米司法省は、民間のDNA分析サービスの遺伝情報を法執行機関が捜査に利用する際の留意点をまとめた暫定的な指針を発表した。
「凶悪犯罪の起訴は司法省の優先事項だ。理由はいくつもあるが、公共の安全を確保し、被害者とその家族に正義と事件の終息をもたらす点は挙げなければならない」とJeffrey A. Rosen(ジェフリー・A・ローゼン)司法長官代行が声明で「加害者を特定できなければ我々は任務を完遂できない。法医・遺伝系図学(遺伝データに基づく家系図情報を犯罪捜査や裁判などで証拠として使う可能性を究明する学問)により、以前は不可能だった問題が解決できるようになった。だが捜査技術の進歩をプライバシーや市民の自由に優先してはならない。求められるバランスをどう取るべきか。その指針を示すため暫定的な方針を発表した」と述べた。
司法省の指針が明確にした最も重要な点は、家系図分析サービスによって判明した遺伝的関連のみに基づいて容疑者を逮捕すべきではないということだ。
遺伝情報を使用して容疑者が特定された場合、捜査で入手したサンプルをFBIの統合DNAインデックスシステム(CODIS)にアップロードされている法医学プロファイルと照合しなけれならない。
司法省によると民間サービスの遺伝子情報が使用できるケースは限られる。未解決の暴力犯罪または性犯罪でDNAが加害者のものであると捜査官が判断する場合、または他殺と疑われる被害者の遺体がすでに発見されている場合だ。
法執行機関が「公共の安全または国家安全保障に対する実質的かつ継続的な脅威」がある犯罪を捜査している場合、検察官は凶悪犯罪以外にも遺伝子系図データの使用を許可する権限をもつ。
司法省によると、民間サービスの遺伝情報を利用する前に、捜査官がFBIの内部システムを検索し、指定された検査官(DLO)が捜査で入手したサンプルを精査する。
「サンプルが単一の出所からのものか、混合物から推定したものかをDLOが判断する」。一般の遺伝子記録と比較する前に「サンプルの量、品質、劣化の程度、混合状態なども評価する」。
新指針のもとで法執行機関が利用できる民間遺伝子データベースの範囲は制限される。運営会社がユーザーに対し、法執行機関による犯罪捜査や遺体の特定にデータが使用される可能性があることを明示的に通知したデータベースに限られる。捜査のために遺伝情報が収集される場合、捜査官は家系図サービスのユーザーから別途同意を得る必要がある(同意によって捜査が妨げられるおそれがある場合を除く)。
新指針の策定は、今年に入って複数のDNA検査サービスが顧客との間の通知や同意なしに犯罪捜査を行う法執行機関にデータを開放したことが明るみに出たことを受けた動きだ。
特に話題になったのは家系図分析サービスのFamilyTreeDNAで、数百万人の遺伝子記録を顧客に通知せずに法執行機関に公開すると決めた。今年1月、BuzzFeedが最初に報じた。
法執行機関が犯罪解決の証拠としてに遺伝子情報に頼るのは今に始まったわけではない。警察は2018年4月、オンラインのDNA・家系図データベースから収集したDNAを証拠として使い、「ゴールデン・ステート・キラー」とみられる男性を逮捕した。犯罪解決のために民間の遺伝子情報が使用された最初の例となった。
FamilyTreeDNAの判断に抗議が相次いだため注目が集まった。民間の遺伝子検査会社に関する規制や、ユーザーが同意した場合の遺伝子情報の使用方法に関する規制がほとんどないことがわかったからだ。
「事実上の国家DNAデータベースに近づいている」と、生命倫理と刑事司法が専門のボルチモア大学の助教授であるNatalie Ram(ナタリー・ラム)氏は当時BuzzFeed Newsに語った。「我々は遺伝的関係を選べないし断ち切ることもできない。我々が自らの意思でできることは何もない」。
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(翻訳:Mizoguchi)