著者紹介:Travis VanderZanden(トラヴィス・ヴァンダーザンデン)氏は、Bird(バード)の創業者兼CEO。
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4年前、電動キックボードのシェアリングサービスは存在すらしていなかった。それが今では、2021年までに世界全体で5億回以上の利用回数を記録する勢いだ。2009年にUber創業と同時に生まれた、CO2排出量の多い車両を中心とするライドシェア業界の初期の頃をはるかに上回るペースで成長している。
電動キックボードのシェアリングサービスはどの尺度から見ても、都市交通を劇的に変化させた。こうなると、「なぜここまで爆発的に普及したのか」という、素朴だが重要な疑問の答えを知りたくなる。
ここ数年の間にマイクロモビリティ普及の追い風となった主な進展について理解すると、この業界の現在の方向性だけでなく、世界数億人にのぼる利用者の今と将来のニーズを満たせるサービスの考案に役立つ貴重なインサイトが得られる。
電動キックボードのシェアリングサービスが世界中で拡大し、より健康的で持続可能な都市生活の実現が促進された背景には、車両の設計、データ、安全性報告書、インフラ整備などに関する、次の5つの革新的な進展があった。
電動キックボードのシェアリングサービス誕生(2017年秋)
Bird(バード)の電動キックボードシェアリングサービスが最初に開始されたのは2017年9月、カリフォルニア州サンタモニカでのことだった。それまでは、ドックあり方式またはドックなし方式の自転車シェアリングサービスがマイクロモビリティ業界のほぼ全体を占めていた。当時、自転車シェアリングサービスは米国全土で毎年平均およそ3500万回利用されており、その半分以上がニューヨーク市に集中していた。
幸先のいいスタートを切った電動キックボードのシェアリングサービスは、2018年には約3900万回、2019年には8600万回も利用されるようになった。そして、大西洋の反対側でも、同じように爆発的な増加が見られた。ドイツ、フランス、イスラエル、スペイン、ポルトガル、ベルギー、デンマーク、ポーランドなど、都市交通網のニーズを満たすためにマイクロモビリティを活用する国が急速に増え、イタリア、英国、ウクライナなどの国々も最近、その仲間入りをした。
電動キックボードのシェアリングサービスは現在、ほぼすべての大陸に分布する200以上の都市で利用できる。
シェアリング向けに設計された電動キックボードの登場(2018年秋)
世界初の電動キックボードのシェアリングサービスが始まると、この種のマイクロモビリティに対する高い需要が存在し、その需要を満たすにはシェアリング向けに設計された電動キックボードが必要であるという、2つの点がすぐに明らかになった。
シェアリング用の電動キックボードは、自家用のものに比べて、使用頻度が高く、より多様な路面状況や天候の中で走行しなければならないのが実情だ。2018年10月にバードの車両開発チームが業界初のシェアリング向けモデルとなるBird Zero(バード・ゼロ)を発表したのはそのためだ。より長いバッテリー寿命、明るいライト、高い耐久性、一歩進んだGPS機能を備えたこのモデルを皮切りに、安全性、持続可能性、耐用期間の向上を目指す一連の包括的な車両革命が起こり、その革命は成功した。今でも使用されている当時の電動キックボードは何万台もあり、使用される期間がひと月またひと月と伸びるたびに、二酸化炭素のライフサイクル排出量はさらに少なくなる。
Bird One(バード・ワン)やBird Two(バード・ツー)など、バード・ゼロに続いて発表された他のシェアリング向けモデルには、バード・ゼロが持つ性能に加えて、下記のような業界初の機能が搭載された。
- 200種類以上の故障を検知できる車載式の診断センサー。
- 1日あたり数百万回もの故障診断を自動的に実行・報告する車両インテリジェンスシステム。
- IP67またはIP68レベルの防水バッテリー。
- 1万4000マイル(約2万2500キロメートル)を走行できるバッテリー寿命。平均的な使い方を毎日続けても10年以上は耐用できる。
- 独立した機関による6万回以上の衝撃試験に耐えた機械設計。
業界企業による包括的な安全性報告書の公表(2019年春)
当然のことながら、安全性は、マイクロモビリティの創始期から今に至るまで最重要課題であり、最も議論されてきた側面でもある。そのため、2018年1月にバードは業界の中でいち早く、最も大規模な「ヘルメット無料配布キャンペーン」を実施し、他にもさまざまな安全対策を導入し始めた。
2019年4月、バードはこれらの取り組みを、電動キックボードの安全性に関する包括的な報告書にまとめた。これは、現代のマイクロモビリティシステムに深く切り込んだ初めての報告書であり、電動キックボードにも自転車と同様のリスクや脆弱性があることが、事故報告書やその他のデータに基づいて説明されている。この報告書を土台として、モビリティ事業者と自治体が、電動キックボードの利用者や歩行者に限らず、道路を使うすべての人を守るために協力して安全対策を講じることができるようになった。
ここ1年半ほどの間、バードは、同報告書の内容や、それを支持する他の論文に基づき、電動キックボードの安全性に関する業界標準の策定に役立つ革新的な機能を考案、開発してきた。例えば以下のようなものだ。
- マイクロモビリティのシェアリング業界初の「ヘルメット自撮り機能」でヘルメット着用を促す。
- マイクロモビリティのシェアリング業界初の「ウォームアップモード機能」で新規利用者にも使いやすくする。
- 業界初、かつ業界で最も正確なジオフェンシング機能により、電動キックボードの速度を落とせるようにし、走行禁止区域を設定する。
- データ共有に関する信頼性の高い基準や慣行により、自治体による自転車やキックボード用のインフラ整備を後押しする。
Open Mobility Foundation(オープン・モビリティ・ファウンデーション)の設立(2019年夏)
前段落の最後の項目は特に重要である。自治体は、路上の交通量を制限し、自転車やキックボード用のインフラを最大限まで拡大するために必要不可欠な存在だ。しかし、道路を利用する人すべての安全向上に役立つこの戦略は、信頼性が高く標準化されたデータがなければ成立しない。
バードはサービス開始以来ずっと、責任ある方法で自治体とデータを共有すべきであると積極的に主張してきた。しかし、一企業としてだけでなく、複数の組織が協力してマイクロモビリティ業界共通のモビリティデータ標準策定を支援するような団体はなかった。
この状況は2019年6月に一変した。ロサンゼルス、ニューヨーク、サンフランシスコなどをはじめとする都市の自治体と、バード、Microsoft(マイクロソフト)、非営利団体のコンソーシアムであるOASIS(オアシス)により、オープン・モビリティ・ファウンデーション(OMF)が創設されたのだ。会長を務めるロサンゼルス市交通局長Seleta Reynolds(セレタ・レイノルズ)氏は、フォーブス誌に次のように語っている。「OMFは、安全向上、収益確保、健康促進という、自治体にとって重要な目標を、CO2排出量を減らし、渋滞を緩和しながら達成できるよう助けてくれるプラットフォームだ」。
オープンソースのコードと共有データを活用し、モビリティ事業者と自治体が協力してマイクロモビリティシステムを管理すると聞くと、いったい何のことかと少し不安に感じるかもしれないが、その効果は日常生活の中ではっきり目にすることができる。例えばアトランタでは、電動キックボードに関するデータが自治体と共有された結果、市内の自転車専用レーンが2021年までに4倍に拡張されることになった。サンタモニカでは、キックボードのデータに基づき、19マイル(約30キロメートル)分のマイクロモビリティ専用インフラを新たに整備するための修正法案が提案され、承認された。
英国とニューヨーク州における電動キックボードのシェアリング合法化(2020年春)
今年、英国とニューヨーク州で電動キックボードのシェアリングが合法化され、それぞれの場所で試験運用が始まったことは、特に革新的とは言えないかもしれない。しかし、電動キックボードのシェアリング利用回数が2021年に5億回を突破するためには欠かせない展開だ。
環境と都市交通の分野において、ロンドンとニューヨークは世界の他の都市よりも重要な意味を持つ。この2都市だけで人口は1700万人をかぞえ、1日あたりの自動車の利用回数は1000万回を超える。これだけ人口密度が高く、車両があふれている両都市に電動キックボードを導入すれば、毎日の通勤は劇的に変わるだろう。新型コロナウイルス感染症のせいで公共交通機関が苦戦を強いられている今のような状況であれば、なおさらそう言える。これは、自治体にとっても、市民や環境にとっても、うれしい進展だ。
これだけ利用者が多いマイクロモビリティから収集されるデータは、ニューヨークとロンドンのインフラ整備状況を把握するのに役立つだけではない。マイクロモビリティに関するテクノロジーの迅速な進歩につながる研究を促進し、そのテクノロジーを世界各地ですばやく活用するためにも役立つ。
今後の展望
以上のことから何がわかるだろうか。電動キックボードのシェアリングサービスが誕生してからこれまでの4年間と、利用回数5億回を目前に控える今の状況は、マイクロモビリティの将来について何を示唆しているのだろうか。
第一に、この業界の成長は今後も続いていくと考えられる。道路渋滞や都市部の空気汚染を改善できる、適応性が高くて環境に優しいソリューションに対する需要は2020年のコロナ禍以前から高かったが、今では、単に望まれているだけでなく、必要な存在とみなされている。今後、電動キックボードは娯楽の延長ではなく、都市交通網の要となる乗り物になっていくだろう。その際、自治体とモビリティ事業者には、互いに緊密な関係を築いて、協力し合うことが求められる。これには、自転車や電動キックボードのシェアリング利用者が安全に使えるインフラを、データに基づいて大々的に整備することが含まれる。
第二に、電動キックボードのテクノロジーは引き続き、安全性と持続可能性という2本の柱を中心に進歩していくだろう。これには、キックボード本体の形状や機能だけでなく、本体を管理する日々のオペレーションも関係してくる。進歩の度合いは、製品寿命の長期化、バッテリー性能の改善、耐久性の向上、診断機能の強化といった尺度で判断できる。
最後に、数億回に及ぶ利用から収集されたデータが蓄積していくにつれ、都市交通の需要をより明確かつ詳細に理解できるようになるだろう。これにより、危険が予測される地域を特定し、その対策として、効果の高い措置を低コストで講じることができるようになり、それぞれの道路や時間帯に特有のニーズに基づいて都市計画を策定することが可能になる。
現在の傾向が続いたら(というよりも、そうなることを確信できる十分な根拠があるのだが)、最初の5億回達成まで4年かかった電動キックボードのシェアリング利用回数はすぐに、1年もかからずに倍増して世界合計10億回に到達するようになるだろう。
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カテゴリー:モビリティ
タグ:電動キックボード コラム
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(翻訳:Dragonfly)