僕はスタートアップやそのプロダクトを紹介する記事を書く際、より深く理解してもらえるよう、周辺環境や競合プロダクトについても極力触れられるよう心がけている。だが今日は、ある企業が先行するスタートアップの「競合」というにはあまりにもそっくりなサービスを始めていたので、それを紹介したい。
あらかじめ断っておくと、領域でも、機能面でも、UI/UXでも、設計思想でも、「あれ?これは(他社の)あのプロダクトに似ているな」なんて取材の最中に思うことは往々にしてある。今さらタイムマシン経営なんて言葉を用いなくても、西海岸で新たなサービスが話題になれば、それをカルチャライズしたようなサービスが日本のスタートアップからリリースされるなんてことは多々あるし、ある新領域のサービスに注目が集まれば、そのサービスがデファクトスタンダードになる前に、続々と競合サービスが出てくる。そうやって競い合って市場が形成されていくものだと思っている。
最近の例で言えば、フリマアプリがまさにそだった。女性特化のアプリで市場を切り拓いたのはまず「フリル」だ。メディア露出も控えてサービスを育てたが、その実情を知るや、スタートアップからサイバーエージェントやLINEといった大企業までが数多くの競合アプリを生み出すに至り、後発だった「メルカリ」がダウンロード数では突出するという結果になった(一方で楽天傘下となったフリルも手数料無料化などの施策でユーザー数を伸ばしている)。そしてメルカリはまた、本に特化したフリマアプリとして先行する「ブクマ」を追うべく、同じく本に特化した「メルカリ カウル」をリリースしている。
似すぎた“競合サービス”
そんなふうに競合プロダクトとの切磋琢磨で新しい市場は盛り上がっていくものだと思うが、冒頭のとおり、あまりにも似すぎているのではないか? と思うものが登場することだってある。最近出会ったのが、クラウドワークスが提供する「CrowdHunting」だ。
サイト上の説明によると、「CrowdHuntingとは、様々な業界・職種で活躍するビジネスパーソンが、副業でヘッドハンターとして活躍できるクラウドワークスの新しいサービス」なのだそう。ヘッドハンターに対する採用候補者のサーチ活動の手当を時給1000円で支給。採用候補者の採用が決定した際、採用時の年収の約5%をインセンティブとして受け取ることができるという。
この内容、僕もどこかで書いた記憶がある……そう、先日資金調達を報じたスタートアップ、SCOUTERのサービス「SCOUTER」とそっくりなのだ。
・個人がサービス事業者と雇用契約を結び、副業としてヘッドハンターになる
・ヘッドハンターは知人や友人のニーズを聞き、求人情報を提供。採用時には年収の5%を報酬として得られる
・ヘッドハンターとしての活動には給与が支払われ、知人・友人との食事代については補助がつく
これらはどちらのサービスにも共通する内容だ。報酬についてはいずれも5%。料率も含めて、ほぼ同じと言っても過言ではない。
クラウドワークスによると、CrowdHuntingは今年1月からサービスを開始。大々的な告知などは行っておらず、テスト的に運用している状況だという。サービスの類似性について尋ねたところ、「ビジネスモデルに近い部分はある」とした上で、「当社のプラットフォームユーザーに対し、副業支援サービスを提供していきたいという思いが起点。ビジネスプロセスに違いがある」としている。また今後、テスト状況を見て都度サービスの変更等を進めていく可能性があるのだという。
SCOUTERにもこの件について尋ねたところ、同社もその類似性を認識しているようで、「私たちより長い経験と多くの資源を持つ会社が、SCOUTERと同じビジネスモデル、類似施策に行き着いたということは、私たちの選択がユーザーにとって価値あるものであり、また一定の効果を持っている事を裏付けていると考えている」と語る。だがその一方で、「1年という短いプロセスの中でも、ユーザーと向き合い、自分たちが提供できる価値を最大化するために奔走した事で、強力なメンバーが集まり、今後の展開が見えていることから大きく意識はしていない」とした。しかし、クラウドワークスの社員がその肩書きを明かさず、ユーザーとしてSCOUTERに対してサービスのヒアリングを行っていた可能性があるという声も聞いた。
ただ一方、SCOUTER側にもCrowdHuntingを真似たのではないか、と言えるような点がある。SCOUTERが5月にリニューアルしたウェブサイトには、4月に先行してローンチしたCrowdHuntingのサイトと似たクリエイティブを使っている箇所がある。SCOUTERもこれについて「(CrowdHuntingのサイト内容を)認識しているが、(クリエイティブは)従来のサイトでは説明がなく、追加で必須だという声が上がっていた内容だった」と説明する。
参入障壁の低い市場
そもそもの話だが、SCOUTERが切り開いた「副業によるヘッドハンティング」という市場自体、参入障壁が低くコピーしやすいということは間違いない。(副業の)雇用契約を結ぶことで、人材紹介で必要な認可も回避して提供できるモデルであることこそがSCOUTERの1つの強みでもあるからだ。同社ももそれを認識しており、「一定の参入を見越した施策を準備している」と語る。
SCOUTERは、「最後に勝つのは事業成長のスピードと、いかにユーザーにとって価値のあるサービスを提供し続けるかどうか。よそ見をせずに事業に取り組んでいきたい」と事業への決意を語るが、両社(と今後現れるであろうフォロワー)のビジネスはこれからが本番。コピーキャットに関する騒動は何も今に始まった訳ではないし、きれいごとだけでサービスが育つというわけではない。だが、各社のサービスがそれぞれの強みを見つけ、しのぎを削って発展していくことこそが、市場の拡大に繋がるはずだ。