「未来の仕事」に備えて――終身雇用の終わりと教育、法制度のあり方

【編集部注】本稿はJim HimesとAlastair Fitzpayneによる共著。Himesは下院議員(コネチカット第4区選出)で、New Democrat Coalitionの議長。Fitzpayneはアスペン研究所Future of Work Initiativeのエグゼクティブ・ディレクター。

今年アメリカの大学を卒業する200万人もの若者の多くは、彼らの両親や祖父母が理解できないようなキャリアを進むことになるだろう。安定した職業やひとつの企業でキャリアをまっとうするような時代はもう終わったのだ。

ハーバード大学エクステンションスクールの学長を務めるHunt Lambertによれば、最近大学を卒業した人たちは、社会人生活の中で3つの異なるキャリアを渡り歩き、約30もの仕事に就く可能性があるのだという。さらに多くは個人事業主、もしくはフリーランスとして仕事に携わることになるため、健康保険や退職金、トレーニングといった重要な福利厚生を期待できない。

すでにテクノロジーや人工知能が仕事の中身だけでなく、業界全体を変えつつあると感じている労働者もいる。eコマースは小売業を変容させ、ビッグデータと自動化は製造業を変えつつあるだけでなく、近い将来、自動運転車がモビリティを変え、ドローンが小売業にさらなる変革をもたらす可能性さえある。最近発行されたレポートの中でMcKinsey Global Instituteは、2030年までにおよそ60%の職業で少なくとも業務の3分の1が自動化されると予測している。機械が徐々に「人間の」仕事をこなせるようになれば、労働者は以前とは違う仕事を担当するか、新たな仕事を求めて別の業界に移らなければならなくなる。

これこそが法制度を見直さなければならない理由だ。仕事の性質が変わり続けるなか、もはや私たちは労働者の保護・育成のために時代遅れのシステムや教育機関に頼ってはいられないのだ。そしてすべてのアメリカ国民が変化し続ける経済環境のなか成功をおさめるために、私たちは今考え、行動を起こさなければならない。最近New Democrat Coalition(NDC)は、未来の仕事というテーマに特化したEconomic Opportunity Agendaを発表した。この中でNDCは、労働者のスキルと求人のギャップを埋め、雇用者と被雇用者の関係を再考し、そして労働者と起業家を支援するというビジョンを謳っている。

仕事とキャリアが変化を続ける一方で、アメリカは未だに20世紀の世界のために19世紀に作られた教育・トレーニングシステムに頼り切っている。私たちの親の世代であれば、高等もしくは中等教育を修了していれば、安定した職と収入を期待できた。しかし今日の世界では、4年制の大学を卒業しても充実したキャリアを手に入れるために必要なスキルを身に付けることができないのだ。

テクノロジーやアメリカ経済の急速な変化に対応するためには、政府、雇用者、そして被雇用者が一丸となって、キャリアの進展に応じて労働者が新しいスキルを身に付けられるような、スキル習得に特化した柔軟な生涯学習システムを作っていかなければならない。さらに従来の教育システムとオンライン教育プログラムを一新し、より多くの人が教育にアクセスできるような政策が施行されなければならない。そうすれば、労働者はキャリアを確保できるだけでなく、テクニカルな教育を受けられ、自身のスキルを育めるようになり、同じ職業でよりレベルの高い仕事についたり、転職したりできるだろう。

しかしアップデートしなければならないのは、教育やトレーニングのシステムだけではない。雇用者、被雇用者、政府からなる20世紀の社会契約は、強固な中産階級を作り上げ、アメリカ経済が世界一になる基礎を築いた。しかし雇用者・被雇用者の関係をめぐる法制度は次第に過去の遺物となりつつある。

例えば失業保険は労働者を守るための社会保険システムの柱として1935年に生まれた。しかしこれはフルタイムの労働者のために設計された制度であるため、1950年代は約50%だった受給率は、2010年以降、30%未満に落ち込んでいる。つまり、従来の「被雇用者」という枠におさまらない、およそ1500万人もの労働者には、雇用者・被雇用者という関係が前提の20世紀に生まれた法制度が当てはまらないのだ。

だからといって、失業保険のような重要な社会保障制度の対象を少数の「ラッキーな」人たちだけに絞る道理はない。このような便益は、たとえキャリアが変わったとしても継続できなければいけないはずだ。

仕事の変化によって、労働力やテクノロジーに関する課題が生まれ、停滞を続ける賃金や起業件数がさらにそれを深刻化させている。経済を成長させるためには、バランスのとれた法制度を整備し、労働者の交渉力を高めつつ、雇用者が彼らのスキルを伸ばし、優秀な労働者を保持できるようにしなければならないのだ。

現状の法制度を「21世紀版」にアップデートするような革新的な政策、そして現状打破に前向きな雇用者――このふたつが揃えば、アメリカの労働者は変化の早い経済で成功するためのツールを手に入れられるだろう。

Image Credits: nonchai

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(翻訳:Atsushi Yukutake

投稿者:

TechCrunch Japan

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