スマホ見せればチェックイン、宿泊業界のDXに新たな風をもたらすクイッキン

スマホ画面をフロントに見せるだけでチェックインが済む――。宿泊業界初の特許を取得し、非接触型のチェックインなどを可能にしたCUICIN(クイッキン)。正式なローンチから3カ月経たずに、国内大手のホテル運営会社との業務提携累計で1億円を調達するなど、事業拡大に着実に歩を進めている。辻慎太郎代表と山田真由美COOにビジネスモデルや起業までの経緯、今後の展開などについて話を聞いた。

宿泊施設には「かゆい所に手が届く」仕組み

クイッキンは宿泊施設に、非接触型のスマートチェックイン機能を提供している。宿泊施設は無償で使え、旅行者のスマホに直接、館内案内やWi-Fi情報、周辺の観光情報などを伝えることができる。

また、チェックインをベースにしたプラグイン機能(有償)を追加できるようにしている。プラグインは客室管理や予約連携など、「マーケティング・ホスピタリティ・業務効率化」の3つのカテゴリーに分かれる。人気のひとつはLINE連携だ。メールアドレスはいらず、電話番号だけで事前チェックインの案内を送ることができる。LINEと手を組み、独自開発した。

辻代表は「施設側からすれば導入ハードルが非常に低い。チェックイン機能には、宿泊施設の基幹システム(PMS)の入れ替えなどが必要ない。チェックイン機能の導入後、PMSとして使うのであれば、こちらからも施設に合ったプラグインをさらに提案できる」と説明する。

既存システムからリプレイスを段階的に促し、チェックインベースのオペレーションシステムに変革を遂げることで、宿泊施設が抱える課題の解決を図っていく。これが同社のHotelStyle OSaiPass(アイパス)」だ。さらに、エンタープライズ向けにDXコンサルやプラグインの個別開発を行うプランもある。

予約からチェックイン、情報提供、チェックアウト、運営までの多岐にわたるソリューションを一挙に提供可能。高い「応用力」が魅力の1つとなる。宿泊施設は自館に必要だと感じたプラグインだけを選び、組み合わせられる。かゆい所に手が届く仕組みだ。

現場にいたからこそ見えた課題

クイッキンは辻代表、山田COO、デザイナーの櫻井あずみ氏の共同創業。そもそも3人は前職で、ホテル運営を行うスタートアップ企業のチームメンバーだった。実際に京都や大阪などで7施設ほど宿泊施設を運営していた。

ただ、会社側からの判断でプロジェクトの中止を言い渡されてしまう。すでにアイパスの原型となるチェックインシステムができ上がっていたため、当時の経営者に相談し、スピンアウトすることを決めた。ここが転換期。クイッキンは新たに3人でスタートラインに立つことになる。

一方、山田COOは前職より以前にも宿泊施設の運営に携わっていた。接客に追われる日々のなか、チェックイン時に記入してもらった情報をシステムに1つずつ打ち込むなど、アナログな現場に疑問を抱いていた。

「旅行者はスマホで予約する。情報もスマホから得ている。それでも宿に着いてみれば、宿泊者名簿への記入や紙ベースでの案内を渡される。紙ベースである必要はあるのか」と山田COOは当時の考えを振り返った。

辻代表も実際に宿泊施設の運営をするなかで、同様の疑問を持ち、チェックインプラットフォーム開発の重要性に気がづいていた。アイパスの着想が生まれる背景には、違和感を覚えた現場での経験があった。

宿泊業界の課題「DXとデータの民主化」

さまざまな業界でDXが叫ばれるなか、宿泊業界は遅れ気味だ。宿泊施設の業務効率化を第一に考えられた運営システムは、旅行者側の「使いやすさの追求」という視点が欠けていた。特許取得のポイントとなった旅行者のスマホを活用するというクイッキンのサービスの前提が、宿泊業界では画期的なものだった。

「私たちが『DXで宿泊業を強くする』といっても、業界内では、デジタライゼーションで止まっていた。宿泊業界のDXとは、もちろんデジタル化する部分もあるが、顧客体験自体を変え、向上させていかなければならない。ここがともなわないかぎり、宿泊業界のDXは遅々としたものになってしまう」(山田COO)

辻代表は「将来を見すえて、いち早くアクションを起こしている企業はいる。成功事例が生まれれば、周囲も本当の意味でのDXの必要性に気がづくはず。我々としても成功事例を増やし、DXの機運を盛り上げていくことが重要だ」と強調する。

一方で、アナログなチェックイン方法が化石のように残っている状況には理由がある。宿泊者の情報に対し、国が定める旅館業法上の取得項目や各自治体の要件を満たさなければならないという点が1つ。加えて、OTA(オンライントラベルエージェント)らが宿泊施設側に提供する顧客情報にばらつきがあるためだ。

チェックイン時に、OTAが持つ顧客情報だけでは、各自治体の要件も異なるため、必要な部分が不足していることがある。対して宿泊施設側は、顧客から再度、必要な情報をすべて取得するというかたちを取るしかない。

辻代表は「データの民主化は重要だ。プラットフォーマーである各OTAらが持つデータをしっかりと宿泊施設側に民主化し、宿泊施設は旅行者とダイレクトにつながっていくべき」と警鐘を鳴らす。

コロナ禍におけるターニングポイント

コロナ禍で宿泊業界も大きくダメージを受けている。訪日外国人旅行者らの受け入れに力を注いでいたが、状況は一変した。国は「GoToトラベルキャンペーン」などでテコ入れをはかった。それでもコロナ禍以前に戻るまでは時間がかかる見通しだ。

他方で、宿泊業界ではある動きが生まれている。コロナ禍で客足が遠のいているタイミングで、PMSのリプレイスを考えている企業が増えているという。

山田COOは改めてPMSなどの見直しを行うなか、スマホを使った事前チェックインの認知が進んでいるとみる。現状、人が足りないほど案件の相談があるという。クイッキンにとって、コロナ禍はピンチではなくチャンスだった。

ただ、課題もある。実績の部分だ。機能に対しては一定の評価を得ているが、正式リリースから3カ月も経っておらず、導入数がまだ少ない。

「『本当に大丈夫なのか』との声に対し、いかに納得してもらうかが腕の見せどころ」と辻代表は話す。追い風はある。国内大手のホテル運営会社ソラーレ ホテルズ アンド リゾーツでは年内中に、国内50カ所すべてのホテルで、アイパスの導入予定がある。「引き続き、より多くの実績を作っていく」(辻代表)考えだ。

地域観光のハブは宿泊施設に、海外展開も視野

「宿泊施設が地域観光のハブとなり、最終的には旅行インフラそのものになるようにしたい」(辻代表)。クイッキンが目指すものは、宿泊施設の業務効率化だけではない。

決済のプラグインを2021年3月ごろに出す予定だ。クレジットカード情報をアイパスのアカウントに登録すれば、チェックアウト時、予約した飲食店、アクティビティなどの一括清算ができるようになるという。旅行者の利便性は高まるだけでなく、地域全体のさまざまな事業者を巻き込むことができれば、スマートトラベルの実現も夢ではない。

初めは宿泊施設のDX。そしてアイパスを通し、地域の宿泊施設からアクティビティやカフェ、レストラン、土産施設など数多い観光資源を有機的に組み合わせた、特色あるオリジナルプランも打ち出せるようにしていく狙いだ。

「我々の強みは宿泊者に直接リーチできる点だ。宿泊者に対して、当日券やクーポンを発行したりすれば、それぞれに誘導できる可能性がある。いわゆるジオターゲティングといったことが、宿泊施設を通して容易に行える」(辻代表)。

また、事業展開の射程は海外にまでおよぶ。アイパスは訪日外国人旅行者の利用も考慮していたため、4カ国語に対応している。海外の宿泊施設で、使い慣れた日本産のサービスを利用して宿泊できれば、旅行者にとっては大きなアドバンテージとなる。

「Making trip better for everyone.」(すべての人たちにより良い旅を提供する)をミッションに掲げるクイッキン。海外展開にも目を向ける辻代表、山田COOの表情は明るい。

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:ホテルクイッキン

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TechCrunch Japan

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