千葉大学大学院理学研究院の堀田英之准教授と名古屋大学宇宙地球環境研究所所長の草野完也教授は9月14日、スーパーコンピューター「富岳」を使った超高解像度計算により、太陽内部の熱対流と磁場の再現に成功したと発表した。これにより、太陽の基本自転構造が再現でき、長年の謎だった「対流の難問」が解決された。
太陽は、地球と異なり赤道付近のほうが極地方よりも速く自転するという「差動回転」をしていることが、1630年ごろから知られている。これまでにも、スーパーコンピューター「京」を使った数値シミュレーションなどが行われたものの、極地方が赤道よりも速く回転するという、実際とは逆の結果が出てしまっていた。これは計算可能な解像度(京の場合は約1億点)の制限により、太陽内部の「乱流的な熱対流」を正確に計算できないためだとされている。こうした、熱対流の数値シミュレーションの結果が観測や理論モデルの結果と違ってしまう現象は、「熱対流の難問」として長年の謎とされてきた。
今回の研究では、「富岳」を使って世界最高の解像度である54億点で計算を行ったところ、実際と同じく、赤道が極地域よりも速く回転する結果が得られた。「太陽と同じ状況をコンピューター上に再現」できたとのことで、「熱対流の難問」が解決されたことになる。
これまでは、太陽内部の磁場エネルギーは乱流のエネルギーよりも小さいと考えられてきたが、今回の計算では、磁場エネルギーは乱流エネルギーの最大で2倍あることがわかり、太陽の常識が覆った。
太陽の差動回転を理解することは、太陽物理学最大の謎である「太陽活動11年周期」(太陽黒点数が約11年の周期で変動する現象)の解明にもつながるという。今回は「富岳のすべての力を使ったわけではない」という。そのパワーをさらに引き出し高解像度計算を行うことで、この謎の解明にも挑戦したいと、堀田英之准教授らは話している。
この研究の論文は、『Nature Astronomy』に掲載された。論文タイトルは「Solar differential rotation reproduced with high-resolution simulation」
なお同研究は、文部科学省「富岳」成果創出加速プログラム「宇宙の構造形成と進化から惑星表層環境変動までの統一的描像の構築」および計算基礎科学連携拠点(JICFuS)の一環として実施されたもの。また、理化学研究所のスーパーコンピューター「富岳」、名古屋大学のスーパーコンピューター「不老」、国立天文台天文シミュレーションプロジェクトのスーパーコンピューター「アテルイII」の計算資源の提供を受け、実施した。加えて、日本学術振興会の科学研究費の支援を受けている。
画像クレジット:千葉大学