WWWの父ティム・バーナーズ=リー氏のInruptがプライバシープラットフォームSolidのエンタープライズ版をリリース

World Wide Web(ワールド・ワイド・ウェブ、WWW)のオリジナル開発者Tim Berners-Lee(ティム・バーナーズ=リー)氏のスタートアップであるInrupt(インラプト)が、米国時間11月9日、プライバシープラットフォームSolid(ソリッド)のエンタープライズ版を発表した。これにより、大規模な組織や政府が、ユーザー自身がデータを制御することのできるアプリケーションを開発することができる。

バーナーズ=リー氏は、常にウェブは自由で開放的であるべきだと信じてきたが、大規模な組織は過去20年間にわたって成長を続け、私たちのデータを使ってお金を稼いでいる。彼は人びとが自分のデータを制御できるようにしたいと考えた。MITで開発されたオープンソースプロジェクトSolid(MITサイト)は、そのプロセスの第一歩だった。

彼は3年前に、そのオープンソースプロジェクトを基盤としたスタートアップInruptを起業し、会社の経営のためにJohn Bruce(ジョン・ブルース)氏を採用した。2人が、ウェブサイトの開発方法を変えることなく、データの所有権を移転するという同じビジョンを共有していたからだ。Solidを使用しても、開発者はサイトの構築に普段と同じ標準と手法を使うことが可能で、開発されたアプリケーションはどのブラウザでも動作する。Solidが目指しているのは、データパワーのバランスを変えて、それをユーザーの手へと導くことだ。

「お待たせしました、私たちは苦労の結晶としての、最初の重要テクノロジーをリリースします。大規模な組織の中で大規模に展開できるSolidのエンタープライズ版です」とブルース氏は説明する。

このアプローチの背後にある核となるアイデアは、ユーザー自身がパーソナルオンラインデータストア (Personal Online Data Store、Pods)と呼ばれる、オンラインストレージエンティティ内のデータを制御するということだ。エンタープライズ版は、Podsを管理するSolid Server(ソリッドサーバー)で構成され、開発者はSDKを使用してアプリケーションを開発することでPodsを利用して、税金の支払いや、医療サービス機関とのやりとりなどの特定の仕事を実行するために必要なデータに、アクセスすることができる。ブルース氏は、エンタープライズ版はオープンソース版Solidプロジェクト仕様と、完全に互換性があると指摘している。

同社は、米国時間11月9日のリリースに先立ち、英国のBBCや国民保健局、ベルギーのフランドル地方政府などのいくつかの大規模な組織と協力してきた。

これがどのように機能するかを理解するための例に、英国国民保健局が開発している患者と相互作用するためのアプリケーションでは、Solidを使う患者たちが、自分自身の健康データを制御することが可能になっていることが挙げられる。「患者は医師、家族、または在宅介護者に対して、Solid Podsから特定のデータを読み取ることを許可したり、医師が患者のケアを改善するために読むことができる、介護メモや観察記録を追加する許可を与えることができます」と同社は説明する。

このやり方と従来のウェブまたは携帯電話アプリとの違いは、誰がこうした情報にアクセスできるかを決めるのはユーザー自身であるということだ。アプリケーションの所有者はユーザーに対して許可を求め、かつユーザーはどのような条件下で許可を与えるのかを明確にしなければならない。

同スタートアップは2017年にローンチし、これまでに約2000万ドル(約20億7000万円)を調達している。ブルース氏とバーナーズ=リー氏は、これを根付かせるためには、使いやすく、標準に準拠していて、かつ大規模な処理を行える能力をもつ必要があることを理解していた。誰でもオープンソース版のSolidをダウンロードして利用することができるが、エンタープライズ版は彼らがこれまで協力してきたような大企業が必要とするようなサポート、セキュリティ、スケールを、大組織が手に入れることができる。

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カテゴリー:ソフトウェア
タグ:ティム・バーナーズ=リーInrupt

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(翻訳:sako)

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TechCrunch Japan

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