鳥類学者が個体数調査にドローンを使用―、人が入れない地域の調査も可能に

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自然保護活動家がフィールドリサーチにドローンを使うときは、野生生物やその生息地の様子を上空から撮影する「空飛ぶ目」としてドローンを利用する場合がほとんどだ。しかしペンシルベニア州にあるGettysburg Collegeの鳥類学者たちは、アパラチア山脈(Appalachian Moutains)の鳥の鳴き声を録音するための「空飛ぶ耳」としてドローンを利用している。

今週発売された学術誌The Auk:Ornithological Advancesに掲載されている彼らの研究によれば、ドローンを使って集めたデータからは、地上で専門家が集めたデータと同じくらい正確に鳴鳥の数を導き出すことができたという。「無人航空機を使った鳴鳥の個体数確認の可能性について(The feasibility of counting songbirds using unmanned aerial vehicles)」と題されたこの論文は、Gettysburg Collegeで環境学を教えるAndy Wilsonと、彼の研究室に所属している学部生のJanine BarrおよびMegan Zagorskiによって共同執筆された。

A male Cerulean Warbler.

セルリアンウグイスのオス

Wilsonは、何ヶ月か前にアパラチア山脈でセルリアンウグイスの調査をしているときに、ドローンを使って鳥の鳴き声を録音するというアイディアを思いついたと話す。「私たちがいたエリアはとても険しくて、山の頂上からほとんどの調査を行っていました。そのため、周辺エリアに関しては素晴らしいサンプルを収集できたんですが、私たちがいた場所の両側にある急な斜面の情報は手に入れることができませんでした」

各地で野生生物の研究をしようとしている科学者の行く手を阻む障害物には、急な斜面のほかにも、ドロドロの沼地や凍結した場所、さらには高速道路やダムといった人工物などがある。鳥類学に関して言えば、「ある地帯を横断しようとすると、鳥が鳴くのを止めてしまうことがあります」とWilsonは語る。

鳴鳥は自分の縄張りを主張したり、交尾の相手をひきつけたりするために鳴き声をあげるが、継続的に鳴き続けるのにはかなりの体力を消耗する。そのため、特に人間の活動による騒音などで、自分の鳴き声が聞こえなさそうだと感じると、鳴鳥は体力を節約するために鳴くのを止めてしまうことがあるのだ。つまりRachal Carsonの著書「Silent Spring」が描いているように、鳥の鳴き声が聞こえないということは、最終的には人間の命にも関わってくるような環境問題が進行していることを示している。

Wilsonのチームは、ドローンから8メートルの釣り糸を垂らし、その先にくくりつけられたレコーダーを使って鳥の鳴き声を録音した。なお8メートルという釣り糸の長さは、マイクがドローン自体の騒音を拾わない距離をもとに決められた。このセットアップのおかげで、ドローンは調査対象の鳥からある程度離れた状態でホバリングすることができる。調査に使われたドローンは、長い距離を飛行する代わりに上空をホバリングし、ポイントカウント法と呼ばれる手段で個体数を調べる鳥類学者の代役を担っていた。ポイントカウント法とは、観察者が立っている地点から一定の時間内に見聞きできる全ての鳥について記録を残し、そこから個体数を求める手法を指している。

なお彼らは、DJIの4翼ドローンMatrice 100を使って調査を行った。大型農業ビジネスで使われているような研究レベルのドローンを使えればよかったが、学術目的で使うには値段が高すぎたとWilsonは話す。

ドローンを使って録音した鳴き声から導き出された個体数は、地上で研究者が集めたデータをもとにした個体数とほぼ同じだったが、中には例外もあった。まず、ドローンはナゲキバトのような周波数の低い鳴き声をうまく拾うことができなかった。また、ネコマネドリの鳴き声は絶え間なく続くため、音声から個体数を特定するのが難しかった。しかし、その他のアパラチア山脈でよく見られる鳥の個体数は、問題なくドローンが録音した音声から導き出すことができた。

今後もWilsonの研究室では、ドローンを使った個体数調査の可能性について実験を続けていくと彼は話す。そして現在Wilsonは、鳥がドローンに反応するか、そして反応する場合はどのくらいまでなら近づけるのかというテーマの研究を行おうとしている。例えば、50〜60メートルもしくはそれ以上離れたときに、鳥はドローンに何かしらの反応を示すのか?反応を示すとすれば、どのような反応なのか?といったことを彼のチームは研究しようとしているのだ。さらにWilsonは、地上で録音した音声とドローンを使って録音した音声から得られる鳴鳥のデータを比較してみたいと言う。

また彼は、環境科学者の多くは研究にドローンを使いたがっているが、もっと利用例を増やすために必要なことがふたつあると話す。ひとつめはバッテリーの寿命だ。最上位機種を晴天時に飛ばしたとしても、ひとつのバッテリーかカバーできる飛行時間は22分ほどだとWilsonは言う。そしてふたつめが騒音問題だ。未だにドローンから発される騒音は大きく、科学者はドローンが野生生物を刺激してしまうのではないかと心配している。「科学者に限らず、一般的な消費者も今より静かなドローンを求めていると私は思います」Wilsonは話す。

確かに、大きな鳴き声をあげるロボットが頭上を飛んでいるのを喜ばしいと感じる人はいないだろう。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

ドローンとマルチスペクトル画像で森林の健康状態を観測するUCバークレーのテストプロジェクト

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干ばつ、気候変動、森林破壊により世界中の森林がリスクにさらされている。これまで以上に森林のエコシステムについて研究することが重要だ。しかし、シエラネバダ山脈のエコシステムを研究するのに、すべての木に登って調査するのは骨が折れる。ドローンと先進の画像技術を使うことは、木を登るよりはるかに実用的な方法であるとカリフォルニア大学バークレー校のプロジェクトは示している。

カリフォルニア大学バークレー校の生態学者Todd Dawsonは木に登って枝を測ったり、成長具合を確かめるのに多くの時間を費やしている。読者が想像するように、これは時間がかかり、危険で大変な仕事だ。そのため、ドローンメーカーのParrotと画像テテクノロジー企業Pix4Dのコラボレーションは魅力的に映った。

「これまで5人から7人のチームが1週間かそれ以上の時間をかけ、1本の木に登ってその木のデータを集めます。ドローンを使えば、2分の飛行で同じことができます。木の周りを飛ばすことで、葉の位置を把握します。キャノピーの中で画像処理を少し行えば、木の全体像を1日で把握することができます」と Dawsonはバークレーのニュースリリースで説明している。

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ドローンは、もちろん林業や農業で広く使われているが、ここで用いている設定は素早く、反復的に個別の木の特徴を捉えるために特化しているという。Pix4Dの「Sequoia」カメラは、複数の波長帯を観測するマルチスペクトル画像処理という賢い技術を活用している。また、それと同時にLIDARを使用し、木の詳細な3Dポイントクラウドを生成する。これらの方法で得たデータを見ることで、木の健康状態や成長具合が分かるという。週次や月次でデータを集めることで、木の変化の経過を見ることも可能だ。

データの処理や保存も大きな問題ではなくなってきている。Pix4Dが開発したソフトウェアはデータを素早く処理し、この特定の用途のためにすぐに活用できるという。集めたデータは他の予測モデルを構築するのに用いていることも可能だ。例えば、葉の分布から炭素交換を予測したり、あるいは気候学や人類学の研究のために木の成長や健康状態のデータを使用したりすることができる。

Dawsonの研究はパイロットプロジェクトだ。ParrotとPix4Dはこの他に、気候変動軽減のためのイノベーションを援助する「Climate innovation grant」をローンチし、研究者が彼らのドローンや画像技術ハードウェアを利用できるようにする。研究テーマは「気候変動の影響を軽減するための理解とイノベーションを促進する」ものであるなら、「考古学から動物学」まで幅広く対応するという。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website