AI自動販売機のスタートアップStockwellが7月1日に廃業、自販機業界には90%も売上が落ち込む企業も

鳴り物入りで登場したStockwell AI(ストックウェル・エーアイ)は、涙の退場が決まった。2017年に元Google社員によって設立され、生を受けたときはBodega(ボデガ)という社名だったこのAI自動販売機のスタートアップは、家族経営の小さな商店を悪く言い、無残にも一撃でそうした店舗を叩き潰しては大金を手にするというそのやり方(未訳記事)が、とても嫌われた(The Washington Post記事)。結局のところ同社は、新型コロナウイルス(COVID-19)と、それが私たちの生活に与えた影響に対処できなかった。

TechCrunchが調査し確認したところでは、Stockwellは2020年6月末で廃業することになった。コンビニと同じ商品を販売する屋内型のアプリ操作式「スマート」自動販売機は、儲かるビジネスにつながらなかったようだ。

「まことに遺憾ながら、今般の状況により事業の継続が困難となり、7月1日をもって弊社は廃業することとなりました」と共同創設者でCEOのPaul McDonald(ポール・マクドナルド)氏はTechCrunch宛の電子メールで述べている。「私たちはこの事業を可能にしてくれた有能なチーム、素晴らしいパートナーと投資家、そして称賛すべきお客様に深く感謝します。このような形で旅を終えるのはまことに残念ですが、人々の生活の場、職場、遊びの場に店を置くという私たちのビジョンは、他の優れた企業、製品、サービスの中で生き続けるものと確信しています」。

もともと我々は、同社の廃業に関する電子メールを受け取った人物からの内報を受けて取材を行った。Stockwellの販売機は主にアパートやオフィスビルの中に設置されているが、先週、それらの顧客に同社からの廃業の知らせが届いた。

Stockwellを利用しているあるビルの運営会社は、Stockwellに代わって商品の補充をしてくれる業者を懸命に探しなんとか使い続ける道を見つけたそうで、これにはいくぶん慰められるが、厳しいことを言えば、今は売り上げが最大で90パーセントも落ち込む業者が出るほど、自動販売機業界にとって過酷な時期だ。

Stockwellの廃業は、現在の状況では頼れる支援者を数多く有し潤沢な資金があったとしても、誰もが必ず試練を乗り越えられるわけではないと再認識させてくれた点で意義深い。

2019年9月の時点で、Stockwellは少なくとも4500万ドル(約48億3000万円円)の投資をNEA、GV、DCM Ventures、Forerunner、First Round、Homebrewなどから調達していた。そのネットワークは1000カ所もの「ストア」に拡大していた。同社のスマート販売機は、ホテルの冷蔵庫を進化させたようなものだ。取り出した商品はセンサーが認識し、利用者は購入履歴の確認や支払いがスマートフォンで行える。

2019年秋まで、同社はそのビジネスモデルの拡大を目指して準備を進めていた。ビルやオフィスやアパートなどに置かれたStockwellの自動販売機で買える商品について、もっと利用者の意見を受け入れられるようにするというものだ。それは、水や清涼飲料水の他、おつまみ系のスナックや甘い菓子類、洗濯洗剤や鎮痛剤などの生活必需品に至る。

12月にマクドナルド氏の共同創設者であるAshwath Rajan(アシュワス・ラジャン)氏が静かに同社を去り、2020年が幕を開けると当時に新型コロナウイルスの影響が出始めた。

まずは利用者が自宅で仕事をし、家で過ごすようになった。外出が減り、買い物を最小限に抑えるためにまとめ買いをするようになった。そのため、気楽に少量の買い物ができるというStockwellなどの自動販売機の典型的なビジネスモデルに基づく事業の存続が困難になった。

次に感染拡大を抑えるための多くの人がマスクを着用し手洗いを徹底して、やたらと物に触らないように努める中で、人の手を離れた自動販売機をどうやって適切に消毒するのかという大きな問題が浮かび上がった。それは自動販売機の利用を減らしただけでなく、自動販売機に商品を補充したりメンテナンスをする業者にも重大な影響を及ぼした。

自動販売機業界の新型コロナウイルス対応には、おもしろい工夫が見られた。一部の企業は、商品をブレッツエルやスニッカーズから個人用防護具に変更した(Las Vegas Review-Journal記事)。またある業者はこの大変な時期に、簡単に栄養を摂取する方法がない最前線で働く人たちのために健康食品を販売する機会を探っている(EATER記事)。

だが全体的に、自動販売機業界はパンデミックの影響を大きく受けることになった。

通常の年であれば、この大きな市場の価値は年間300億ドル(約3兆2000億円)ほどと見積もられている(Grand View Research記事)。それが、Stockwell(旧Bodega)が投資家の目に留まった理由のひとつだ。しかし、数々の重大な要因が重なり、同社の事業は崖から転落してしまった。

2020年4月にEuropean Vending Association(欧州自動販売機協会)の会長は、政府高官に資金援助を求めた訴えの中で、取引高は最大90パーセント落ち込み、この分野に新型コロナウイルスが「壊滅的な影響」を与えていると説明している( FoodBev Media記事)。世界中のPepsi(ペプシ)やMondelez(モンデリーズ、旧Kraft)にとっても厳しい数字だが、若く有望でありながら当初から疑問を持たれていたAIベースの自動販売機スタートアップには、これが致命傷となったようだ。

画像クレジット:Bryce Durbin
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(翻訳:金井哲夫)

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TechCrunch Japan

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