「パズドラやモンストのようなゲームを、サーバの知識がなくても作れるような環境を整えていきたい」——ゲームサーバのクラウドサービスを提供するGame Server Services(GS2)で代表取締役社長CEOを務める丹羽一智氏は、同社の展望についてこう話す。
GS2が手がけているのはゲームサーバの開発・運用を行わずにゲームを作れるようにする、開発者向けのインフラサービスだ。同社は丹羽氏がセガや任天堂を経て2016年に創業。同年12月にワンダープラネットから資金を調達し、サービスのベータ版を公開している。
そんなGS2は3月30日、4社を引受先とした第三者割当増資により8000万円を調達したことを明らかにした。引受先となったのは大和企業投資、GameWith、KLab Venture Partners、ディー・エヌ・エーだ。今回調達した資金を基に開発体制を強化し、サービスの拡充を目指すという。
サーバの保守、管理、運用が不要に
同社が手がけるプロダクトや、背景にある近年の技術トレンドについては前回の調達時に詳しく紹介している。ポイントとなるのは2015年ごろから注目されている「サーバレスコンピューティング」や「FaaS」と呼ばれる技術だ。
サーバレスというのは「サーバが一切必要ない」ということではなくて、「サーバの保守、管理、運用がいらなくなる」という意味。代表的なのはAmazonが手がけるAmazon Lambdaで、「API Gateway にHTTP リクエストが届いたら○○を実行せよ」というように、イベントが発生した際にあらかじめ登録しておいた関数を実行できる。
このFaaSによって開発者の負担も減った。プログラムの実行時間に対して課金されるので「利用した分だけ払う」ということができるようになる。従来はサーバの起動時間に対して課金されていたため、アクセスが少なくてもサーバを起動していれば費用が発生する点がネックになっていた。
このような概念をゲーム分野に持ち込んだのがGS2のサービスだ。GS2自身もサーバレスコンピューティングを活用して設計。低価格ながら大量のアクセスを捌けるスケーラビリティと、サーバダウンが発生しない高可用性を併せ持ったサービスを目指している。
具体的にはゲーム専用のSDKとAPIを開発。「ゲーム内通貨(魔法石)の管理機能」や「チャット機能」など、ゲームに必要な各要素を細かく切り分けて提供する。2016年12月の取材時には9個だったAPIの数は、現在21個になったそうだ。
初期費用は一切不要。1時間あたり数円〜数十円、ゲームサーバへのAPIリクエスト1000回〜10000回あたり数円というように、各サービスごとに使用時間またはAPIのリクエスト回数に応じて料金を支払う。「APIをたたくだけで使えるが、裏側ではすごいデータベースが動いている。使う側はシンプルで、かつ大量のアクセスにも耐えられる」(丹羽氏)サービスだ。
「FaaSは便利な一方で使いこなすのが難しいという側面もある。たとえばamazonが提供しているフルマネージドサービスは、独自のアーキテクチャで作られていて流儀を覚えるのに学習コストがかかる。サーバの基本的な知識ですら学習コストがかかるのに、FaaSの学習コストまでをみんなが支払う必要はない」(丹羽氏)
サーバのノウハウがなくてもゲームを作れる環境
GS2のサービスによって大きく2つの変化が起きる。1つはサーバを開発・運用するノウハウがない人でもゲームを作れるようになること。もう1つは従来に比べて開発の効率化が見込めるということだ。
「たとえばこれまで家庭用ゲーム機の開発をやってきた開発者たち。その中には面白いゲームを作ることはできるが、サーバには詳しくないという人も少なくない。そんな開発者が自分たちだけでもモバイルゲームを作れるようになる、というのを1つの目標にしている」(丹羽氏)
昨今ではモバイルゲームの配信開始時やイベント実施時に、サーバ障害が発生したというニュースもよく目にする。丹羽氏によると、これらは「設計ミス」「実装ミス」「キャパシティ予測ミス」のいずれかが原因となっているケースが多いそうだ。GS2であればゲーム毎にサーバシステムを都度開発する必要はないし、サーバ開発の経験や専門知識は必須ではなくなる。
「任天堂プラットフォームでは、ゲームサーバの開発・運用をせずともネットワーク対応のゲームを作れるような環境を実現できていた。一方でモバイルゲームにおいてはそれができていないため、開発効率の面で課題があったり、サーバ知識のない開発者が困ったりしている」(丹羽氏)
開発費の高騰や開発規模の大規模化、期間の長期化などはモバイルゲーム業界の課題。これらを解決するためには、開発効率向上を避けては通れない。
「Unityのようなゲームエンジンが開発効率を向上させ広がっていったように、サーバ側でこのような環境を提供していきたい。サーバのノウハウがないためにモバイルゲームを作れなかった開発者がチャレンジできるようになった結果、ユニークな発想の新しいゲームが生まれてくると嬉しい」(丹羽氏)