パーキンソン病治療研究のAspen Neuroscienceが75億円調達し臨床試験へ

自らの名前を冠したスクリップス研究所ローリング・ラボの創設者、Jeanne Loring(ジーン・ローリング)博士は2012年以来、パーキンソン病の治療に多能性幹細胞をいかに活用するかを検討してきた。

そして8年たった今、ローリング博士が研究内容を実用化するために立ち上げた会社Aspen Neuroscience(アスペン・ニューロサイエンス)が7000万ドル(約75億円)の資金を調達し、臨床試験に着手する。

おおよそ6万人の米国人がパーキンソン病と診断されている。この病気は運動機能を司る脳の一部を破壊する。ドーパミン分泌に関連する脳内の特殊な神経細胞が減少し、その結果、運動機能に障害が出る。ドーパミンは意欲や動きを脳内でコントロールする神経伝達物質だ。

Aspenの実験治療は、すでにパーキンソン病を抱える患者から皮膚細胞を取り出し、それらを山中伸弥氏やJohn Gurdon(ジョン・ガードン)氏が2012年にノーベル医学生理学賞を受賞したテクニック使って多能性幹細胞に変える。

ローリング博士やAspenのCEOであるHoward Federoff(ホワード・フェデロフ)博士が8年をへて実用化しようとしている研究は山中氏の発見が発端となっている。

パーキンソン病の他の細胞移植治療は壁にぶつかっていた。というのも、患者の体が異質の神経細胞に拒絶反応を示すからだ。これは臓器移植でたまにうまくいかないことがあるのと同じで、移植を受ける側の体が異質の細胞を拒否するために起こる。

Aspenの技術は、治療の元となる多能性幹細胞をつくるのに患者自身の細胞を使う。パーキンソン病と診断された患者は生体組織検査に同意して細胞を取り出してもらい、細胞は培養される。その後細胞は、細胞の構造を記憶している不活性ウイルスRNAを使うことで多能性幹細胞に変わる。

多能性幹細胞はさらに神経細胞に変わり、その後患者に移植される。パーキンソン病で破壊された神経細胞に取って代えるためだ。

フェデロフ博士とローリング博士は旧知の中で、カリフォルニア大学アーバイン校副学長を務めていたフェデロフ博士はローリング博士と彼女のチームが取り組んでいる内容を知って、副学長を辞めてAspenにCEOとして加わった。

フェデロフ博士は以前、パーキンソン病治療に取り組む企業のMedGenesis Therapeutixを立ち上げている。「我々がパーキンソン病で行うことの大半や現存の遺伝子治療は病気を安定させる。線維芽細胞は時計の針を戻すのに役立つ」とフェデロフ博士は話す。

鍵となるのは、自家製細胞の使用だ。細胞の採取と移植を同じ人に行う。

Aspenの新しいアプローチは長年ヘルスケアに投資してきたOrbiMedやARCH Venture Partners、Frazier Healthcare Partners、Domain Associates、Section 32、そして前Y Combinator会長Sam Altman(サム・オルトマン)氏からの支援を引き付けるのに十分なものだった。

新たな資金を得て、Aspenは役員会の増強を図った。Gossamer Bio創業者のFaheem Hasnain(ファーム・ハスナイン)氏がAspenの会長職に就き、ARCH VenturesのベンチャーパートナーTom Daniel(トム・ダニエル)氏とOrbiMedのパートナーPeter Thompson(ピーター・トンプソン)も役員会に加わった。

Aspenの初のプロダクトは現在、パーキンソン病の散発的治療を目的とする治験研究が行われている、と同社は述べた。2つめのプロダクトは、遺伝子修正とパーキンソン病の遺伝子の形を扱う神経細胞セラピーを活用している。

同社によると、今回調達した資金で残っていた研究と、主要プロダクト関連研究のFDAへの提出の費用を賄うことができる。加えて、臨床試験第1段階でのデータ収集と第2段階無作為研究にも使われる。

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(翻訳:Mizoguchi

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TechCrunch Japan

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