現代の政府は問題を抱えている。インターネットは将来の経済にとってますます重要だ。しかしそれを活用するための技能は、教育政策の中でもずっと下位のプライオリティしか与えられていない。初等教育の段階からプログラミングを正式の教科として導入している国は、ニュージーランド、韓国、アメリカ合州国、イスラエル、連合王国(イギリス)など、ごくわずかだ。
イギリスではこの問題が、政策課題として大きく浮上してきた。それは同国で、スタートアップの爆発的な増加が見られるようになったからでもある。今年イギリスは、G20の経済的上位国の中で初めて、プログラミングを全国レベルで学校のカリキュラムの中核的な部分に位置づける国になる。タイミングも良い。今年はWebの誕生から25周年を迎え、しかもそれを世界に与えたのはイギリスの科学者Sir Tim Berners-Leeなのだ。
今日(米国時間2/4)、ロンドンで行われたカンファレンスSkills 2014 Summit〔主催: RSA、Codecademyらが協賛〕で、財務長官George Osborneと教育長官Michael Goveが、この重要な技能の普及と、ひいては活発な起業家精神の育成を図るために、教師を対象とするソフトウェアのコーディング(==プログラミング)の教育訓練事業を開始する、と発表した。
この教師教育訓練事業には政府が50万ポンドを投じ、そしてそれと同額を、実際の教育訓練を行うコンピューティングの専門組織企業(複数)が負担して、今後児童生徒に対するプログラミング教育のカリキュラムを実践していく教師たちを、教えていく。イギリスの企業は今月の終わりに、この政府補助事業への参画を申請する。
新しいカリキュラムの全国展開の準備のために50万ポンドはあまりに小額に見えるが、政府のスポークスパーソンが本誌に語ったところによると、この補助事業は今および今後行われる教師育成施策全体の中の、ごく一部にすぎない。
たとえばすでに政府はBritish Computer Societyに200万ポンドを投入して400名の‘指導教師’たちのネットワークを作り、そのほかの学校の教師たちの教育に当たらせるとともに、教室で使用する教材なども提供している。また110万ポンドを投じて行われている’Computing at School’プロジェクトは、オンラインのリソースと学校でのワークショップにより、今すでに教室でプログラミングを教えている小学校教師に対する教育訓練を提供している。このほか、コンピューティングの教師になりたい者への政府奨学金があり、またコンピュータ科学の教師への25000ポンドの奨学金がMicrosoftやGoogle、IBM、Facebookなどの協賛により設けられている。
新しい全国カリキュラムは今年の9月に導入されるが、上記の話はすべて、学校と教師がその教育実践能力を持つための下地作りだ。そのカリキュラムは、Royal Society of Engineering(イギリス工学学会)とGoogle、Microsoftなど指導的企業からの意見や助言を取り入れて設計された。
今回の補助事業は、民間の共同キャンペーンUK’s Year of Codeに対する政府補助の一環だ。このキャンペーンは、合衆国のHour of Code事業を半ばモデルにしている〔参考記事(1)、(2)〕。
このYear of Codeキャンペーンの目的は、多くの教師や児童生徒にコンピュータのプログラミングに前向きに取り組んでもらうための、一種の啓蒙活動だ。協賛団体企業はBBC、Codecademy、CoderDojo、Decoded、FreeFormers、ounders4schools、RaspberryPi、Young Rewired Stateなどなど、とても数が多い。
このキャンペーンの最初の部分には、Moshi MonstersのテーマによるPongゲームを作っていくプログラミング入門講座がある。これを作ったKanoは、Index VenturesのSaul Kleinが支援しているスタートアップだ。
そしてそのあと、12か月にわたり、一般国民レベルでのコンピューティングの振興を目的とするいろんなイベントが行われる。たとえば3月には、特定の1週間を決めて、その週にはイギリスのすべての学校ですべての児童生徒に、少なくとも1時間、プログラミングを教えることが奨励される。
昔ながらのICT教科が、9月からの新カリキュラムで置換される。つまり、Word、Excelなどをベースとするコンピュータリテラシーの教育が、プログラミングの仕方、プログラムの作り方、コンピュータの動作原理の理解、といったより今日的な社会経済ニーズに対応する授業内容へと一変するのだ。政府の新方針では、5歳から16歳までの全児童生徒にプログラミングの学習が義務化される。
テクノロジ系スタートアップに関するイギリス首相の特別顧問だったRohan Silvaが、Year of Codeキャンペーンの座長を務める。また、Million Jobs CampaignのファウンダLottie Dexterが、キャンペーンの総監督だ。
Index VenturesのパートナーSaul KleinもYear of Codeの熱心な協賛者であり推進者の一人だが、彼はこう言う: “われわれは三つのR(three Rs; reading, ‘riting, and ‘rithmetic — 読み書き算数)で育ったが、今回のきわめて重要なカリキュラム変更により、これからの子どもたちは三つのRと一つのCで育っていくのだ”。
政府関連機関だけでなく、たとえばGoogleは昨年、Code ClubやTeach First、Raspberry Pi Foundationなどに100万ポンドあまりを寄付し、Microsoftは巡回教育事業”Switched On Computing”により、教師たちを教育している。
YouGovに委託して行った調査によると、今ではイギリス人の多くが、テクノロジの知識は読み書き算数と変わらぬほど重要、とみなしている。
その調査は4000名の成人を対象に行われ、その60%近くがコンピュータのプログラミングは今日の職業市場におけるきわめて重要な技能と考えている。また94%は、一般的なITスキルが通常のリテラシー(読み書きの能力)や算術能力と並んで就職準備のため不可欠、とみなしている。5歳から16歳までの子どものいる回答者の94%は、コンピュータの技能が今日の職業市場において重要、と見なしている。リテラシーが重要と答えた者の94%、算術能力が重要と答えた者の95%が、コンピュータ技能も等しく重要と答えている。地区をロンドンに限定するとコンピュータ技能が重要と考える者は全体の98%となり全国平均よりも高く、しかもリテラシーや算術を重要と答えた者よりも多い。一方、全国ベースで、外国語が重要と答えた者はわずか62%だった。
そして親たちは、子どもたちが学校で十分なコンピュータ技能を身につけるべき、と考えている。今現在で自分の子どものパソコン技能が‘非常に良い’と答えた者は19%、‘かなり悪い’と答えた者が13%だった。若年期にプログラミングを学んだ親はほとんど皆無で、さらに若年期以降では、プログラミングの学習経験者がさらに少ない。
さらにこの調査では、プログラミングのやり方を知っている、が10%、しかし50%近くが、機会があれば学習したい、と答えている。別の調査では、今日の職業の50%が今後2年以内にテクノロジとオートメーションに奪われる、と見なされている。
これら最近のプロジェクトは、前のUK Digital Skills ChampionでGo On UKを主宰するMartha Lane-FoxがFacebookやBarclaysやFreeFormersから立ち上げたデジタル技能教育キャンペーン’Web for Everyone‘を、発想の契機としている。
Year Of Codeは、テクノロジと起業家精神とクリエイティブな思考を励起していくためのすばらしい企画だ。しかしそれは、最近再び政府*がお熱をあげている古めかしい古典の教育や、罰則としての100行筆写などとは、あまりにもコントラストが激しすぎる。〔*: 100行筆写罰則の復活、地域清掃罰則などは、政府がというより、今の‘食わせ者’と評されることもある教育長官Michael Gove**のスタンドプレイとも見なされている(顔を見ただけでどういうタイプの人物か分かりそう!)。**: 着任が2010年5月だから、これまでのコンピュータ教育プログラミング教育推進の流れとは、ほとんど無縁の人。〕.
100行筆写の課題が、プログラムのコードにだけは、ならないでほしいけどね。
下のビデオは、Year of Code事業の公式紹介ビデオだ。
[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))