傑出した研究者を発掘、破壊的な発見・発明を促す一般社団法人STELLAR SCIENCE FOUNDATION設立

破壊的な発見・発明のための研究エコシステムを目指し一般社団法人「STELLAR SCIENCE FOUNDATION」設立
傑出した次世代研究者を発掘して全方位的に研究活動を支援し、破壊的な発見・発明(Disruptive Invention)を促す一般社団法人「STELLAR SCIENCE FOUNDATION」(ステラ・サイエンス・ファウンデーション:SSF)が12月20日に設立され、活動を開始した。理事は横浜市立大学先端医科学研究センター・コミュニケーション・デザイン・センター長など多くの要職を務める武部貴則氏。

日本では近年、国際的な影響力を持つ論文の指標とされる「注目度の高い論文数」の順位が下がり、潤沢な研究資金を求めて研究者が海外に流出するなどして、研究活動の国際的地位の低下が懸念される。そこで、日本の国際的な競争力を向上させるために、研究環境の整備、破壊的な発見・発明を加速する新たな仕組みとなるSSFが設立された。

SSFのミッションは、「サイエンスの力を可視化し、価値化する」というもの。ビジョンは「Disruptive Invention through People-Centric Science」(研究者が持つユニークな視点や想像力に価値を置いた、破壊的な発見・発明)という。

SSFは、「研究者が持つユニークな視点や想像力」によって生まれる概念の下に自由な研究開発を行うことが重要と考え、これを中心とした研究支援の仕組み「ステラ・モデル」を開発した。これは、Inventor(傑出した研究者の発掘)、Investment(自由で挑戦的な研究を可能とする環境の整備)、Inclusion(多様性溢れるコミュニティの醸成)の3つの柱で構成されている。

Inventorでは、世界中の論文データの分析や独自のネットワークを活用して、学閥や組織の壁を超えて傑出した研究者(Stellar Inventor。ステラ・インベンター)を発掘する。

Investmentでは、学術論文、プレゼンテーションの訓練、知的財産戦略の立案支援、研究スペース確保の支援、投資家や経営人材との交流など、研究環境を整える仕組みを構築する。

Inclusiveでは、様々な視点や価値観のぶつかり合いを重視し、世代や分野を超えたコミュニティーを活動の中心に置く。

武部理事は「欧米の研究者は、科学者として最も活発な30~40代のうちに、5年間で平均1億円〜1億5000万円程度の研究予算を費やし、自由な発想の下で挑戦的な研究テーマに取り組むことが一般的です」と話す。そこで科学研究の成果・意義・価値を一般の方にもわかりやすい形で情報発信し、「大きな寄付の獲得や、スタートアップなどの起業への機会」につなげてゆくとのことだ。

UCバークレー校が海底光ケーブルを地震計にするテクノロジーを発表

地震の観測は重要な活動だが、精度をアップするためには地震活動が起きている場所になるべく近い地点に地震計を設置しなければならない。これが海洋の中心などになると困難を極める。そこでカリフォルニア大学バークレー校では海底に設置された光ファイバーケーブルを地震計に利用しようという研究が進められている。光ケーブルを利用して全地球的なテクトニクス観測ネットワークを構築しようという試みだ。

現在、地震計のほとんどは地上に設置されているため、地球に関するわれわれの知識は地球全体の3分の1しかない陸地に大きく偏っている。断層などの情報も海底については不十分だ。米国カリフォルニア大学バークレー校の研究のリーダーであるNathaniel Lindsey(ナサニエル・リンジー)氏は.「大洋底における精密な地震データがどうしても必要だ。 海岸からの距離がたとえば50kmでもいいから海底に設置された地震計が欲しい。それでも非常に役立つ」とリリースに書いている。

長期間精密にモニターできる地震計が海底にほとんどないのは、設置が難しいのはもちろん、データの取得、メンテナンスなどがすべて困難であり、莫大なコストがかかるからだ。しかしすでに海底に設置されているインフラが地震計に利用できるとしたらどうだろう?それがリンジー氏のグループが海底の光ファイバーで地震を観測するというプロジェクトを立ち上げた動機だという。

これらのケーブルはインターネットのバックボーン回線であることもあれば、企業のプライベートネットワークの一部の場合もある。しかし共通しているのは通信に光を使っていることだ。もしケーブルがねじれたり向きを変えたりすると光の進行に微小な散乱などの影響が出る。ケーブルが曲げられるるときに科学者が「後方散乱」(Backscatte)と呼ぶ現象が起きる。これを精密に解析すれば光ケーブルによって地震活動が起きた地点をこれまでには考えられなかった精度で決定できる可能性がある。

このプロジェクトではDAS(分散音響センシング、Distributed Acoustic Sensing)というテクノロジーが用いられている。これにより光ケーブルを何千もの区間に分割し、それぞれをモーションセンサーとして役立てようというものだ。チームがテストに用いているのはMBARI(モントレー湾水族館研究所)が設置した全長20kmの光ケーブルで、これを1万の区間に分けて微小な位置変化を検出しようとしている。

バークレー国立研究所のJonathan Ajo-Franklin(ジョナサン・アジョ・フランクリン)氏によれば、「これは地震研究の最前線だ。海底光ケーブルによって海洋底から信号を取り出して地層欠陥を観測しようという初めての試みだ」という。

チームはMBARIのケーブルに接続したDASシステムのデータを解析し、マグニチュード 3.4の地震を特定することに成功している。これによりモントレー湾において現在知られていない断層をマッピングし、また地震が影響している可能性がある海流のパターンについても新たな知見を得た。

ARS(Monterey Accelerated Research System)の海底データ取得ノード。カニにケーブルを切られないのだろうか?

リンジー氏は「データを取得するために海底に潜って機器をケーブルの途中にいくつも取り付ける必要がない。単にケーブルの端にアクセスできればいい」のが素晴らしい点だという。

もちろん一般の商用光ケーブルの場合、研究者が自由に機器を取付られるようなエンドポイントがそうそうあるわけではない。また後方散乱はきわめて微弱なため他のノイズに隠されてしまう。これを正確にフィルターするためのテクノロジーがテストされているところだ。もし大型の海底光ケーブルが地震観測に利用できることになれば大洋底の地震やテクトニクス運動がこれまでにない精度でモニタできる。本日11月28日、研究チームはこれまでの成果をScienceに掲載した。

画像:Getty Images

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(翻訳:滑川海彦@Facebook