TechCrunch Japanが主催するテーマ特化型イベント「TechCrunch School」の新シーズンが4月10日、スタートした。新シーズンでは、スタートアップのチームビルディングをテーマに、全4回のイベント開催が予定されている。
今シーズン初回、そしてTechCrunch School通算では14回目となった今回のイベントは「チームを集める」が題材。起業時の創業メンバー、設立後の初期メンバーに続く中核メンバーの採用に焦点を当て、講演とパネルディスカッションが行われた。
本稿では、そのうちのキーノート講演の模様をお伝えする。登壇者はインキュベイトファンドでジェネラルパートナーを務める村田祐介氏だ。講演では、創業期の投資・育成にフォーカスしたベンチャーキャピタルとして、これまでに手がけてきた投資先スタートアップのチーム組成の例と、チームビルディングで陥りやすいワナについて、語ってもらった。
インキュベイトファンドは、創業期のスタートアップに特化した独立系のベンチャーキャピタル(VC)だ。
「良い会社を見つけてきて、審査して投資するというのではなく、良い会社を作りそうな人を見つけて、一緒に会社を立ち上げていくという形で、これまでに関連ファンドの出資先を含めて300社以上を創業から支援。累計400億円以上の資金を集めて、これらの会社に出資してきている」と村田氏はインキュベイトファンドの歩みについて説明する。
これまでIPOは20社超、M&Aで約30社をエグジット。ほかにも急成長中のスタートアップを多数支援しているという。
また、通常の投資・育成とは別に、アクセラレーションプログラム「Incubate Camp」を2010年から主催。同社以外も含めたVCのジェネラルパートナー級の投資家たちと起業家たちを集め、泊まりがけで毎年行われるこのプログラムには、これまでに約200名の起業家が参加。参加企業の累計調達金額は約200億円、上場企業も出ており「非常にいいイベントになってきている」と村田氏は話す。
村田氏自身は、学生起業をして3年後に失敗しエグジット。その後キャピタリストとなって現在17年目、インキュベイトファンドを共同代表として設立して10年目になる。日本ベンチャーキャピタル協会にも携わり、スタートアップにより大きな成長資金が集まるような活動も行っている。
インキュベイトファンドにおいては、ジェネラルパートナーとしてスタートアップと関わる中で、共同創業者を探して連れてきたり、会社がスタートしてからの人材確保など、チームビルディングも組織的に行っているという。その経験から、まずは創業チームの組成について「特徴的な3社」を紹介してもらった。
スピード上場を果たしたGameWith、U25の少数精鋭チーム組成
GameWithは、2013年創業のゲームメディア事業会社。代表の今泉卓也氏は23歳のときにGameWithを設立し、30歳未満で東証マザーズに上場した。ゲームの攻略メディアとコミュニティも運営しているGameWithは、国内最大級のゲームメディアへと成長。MAU(月間アクティブユーザー)が4000万前後で推移しているという。
GameWithは2013年の設立だが、今泉氏はその前の2011年、コスモノーツというゲーム会社を立ち上げ、CTOとして参画していた。コスモノーツは「まさにチーム組成に大失敗してしまって、結果的に解散するところまで行った」(村田氏)。ということだが、その解散の役員会で次の会社を立ち上げようという話になり、設立されたのがGameWithだという。
「創業前に今泉さんと僕の2人でスタートし、プロダクトの原型を手がけていった。まだ会社を作る前の段階から、インキュベイトファンドからの出資をコミットし、ヤフーからの出資も取り付けてスタートした」(村田氏)。
創業チームは全員アンダー25歳の5人。「創業時は『完全にコミットしたい』という今泉さんの思惑から、巣鴨の住宅街にあるマンションを借り、それぞれが自分の部屋に住んで、リビングがオフィス、という形を取っていた。」(村田氏)。
2013年6月に創業、9月にメディアをリリースしてから、年末までに100万MAUまで一気に伸びたというGameWith。創業メンバー5人に加えて1人目を採用したのは、2013年の暮れから2014年初にかけてのころで、mixiにいたエース人材を「飲んで口説いた」と村田氏は言う。
組織作りに関しては、今泉氏にはある思いがあったようだ。村田氏によれば、コスモノーツを最初立ち上げたときには「経営者も社員もフラットに、和気あいあいとやろうと言って始めた」という。しかし「みんなが不満ばかり言うようになり、統制が取れなくなって失敗した」ということで、GameWithのリスタートに際し、今泉氏は「一定の形ができるまでは文鎮型の組織でトップの統制を強くしたい。決めるのは村田さんと僕だけでいい」と話していたそうだ。
今泉氏自身がエンジニアだったこともあって、トラフィックが1000万MAUを超えるまでは、フロントエンドもバックエンドも彼がほぼ1人で開発していたというGameWith。利益が1億円を超え、2015年が始まろうという頃、初めて外部から幹部として、オプトの14年選手だった眞壁雅彦氏を迎え入れるまでは、「今泉氏+その他」という“文鎮型組織”をずっと維持し続けたという。
2015年のシリーズBラウンド調達のころには、5億PV、2000万MAUを超え、完全に黒字化。「そこでIPO準備を進めようということで、公開準備のための実務担当者と、社外役員としてスクエア・エニックスの元社長(武市智行氏)と元CFO(森田徹氏)、複数の上場経験を持つ人物などを連れてきて、上場のためのチームを作った」(村田氏)。
そして、2017年6月には東証マザーズへ上場。創業時メンバーのうちの二人は上場後の今も執行役員として活躍しているそうだ。アンダー25での創業から、現在30歳を超えたメンバーたちだが「会社の成長とともに、チーム全体がしっかり成長できた一例と言えるのではないか」と村田氏は述べる。
上場直前の正社員は30人程度。少数精鋭だったというGameWithで、特徴的なチームづくりとして、もうひとつ村田氏が挙げたのが、アルバイト採用の基準だ。「ゲーマーをたくさん採用したい、ということで、アルバイトの募集をする際、ゲーム画面のスクリーンショットを送らせた。バイトとして採用した人間を契約社員へ引き上げ、契約社員を正社員へ登用する、という段階構造を作って組織を残してきた」と村田氏は説明する。
天才が天才を呼ぶ構造、落合陽一氏率いるPixie Dust Technologies
続いて紹介されたPixie Dust Technologiesは、メディアアーティストで筑波大学の准教授でもある、落合陽一氏が設立したスタートアップだ。立ち上げ当時、落合氏は東京大学の博士課程にいる学生で、村田氏は「天才がいるので会ってほしい」と言われて紹介され、「とんでもない天才だ」と感じたそうだ。
当時から「音、光、電磁場を波動制御コントロールによって3次元化したい」というようなことを言っていた、という落合氏。誰でも体感できる最先端のテクノロジーを表現することを得意とする落合氏は、研究者としての人生を全うしたいと言いつつ、この成果の社会実装をしていきたいと述べていたそうだ。
そこで村田氏は、スタートアップとして資金調達した方が実現確度が高くなる、とアドバイス。ともに立ち上げたのがPixie Dust Technologiesだ。プロトタイプづくりに必要な資金が4000万円と落合氏から聞き、その場で4000万円を出すと話した村田氏。最初は「デラウェア州の法人でスタートすれば、テクノロジーに対する理解が早い投資家や大企業が国内よりも多いので資金調達または買収の可能性が上がるのではという思惑で、現在の同社の前身となる米国法人を2015年に立ち上げるところからスタートした」そうだ。
落合氏は「(研究もあり)フルコミットは難しいが、4000万円を元手に2年以内にプロトタイプをつくり、それに関わる論文を出し、IP(知的財産権)を取る。そこまでなら、コミットできる」と言っていたという。村田氏は「当初から早期Exitを狙いに行く可能性もあったが、そこまでやれればもっと欲が出てくるはず」と考えて、一緒にスタートすることを決めた。
創業チームには、落合氏の研究者としての“相方”でもあり、後に東京大学助教も務めた星貴之氏が加わり、プロトタイプ完成までの1年半ぐらいを過ごした。当時経営について落合氏は「興味がない、研究だけがしたい」ということで、研究以外の業務を村田氏が巻き取ったという。
プロダクトとしては、音が特定の場所だけで聴こえるというスピーカー「Holographic Whisper」を製作。これらのプロトタイプを作っていく段階で、落合氏は村田氏の思惑通りに「会社としてスケールさせていきたい」と告げたそうだ。
またプロトタイプが出来上がってくると、国内外のメーカーからたくさんのオファーが来るようになり、PoC(実証実験)からスタートして共同製品を開発したい、と声がかかるようになる。このため、これらをクロージングするためのチームづくりに入った。
2017年初には、後にCOOとなる村上泰一郎氏が参画。アクセンチュア出身で社団法人の未踏エグゼクティブアドバイザーも務める村上氏を、落合氏と村田氏は「『COOとしてジョインしてほしい』と飲みながら口説いた」という。
村上氏の参画と同時に、Pixie Dust Technologiesを日本法人化し、本格的な資金調達をスタート。2017年、シリーズAで6.5億円を調達した。NEDOやCREST、AMED、JST ASTEPなどのプロジェクトにも採択され、2019年にはシリーズBとして、数十億円規模の大型調達を予定しているという。
村上氏参画までは、落合氏、星氏の2名体制だったPixie Dust Technologiesだが、この1年ほどで大量に人材を採用した。CFOとして迎え入れた関根喜之氏は、東大発の創薬ベンチャー、ペプチドリームでCFOの任に就き、東証マザーズ、東証一部上場を果たした人物だ。またGoogleでハードウェア部門に在籍していた人物、トヨタ自動車やキヤノンのAIエンジニア、Google Japanの創業メンバーなど、そうそうたる人材がこの1年で参加した。
「チームづくりに落合氏自身も自信を持つようになってきている。この会社は『天才が天才を呼ぶ構造』になっていると思う」(村田氏)。
チームビルディングで陥りやすいワナ
キーノート講演の最後には、村田氏から「チームビルディングで陥りやすいワナ」について、いくつかピックアップして解説があった。
「創業者間での仲違いは、本当によく起きる」という村田氏。「誰が最終意思決定をする人であり、誰がエクイティを大きく持つのか、というのは絶対に最初に決めておかなければいけないこと」と述べている。
「エクイティの保有パーセントが近ければ近いほど、もめ事が起きやすくなって、最終的にエクイティのシェアが低い人が辞めざるを得なくなりやすい。シェアのバランスはすごく慎重に調整した方がいいと思うし、創業者の株主間契約も必ず結ばないと、後で取り返しのつかないことになりやすいので、気をつけた方がいい」(村田氏)。
また「コードが書けるからCTO、コードが書けないからCOO」といった形で、創業メンバーの中からCXOを選んでしまうケースはよくあるが、「これをやってしまうと、後でその人のスペックが足りないということになる可能性が極めて高い」と村田氏は言う。
「ポストは後から用意しても、その中にキレイにハマる瞬間というのが必ずある。トップマネジメントはこの人、と決めたんだったら、あとは一旦フラットな組織にしてしまった方が、構造が明らかで設計もしやすい。後から優秀な人を集めるための素地として、作りやすい」(村田氏)。
チームブレーカーにより組織が崩壊する、というのも「本当にあちこちで起きているケースだ」と村田氏。
「事業がうまく立ち上がってこないことを他責にする人はたくさんいるのだが、課題解決のためによかれと思って知りうるネガティブな情報をあらゆる人に伝えてしまうことで、結果的に情報過多な状態をチーム全体に行き渡らせて、どんどん組織崩壊していくパターンも」(村田氏)。
このパターンは、会社を「より良くしていこう」と思ってモチベーションが落ちている人に対してチアアップしてくれたり、「誰々は今大変な状態にあるから」とカバーするために、自分の知っている情報をチーム全体にまき散らしてしまう人に見られるとのこと。
「本来見えなくてもいい悪い部分だけが独り歩きしてしまって、結果として組織が崩壊していくということは、よく起きている」と村田氏は説明する。
キーノート講演の後、村田氏も参加して、創業期のメンバー集め、チームビルディングに関するパネルディスカッションが行われた。その模様も近日中にレポートとして紹介する予定だ。
なお、実際のキーノート講演では村田氏が関わったもう1社の創業期のチーム組成について語られたが、その場限りの話としてこの記事では割愛している。