クリエイター経済の世界では、公開したYouTube(ユーチューブ)動画が自分にとって最高のものだったとしても、次に公開するYouTube動画は、より大がかりで派手なものであることが要求される。
Vibely(バイブリー)は、Asana(アサナ)の元従業員であるTeri Yu(テリ・ユー)氏とTheresa Lee(テレサ・リー)氏が、共同で創業した新しいスタートアップだ。このスタートアップが生み出したのは、クリエイターが管理するプレミアムなコミュニティプラットフォームだ。そこではYouTubeやTikTok(ティックトック)で行えることを超えて、ファンが集まり、新しい方法でマネタイズを行うことを可能にする。
Vibelyのコアとなる部分は、クリエイターたちがファンが楽しめるようなチャレンジ(課題)を提供できることだ。創業者たちはこれによってユーザーが繰り返しプラットフォームに戻ってくることを期待している。たとえば思慮深い生活を触発させるブランドを持つクリエイターが、そのファンに対して自分の個人的成長を書き留めたり、毎日新年の抱負に関して何らかのアクションを取ることを促すことができる。あるいは、フィットネスインフルエンサーが、ファンたちに何日も続くスプリントワークアウトのモチベーションを与えることができる。
「クリエイター経済の中のほとんどの人は、すぐにマネタイズして金銭的満足を得るにはどうすればいいのかを考えています」とユー氏はいう。クリエイターたちがグッズを売ったり、Cameo(カメオ)プラットフォームに登録したりするのはそのためだ。「私たちが注力するのは、長期的な戦略的コミュニティです」。ユー氏は、彼女のスタートアップによる変化を、クリエイターとファンの単純な関係から、ファン、スーパーファン、新規ファン、クリエイターの間の多次元関係へのマインドセットへ変化させるものだと表現する。
Vibelyの売りは二本立てだ。ファンにとっては、このプラットフォームは世界中の他のファンとチャットするチャンスを与えてくれるものだ。また、ファンたちはコミュニティ内のチャレンジに参加することができ、メイクやダンスを愛する者同士が、仮想的な溜まり場を作って交流することができる。同時にこのスタートアップは、クリエイターたちが、計画の発表、アクションへの呼びかけ、アンバサダープログラムの作成をワンストップで行えるサービスを提供する。それが「クリエイターたちの時間を拡大し、彼らにかかわるコミュニティとの多次元の関係を育む」のだ。
特筆すべきは、Vibelyが、基本的にファンのための有料コンテンツ提供場所であるPatreon(パトレオン)やOnlyFans(オンリーファンズ)とは一線を画そうとしていることだ。Vibelyはクリエイターが多くのコンテンツを投稿する必要はなく、本人がプレミアムコミュニティに飛び込んできて、ファンと有意義に交流することが期待されているだけだ。
このスタートアップが取り上げるものは散発的な日常の出来事だ。クリエイターがコンテンツを投稿すると、YouTube、Instagram(インスタグラム)、TikTokに関するコメント欄が、意味あり気な髪のなびく様子から、後ろにあるポスターに隠されたメッセージにいたる想像できるあらゆるディテールについて、ファン同士の議論でにぎやかになる。クリエイターは、活発なスレッドや褒め言葉に反応して飛び込んでくることが多く、このことが、ファンにコンテンツセクションに群がり続ける動機を与えることになる。
スタートアップは顧客獲得にコストをほとんどかけておらず、口コミに大きく依存している。2020年12月にVibelyは、TikTokのトップクリエイターとそのフォロワーをペアにした、対面型で仮想型のクリエイターハウスを立ち上げ、話題を呼んでいる。2020年には、Vibelyの600以上のコミュニティで39万2000個のメッセージが飛び交い、3万7000のチャレンジが行われた。参加しているクリエイターには、YouTubeの登録者数130万人のLavendaire(ラベンデア)氏や52万人のRowena Tsai(ロウェナ・ツアイ)氏などがいる。
ユー氏は、Kim Kardashian(キム・カーダシアン)氏がプラットフォーム上でコミュニティを持つ日も来るかもしれないといいつつも、Vibelyを支える屋台骨は、真の関心や価値観、信念を表現してくれるクリエイターを探せる点にあるという。たとえばそれは、本のインフルエンサーであったり、宗教的なクリエイターであったりするだろう。
「(クリエイターたちが)自分の運命をコントロールできるのです」とユー氏はいう。「InstagramやFacebook(フェイスブック)では、クリエイターがコンテンツを作成しても、結局それがオーディエンスの目に止まるかどうかはアルゴリズムに決定されています。Vibelyを使えば、自分たちのコミュニティなのですから、それを完全にコントロールすることが可能になります」。スタートアップは、メンバーの支払う会費や、ソーシャル通貨や報酬のようなアプリ内の仕組みで収益化を行うことを計画している。
Vibelyの野心的目標は、世界中のゲーマーコミュニティが利用しているプラットフォームであるDiscord(ディスコード)よりも、ポジティブでサポートの手厚いプラットフォームになることだ。ユー氏は総ユーザー数についてはコメントを拒んだが、これまでのところ、他のユーザーによって「報告」を受けたVibelyのユーザーは0.1%未満だという。また、コミュニティを見守るユーザーを任命するアンバサダープログラムや、チームのグローバルコミュニティマネージャーを任命する機能もある。
「Discordのサポートの限界は、範囲がゲーマーに限られてしまうということです」と彼女はいう。「しかしクリエイターは、今すぐにでもブランドを守り、みなさんにポジティブな体験をしてもらいたいと考えているのです」。それが他の場所を求めている理由なのだという。
コミュニティ管理は今のところうまくいっているようだが、より多くのユーザーがこのプラットフォームに参加するようになれば、Vibelyは間違いなく問題に直面することになるだろう。こうしたチャレンジを促す世界では、狂信者が熱狂と誇大宣伝で煽る内容に、誰かが深く入り込み過ぎて問題が起こる可能性がある。Vibelyは、世界中の人と人がつながるために、審判不要な場所を目指しているものの、規模拡大にはそれを損なう独特な悲劇がつきまとう。消費者向けアプリの中には、積極的にスタッフ管理者を雇うことでこの現実に対応しているものもあるが、それでも過酷な作業になることがあり得る。
事業に全力で取り組むために、Vibelyは米国時間2月1日、YouTubeの共同創業者であるSteve Chen(スティーブ・チェン)氏、Asanaの共同創業者でNetflix(ネットフリックス)のドキュメンタリー「Social Dilemma(監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影)」の共同制作者でもあるJustin Rosenstein(ジャスティン・ローゼンシュタイン)氏、Meetup(ミートアップ)の共同創業者のScott Heiferman(スコット・ハイファーマン)氏、元Geltの投資家であるTurner Novak(ターナー・ノバック)氏といった支援者たちから、200万ドル(約2億1000万円)のシード資金を調達したことを発表した。
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カテゴリー:ネットサービス
タグ:Vibely、クリエイター
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(文:Natasha Mascarenhas、翻訳:sako)