菌類から革を生み出すMycoWorksが生産規模拡大のため約143億円を調達

MycoWorksの「Reishi」製品(画像クレジット:Jesse Green, Courtesy of MycoWorks)

革に代わる菌類ベースのバイオマテリアルを製造しているMycoWorks(マイコワークス)は、主力製品である「Reishi」の製造を拡大するための生産工場に資金を提供するため、シリーズCで1億2500万ドル(約143億円)という新たなラウンドの資金を調達した。

Matt Scullin(マット・スカリン)CEOは、同社の生地に関する取り組みは競合他社とは異なるとし、同社のFine Myceliumプロセスを「菌糸を工学的に加工し、オーダーメイドで仕様に合わせた唯一の高級素材を育てるバイオテクノロジープラットフォーム 」だとアピールしている。

「この分野では多くのことが起こっています。菌糸体は調整可能な素材であり、多くの人々がこの分野に参入しています。しかし、彼らの主なアプローチは、繊維をとってプラスチックに埋め込むというもので、その結果、『人造皮革』のような低品質の素材になってしまうのです」。と彼は付け加えた。

確かに、Philip Ross(フィリップ・ロス)氏とSophia Wang(ソフィア・ワン)氏が2013年に設立したカリフォルニアの会社は、菌類や他の植物由来の素材を使ってファッション用の生地を作るホットなトレンド企業の1つだ。以前、2020年に4500万ドル(約51億5300万円)の資金調達を行ったMycoWorksを紹介した際、Bolt Threads(ボルトスレッズ)(キノコ)、Ananas Anam(アナナス・アナム)(パイナップル繊維)、Desserto(デセルト)(サボテン革)といった企業が同様のことを行っていることに触れた。

植物由来の素材をファッションに利用することに加え、菌類を利用した技術で成功を収めている企業もある。2021年にシリーズCラウンドで3億5000万ドル(約400億円)を調達したNature’s Fynd(ネイチャーズ・フィンド)は、肉やチーズなどのサステナブルな食品を作るために、固体、液体、粉末として使用できるビーガンタンパク質「Fy」を作った。Atlast Food(アトラスト・フード)も似たようなことを行っており、グルメなキノコの菌糸体から肉の代用品を作っている。一方、発酵プロセスを利用して、とりわけ、他の食品の好ましくない風味を防ぐキノコのエキスを作っているMycoTechnologyは、2020年に1億2000万ドル(約137億円)を超えるシリーズDラウンドを終了した。

一方、シリーズCはPrime Movers Lab(プライム・ムーバーズ・ラボ)が主導し、SK Capital Partners(SKキャピタル・パートナーズ)、Mirabaud Lifestyle Impact and Innovation Fund(ミラボー・ライフスタイル・インパクト・アンド・イノベーションファンド)を筆頭に、他の新規および既存の投資家たちが参加した。現在までに、同社は総額1億8700万ドル(約214億円)を調達している。

MycoWorksは、2021年初頭にHermès(エルメス)との最初の提携を開始し、現在では世界の主要な高級ブランドと契約を結んでいる。Scullin(スカリン)氏は、聞いたことのある高級ブランドであれば、同社はおそらく提携しているはずだと話してくれた。

MycoWorksは、当初は高級品分野で活動していたものの、さまざまな価格帯の製品を可能にする大量生産への移行も目指している。今回の資金調達でそれが可能になると、スカリン氏はいう。

MycoWorksの菌類の青いラックトレイ(画像クレジット:Lindsey Filowitz)

MycoWorksの新しい生産工場は、カリフォルニア州エメリービルのパイロット工場で成功を収めた現在、サウスカロライナ州ユニオンに建設される予定だ。そのパイロット工場でMycoWorksは、トレイベースの生産プロセスを検証し、1万トレイという生産マイルストーンを達成した際には、Fine Myceliumプロセスのスケーラビリティを実証することができたのだ。スカリン氏は、今後12カ月で工場が稼働し、当初は年間数百万平方フィートのFine Myceliumを生産できるようになると予想している。

消費者が求める持続可能な商品の需要に応えるため、スカリン氏は今回の資金をチームの拡大、研究開発、技術開発に投資する予定だ。同社には、Fine Myceliumを最初に使用するブランドとして選ばれるために、何千ものインバウンドの要望が寄せられている。

同氏は、毎年1500億ドル(約17兆1700億円)の革製品が販売されていると推定しており、特にその消費者の追い風が「今、経済における強力な力の1つ」であり続けているため、これは機会が大きいことを意味する、と付け加えた。

スカリン氏は、Prime Movers Labやその他の投資先を選ぶ際に、どれもバイオテクノロジーと製造のスケールアップに関する共通の専門知識を持っていて、それが今まさに同社に必要なことだったと述べた。

Prime Movers LabのジェネラルパートナーであるDavid Siminoff(デビッド・シミノフ)氏は「MycoWorksがFine Myceliumプラットフォームで成し遂げたことは、単なるブレークスルーではなく、変化の時期にある産業にとっての革命です」と文書で述べている。「このチャンスは巨大であり、私たちは、比類のない製品品質と独自の拡張可能な製造プロセスの組み合わせにより、MycoWorksが新素材革命のバックボーンとして機能する態勢を整えていると確信しています」と同氏は語った。

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(文:Christine Hall、翻訳:Akihito Mizukoshi)

ナタリー・ポートマンとジョン・レジェンは革ではなく菌糸の服を着る

女優のNatalie Portman(ナタリー・ポートマン)とミュージシャンのJohn Legend(ジョン・レジェンド)は、ベンチャー投資家とMycoWorks(マイコワークス)が支援する無名のファッションブランドからなるグループに参加した。MycoWorksは、皮革に置き換わる菌類を材料にしたバイオ素材の技術を商品化しようと4500万ドル(約47億円)を調達したばかりだ。

その目的は、動物やハ虫類の皮を使った服飾品から菌類ファッションへと消費者に乗り換えてもらうことにある。

同社は、すでにいくつかの大手ファッションブランドとパートナー契約を交わしており、その素晴らしい菌類素材を、これまで伝統的に動物の皮で作られてきた靴、財布、ベルトといった製品に加工して多くの人に広めたいと考えている。

「私たちは高級ブランドやフットウェアの大手メーカー数社と緊密に協力しています」と、MycoWorksのCEO、Matt Scullin(マット・スカリン)氏は話す。

無名のファッションブランド数社は、靴、既製服、バッグなどの幅広い製品を販売店に向けてすでに生産を開始していると、スカリン氏はいう。

MycoWorksは、菌類素材の普及や植物ベースの繊維製品の定着を目指す他社との差別化を、その繊維製品の耐久性を強調することで図りたいと考えている。競合企業には、キノコを使うBolt Threads(ボルト・スレッズ)、パイナップルの繊維を使うAnanas Anam(アナナス・アナム)、サボテンの皮を使うDesserto(デザート)などがある。

「私たちは、さまざまな皮革製服飾品、室内装飾品、ハンドバッグや財布といった一般的な皮革製品など、広範にわたる応用方法で製品をテストしています。私たちが作る素材がキノコから作られた皮と大きく異なる点は、構造成分が非常に高いことにあります」とスカリン氏。「私たちは、さまざまな用途に対応できるこの素材の性能の高さに自信を持っています。そのため、これには幅広い使い道があります」。

ゆくゆくは、高級品市場への参入をMycoWorksは目指している。「ブランドは持続可能性のために性能を犠牲にしているという誤解がありますが、それは間違いです」とスカリン氏はいう。「このような業界では、高い性能を示せば、本格的に受け入れられるのです」。

スカリン氏は、MycoWorksの素材の価格について、またその素材で製品を作っている企業の具体的な名前は明かさなかった。ただ彼は、いずれは伝統的な皮革市場だけでなく、皮革代替品となるプラスチック市場においても価格で勝負できるようにしたいと話していた。プラスチック代替品市場の価値は1年間だけで700億ドル(約7兆3000億円)に達する。

スカリン氏によれば、同社では年間に数万平方フィート(約930平方メートル)の菌類素材を生産する能力があるとのこと。つまりMycoWorksは、数十億平方フィート(約930万平方メートル)の生産能力を誇る皮革業界に追いつくには、まだ時間がかかるということだ。

MycoWorksへの財政支援には目を見張るものがあるが、ファッション業界では、それぞれに牽引力を発揮する他社との戦いもある。

2020年10月、Bolt Threadsは長年のパートナーであるAdidas(アディダス)、Stella McCartney(ステラ・マッカートニー)、そしてBalenciaga(バレンシアガ)などのブランドを支えるファッションハウスとともに協議会を立ち上げ、キノコ革を使った製品の研究を行うと発表した。

台北のWTT Investment Ltd.、DCVC Bio、Valor Equity Partners、Humboldt Fund、Gruss & Co.、Novo Holdings、8VC、SOSV、AgFunder、Wireframe Ventures、Tony Faddell(トニー・ファデル)氏といったMycoWorksの投資家には、競合は折り込み済みだ。しかしその機能性から、彼らはMycoWorksは代替皮革界の王者だと信じている。

「Fine Mycelium(ファイン・マイシリアム、細かい菌糸という意味)の革は、クライアントの要望に応じてカスタマイズができます」とDCVC Bioの投資家Kiersten Stead(キルステン・ステッド)氏はいう。「形と用途においてカスタマイズ可能です。価格も用途と顧客が求める品質に応じて異なります」。

これまでにMycoWorksは6200万ドル(約64億5000万円)を調達しているが、今回の資金調達の発表は、カリフォルニア州エメリービルの新しい生産工場のオープニングと偶然にも重なった。これにより、現在の数万平方フィートという菌糸革の置換能力は大幅に強化される。

動物の皮に替わるものを求めるこうした動きの背景には、衣服や靴などの皮革素材の伝統的な製造方式にともなう問題点が次第に知られるようになったことがある。その製造では、非常に毒性の高い薬品や汚染物質が使われているのだ。皮をなめすとき、染めるとき、廃物処理の段階で環境が汚染される。また動物の皮革でもプラスチックの合成皮革でも、廃棄物の埋め立てという問題がある。

「菌糸体の育成プロセスはカーボンネガティブです。消費者は私たちの製品と動物の革を比べて、こっちを選ぶしかないというでしょう」とスカリン氏は話す。「加えてそこには、動物を傷つけないという側面と、プラスティックを使わないという側面があり、これらは現在、大変に多くの意志決定の動機になっています。私たちのブランドパートナーにとって、私たちの本当の姿は、進歩した製造業者です。持続可能性が私たちの原動力です。サプライチェーンを改革する道を、私たちは彼らに示しているのです」。

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カテゴリー:バイオテック
タグ:MycoWorksファッション環境問題

画像クレジット:Songsak Paname/Eyem / Getty Images under a license.

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(翻訳:金井哲夫)