ハッカソンから出てきたアプリやアイデアが元となってスタートアップが生まれることは少ない。たとえ良いアイデアでMVPとして良くできていたとしても、開発メンバーの多くがフルコミットに踏み切れないまま時間が経つうちに、初期の熱気が徐々に失われることが多い。
本気で起業するか諦めるしかないのか? というのに、ちょっと違う答えを示してくれる事例が出てきた。
スモールビジネス向けに予約顧客台帳サービスを開発するトレタは今日、オフィス受付アプリ「→Kitayon」(キタヨン)を、ディライテッドに譲渡したと発表した。ディライテッドは追加開発を経て「RECEPTIONIST」(レセプショニスト)というサービス名での提供を開始した。
キタヨンはTechCrunch Tokyo 2015のハッカソンで、トレタCTOの増井雄一郎氏が有志メンバーら5人ともに夜を徹して開発したオフィス受付のためのiPadアプリだ。アメリカのスタートアップ事情に詳しい人なら「Envoy」と同ジャンルのプロダクトと言えば分かるかもしれない。
多くのオフィスの受付はいまだに旧態依然とした内線電話などになっている。受付に何人も専任スタッフがいる伝統的大企業でもなければ、ハッキリ言って担当者に直接LINEかFacebookでメッセするほうが早いという状況。受付に人間がいるのは21世紀になったことに、15年以上も経ってまだ気付いていないところだけだ。
RECEPTIONISTは予め発行した6桁の数字を受付のiPadアプリで入力するだけで、社員の持つiPhoneアプリに通知が送れるアプリだ。呼び出し時には当該社員の顔写真を表示する。ChatWorkやSlackと連携できる。ローンチ時はiPadアプリのみだが、近日中にAndroidタブレット版も公開予定という。
主な機能は以下の通り:
・担当者を名前で検索して呼び出し
・来客のお知らせはチャットツールを使って直接担当者に
・アポイントメントを事前登録すると、受付コードを発行してさらに受付が簡単に
・来客者リストはデータで管理、社内で共有。公開範囲の設定も可能
・カスタマイズボタン機能で、採用者向けに人事直通ボタン、配達業者専用ボタンなど作成が可能
・待ち受け画面デザインは自由にカスタマイズ可能
・初期工事不要、初期費用無料、即日利用開始可能
このキタヨンは、TechCrunch Tokyo 2015ハッカソンの場で、普段は自社サービスの開発をしている有志のエンジニアたち6人が集まって1泊2日体制で開発したアプリだ。もともとトレタ社内で受付システムがほしいという声があがっていたそうだ。エンジニアというのは「オレ(私)たちならもっと良いのが作れるのに」というストレスを常に感じているものだ。
今回の譲渡というのは、このアプリをいったん開発チームからトレタが引き取り、それをオフィス受付サービスを展開するディライテッドに譲渡した形だ。ディライテッドは2016年1月創業で、代表の橋本真里子氏は大手企業での10年以上にわたる受付勤務の経験があるそうだ。譲渡にともなってディライテッドはトレタから出資も受けている。トレタの中村仁CEO、増井雄一郎CTOはディライテッドのアドバイザーとなる。アプリの譲渡額や出資額は非公開。
今回企画・開発で中心的役割を果たしたトレタCTOの増井氏は「ハッカソンからエクジットするケースはほとんど聞いたことがない。無料配布か起業しかないっていうのも極端だなと思っていました」と譲渡という道を選んだ背景をTechCrunch Japanに語った。譲渡益は増井氏をのぞく開発メンバーで分けるそう。譲渡金額については非公開ということだが、まだユーザーベースがそれほど存在していないということを考えると、いわゆる「エグジット」から想像される金額感ではなさそう。「ハッカソンで奮闘したエンジニアたちにとっては良いボーナスになった」という感じではないだろうか。とはいえ、意義のあるアプリを世に送り出せた達成感もあるだろうし、ディライテッドにとってもヘタな開発会社に外注するよりもはるかに良いスタートが切れるアプリだろうから、とても良い話だと思う。ハッカソンを主催したTechCrunch Japanとしてもうれしいところだ。