)と述べられている。
1948年に起草されたこの宣言は、人びとがかつて威力をふるった独裁的プロパガンダや検閲と戦った、第二次世界大戦後の気持ちを表している。こうした言葉たちは、インターネット時代のはるか前である70年以上前に書かれたものであるにもかかわらず、この宣言は、現在私たちが見ているスプリンターネットや非民主的デジタル国境の概念に、戦いを挑むものなのである。
世界でウェブがより分裂し、情報がより統制されるようになるにつれて、私たちは民主的システムの悪化、自由市場の腐敗、そしてさらなるサイバー偽情報キャンペーンの危険に晒されるようになっている。歴史が繰り返される前に、私たちは検閲や国際的な操作から、自由で開かれたインターネットを守るために、今すぐ行動を起こさなければならない。
究極のソリューション
1948年に起草されたUDHRと同様に、2016年には国連が、「オンラインの自由」は、保護されなければならない基本的人権であると宣言した。法的拘束力はないものの、この動きは合意を経て行われたものであるため、国連はオープンインターネット(OI)システムを支持するためのある程度の力を与えられた。基準を満たしていない政府に選択的に圧力をかけることで、国連はデジタル人権標準の適用を進めることができるようになった。
最初のステップは、インターネットの全リソースとそれを操作する能力に対する透明な監視システムを実装することである。その監視システムにはすべての市民が簡単にアクセスできる必要がある。北朝鮮、中国、イラン、シリアなど、ウェブサイトをブロックし、電子メールやソーシャルメディアコミュニケーションをフィルタリングする国に対しては、改善することで結果が良くなるインセンティブを与える。
すべての国が、オープンスタンダード、検閲の不在、およびインターネットへの参入障壁の低さなどの、複数の前向きな要因の達成度でランク付けされることになる。オープンインターネットランキングシステムは、すべての国をFree(自由)、Partly Free(部分的自由)、あるいはNot Free(不自由)の3階層に分類する。最終的な目標は、すべての国々が徐々にFreeカテゴリに移行し、すべての市民がWWW全体で、情報を制限なく、平等にそして自由に利用できるようにすることである。
第二段階は、国連自身が西側の最大手インターネット企業ともっと緊密に連携することである。彼らが協力することで、各国政府へ忍び寄る検閲や、各政府の暴走に関する詳細な報告書をまとめることができる。世界的ハイテク企業は、どの国が検閲とデジタルスピーチの制限に圧力をかけているかを厳しく認識している。国連と世界的ハイテク企業が協力することで手強い相手であることを示すことができれば、世界の市民を保護できることになる。あらゆる国のあらゆる個人には、世界で本当に何が起こっているのかを知る権利がある。
インターネットが開放され、過度の規制や検閲が行われていないFreeカテゴリーの国には、途方もない経済的繁栄の道が開かれるだろう。反対にNot Freeカテゴリーに属し、内向きの政策と社会価値を押し付けようとする国々は、完璧に孤立し、明らかにデジタル人権法に違反していることに気が付くことになるだろう。
これはうわべだけの脅かしではない。完全に閉鎖されたスプリンターネットは、必然的に国家を孤立させ、成長率を低め、そして停滞させるだろう。
【編集部注】著者のKeith Wright(キース・ライト)氏は、英国ヴィラノーバ・ビジネス・スクールの会計ならびに情報システムの講師である。またSimplicity On-Demandの創設者であり、以前はSAPのグローバルセールスオペレーション担当シニアバイスプレジデントでもあった。
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(翻訳:sako)