週末勉強する人は続かない―データから見えた外国語学習に成功する人の3つの特徴

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編集部注:この原稿は萩原正人( @mhagiwara )氏による寄稿である。 萩原氏はGoogle、Microsoft Research、バイドゥ、楽天技術研究所(ニューヨーク)にて、検索エンジンおよび自然言語処理の研究に携わった後、2015年2月からはDuolingo にてソフトウェアエンジニア、リサーチサイエンティストとして自然言語処理技術を活かした研究開発に従事している。2009年名古屋大学大学院情報科学研究科博士課程修了。博士(情報科学)。著書に、翔泳社『自然言語処理の基本と技術』(2016)、訳書に、オライリー『入門 自然言語処理』(2010)、『入門 機械学習』(2012) がある。英語(TOEIC満点)および中国語(HSK口語上級)が堪能。

 

「英語を流暢に話せるようになりたい!」との思いで、週末など、週1回ほど英会話学校に通っている読者の方も多いのではないかと思う。残念なことに、データ解析によると、そのような方は学習を続けられずに脱落してしまう可能性が高い。では、どうすれば英語学習を続けることができるのだろうか。本記事でこれから述べる簡単な点に留意するだけで、英語など外国語の学習に成功できる可能性をぐっと上げることができるかもしれない。

巷には、「1週間でペラペラになれる!」「聞き流すだけで英会話をマスター」のようなタイトルの書籍や教材があふれている。そもそも、英語などの外国語をマスターしようと思ったら、どのぐらいの量を、どのように勉強したらよいかということはあまり知られていない。何時間も机に向って勉強するべきなのか、それとも、毎日10分でも効果があるのだろうか。

本記事では、私がDuolingoの大規模データを分析して分かった、外国語学習に成功する人に共通する特徴を紹介することによって、外国語の習得のためのヒントを提供できればと思っている。

外国語の習得に本当に必要なもの

残念ながら、全く予備知識のない人が、外国語を1週間でペラペラになるまで習得することはまず無理だ。これは多くの人の経験からも、これまでの科学的な知見からも明らかだ。それでは、外国語の習得に本当に必要なものは何なのだろうか。

「外国語の習得はダイエットと非常に似ている」というのが私の持論だ。両者の類似点から成功に必要な条件を書き出してみよう。

継続的な努力と時間

  • 残念ながら、日本人にとって英語は習得が難しい言語の1つであることは疑いない。文法や発音など、 言語学的も文化的にも英語は日本語とはとても異なる言語である。これは逆の例になるのだが、英語話者にとって日本語は世界のメジャーな言語のうち最も習得が難しい言語とみなされており、2200時間以上の学習が必要だという見積もりもある。日本語話者が英語を勉強する場合も、そのぐらいの勉強時間は少なくとも覚悟したほうがよさそうだ。
  • また、日本国内では、またまだ英語話者と接する機会が少なかったり、英語を仕事で直接使う必要性が少なかったりと、環境やモチベーションという要因も、外国語、特に英語を習得することを難しくしている。

総合的な練習

  • 人間がどのように外国語を獲得するか、そのためにどのようなメカニズムが絡んでいるかというのは、最新の科学でもよく分かっていない部分が多い。
  • ただ、これまでの膨大な第二言語習得の研究の積み重ねから1つだけ言えるのは、外国語は「聞き流すだけでマスター」できるような単純なものではないということだ。ダイエットでも、例えば、ある食品だけを食べる「◯◯ダイエット」などの極端に単純な方法が流行することがあるが、健康的なダイエットのためには、さまざまな食品や栄養素をバランス良く摂ることが重要であることを否定する人はあまりいないだろう。

正しい方法に関する知識

  • 「ダイエットに必要なもの」と聞くと「ジムに行って運動」などのようにまず「運動」を思い浮かべる人が多いかと思う。しかし、医学的な立場から見ると、ダイエットのためには運動よりも食事のほうがはるかに大切であることが分かっている。
  • 外国語習得でも、最初に触れた「どのぐらいの時間勉強すべきか」などの問題以外にも、例えば「文法はしっかり勉強したほうが良いのかどうか」など、長い間、専門家たちの間で研究調査がなされてきた。

「1日何時間勉強するべきか?」といった一見して非常に簡単な質問に対しても、自信を持って答えられる人は少ないのではないだろうか。そのような「正しい方法に関する知識」がなかなか広まらないのはなぜだろうか。

1つの理由は、外国語の習得は複雑かつ時間のかかるプロセスなので、大規模な対照実験(例えば「学生をたくさん集めて2つのグループに分け、片方のグループに教材Aを使ってもらい、もう片方のグループに別の教材Bを使ってもらう」など)を実施して異なる学習法の効果などを比較することが簡単にはできないからだ。

しかし、パソコンやスマートフォン上で外国語の学習をすることが一般的になるにつれ、これまででは考えられなかったような数の外国語学習者の学習パターンを自動的に分析し、そこから知見を得ることが可能になってきた。

本記事では、1億5000万の登録ユーザーを有する世界最大の外国語学習アプリである Duolingoの大規模データに基づき、どのような人が外国語学習に成功するのかを分析した。

具体的には、外国語の学習を継続できているユーザーと離脱してしまったユーザーをそれぞれ数千人ずつ無作為抽出し、分析(より専門的に言うと、さまざまな要因の影響を分解・統制して、結果を予測するロジスティクス回帰分析)することによって、さまざまな特徴の違いが見えてきた。

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成功する学習者の特徴1:継続的に学習する

データから分かった、成功する学習者の1つ目の特徴は、継続的に学習するということだ。

例えば、最後に学習してから経過した日数(グラフ1)を見ると、ほとんどの継続ユーザーが毎日、もしくは最低でも2〜3日ごとに学習しているのに対し、離脱ユーザーは5〜6日の間が空いてしまっている。また、1週間のレッスン・練習数(グラフ2)を見ても、継続ユーザーは離脱ユーザーと比較して圧倒的に多く学習している。

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特に、最初に触れたように、主に週末にしか勉強しない人は、脱落してしまう可能性が高いことがデータ解析によって分かった。

特にある外国語を習いたての時期には、記憶をフレッシュに保つために、できれば毎日、少なくとも2〜3日に一度は何らかの形でその外国語に触れる、勉強するようにした方が良いと言えるだろう。

ちなみに、学習する際に、レッスンを手早く終わらせるのではなく、よりゆっくり時間をかけて、学習内容をきちんと理解して進むユーザーの方が、継続できる可能性も高いことが分かった。これも、外国語に関する記憶をより強固なものにするために有効であると考えられる。

成功する学習者の特徴2:詰め込みをしない

p04データから分かった、成功する学習者の2つ目の特徴は、「詰め込みをしない」というものだ。グラフ3は、1日ごとのレッスン・練習量のばらつき(相対標準偏差)を示したものだが、離脱ユーザーの方が大きくなっている。これは、継続ユーザーは、毎日ほぼ一定の量を学習している傾向が高いのに対して、離脱ユーザーは、「ある日は何十分、何時間も勉強するのに、他の日はほとんど勉強しない」というような学習パターンを示す傾向が高いことを示している。前に述べた「週末にしか勉強しない人」もこのパターンに相当する。週末にしか勉強しないと、平日の分を取り戻そうという心理が働いてしまうのかもしれない。

たくさんの量を短時間で学習する「詰め込み」は、外国語の習得にかぎらず、長期的な学習にとっては効果が低いということが、心理学などの分野の多くの研究によって示されている。外国語を習得するには、少しずつでも良いので、ほぼ同じ量を毎日コンスタントに学習する方が良いと言えるだろう。

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成功する学習者の特徴3:復習をする

Duolingo には、新しい単語や文法規則を学習するための「レッスン」の他に、これまでに習った内容を復習できる「練習」という機能がある。

データから分かった「成功する学習者の特徴」の3つ目は、この「練習」を多くする人の方が、外国語学習を継続できる可能性が高いというものだ。

外国語を学習する際は、新しい単語や文法規則などを、読んだり聞いたりした時に意識的に考えなくても意味が分かったり、書いたり話したりする時に自然と出てきたりするぐらいのレベルまで、体に染み込ませる(これを、自動化と呼ぶ)ことが重要だ。このためには、習った内容をそのままにせず、練習を通じて記憶をより強固なものにすることが必要不可欠になる。

Duolingo などのアプリに限った話ではないが、スピーキング(実際に、ネイティブスピーカーなどとその外国語を使って会話をすること)はとても大切だ。会話は、単にスピーキングの練習になるというだけでなく、習ったことを総動員するので、記憶の定着、知識の自動化などにとても効果的だからだ。ネイティブスピーカーが近くにいない場合は、チャットボットなどを相手に練習するのも良いかもしれない。

逆に、教科書を読み返したり、大事な項目に下線を引いたりすることは、単純で多くの人が実践している学習法だと思うが、記憶の定着という意味では学習にとってほとんど効果がないことが心理学の研究によって分かっている。単語の意味を覚えているかどうか単語カードを使ってテストしたり、書いたり話したりする際に外国語の文をきちんと組み立てられるか練習したりといった、なるべく記憶に負担をかけるような練習が効果が高いとされている。

なお、復習の際には、単語や文法項目などを「ちょうど忘れかけたタイミング」に、「だんだんと練習間隔を伸ばして」復習するのが良いとされている。この手法は、心理学の分野で間隔反復と呼ばれており、外国語学習に限らず、さまざまな学習システムに応用されている。ただし、「ちょうど忘れかけたタイミング」というのは、個人の能力や、単語や文法項目、学習中の言語や母語など、さまざまな要因によって変わってくる。人間の脳の中を直接のぞけない以上、このタイミングを適切に推定するのはとても難しい。Duolingo では、大量のユーザーから毎日生み出される大規模データと機械学習を使い、この復習タイミングをさまざまなパラメーターから適切に推定することができる半減期回帰法という手法を開発した。このおかげで、ユーザーに対して適切なタイミングで、適切な単語・文法項目の練習をうながすことができる。

結局、毎日少しずつ練習をすること

「地道な継続が大切」という割と当たり前の結論に、がっかりした方もいるかもしれない。しかし、高価な教材を買ったり、英会話学校に入学しなくても、「詰め込みをせずに、毎日少しずつでも、地味に練習をする」ことによって、外国語の力は着実についていく。本記事が、そのための励みや道しるべになれば幸いである。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。