「ITの活用でダンス市場を変えたい」ダンサーが立ち上げたDanceNowが資金調達

テクノロジーを活用して業界のルールや構造を変え、その市場の課題解決に挑む——TechCrunch Japanではそのようなチャレンジをしている日本のスタートアップをいくつも取り上げてきた。

今回紹介するDanceNowもその1社。社名から何となく想像がつくかもしれないけれど、同社が取り組んでいるのはダンス市場の課題だ。収入を得る手段が少ないというダンサー、そしてダンスに興味を持った際に手軽に学べる手段がないという個人。双方の悩みを解決するサービスを通じて、この業界をさらに盛り上げようとしている。

そんなDanceNowは11月28日、複数のエンジェル投資家を引受先とする第三者割当増資と金融機関からの融資による資金調達を実施したことを明らかにした。

同社に出資したのはファンコミュニケーションズ代表取締役社長の柳澤安慶氏、同社取締役副社長の松本洋志氏、同じく取締役の二宮幸司氏、FIVE代表取締役CEOの菅野圭介氏、ReproでCSOを務める越後陽介氏の5人。具体的な調達額は明かされていないものの、トータルで数千万円規模になるという。

短尺のダンスレッスン動画サービスを軸に、コミュニティを拡大

DanceNowでは現在ダンス市場において2つの事業を展開している。ひとつが主に初心者を対象とした短尺のダンス動画サービス「Dance Now」、もうひとつがオフラインのダンス練習スタジオだ。

Dance NowのInstagramより

動画サービスのDance Nowは代表取締役CEOの廣瀬空氏が“レシピ動画サービスのダンス版”と話すように、プロのダンサーによる1分ほどのレッスン動画をInstagramやFacebook上に投稿している。2018年6月に本格始動して、現在までに約50件の動画を作成。体制を整えた上で年内に100本まで動画を増やす計画だ。

投稿するコンテンツは初歩的なダンスレッスン動画、ダイエットやフィットネス文脈の動画、振付など実際に踊りのテクニックを学べる動画の大きく3タイプ。10〜20代を中心に、ダンスに興味を持ったユーザーにとって「ダンスを始める入り口」となるような場所を目指したいという。

「今は何かのきっかけでダンスを始めたいと思った時、ダンススクールに行く以外の選択肢がほとんどない。まずはオンライン上で、1分で手軽に踊りを学べる動画を通じてそのハードルを下げていきたい」(廣瀬氏)

現在は既存のSNS上のみに動画を投稿しているけれど、次のステップでは自社アプリを開発する予定。そこで動画を軸にダンスを学びたいユーザーとインストラクターをマッチングする機能を取り入れる方針だ。

廣瀬氏の話ではそのフェーズで公式のレクチャー動画に加えて、用意されたフォーマットを基に各ダンサー(インストラクター)が自身で動画を投稿できる環境を整備。ダンサーにとってはマーケティングプラットフォームのような位置付けとなり、動画を起点に自身のワークショップやプライベートレッスンの顧客を獲得できる状態を目指すという。

まずはSNS上で動画を運用し、ユーザー側のニーズやダンスをする上での課題を探っていく方針。それも踏まえて来年の夏頃を目安にアプリをリリースする予定だ。

また少し先の話にはなるけれど、テクノロジーを活用した遠隔ダンス練習システムの開発にも取り組む意向があるそう。従来の仕組みだとインストラクターの収益モデルはその場でレッスンを受けられる生徒数の制約を受けていた。そこでその“箱の制約”を取り払うシステムに投資し、ダンサーがより多くの収益を得られるモデルを構築する狙いだ。

遠隔でのダンスレッスンが実現すれば地理的な制約もなくなるため、近くにダンススクールがないユーザーにとっても新しい選択肢になるだろう。

ダンサーがより多くの収益を得られる環境を

DanceNowは2018年7月に設立されたばかりのスタートアップ。代表の廣瀬氏は学生時代にダンスに熱中し、コンテストでトップクラスの成績を収めたこともある。

一時はダンスの道に進むことも真剣に考えたが「ダンスだけで生計を立てられる人はほんの一握り」という現実に直面。最終的にはダンサーになるのではなく、事業を通じてダンス業界を変える道を選んだ。

新卒でWeb系の制作会社に進み開発スキルを身につけた後、ファンコミュニケーションズに入社。新規事業の立ち上げを経てDanceNowを起業した。廣瀬氏を含めて現在正社員として働く3名は全員がダンス経験者だ。

「ダンサーが稼ぐ手段が少なく、それだけでは食べていけない世界を少しでも変えたい。現状はプロダンサーとして収入を得る機会に恵まれずダンスのインストラクターになる人が多いが、スタジオでのレッスンでは1回あたりの報酬がだいたい5000円くらい。まずはそこから変えるべきだと考えた」(廣瀬氏)

上述した通り、Dance Nowでは動画サービスの他にオフラインのレンタルスタジオ事業を運営している。このスタジオではダンサーが直接所属するのではなく、フリーランスのような立ち位置で自らプライベートレッスンやワークショップを開くスタイル。そのため既存の仕組みに比べてダンサーの手元には約2倍の収益が入るという。

今は10月にオープンした渋谷のスタジオ1箇所のみだが、これから他店舗展開を進める方針。このレンタルスタジオはDance Nowにとって直近の収益源でもあり、今後はマッチングしたインストラクターとユーザーがプライベートレッスンを実施したり、遠隔ダンスシステムなど新しい取り組みをテストする場にもなる。

とはいえここまで紹介してきた通り、Dance Nowはスタートしたばかり。事業もこれからというフェーズで、廣瀬氏自身も「完全に想い先行で始まったスタートアップ」だと言う。まずは動画メディアとオフラインのスタジオを軸に、ダンスに関心のあるユーザーとダンサーのコミュニティを広げながら事業の拡大を目指す。

「ダンスはユースオリンピックの正式種目にも採用され、今後の伸びが期待されている。日本でも教育課程に採用されてから手軽なスポーツとして定着し、若者を中心に愛好者は600万人を超えるような規模になってきた。今からダンスを始める人にとって少しでもいい環境や選択肢を提供できるようなサービスを作っていきたい」(廣瀬氏)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。