「この前Slackでやりとりした新しいアイデアのディスカッション、きちんとログを残しておけばよかった」
Slackやチャットワークといったビジネスチャットツールをチームで使うようになってから、日々のコミュニケーションが格段に便利になった一方で、このように思うことも増えた。
ビジネスチャット上での何気ない雑談から面白いアイデアがでてきたり、深い議論へと発展することはよくあるが、時間がたってから振り返りたいと思った時に壁にぶち当たる。検索機能を使って探せないことはないが、議論が散らばっていてすぐにアクセスできないことも多い。かといって毎回のようにGoogleドキュメントやWordなどでログを作って共有するのは面倒だ。
思えばビジネスチャットのように「フロー」情報をやりとりするサービスはどんどん新しいものがでてきているが、「ストック」情報を気軽に貯めて共有できるサービスはここ最近あまり増えていない。
社内で価値のある情報を、ビジネスチャットのような感覚でサクサク残していけるような場所があれば便利なのではないか。まさにそのようなコンセプトで生まれたのが、本日9月12日にベータ版がローンチされた「Stock」だ。
Stockはその名の通り、チームで価値のある情報をストックできる情報共通ツール。機能やコンセプトの違いはあれど、チームで使う「Evernote」のようなものをイメージしてもらうとわかりやすい。Evernoteの機能をよりシンプルに、そしてITに詳しくないスモールチームでも利用できるようにしたものがStockだ。
「情報ストック」と「タスク管理」に絞ったシンプルなツール
Stockでできることはチームの「情報ストック」と「タスク管理」の2つ。情報ストックについては、ノート形式で情報をまとめて残せるというシンプルなものだ。テキストに加え画像も投稿でき、気軽に情報のストック、アップデートができる。ノートの内容は自動保存されるほか、情報を整理する際に便利なフォルダ機能も備える。
そしてノートに紐づいたチャット機能がStockの特徴の1つ。ノート右下のメッセンジャーアイコンから、すぐにチャットを始められる。ノートへのフィードバックもここで行えば、他のやりとりと混同することもないし、情報が散らばることもない。
また社内の定例ミーティングや企画ブレストにはたいてい「タスク」がつきまとうため、Stockではノートごとにタスク管理機能も備える。自分に関連するタスクはサイドバーのタスク一覧から確認でき、Stock上でタスクを設定しておけばToDo管理用のツールを使わなくても済む。
中途半端に機能を組み合わせても、価値を感じない
非常にシンプル。これといって目新しい何かを感じるわけではないが、確かにありそうでなかったかも。それがStockについて話を聞いた時の最初の印象だった。
Stockを開発するリンクライブ創業者の澤村大輔氏によれば「今以上に簡素な機能しかなかった状態で何社かに話をした際、反応が薄い企業もあったが、その機能だけでもいいから是非使いたいという企業があった」そうだ。
その時にニーズとして出てきたのが「情報をサクサク保存でき、その情報に簡単にアクセスできる」こと。たとえば2017年初にクローズドでテストを始めた当初からStockを導入する税理士事務所では、顧客との打ち合わせの記録をWordに残しDropboxで共有していた。だがそれでは情報までの距離が遠くアクセス性が悪いため、面倒で情報を確認しなくなるという問題が起こっていたそうだ。
現在Stockを毎日アクティブに使っている企業は約15社あり、「従来のファイル管理ツールでは情報へのアクセス性が悪い」「チャットツールでは貴重な情報が流れてしまい蓄積できない」という課題は多くの企業に共通しているという。その声を元にシンプルな作りにしたところ、導入先の学習塾では60歳を超えるスタッフが使い方の説明をしなくても普通に使いこなしている、という事例も生まれているそうだ。
ただシンプルな機能に行き着いた背景には、ちょっとした面白いエピソードがある。澤村氏によると、実は本格的なチャット機能など多機能化を検討していた時期があったのだそう。ところが実際にテストをするとユーザーから総ツッコミをくらったという。
「Stockだけで何でもできるようになれば喜ばれると思ったが、結果的には実装後にアクティブ率が下がり『中途半端に機能を組み合わせても価値を感じない。チャット機能なら他のチャットツールに勝てない』とフィードバックを受けた。ノートを使った共同作業を徹底的にシャープにしているからこそStockを使っていると言ってもらえたことで、必要な機能だけに絞ることを決めた」(澤村氏)
Stockと似たような使い方ができるものとしてEvernoteのビジネスプランやQiita:Teamなどがある。ただITに詳しくない人をメインターゲットに、とことん機能を絞りこんで使いやすくしたツールにはまだチャンスがありそうだ。
「Slackなどチームのコミュニケーションを簡単にするツールは増えてきているが、誰でも情報を簡単にストックできるツールというのは、Dropbox以降これといったサービスがまだ生まれていない。Dropboxや他のツールほど機能は多くないが、その分わかりやすく簡単に情報を残せる。そこは勝負できる余地があると考えている」(澤村氏)
今回リリースするStockのベータ版は招待制で、正式リリースまでは無料で提供する。正式リリースは年内を予定していて、フリーミアムモデルでの提供を検討中だ。また今後はオフラインで使えるようにデスクトップアプリを開発したり、APIを使って他サービスと連携させたり(たとえばStockで設定したタスクがGoogleカレンダーにも反映されるなど)といった形で、より使いやすいサービスを目指すという。