【編集部注】著者のHaje Jan Kampsは、ハードウェアのスタートアップならびに各実現技術に注力するベンチャーキャピタル企業Boltの、ポートフォリオ担当ディレクターである。以前はTechCrunchのスタッフライターを務めていた。
Birdのような電動スクーターのライドシェアリング会社は、どのように収益を上げれば良いのだろうか?
もし米国の特定の都市に住んでいるのなら、電動スクーターがそこら中の歩道を走っているところを見ずに済ませるのは難しい。電動スクーターのライドシェアリングサービスは、非常に安価なものでもある:まず乗り始めるのに1ドルを支払い、1分ごとに15セントずつ支払いが加算される。しかし、電動スクーターそのものは安価ではなく、共有ネットワークの物流はとてつもなく複雑である。
ハードウェアのスタートアップ向けのベンチャーキャピタルで働く人間としては、先のような疑問が浮かぶのは当然である。
このような会社はどうすれば収益を上げることができるのだろうか?
本記事では、カリフォルニア州サンタモニカに拠点を置く電動スクーターのライドシェアリング会社であるBirdの、基本的なユニット経済を詳しく見ていくことにする。いかなるスタートアップにとってもキーとなるツボの理解と扱いが重要であることを示す、とても単純なモデルとテストを示そう。実際にそれらのツボはビジネスの浮沈を左右するのだ。
スクーターの開発
BirdはMi Electric Scooterをプラットフォームのベースとして使用しているようだ。Miの推奨小売価格は499ドルだが、Birdが一括購入割引を受けて、スクーターを300ドル前後で購入していると仮定しても間違いではないだろう。
スクーターの基本コストに加えて、Birdはスクーターをシェアリングエコノミー単位にするためのモジュールを必要としている。それには多額のコストは不要である。ボックス内に収納されたParticle 3G資産トラッカーと、スクーターのパワーマネージメントに対応するためのカスタムコードがさらに必要とされるものだ。まあこれは1ユニットあたり80ドルとしよう。スクーター1台あたりの調達コストは380ドルである。これに最終組立手数料として20ドルを積むことにしよう。
私の封筒裏の計算(概算という意味)では、Birdのすぐに路上で使える準備の整ったスクーターのコストは、1台400ドルである。
スクーターの配備
電動スクーター企業が直面する最大の問題の1つが、分散充電である。Scootは、サンフランシスコ周辺に散在する大規模な充電ステーションのネットワークを構築することでこの問題を解決した。非常に大きなインフラへの投資だが、スクーターの確実な利便性のためには必要なことである。だが、充電のためには充電ステーション持って行かなければならないScootの車両とは異なり、Birdのスクーターはユーザーのアパートやオフィス内に簡単に持ち込んで、「壁のコンセント」という名の、簡便で実質的に無限に存在する分散充電ネットワークを利用することができる。
これはBirdにとって有利な充電戦略を生み出した。スクーターを充電した人に対してBirdが1台あたり5ドルを提供する程だ。このことがエレガントなユーザーエクスペリエンスを生み出し、財務モデル上の1つのツボとなっている。
2つの財務モデルの話
財務モデルの構築の際には、多くの前提条件が想定される。これは週末に何本かのビールを飲みながら集められたものだが、全ての創業者たちがそのアイデアを検討する際に行うべき「素早く荒い」(quick and dirty)計算の一例である。ここからスプレッドシートを辿ることができる。もし内容を変更して実験してみたいなら、シートを複製して自分の数字を入力することができる。
両方のモデルに対して、以下のことを仮定する。
私たちは、スクーターの平均寿命、1日に顧客が使う平均回数、そして充電に関するいくつかの指標を使って、その影響がどのように粗利益に影響するのかを見ていくことにする。
モデル1:おっと、これはマズそうだ
最初のモデルを使って、これらのダイナミクスを眺めてみよう:
- スクーター1台あたりの平均寿命(乗車回数) – 300 【Scooter usable life(rides)】
- 1日あたりのスクーターあたりの平均乗車回数 – 5 【Rides per day per scooter】
- 平均乗車時間 – 25分 【Avg ride duration】
- 利用者が充電する割合:50% 【% of charges by users】
もしこれらの仮定が正しければ、スクーター自身の損益分岐点に達するには220乗車(44日)かかることになる。
400回の乗車(スクーターが償却される)が行われた時点で、同社は147ドルの粗利を得ており、粗利率(Gross margin)は比較的貧弱な10.3%となる。
こう言っても構わないだろう:特に持続可能なビジネスのようには見えない。
モデル2:より楽観的な見通しだ
しかし、それをはるかに魅力的なビジネスにするために、多くの仮定を変更する必要はない。
Birdが各スクーターの寿命を延ばし、平均的な乗車距離を短くし、1日の平均乗車回数を増やし、消費者に充電の労を押し付けることができたとしたらどうなるだろうか?
これらのダイナミクスを見てみよう:
- スクーター1台あたりの平均寿命(乗車回数) – 500
- 1日あたりのスクーターあたりの平均乗車回数 – 7
- 平均乗車時間 – 20分
- 利用者が充電する割合:75%
これらの4つの変数を変更することで、損益分岐点に達するにはわずか165乗車(24日)で済むことになる。そしてスクーターの生涯利益は813ドルとなり、粗利は41%に達する。
さて、こうしたユニット経済は理にかなっているだろうか?
投資家たちは確かにそう考えるようだ。2月にBirdはシリーズAで1500万ドルを調達した。そしてそのわずか1ヶ月後に同社はシリーズBで1億ドルを調達したのだ。Birdのような会社は、(モデル1のような)10.3%の粗利率ではこの先苦労することになるだろうが、もしその数字がモデル2に近いものなら、Birdが始めたものが魅力的なビジネスであることを見て取るのは簡単だ。
ツボを見つけるために変数を分離する
Birdの場合、3つのツボが財務モデルに劇的に影響することを知って驚いたかもしれない:平均乗車時間、充電費用、そしてスクーターあたりの使用可能寿命だ。変数を分離し、数字と戯れて、どれが主要なツボであるか把握しよう。
上のモデル2を出発点として、1度に1つの変数を操作することで探求を進めてみよう:
乗車時間(Ride Length)
スクーターの利用可能回数(Scooter usable life)
充電コスト
ツボを押す:スーパースクーター
もしツボを知ることができたなら、それを少し押してみることは楽しい。たとえばBirdの利益を最大化しようと思うなら、利用者になるべく長く乗って貰うようにしたくなるかもしれない。しかしどうやって?人々の通勤経路はおそらく比較的固定されていて、その通勤ルートを変更することはできない。とはいえ上の例で見たように、充電コストはビジネス全体に大きな影響を与えている。それを解決するためのより良い方法を見つけることができたらどうだろう?
モデル3:スーパースクーター
例えば市場には別のスクーターがあるとしよう、スーパースクーターという名前だとする。交換可能なバッテリーを備えメーカー希望小売価格は1000ドルだ。
このスクーターの初期調達コストは大きいが、より堅牢である。乗車可能回数は500回ではなく1000回だ。交換可能なバッテリーパックを使用することで、Birdのサービス係は、スクーターを再配備するために街を走り回っているバンの後ろに設置された充電ラックから、バッテリーを取り出して、すぐに交換することが可能だ。
たとえばBordの「再充電」コストが1台1日あたり3ドルまで下がるものとしよう。これはモデル1、モデル2における利用者による充電よりもさらに安い。このことは、利用者による充電の必要性を完全に取り除くことになる。
これに加えて、Birdは自社製の資産トラッカーを発明したとしよう。市販品を利用するときには80ドル必要だったが、これは1ユニット30ドルで製造できるとする。しかも製造業者がそのトラッカーを彼らの工場で組込んでくれるという。このことで最終組立作業に必要だった20ドルも不要になる。
上記の変更を適用することで、スクーターあたりの粗利は2467ドルとなり、損益分岐点に達するのは34日、粗利率は62%となる。言い換えれば、もしそのようなスクーターが市場にあるのなら、考えるまでもない:できるだけ早く全スクーターを交換したい筈だ。
モデルを構築して、あなたのツボを知るべし
当然だが、ここでの説明では財務モデルをひどく単純化している。もしBirdのビジネス全体をモデル化したいと思うなら、顧客獲得コスト、顧客生涯価値、離脱率、なかなか手に入らないスーパースクーターのR&Dコストなどなどを考慮する必要がある。モデルはみるみる複雑になるものの、実際のビジネスを始める前に、さまざまな変数がどのような影響を与えるのかを探求することが可能になる。これはとても重要なことだ。
あなたのビジネスが何であれ、仮定する条件のすべてを含むビジネスモデルを構築し、変数を変えて耐圧試験を行い、ツボを見つけよう。それらを特定できたら、MVP(必要最小限機能製品)を作り、仮定する条件をより詳細にテストしよう。本格的に立ち上げて、マーケティングや遂行に多くの資金を投入する前に、早期に実験を行い何が効果的であるか(そして何がそうでないか)についての良いデータを得ることは、本当に重要である。中には指数関数的効果を持つものもあるだろう ―― 良くも悪くも。
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(翻訳:Sako)