9月20日、組織改善クラウドサービス「モチベーションクラウド」などを展開するリンクアンドモチベーションは、転職・就職クチコミサイト「Vorkers(ヴォーカーズ)」を提供するヴォーカーズへの出資を発表した。出資金額は22.5億円だった。
創業11年目のヴォーカーズにとって、これが初めての外部調達になる。リンクアンドモチベーションが当日発表した資料によれば、直近決算期におけるヴォーカーズの売上高は7億7500万円。当期純損益も3億1100万円の黒字であることを考えても、今回の資金調達がいわゆる“事業継続のための資金調達”ではないことは明らかだ。
では、なぜヴォーカーズこのタイミングで大型の資金調達に踏み切ったのか。アクセルを踏み込んで彼らが向かう先はどこなのか。ヴォーカーズ代表取締役の増井慎二郎氏、およびリンクアンドモチベーション取締役で今回の資金調達を期にヴォーカーズ取締役副社長に就任した麻野耕司氏に聞いた。
必要だったのは「お金」ではなく「コミットメント」
ヴォーカーズの創業は2007年6月。転職や就職を考える人々が、企業で働く人々の本音を知れるクチコミサイトのVorkersが主力事業だ。現在、社員クチコミによる評価スコア件数は約630万件、登録ユーザー数は約245万人、1日の新規登録ユーザー数は3000人にのぼる。
当日発表されたプレスリリースでは、調達した資金の使い道として新サービスの「Vorkersリクルーティング」の開発・運営費用が挙げられていた。Vorkersリクルーティングは、就職したい人向けのプラットフォームだったVorkersとは違い、就職したい人々と企業とを直接むすぶサービス。これまではBtoCのプラットフォームを運営してきたヴォーカーズにとって、法人営業が必要になる新サービスの運営にはこれまでとは違う筋肉が必要になる。とは言え、それだけが理由で、ヴォーカーズの年間売上の約3倍にあたる22億5000万円の資金が必要になるとは考えにくい。
ヴォーカーズ代表取締役の増井氏はそれについて、「22億5000万円の資金がどうしても必要だったわけではない。必要だったのは、リンクアンドモチベーションがコミットするという姿勢だった」と話しす。
今回の資金調達で、リンクアンドモチベーションはヴォーカーズ全株式の20%を取得した。これによりヴォーカーズはリンクアンドモチベーションの持分法適用会社となる。その結果、20%以下の議決権所有比率で出資する投資先とは違い、持分法適用会社であるヴォーカーズがあげた損益はリンクアンドモチベーションの連結財務諸表に反映されることになる。両社の協力関係にはおのずと強力なコミットメントが生まれる。
増井氏は、一緒に手を組むのであればそのコミットメントが必要だと考えた。つまり、ヴォーカーズが調達した22億5000万円という金額は、新事業に必要な金額だったという訳ではなく、出資比率を20%まで引き上げた際にはじき出された“そろばん上の数字”でしかなかったというわけだ。実際、麻野氏は増井氏からこの話を聞いたとき「腹をくくるしかないと思った」という。
今回の資本業務提携により、ヴォーカーズはVorkersリクルーティングの販促にリンクアンドモチベーションがもつ人的リソースを活用することになる。増井氏は、「これまでユーザーのことだけを考えて、ひたすらプロダクトを磨いてきました。しかし、HR系のサービスはプロダクトを磨くことだけではダメで、プロダクトのよさを企業の人事に伝える必要がある。かつ、この業界のデファクトスタンダードとなるためには、その展開をスピーディーに行わなければならないと考えました」と話す。
一方、リンクアンドモチベーションの麻野氏は「今回の資本業務提携が生まれたのは、当社が目指すビジョンとヴォーカーズのビジョンが驚くほど一致した結果です。これまで、当社はモチベーションクラウドなどのサービスを通して企業の“内側”から組織を改善するということに取り組んできました。一方で、ヴォーカーズは透明性の高いクチコミサービスによって企業を“外側”から改善してきた会社。その両方が手を組めば、よりよい社会が生まれると思ったんです」と話す。
IPOで真の透明性をめざす
ヴォーカーズは、普段TechCrunch Japanが取り上げるスタートアップとはすこし違った存在だ。創業から約11年間、外部からのエクイティ調達は受けず、大株主は90%を保有する増井氏自身。大多数のスタートアップと比較すれば驚くほど“プライベート”な会社だ。しかしそんな中、増井氏はそんな同社の状況に少しずつ違和感を覚えるようになったという。
「当社が目指すのは、ジョブマーケットの透明性の向上です。でも、そのサービスの運営する当社自身の透明性が低いことに違和感を感じるようになりました」と増井氏は話す。
リンクアンドモチベーションの取締役を務めつつ、ヴォーカーズの副社長にも就任した麻野氏が願うのも同社の株式公開だという。「ヴォーカーズはこれまで、驚くくらいの愚直さでユーザーと向き合ってきた会社です。今後もこれまでの路線を維持し、ヴォーカーズのポリシーやミッションを大切にしながら、独立した経営体としてIPOを目指していきます」(麻野氏)
「10億、20億、30億という売上は、ヴォーカーズ単体でも見えていた。しかし、日本のジョブマーケットを変えるためには、Vorkersがこの業界のデファクトスタンダードにならなければいけない。ここはまだ通過点。これまでのように編集されていない“真水の情報”を提供し、パブリックな企業となることで真に透明性がある企業を目指します」と増井氏は語った。