筑波大学と神戸大学は、スーパーコンピューター「富岳」とオープンソースソフトウェア(OSS)「SALMON」(サーモン)を用い、1万3632個の原子を含むナノ物質の光応答、つまり光と物質の相互作用の第1原理計算に成功したと発表した。1万個を超える原子を含む物質では、世界で初めてとなる。
これは、筑波大学計算科学研究センターと神戸大学大学院工学研究科電気電子工学専攻からなる研究グループによる、物質に光を照射したときの光科学現象を解明するための研究だ。物質に光をあてると、振動する光の電磁場により、物質中の電子とイオンが揺すぶられる。この電子とイオンの運動が光の伝搬に影響し、光の屈折や反射を生む。このときの、光の電磁場、電子、イオンの運動は、物質科学の第1原理計算法という、物質に含まれる原子の数や種類から量子力学に基づいて電子の状態や物質の構造を調べる方法によって正確に知ることができるのだが、それにはスーパーコンピューターの力が必要となる。
また光と物質の相互作用では、様々な物理法則が関わっているため、光の伝搬、電子とイオンの運動は、それぞれ異なる方程式を用いて計算しなければならない。そこで研究グループは、同グループが開発した、これらの方程式を同時に解き進めることができるSALMONを使用した。富岳では全体の1/6にあたる2万7648ノードを使用したが、この計算のために高度なチューニングを施した。
このシミュレーションでは、厚さ6nm(ナノメートル)のアモルファス状のガラス(SiO2)に、非常に強くて短いパルス光を垂直に照射した。すると、ガラスは不透明になり、光の吸収が起きたことが認められた。また反射波や透過波では、入射光の振動数の数倍から数十倍の振動数を持つ高次高調波の発生も確認された。このことから、パルス光で起きる超高速、非線形現象を計算科学によって「実験の状況そのままにシミュレーション可能」であることが確かめられたという。
ここで使われたSALMONは、光科学実験を「丸ごと計算機の中でシミュレーションする数値実験室の役割」を果たすという。実際の実験では測定が難しいミクロな空間での電子やイオンの運動がもたらす現象の解明に役立つとのことだ。今後は、SALMONが世界標準のソフトウェアとして広く利用されることを目指すと研究グループは話している。