インフォステラが初の衛星通信向けアンテナシェアリングサービスをリリース

人工衛星向けアンテナシェアリングサービスのインフォステラが最初のサービス「StellarStation Amateur」をリリースした。学術研究向けの超小型衛星が利用するアマチュア無線向けUHF帯を対象とし、打ち上げから初期軌道まで(LEOP、Launch and Early Orbit Phase)の衛星運用を支援する。同社は学術向けの衛星で経験を積み、2018年内には商用衛星向けサービスに乗り出す考えだ。

インフォステラは2016年設立。アンテナシェアリングサービスの実現へ向け、専用通信機やソフトウェアプラットフォームの開発を続けてきた。2016年秋にシードラウンドで6000万円、2017年秋にシリーズAで8億円を調達している。

宇宙ビジネスを支える3つの要素は、ロケット、人工衛星、そして衛星との通信を担当する地上設備だ。人工衛星の打ち上げ需要は急増していて、そしてロケットを作るスタートアップや人工衛星を作るスタートアップが現れ、どちらも劇的な低コスト化が進みつつある。Space Xが2月6日に打ち上げたロケットFalcon Heavyのブースター回収や宇宙を行くテスラ・ロードスターの映像は記憶に新しい。その一方、地上設備の革新はまだこれからだ。「みんなロケットや衛星を作りたい。地上設備にはそこまで時間をかけたくない。学術研究の対象にもなりにくい」(インフォステラ代表取締役社長の倉原直美氏)

インフォステラが今まで作り続けてきたサービスStellarStationは、世界中のアンテナ(すなわち通信機会)という有限のリソースをクラウド流のやり方で配分するものだ。地球上の各所に設置されたアンテナを束ね、衛星運用のための通信機会を共有する。

StellarStationのインターフェース

通信機会は衛星の位置とアンテナの位置により制約を受ける。打ち上げから低軌道投入までの段階では、一カ所のアンテナで確保できる通信可能な時間(可視時間)は長くない。そこで、アンテナのシェアリングにより通信機会を低コストで使い勝手よく提供しようとするのが、インフォステラのサービスだ。

アマチュア無線向けのUHF帯からサービスを提供する理由は、大学など研究機関が開発する超小型衛星(キューブサット)ではこの帯域が主に使われているからだ。アマチュア無線向けの帯域なので商用には使えない。インフォステラは、大学などの研究機関を初期顧客とすることでサービスの成熟に必要な経験を積むことができると考えている。商用衛星への展開はその次の段階となる。アマチュア無線向けUHF帯以外にも、Sバンド、Xバンド、Kaバンドに対応する予定だ。

打ち上げに始まる運用の初期段階「LEOP」を支援

今回始めるサービスでは、ロケットを打ち上げ、衛星を分離し、目的の軌道に投入するまでの初期運用のフェーズであるLEOP(Launch and Early Orbit Phase)を対象とする。インフォステラがLEOPを対象とするサービスをまず立ち上げた理由は、このフェーズでの通信機会の重要性が非常に大きいためだ。

衛星を打ち上げて通常運用に至るまでのLEOPでは、スケジュール変更が頻繁に発生する。ロケットの打ち上げが諸々の事情で延期される様子はよく報道されているが、打ち上げた後も変更は続く。そして、衛星ミッションの失敗の多くはLEOPで発生している。

「例えば、予定していたアンテナで通信できず、別のアンテナを使って通信を試みたい場合が出てくる。あるいは、衛星が予期しない回転をしていて姿勢制御のコマンドを送るために予定よりも長い時間、通信を維持したい場合もある。このような不測の事態に対応するにはアンテナのスケジュールを柔軟に変更したい。そのためのサービスを開発している」(倉原CEO)。

従来の宇宙開発の考え方では、不測の事態に備えるには地球上に散らばった複数の地上設備のスケジュールを事前に抑える必要があった。インフォステラのサービスでは、アンテナのリソース配分変更をユーザー側で柔軟に実行できるようにする。

インフォステラが提供するアンテナシェアリングのプラットフォームは、世界各地の地上局を束ねて通信機会を分配する。参加する地上局のパートナーとして、ガーナ共和国のAll Nations University College 、バングラデシュのBRAC University 、日本の九州工業大学、台湾の国立成功大学(National Cheng Kung University)を含む世界各地の大学が参加する。準備中のものを含めると地上局は10カ所。今後さらに数を増やしていく。以下の動画はインフォステラが横浜に所有するVHF/UHFアンテナの設置風景である。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。