テック系スタートアップに便乗した食品バブルが到来する

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編集部記:Robyn Metcalfeは、オースティンのテキサス大学の食物史家で、また同大学でThe Food Labのディレクターを務める。科学的、文化的な探求に魅了され、食品システムの検証とイノベーションを起こしている。

1851年、チャールズ・マッケイは600ページにも及ぶ大作、「Memoirs of Extraordinary Popular Delusions and the Madness of Crowds(邦題:狂気とバブル―なぜ人は集団になると愚行に走るのか )」を記した。本の中で、彼は86の経済バブルについて説明している。例えば、バブルが弾け、投機した何千もの人が多額の資金を失った17世紀のチューリップバブルや18世紀の南海泡沫事件などが取り上げている。マッケイは、このような経済現象は人の執拗で無謀な行動が引き起こしているとした。

同じようなことが、食品業界でも起きようとしている。誰もが食品関連のスタートアップという新しい波に乗ろうと先を争っている。これはバブルの予兆だろう。残念なことにベンチャーキャピタリストは、一般のスタートアップに対して行うようなデューデリジェンスを食品系スタートアップには行っていないようだ。

食料品配送のためのクラウドベースシステムを提供するFreshRealmのCEO、Michael Lippoldもふくらむ懸念を共有している。2013年の12月、購入した食料品を配送するサービスを提供するサンフランシスコのInsacartは20億ドルの評価を受け、2億2000万ドルを調達した。2014年のInsacartの収益はおよそ1億ドルだった。

投資家は食料関連ビジネスを加速するテクノロジーに注意を払うべきだ

Instacartは収益を出している方だ。急増する食品関連スタートアップの多くはまだ収益を生み出していない。Deliverooはイギリスの食料品配送を行うスタートアップで、1億ドルの評価額を得て、2500万ドルの資金を調達したが収益は僅か1万ドル程度だった。このリストは更に続く。

2014年にはベンチャーキャピタルは全体で 480億ドル を投資し、食品関連スタートアップも潤っている。これは2000年以降の最高値である。水資源や農耕に適した土地は足りていないにも関わらず、資金だけが溢れている状況だ。

ただ、食品に関連するイノベーションは喜ぶべきことでもある。食品の啓蒙活動を行う人も、起業家も、投資家も、技術提供者も人々の食生活を見直し、向上するために動いている。マクドナルドさえ、この動きに加わろうとしている。ファーストフードは、もう「ファースト」を追求することはなくなった。彼らは、カジュアルで地域に根付き、自然環境に配慮することで、今まさに動き出した注目の集まる市場に加わろうとしている。起業家は経済を成長させるための原動力となる。この業界は成長を欲している。

これから来るだろう食品バブルは、他のバブルとの違いを理解するのが難しくなる要因がいくつかある。

このバブルは、既存のテック系スタートアップバブルと組み込まれていて、その中で拡大している。幻想は感染する。テック系スタートアップは過大評価されることで、食料関連のコミュニティーの評価も上がるが、本当に食品配送サービスの評価が妥当なものなのか、あるいはテクノロジーだけが過大評価されているかの線引は難しい。

今の食品関連スタートアップは、テクノロジーと食品を組み合わせものだが、投資家は食料関連ビジネスを加速するテクノロジーに注意を払うべきだ。これからくるバブルは、今までの当たり前が移り変わる時代の将来が不透明な中、弱い経済成長に乗ってやってくることでさらに複雑さを増すだろう。

テクノロジー分野での過大評価は食品系スタートアップ自体にも影響を及ぼしている。過大評価されている食品系スタートアップは他のテック系スタートアップとさほど変わらない。同じ材料で作られているからだ。若く輝かしいリーダー、誰も理解していないが急成長を遂げている分野、そして完璧に整えられれたアイディアをピッチする舞台が整っている。

食品系スタートアップが、一般的なテック系スタートアップと違う所は、食品を扱うことで人と食品の間の感情的な関係に踏み入れていることだ。プロダクトが醜ければ、人は安全だと感じない。食品を扱う場合、食品の生産から流通のアイデンティティとなる部分を考慮に入れる必要もある。これらの関連性を甘く見積ることは、市場に受け入れる準備があり、プロダクトを支えるテクノロジーがいかに優れていたとしても、破綻に直結するだろう。

また食品に関連するビジネスを立ち上げる者の多くは食品業界での経験に欠けている。農業を行っていたり、食品の流通に携わっていたり、美味しい食品を作る術を知る者はほとんどいない。彼らと食品との接点は全員が食事を摂るということのみだ。それだけで食品系スタートアップを立ち上げる資格があるようだ。

食品システムの経験がある人をアドバイザリーボードに起用しなくても良いのか?必ずしも必要ではないかもしれない。今後の食品システムは既存のものとはまるで異なるのかもしれないからだ。それには既存の農業、食品、飲料の業界の外から違うアイディアを持ち込む必要があるだろう。しかし新しくスタートを切る中で、経験の乏しさはどのように捉えるべきかは検討すべきだ。

アイディアは多いほど、予期せぬ改革を受け入れる準備が整う。想像もしなかったつながりの構築と破壊が地球上のより多くの食卓に健康的な食事を届けることになる。

多くの食品系スタートアップはスケールすることを好まないし、ビジネスを収益化することさえ避けているようだ。起業家にどのようにビジネスをスケールする予定かと尋ねると、ほとんどがそのようなことは考えていないと答える。食品関連のスタートアップを起業した者の中には、ビジネスを大きくすることは悪だ、あるいは倫理的でない、更には工業的で恐ろしいことだとする者もいる。中には、少量で高単価の価格帯が理にかなうビジネスを展開し、自営業やスモールビジネスで満足している者もいる。

自分の手で作った生鮮食品を扱って、信頼関係を築いていくことは魅力的なことではある。職人気質なのも悪いことではないが、これが「次の大きな流れ」と捉えるべきかどうかには慎重になるべきだ。それは食品を扱うスモールビジネスにすぎない。立派な仕事だ。しかし、革新的かと問われれば、そうではないかもしれない。

食品バブルの準備を整えておこう。マッケイの幻想的な行動に対する警告には耳を傾けるべきだが、スタートアップの台頭も快く受け入れるべきだろう。食品システムを改革する新しい種となり、開花することを期待しよう。

アイディアは多いほど、予期せぬ改革を受け入れる準備が整う。想像もしなかったつながりの構築と破壊が地球上のより多くの食卓に健康的な食事を届けることになる。今日の食品系スタートアップがマッケイの言う「今日の小さな喜び」を感じるバブルの初期段階であろうと、全ての起業家は新しいコラボレーションビジネス文化に貢献し、誰もが健康的な食品を手に入れられる未来を期待する。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ facebook

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TechCrunch Japan

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