99%少ない電力でHDビデオを伝送する技術

いまでは誰もが監視カメラを家中に設置しようとしているようだ。それは問題になっているプライバシー危機とも関連してくるが、その問題は別の機会に論じることにしよう。この記事で紹介したいのは、乏しいバッテリーを犠牲にすることなく、HDビデオ信号を無線で送信できるようなカメラの話題だ。この新しい技術は、これまでの99%以下の電力でビデオを送信し、バッテリーを不要にできる可能性もある。

スマートホームや、ウェラブルに使われるカメラは、HDビデオを送信する必要がある。しかしビデオを処理し、エンコードされたデータをWi-Fi越しに送信するためには、多くの電力を必要とする。小型のデバイスにはバッテリーの余裕がほとんどなく、もし常時ストリーミングする場合には頻繁に充電する必要がある。だが、そんなことをしている暇はないのが普通だ。

多くの実績を誇る研究者であるShyam Gollakotaが率いる、ワシントン大学の研究チームによって作られた、この新しいシステムの背後にあるアイデアは、世の中にあるいくつかのアイデアと根本的に異なっているわけではない。デジタル温度計やモーションセンサーのようなデータレートの低いデバイスでは、数バイト程度で構成される低電力信号を、バックスキャッター(後方散乱)という方式で送信することができる。

バックスキャッターは、電力をほとんど必要とせずに信号を送信する方法である。なぜなら、実際に電力を供給するのは、収集するデータを送信するデバイスではないからだ。ここでは、ある信号が発信源(例えばルーターや携帯電話)から送信されて、他のアンテナがその信号を反射するということが行われる。ただしその際に内容が変更される。それをオンオフさせることによって、たとえば1と0を表現することができる。

ワシントン大学のシステムはカメラの出力が直接アンテナと接続されている。このためピクセルの明るさが、反射される信号の長さと直接相関している。短いパルスは暗いピクセルを意味し、より長いパルスはより明るいパルスを意味し、最も長いパルスは白を意味する。

チームによるビデオデータの巧妙な操作によって、フルビデオフレームを送信するために必要なパルス数が減少している。これはピクセル間のデータを共有したり、「ジグザグ」スキャン(左から右そして右から左)パターンを採用することなどが含まれる。色を取得するには、各ピクセルは連続して送信できるそれぞれのカラーチャネルを持つ必要があるが、これもまた最適化可能だ。

ビデオの組み立ておよびレンダリングは、電力が豊富に存在する、電話またはモニタなどの受信側で行われる。

最終的には60fpsのフルカラーHD信号を、1ワット以下の電力で送信することができる、更にはより控え目ながらも十分有用な信号(たとえば720p、10fps程度)なら、80マイクロワット以下で送信することが可能なのだ。この大幅な電力削減は、主にアナログ/デジタルコンバーターとデータ圧縮を取り除いたことによって実現された。こうしたレベルであれば、必要な電力を直接空中から引き出すことが可能だ。

彼らはデモ用デバイスを市販部品を使って組み立た。カスタムチップを使っていないために、マイクロワットレベルでの実現はできていないものの、それでもテクニックは想定した通りに動作した。

テスト中に送信されたフレーム。この送信はおよそ10fps程度で行われた。

このプロトタイプは専用デバイスで必要となる、センサとチップパッケージの種類を決定するのに役立った。

もちろんビデオフレームを圧縮もせず空中に送り出すことはあまり良い考えとは言えない。だが幸いなことに、送信されるデータを観察者に対して無意味な信号にすることは容易である。基本的には、両方のデバイスが事前に合意した干渉信号を送信前に加えて、受信側がそれを引き算すれば良い。

ビデオはチームが考えた最初のアプリケーションだが、ビデオ以外のデータに、この効率的で迅速なバックスキャッター伝送技術を使用できない理由はない。

この技術は既に、ワシントン大学の研究者たちによって創業されたスタートアップ(Gollakotaも参加している)であるJeeva Wirelessにライセンスされていて、同社は既に他の低消費電力無線デバイスの商品化に取り組んでいる。先週Symposium on Networked Systems Design and Implementation(ネットワークシステムの設計と実装に関するシンポジウム)で発表された、この新しいシステムの詳細はここから読むことができる。

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(翻訳:sako)