「偏光」でデジタルセンシングをアップグレードするMetalenzのPolarEyes技術

技術的な見方を変えれば、LiDAR、赤外線、超音波など、私たちが知覚できない複数の種類のデータを融合させることができる。先端センシングに使用する非常にコンパクトな「2D」カメラのメーカーであるMetalenzは、PolarEyes技術を使い、セキュリティと安全性確保のために偏光を取り入れたいと考えている。

偏光は、あまり注目されていない光の性質だ。偏光は、空気中を波打つ光子の運動の向きと関係があるが、一般的に光から必要な情報を得るには、偏光を確認する必要はない。だからといって役に立たないというわけではない。

「偏光は、一般的には考慮から外されてしまうものですが、対象が何でできているかを教えてくれるものなのです。また、通常のカメラでは見えないコントラストを見つけることができます。医療分野では、昔から細胞が癌かどうかを見分けるのに使われてきました。可視光では色や強度は変わりませんが、偏光で見ると変わるのです」とMetalenzの共同設立者兼CEOであるRob Devlin(ロブ・デブリン)氏はいう。

しかし偏光カメラは、ほとんどはその特異な性質が必要とされる医療や工業の現場でしか見られない。したがって、それを行う装置は異様に高価で、かなり大型のものになる。たとえ1000万出せるとしても、パソコンの画面上部にクリップで留めておけるような代物ではない。

2021年、私がMetalenzについて書いたときの彼らの進歩は、複雑なマイクロスケールの3D光学機能を確実かつ安価に製造し、小さいながらも効果的なカメラをチップ上に実現したことだった。これらのデバイスは現在、STMicroelectronicsとの部分的な提携により、産業用3Dセンシングモジュールの一部として市場に投入されているとデブリン氏は述べている。しかし偏光には、より消費者に関係のある応用方法がある。

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「顔認識における偏光は、見ているものが本物の人間の肌なのか、シリコンマスクなのか、それとも高画質の写真なのか、といったことを教えてくれます。車載用設定では、黒くて見えない薄氷を検出することができます。これは通常のカメラでは難しいのですが、偏光を使うとわかります」とデブリン氏はいう。

顔認証の場合、iPhoneに搭載されているLiDARユニット(小型レーザーで顔をスキャンする)のように、前面カメラと並べて設置できるほど小型化できる可能性がある。偏光センサーは、(この例では)おそらく4つの異なる偏光軸に対応して画像を4つに分割し、それぞれがわずかに異なるバージョンの画像を表示する。これらの違いは、わずかな距離や時間をおいて撮影された画像間の違いと同じように評価することができ、顔の形状や細部を観察することができる。

画像クレジット:Metalenz

偏光は素材の違いも見分けることができるという利点があり、肌はリアルなマスクや写真とは異なる光を反射する。おそらくこれは日常生活では一般的な脅威ではないが、もし携帯電話メーカーが同じ「Face ID」タイプの機能を手に入れ、なりすまし防止セキュリティを追加でき、小さなLiDARよりも派手でないものを使えるとしたら、おそらくそのチャンスに飛びつくだろう(そして、Metalenzのターゲットは適切だ)。

偏光は自動車や産業においても役に立つ。あるピクセルが何でできているかを知ることは、かなり複雑な問題で、通常はそのピクセルが構成する物体を特定しなければならない。しかし、偏光データを使えば、さまざまな素材を瞬時に見分けることができる。実は、これがVoyantの新しいLiDARの価値提案の一部となっている。100個の通常の画素に対して1個の偏光画素があれば、それほど高い解像度は必要ない上、場面についての非常に多くの洞察を得ることができる。

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画像クレジット:Metalenz

これらはすべて、Metalenzが偏光カメラユニットをこのような状況で使用できるように小型化し、高感度化できるかどうかにかかっている。当社は、産業界で使用されているブレッドケースサイズのユニットをクラッカーのサイズに縮小し、テストを行っている。また、ロボット、自動車、パソコン、そしておそらく携帯電話のカメラユニットに追加したり交換したりできるように、チョコボール程度の大きさのカメラスタックを開発中だ。研究開発の「開発」の段階にしっかり入っている。

Metalenzは現在、3M、Applied Ventures、Intel、TDK(利益をもたらす可能性のある新しいタイプの部品への投資を行う企業だ)などから2021年得たAラウンドの資金をもとに活動している。PolarEyesへの関心が、同社が最初のセンサーで集めた関心と同じ程度になっていれば、スケーリングコストをカバーするための新たな資金調達が間もなく行われると予想される。

画像クレジット:Metalenz

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

カメラの受光素子をMetalenzが2Dでブレイクスルー、3M、TDKなどから10億円調達し大量生産へ

最近のスマートフォンカメラの能力には圧倒されるが、レンズやセンサーが物理的サイズによって制約を受けていることには変わりない。しかし、Metalenzは「メタサーフェス」と呼ばれる平面で受光することでスマートフォンその他のデバイスの貴重なスペースとバッテリー消費電力を節約できるという。実際、同社はこの製品を間もなく市場に出荷する。

メタサーフェスというコンセプトは、メタマテリアルに似ている。これは現在、LumotiveEchodyneなどによってフラットビームフォーミング合成開口レーダーや自動運転バスに搭載されるLiDARとして実用化されている。しかしメタサーフェスは、メタマテリアルから派生したものではない。対象の表面は単純な2Dではなく複雑な3次元構造でミクロン単位の奥行きを備えている。

カメラの主たる部品はもちろんレンズ(現在は複数のレンズを重ねるのが普通)と、レンズで集められた光を記録するイメージセンサーだ。カメラ、特にスマートフォンカメラが直面している最大の問題は、レンズを小さくしていけば必然的に、解像度に悪影響を与えてしまう点だ。同様にセンサーも光の利用効率の限界に近づいている。そのため、ここ数年の撮影テクノロジーにおける進歩のほとんどは画像データのレンダリング処理の面で起こっていた。

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複雑な光学系その他の機能なしに画像を記録できる素子形状を設計することは、長年のカメラ技術者の目標だった。私は2016年に、蛾の複眼からヒントをを得たある種の2Dカメラを制作しようとするNASAのプロジェクトについて記事を書いた。「言うは易く」の典型で、実験室内ではなんとか画像を生成できたものの、次世代カメラ技術としてApple(アップル)やSamsung(サムスン)に持ち込めるようなレベルにはならなかった。

Metalenzは、この点におけるブレイクスルーを目指している。同社のテクノロジーは、メタサーフェスの原理について著書もあるハーバード大学の著名な物理学者であるFrederico Capasso(フェデリコ・カパッソ)教授の研究に基づいている。カパッソ教授の下で博士号を取得したRob Devlin (ロブ・デブリン)氏は、このテクノロジーを商業化するためにカパッソ教授とともにMetalenzを共同で設立した。

デブリン氏は創立当時を振り返ってこう語っている。

プロトタイプはまったく非効率的でした。あちこちで光が散乱し、材料とプロセスも特殊であり、設計は現実の要求に対応できませんでした。作動するプロトタイプを1つ作って論文を発表することと、すべての個体が基準を満たす製品を1000万台製造することはまったく別です。

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長年の努力と研究が画期的な進歩を生み、現実のニーズにマッチする画像を生成するメタサーフェスカメラを作るだけでなく、高価な素材や特殊な製造プロセスを省くことが可能になった。デブリン氏はこう説明する。

Metalenzでは標準的な半導体製造プロセスと材料を使用しています。つまりICではなくカメラ部品を製造するという点が違うだけでまったく同じ装置です。我々に協力しているOEMパートナーはすでに1日に100万枚のレンズを作る能力があります

底部の赤線で囲った部分が受光素子。素子にはロジック回路が必要だが右のMetalenzの場合受光素子と一体化している。受光素子の上部はレンズではなくピンホール(画像クレジット:Metalenz)

最初のハードルは入射光を正確な位置と角度でメタ表面に当てることができるレンズを製造する点だった。これなしでは光は散乱してしまい意味のある画像にならない。デブリン氏が博士号を得た研究はまさにこの点にあった。デブリン氏はこう言う。

従来のレンズはマクロスケールレンズです。レンズ上の光はマクロスケールで制御されるので、曲率によってライトを曲げることができます。これでできることは限られています。しかしMetalenzは、人間の髪の毛の1000分の1の大きさでレンズに当たる光を細かく制御できます。

大きな倍率でメタサーフェスの表面を観察するとわかるが、ここには「ほとんどナノメートルのコーラ缶」のようにな円筒状のマイクロレンズが正確に位置決めされて整列している。他のメタマテリアル同様、この構造は近赤外線を含む可視光線の波長よりもはるかに小さく極めて複雑な理論に基づいて電磁波を処理する。

画像クレジット:Metalenz

上は製造過程のチップの写真とその構造を示すナノスケールの拡大イラストだ。ちなみにMetalenzはiPhoneなどスマートフォンのメインカメラを置き換えることを目的としてはいない。従来の目的なら長年にわたって完成されてきた現在のレンズとセンサーの組み合わせが適切だ。しかしこのチップ構造の強みを活かした撮影アプリケーションは多数ある。

たとえばFace IDに用いられているカメラがそれだ。「Face IDモジュールはおそろしく複雑な仕組みです。ルーブ・ゴールドバーグ・マシン(ピタゴラスイッチ)のような複雑さです。LiDARセンサーをマイクロ化するのにも使えます」とデブリン氏はいう。

このレベルまでマイクロ化されると従来型受光レンズを省略することにより、撮像素子に到達する光の量が大幅に増加する。つまりパフォーマンスを向上させ、消費電力を抑えながら小型化を達成できるわけだ。

非常に小さなテストパターンを従来タイプのカメラ(左)とメタサーフェスカメラ(右)で撮影。従来のカメラには強い周辺光量減少がある。メタサーフェスカメラは周辺まで光が回っており、画質も従来のカメラと変わらない。これが大きなポイントだ(画像クレジット:Metalenz)

Metalenzは研究室で開発中の「量産可能してもいいのではないか」といったタイプのデバイスではない。商用利用に向けて生産は順調に進んでいる。最近実施した1000万ドル(10億5000万円)のシリーズAラウンドをリードしたのは3M VenturesApplied Ventures LLCIntel CapitalM VenturesTDK VenturesTsingyuan VenturesBraemar EnergyVenturesなどの世界の大手メーカーが含まれている。

ハードウェアのスタートアップの多くは「小さく始めて、口コミで拡大を目指す」ことが多いが、Metalenzはスタートダッシュから大規模展開の構えだ。デブリン氏はこう説明する。

長年にわたって利用されてきたICチップの製造技術を利用しているため、我々は迅速に規模を拡大できます。自ら製造工場を建設する必要がないので、何億ドル(何百億円)もの資金を必要としません。既存の設備でOEMができるのです。一方、我々は大量のMetalenzを利用するのに適したプロダクトを発見する必要があります。パートナー企業がファウンドリとして製造に踏み切るためには、数千万個の規模での需要が必要です。

デブリン氏は具体的な説明を避けたが、パートナー1号は「3Dセンシングの利用に意欲的」だという。2022年初頭にMetalenzカメラを組み込んだ消費者向けデバイス(スマートフォンではない)が出荷される、2022年後半にはMetalenz組み込みのスマートフォンが登場するという。

つまりMetalenzはステルスモードを脱したばかりだが、ラウンドAで資金調達に成功しておりすでに数千万個の出荷が計画されている企業だ。1000万ドルのベンチャー資金は将来のビジネスの成功へに向けた準備などではなく、大量生産にあたってすぐにも必要となるコストと人材確保のために必要なキャッシュだ。投資家は今後利益が出ることに疑問を持っていない。

3DセンシングはMetalenzの最初の主要なアプリケーションだが、同社はすでに他のアプリケーションに取り組んでいる。研究室に固定された複雑な電子機器を簡単に現場に持ち出せるようにハンドヘルド化することもその1つだ。また卓上利用の装置の集光能力をアップし、処理の高速化を実現する可能性も探っている。

数年後に、我々が日常使うデバイスに普通にMetalenzコンポーネントが組み込まれている可能性は十分ある。ただしユーザーははそれに気づかないかもしれない。つまりデバイスメーカーは薄型になったり機能が改善されたりしたことを自分たちの手柄にしがちだ。しか細かなスペックの説明やデバイスの分解記事中に部品名としてMetalenzが出てくるかもしれない。そのとき、大学スピンアウトのスタートアップが見事、大リーグ入りしたことがわかるだろう。

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カテゴリー:ハードウェア
タグ:Metalenzカメラ

画像クレジット:Metalenz

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(文:Devin Coldewey 翻訳:滑川海彦@Facebook