テスラは材料科学の革新でバッテリーコストのさらなる低下を目指す、シリコンやニッケルを再研究

Tesla(テスラ)は、バッテリー設計の改善によって電気自動車とエネルギー貯蔵のコストを削減しようとしているが、米国時間9月23日の午後、電気自動車やエネルギー貯蔵のコストを削減するために追求している技術革新について発表した。その中で、すべての製品の心臓部であるリチウムイオン電池の主要部品の材料科学に新たな進歩があったことを明かした。

同社は開発中の製造プロセスから、あらゆるバッテリーシステムの基本構成要素であるカソード(外部回路へ電流が流れ出す電極)とアノード(外部回路から電流が流れ込む電極)に使う材料にいたるまで、バッテリーを改良するために上記のアプローチを採っている。その結果、カソードとアノードの材料コストが削減され、それだけで性能が向上するため「バッテリの動作範囲が20%拡大する可能性がある」と同社は主張する。

アノード側では、冶金グレードのシリコンを使用して、より多くのシリコンをバッテリに組み込む方法を検討しているという。地球上で最も豊富な材料の1つであるシリコンは、マイクロチップやバッテリー、さらにはソーラーパネルに使用されており、さまざまな用途で使えるように、高価かつ高度に処理されてきた。バッテリーの場合、問題はリチウムが完全に充電されると劣化する傾向があることだ。

「シリコンを使うとクッキーが崩れてドロドロになります」とイーロン・マスク氏は年次株式総会後に開催した「Battery Day」のプレゼンテーションで語った。そのねばねばした性質は、材料がそのエネルギー保持および貯蔵容量を失うことを意味し、バッテリーが充電されるたびに劣化するため、そのぶん寿命が短くなってしまう。

そのためほとんどの企業は、シリコンに何らかの処理を施して素材を硬くしたり、電池にシリコンをできる限り使わないようにしてきた。「シリコンの一部の利点は活用できますが、すべてを使うことはできませんし、十分な拡張性もありません」と同社のパワートレインおよびエネルギーエンジニアリング担当SVPであるAndrew Baglino(アンドリュー・バグリノ)氏は説明する。「しかしテスラは、シリコンを捨てるのではなく、安価かつ金属グレードのシリコンを使って、新しいバッテリー設計に組み込むことができる新しい処理方法に取り組んでいます」と続けた。

同氏は「我々が提案しているのは、性能とコストの段階的な変化であり、原料の冶金シリコン自体を対象としています」と続け、「拡張性を持たせるための設計と、電極の設計を考えてみてください。単純なシリコンを使用すれば、現在バッテリに使用されているシリコンよりも大幅に量は少なくなります」と説明した。

バグリノ氏は、新しい処理方法を使用することで、1kWh(キロワット時)あたり1.20ドルまでコストを下げることを期待しているそうだ。これには、生の冶金シリコンを低コストで弾力性のあるイオン伝導性ポリマーで安定化させ、高弾性バインダーで電極に組み込むという方法がある。

「この技術革新だけで、テスラの車の航続距離を20%伸ばすことができます。負極のコストを生産すると、バッテリーパックレベルで1kWあたり5%のコスト削減が期待できます」と同氏。

しかし、同社はアノードの改良だけに留まるつもりはない。カソードの効率を向上させるために、さまざまな材料科学のイノベーションを利用することも視野に入れている。

カソードもアノードも、荷電粒子を跳ね返しながら構造を維持する必要がある。カソードは基本的に電気を貯蔵する容器なので、電気が充放電しながら移動している間も電気を貯蔵できる。

マスク氏とバグリノ氏は、この材料を本棚に例え、カソードが本であり、アノードが棚であるとした。このたとえにおけるバッテリーは基本的には本棚、カソードは本を保管、アノードは図書館員が本(エネルギー)を読んだり使用したりできる世界に移動させる役割を果たす。

「イオンを入れるには安定した構造が必要です。イオンと一緒にその形を保持する構造が必要です。イオンを前後に動かすとサイクル寿命が短くなり、バッテリーの容量が急速に低下します」とマスク氏は説明する。なお、カソードにはいくつかの異なる材料を使えるが、圧倒的に安価なのはニッケルで、エネルギー密度も最も高い。しかし、ほとんどの電池はより安定な材料であるコバルトを使っている。

テスラは本日、「より堅牢な貯蔵材料として使用するためにニッケルを安定化する方法に取り組んでいる」と述べた。つまり、ニッケルはイオンを動かしたり劣化させたりする危険なしにエネルギーを貯蔵できるようになる。

バグリノ氏は「1kWあたりのカソードコストを15%削減できます」と説明する。

マスク氏は「テスラは既存の化学物質を捨てるわけではないが、新しいニッケルベースの電池を追加することでほかの目標のいくつかを追求することが可能になる」と述べた。

「バッテリーには3段階のアプローチが必要です」とマスク氏。「鉄は中位クラス、ニッケルマンガンを中位クラス以上、そしてCybertruck(サイバートラック)とクラス8の全電動大型トラックであるSemi(セミ)には高ニッケルを使用する」とのことだ。

画像クレジット:Tesla

原文へ

(翻訳:TechCrunch Japan)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。