「学生時代から自主製作で映像を作るサークルをやっていて、ある日後輩から『ヤバいサイトがある』と紹介されたのがYouTube。自分が製作した動画をアップしてみたら世界中から反応があって、これはウェブ業界がすごいことになると思った」——ワンメディア代表取締役の明石ガクト氏は、オンライン動画との出会いについてこう語る。
ワンメディアはミレニアル世代向けの分散型動画メディア「ONE MEDIA」の運営や動画コンテンツの制作を手がけるスタートアップ。同社は1月11日、B Dash Ventures運営のファンド「B Dash Fund 3号投資事業有限責任組合」およびグリーを引受先とした総額約3.5億円の第三者割当増資を実施したことを明らかにした。
ONE MEDIAの動画の1つ「小橋賢児のDo what you can’t」
ワンメディアは2014年6月の創業。代表の明石氏は前述のYouTubeの衝撃もあり、周囲が映像業界に就職する中、エキサイトに入社してウェブを学んだ。そうしているうちにVICEやNowThisのような海外の動画メディアの隆盛を知り、映像サークルの後輩だった執行役員の佐々木勢氏とともに、自ら動画制作の会社を立ち上げた(当時の社名はSpotwright。その後WHITE MEDIAに社名を変えた後、2017年11月にワンメディア(ONE MEDIA)に社名、ブランド名を変更した)。
動画の“波”に乗れなかった創業期
「ただ、その頃は全然動画ブームが来ないんですよ。言ってみれば、2015年までは動画のファーストウェーブ。UUUMが立ち上がって(創業は2013年6月)、YouTuberがやってきた頃。うちには全然仕事が来ない(笑)。2016年になってやっと動画の波が来ました。これがセカンドブーム。短尺量産の動画が流行していましたが、僕たちはそれはやらないと決めていた。そんなことを言っても、お金はどんどんなくなっていく。預金残高10万円を切ったところでエンジェルが助けてくれて、なんとか首の皮一枚繋がったのが2016年夏の出来事です」(明石氏)
そのタイミングで、エンジェルが提供してくれた恵比寿のマンションに拠点を移し、さらにメンバーの人数も減らして、再起を誓ったという。
「創業してすぐはドキュメンタリーをやりたかったんです。だけどこれが全然観られなくて……。メディアになりたかったけど、メディアになるためにはコンテンツ量が大事。(コンテンツが)積み上がって、日々コミュニケーションが生まれて、視聴者や読者が付いてくる。でも当時は月1本しか動画が出せない状況。まず食いつなぐために受託をやっていました」
「受託でも認められるためには本数が必要で、また『格』を持たないといけないと考えていました。当時の動画メディアといえば、料理の早回しやネイルのレクチャー、セクシーなものなど。いろいろとありましたが、なくなっていくものも多かった。なのであれば、僕らは『世の中の難しいことを分かるようにする』ということをやっていこう、そしてメンバーが8人もいない中で、月間60本の動画を作れるようにしよう、と考えたのが転換のきっかけでした」(明石氏)
動画は3秒でジャッジされる
明石氏が“動画のサードウェーブ”と語るONE MEDIAの動画は2〜4分程度で、料理動画などと比較すると長尺なモノが多い。だが明石氏が語るように動画のテンプレートを複数用意し、映像編集ソフトのライブラリも自社開発するなどして、制作効率を上げる仕組み作りを続けてきた。
例えばエモーショナルに情報を伝えたいときは、テーブルに資料や関連するアイテムを並べて、人物や事象を伝える「テーブルトップドキュメンタリー」というフォーマットを使う。また数分間の短い時間で情報量を多く伝えたいのであれば、インフォグラフィックを使うといった具合なのだという。“盛り上がり”の作り方も意識した。アニメーションやインパクトのあるテキストを使用して、冒頭からユーザーを離脱させないようにしているという。
創業から手がけた動画は1200本。現在ONE MEDIAブランドの動画は、FacebookやLINE、スマートニュースなどで配信している。2017年には、Facebookで1750万回の再生と6万回の「いいね!」を得た。LINEでの配信では、フレンド登録数(視聴登録数)が2カ月で2万5000人になった。4分の動画でも、20%ほどのユーザーが視聴を完了するのだそう。
「これまでやってきた動画は、1つ1つの粒度が大きかった(結果、月に1本しか出せなかった)。YouTuberが人気な理由は、毎日やっているから。Instagramであれば、粒度はさらに細かくなっている。視聴者がメディアを受け取る粒度は細かくなる一方、長くコミュニケーションをしないといけなくなっています。今はまさにメディアの変革期」
「再生回数は作ろうと思えば作れます。きれいな女性の映像で、冒頭の3秒の時間は取れるかも知れない。ですが、本当に価値のあるものを作らないとビジネスにはなりません。視聴が完了しないのは、最後まで見るモチベーションがないから。SlackもFacebookも通知を出してくる中で視聴者の時間を奪うのは大変。でもそれが取れたときに、テレビや新聞、雑誌よりも濃い関係が作れる。動画は3秒でジャッジされる。その3秒の中で捕まえないといけないし、10秒の間に『最後まで観よう』と思ってもらわないといけない。そうすれば、30秒だろうと60秒だろうと急激に視聴は下がらない」(明石氏)
現在はONE MEDIAで複数の番組を制作するほか、企業向けにタイアップ動画も積極的に制作。トヨタや本田技研などの制作実績もあり、今年度(2018年5月決算)前期は黒字化を達成しているという。チームメンバーも再び拡大しており、C Channelのメディアプロデューサーを務めた疋田万理氏が編集長に、伊藤忠テクノロジーベンチャーズでの投資経験もある元エキサイトの及川和宏氏が執行役員に就任するなどしている。
同社は今回調達した資金をもとに、エンジニアを含めた人員拡大を図るほか、配信先の拡大や異業種メディアとの取り組みも進めるという。また、“映画館つきオフィス”を秋頃までに立ち上げたいと語る。
「ブランドに人は集まり、ブランドが仕事を生む。映像クリエーターを目指す人が会社に来てくれて、僕らは加速できた。VICEにも(クリエーターの)スパイク・ジョーンズが入って変わった。僕らもそうならないといけない」
「ブランドを作るのは目に見える『モノ』だけ。なので、本当の意味でのオフィスを作りたいし、そこに映画館を作りたい。ミレニアル世代に合わせた新しい映画館を作って、クリエーターが世の中に出てくる場所にしたい。僕ら自体も、著名人やネット外のメディアとのコラボしていく。僕らはメディアであると同時にコンテンツスタジオ。僕らは機材も、チームも、広める手段もあるのでMV(ミュージックビデオ)もやっていきたい」(明石氏)