スタートアップ大量氾濫の時代、VCもディスラプトしないと対応できない

[筆者: Aaron Holiday]

編集者注記: Aaron Holidayは645 Venturesの協同ファウンダ。Cornell Techで起業家育成を担当。

最近の10年間で、合衆国で各年に誕生するスタートアップの数は推計16000から20000に増加し、ソフトウェアスタートアップに投じられるベンチャー資金は年間50億ドル弱から190億ドルに増加した。

そして最近の5年間では、これらのスタートアップに関する数テラバイトものデータが、Web上に氾濫した。下図は、App Annieのトラフィックの推移と、CrunchBaseにある企業プロフィールの数の推移を示すグラフだ。

これらの数字はベンチャー産業の活況を表しているだけでなく、ファウンダになる人びとの多様化と、新しいイノベーションハブの勃興をも示している。そしてスタートアップの形成過程のこのような変化と多様化にもかかわらず、ベンチャーキャピタリストがファウンダを支援育成するやり方は、現代のソフトウェアのイノベーションと、シード段階のスタートアップに関するデータの氾濫に、乗ずる努力を怠っている。そういう意味で今VCは、時代から取り残されつつある。

新人ファウンダの出自の多様化

まず、学部と院の両方で、学生たちの起業家指向が大きく高まっている。その原因の一部は、大学と学生の増加に対して、大企業の(とくに役員〜中上級管理職レベルの)椅子の数が少なすぎることだ。学生たちは、既存企業への就職という狭き門を、最初から避けようとする。

そして、大企業へ入って出世することを諦めた学生たちは、スタートアップの創業者になり、あるいは創業初期のスタートアップに参加する。

またこれらのスタートアップが根付いて育つハブも、シリコンバレーやボストンのように、背後に名門大学/研究機関と技術系上場企業が控える伝統的な立地から、さまざまなリソースや人材や優れた中小企業の技術が潜在している新しい都市へと拡散しつつある。

そういう新興テクノロジハブの一つであるニューヨークの場合は、市にスタートアップ育成振興施策があるだけでなく、同市におけるスタートアップ形成の過程をドキュメントするDigital.NYCのようなサイトまで、市が制作している:

VC投資案件数: ニューヨーク都心(青、左端)、ニューイングランド(赤)、中西部(草色)、ロサンゼルス/オレンジ郡(紫、右端)

スタートアップのデータと量が多すぎてこれまでのVCのやり方では対応できない

スタートアップの活動が地理的にも人的にも多様化していることと並行して、シード段階のスタートアップに関するインターネット上の情報量も指数関数的に増加している。スタートアップのファウンダやプロダクトの人気、競合他社などなどに関するデータはほんの数年しか存在しないが、それら断片的データの多くはAPIから容易にアクセスでき、高成長スタートアップが発しているシグナルをリアルタイムで捕捉することもできる。

今では、スタートアップに投資する投資家は、プライベートな企業に関するパブリックな(==公開)データにアクセスするDataFoxやMatterMark、CB Insightsなどのツールを利用できる。しかしまだ、ベンチャー投資の意思決定とポートフォリオ作成のためにこれらのツールを活用しているところは、多くない。

最近の10年でテクコミュニティには大きな変化があったが、初期段階(アーリーステージ)向けのベンチャーキャピタルのやり方は20年前と同じだ。従来型のVCたちは個人的な人間関係からネタを拾い、標準性のない各社独特のやり方で投資案件の構築と提供を行っている。

そういう、人づての情報と、慎重な投資手順、事前調査、厳しい性格判断などが、従来型VCの、投資の意思決定のベースになっている。この方法は、前々世紀かそれ以前から、優秀な有限責任社員を選ぶために使われてきた。ポートフォリオ企業の選別も、ゼネラルパートナーの個人的なネットワーク(既存のポートフォリオ企業など)や地域社会の顔役、事業の支援者たち、そして一部のVCの経験やノウハウに基づいて行われていた。

上位のVCたちも、こういう伝統的なパターンで投資案件を構築してきたし、今後何年もこの方法を使っていくだろう。でも上で述べたように、今では、既存VCたちの個人的・伝統的ネットワークに引っかからない、新世代の創業者が増えている。また投資案件構築のペースも、今や従来の手作業的なやり方では遅すぎて、毎年大量に誕生する新しいファウンダたちの資金ニーズには、逆立ちしても対応できない。これまでのVCのやり方は、要するに、スケールしない/できない。

優秀な投資候補はアルゴリズムで拾え

今、プログラミングとソフトウェア開発の過程と費用は、ますます軽量化しつつある。したがって、多くのファウンダにとって、起業の敷居も低くなっている。起業資金へのアクセスも、昔に比べるとずいぶん容易だ。こういう変化が、学生たちでも気軽に起業するようになった今の傾向の原因でもある。またリーンスタートアップ(lean startup)などの新しい創業哲学も、起業を気軽で手早い起業実験として行う動向に火をつけている。

そこで今では、従来型のシードからシリーズAへという投資パターンのすぐ隣に(下図右)、実験から芽生える新しい形のシード市場が、すでに相当な規模で育っている。それを仮に、 “Gulf of Startup Experimentation”(スタートアップ実験の湾)と呼ぼう。この湾の外(下図左)には、従来型シーディングの大海がある。

この湾の中には、才能ある技術者や、プロダクトマネージャ、デザイナー、いろんな業種職種にわたるドメインエキスパート(domain expert, 特定分野の専門家)たちの集団がいて、実験を他が真似できない高成長のスタートアップに変える能力を持っている。一部のエンジェルたちや、アクセラレータ、シード投資家などが、湾内の実験を資金的に支えている。これらスタートアップのファウンダたちはもっぱら独学で、その企業はProduct HuntやAngelList、CrunchBaseなどから、もっぱらオンラインで知られるようになる(従来的な…スケールしない…人間関係のネットワークではない)。

今後確実にシリーズAになりそうな企業をこの湾内で効率的に見つけるためにVCは、湾内のベストファウンダを選り分け、パートナーしていくための高度な知恵を必要とする。情報源として人間的知性と人間関係だけに頼ることは、もはや許されない。この湾内ではいつも大量の実験が高速で生起しているから、これまでの評価や審査のやり方では対応できない。未来のダイヤモンドの、良質な原石を見つけるためには、テクノロジの利用がどうしても必要だ。

シードから初期段階投資へ、という流れも、その対象候補を見つけるためには人工知能のアルゴリズムを併用して、湾内で行われているさまざまな実験を知ることが必要だ。投資家はまた、スタートアップの経営管理チームの価値創造に影響を与えるさまざまな機会を、ソフトウェア(とくにビッグデータ分析)を使って見つけるだろう。これらのアルゴリズムによってVCは、ゼネラルパートナーとファウンダとの関係のあり方や投資戦略を分析し、そのVCにとってもっともふさわしいファウンダのタイプを、前もって見つけることができる。

VCの事業展開をソフトウェアとアルゴリズムを使って効率化し、大量起業の現代および未来に、VCが落ちこぼれることなくしっかり対応していくやり方は、まだ始まったばかりだ。投資の意思決定に補助的ソフトウェアや統計モデルを実験的に利用しているVCも、すでに数社あるが、まだ、総合的なソフトウェアとインテリジェントなアルゴリズムが日々の業務(候補の発見からポートフォリオ企業の管理までの全過程)の完全なベースとなって、優秀な投資対象スタートアップを確実に見つけているところは、ほとんどない。

VC業界が変わるためには、VCそのものにも新人が続々登場して、ソフトウェアの効果的な使い方を人びとに見せつけ、その知識を全業界に共有していくことが必要だ。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))


投稿者:

TechCrunch Japan

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