プライバシーがしっかりと守られるメッセージアプリのTelegramは、今年驚くべき利用率の急伸を見せている。TechCrunch Disrupt SFで、TelegramのファウンダーPavel Durovは、プラットフォームの毎日のメッセージ送信数が120億に上ると明かした。その数字は、今年の2月には10億で、5月には20億だった。
Telegramの毎月のアクティブユーザー数は、6000万人辺りを推移し、5月からさほど変動していない。つまり、既存のユーザー層のサービスのエンゲージメントが向上したことによるグロースであることが窺える。Durovはこれについて、Telegramをメッセージのやりとりをするためのバックアップの意味合いでインストールしたユーザーが、メインのメッセージアプリとして使用し始めていると、それを裏付けた。
「昨年、今年と多くの人がアプリをインストールしました。興味深いのは、ユーザーは始めTelegramをバックアップのアプリとしてインストールするのですが、主要なメッセージアプリとして使い始めていることです。それが、ユーザーのアクティブ率の急成長を促しています」と彼は、TechCrunchのMike Butcherに説明する。
立ち上げから2年間、私たちは1バイトもサード・パーティーに情報を開示していません。もちろん政府にもです。これは、簡単なことではありませんでした。
「これはユーザーがTelegramを気に入り、アプリを利用することが多くなったことを表しています。多くの人は一日の始めにメッセージアプリを使用するでしょう。これは、Telegramにとって喜ぶべきことです。メッセージ関連はこの10年のソーシャルメディアの中で最も大きいテーマです」。
WhatsAppやWeChatといったメッセージプラットフォームに比べると6000万のMAUはまだ少ないように思うかもしれない。だが、DurovはWhatsAppなどは立ち上がってから6年経つが、Telegramはまだ2年であると指摘する。
Durovは、彼が考えるアメリカでのメッセージアプリのライバルの課題をステージ上で述べた。そして、暗号化とプライバシーは「Telegramを他と差別化する要素の一つである」と強調する。
「WhatsAppのアプリをモバイル端末で利用している場合、充電が少なくなったり、なくなったりすると、メッセージにアクセスする術を失ってしまいます。終了です。クロスデバイス対応していません。クロスデバイスの同期もありません。文書や容量の大きいメディアを送信することはできません。グループチャットにはコミュニケーションの限界があります。プライベートなものではありません。3年前の自分がWhatsAppのファンだったかは覚えていませんが、今もファンかどうかは疑わしいです」と彼は話す。
Telegramが強いプライバシー対策をすることにどのような利点があるのかとButcherは尋ねた。Durovは、ロシアにいる彼の友だちでWhatsAppのメッセージが警察に傍受され、解読されたという話をした。「友人は、彼らがメールを脅迫目的で利用しようとしたと言っていました。プライバシーの問題は法人ユーザーだけに関係する問題ではないのですが、法人の方が脅迫の影響を受けやすいでしょう」と彼は言う。「資産家も脅迫される場合があります。彼らの情報は手に入りやすく、悪用される可能性があるからです」。
プライバシーが適切に確保された(エンドツーエンドの暗号化によりプライバシー確保)にはその半面、サードパーティがそのコミュニケーション内容にアクセスできないという側面がある。介入が適切な場面でもできない状況が生じる。イギリスやアメリカの政府の諜報機関は、そこに政治的な圧力を向けている。諜報機関が「緊急時」に備え、コミュニケーション手段にアクセスできないようにすべきではないという主張だ。
Butcherは自称イスラム国の過激派がTelegramを使用していることに触れ、この点についてDurovに尋ねた。Durovは確かにISISがTelegramは使用していると認め、Butcherは更に「それについてどう思いますか?テロリストがプラットフォームを使っていることに対して不安はありませんか?」と尋ねた。
Durovは少しの沈黙の後「良い質問です。私は個人のプライバシー、そしてプライバシーの権利は、テロリズムといった悪いことが起きるのではないかという不安より重要だと考えています」と話した。
個人のプライバシー、そしてプライバシーの権利は、テロリズムといった悪いことが起きるのではないかという不安より重要だと考えています。
「中東で戦争が起きていることは事実です。悲劇的なことが連続で起きていますが、ISISはいずれにしろ、互いに連絡する方法を見つけ出すでしょう。彼らの秘密が守られないコミュニケーション手段と分かれば、方法を次々に変えていくのです。なので、Telegramがその活動の一部を担っているとは思いません。私たちがそれに罪悪感を感じる必要はないと思います。ユーザーのプライバシーを守るという、正しいことをしていると思います」。
話の方向性を少し変え、ButcherはDurovに対し、特定のマーケット、例えばイランでポルノボットをTelegramから排除したことについては、矛盾はないのかと尋ねた。Durovの話はリバタリアンや言論の自由を支持する視点だからだ。Durovは、政府とは裏でやりとりをしているからポルノボットを排除したのではないと明示し、その判断は特定の市場における単純なビジネス上の意思決定だとした。
「私たちはポルノを推奨していません。Telegramがポルノのソースとして捉えられることは避けたかったのです。そういう理由で、そのようなものを排除しています」と彼は話す。「これは純粋なビジネス上の判断です。特定のマーケットでは、ポルノと関連するサービスだと印象付けられるのは避けたいのです。AppleがApp Storeでポルノをブロックするのと同じです。InstagramでもFacebookでもYouTubeでも同じです。それは正しいことだと考えています」。
「ただ、プライバシーや言論の自由に関しては、確固たる理念があります。立ち上げから2年間、私たちは1バイトもサード・パーティーに情報を開示していません。もちろん政府にもです」と彼は言う。「これは、簡単なことではありませんでした」と続けた。
他にDurovは、Telegramのボットプラットフォームを活用して、決済APIをサードパーティーの開発者に提供することを考えているという。ユーザーからの支払いを受領するためのものだ。ボットプラットフォームは、メッセージアプリ用のアプリストアモデルのようなものだと言う。そして、Telegramのボットを製作する僅か3ヶ月の会社が既に1000万ドル以上の規模での会社の売却を提案してきたとも話した。
「ボットプラットフォームは、今年ローンチしたばかりです」と彼はいう。「サードパーティーの開発者は、とてもシンプルなAPIを使用してボットを製作し、Telegramでユーザーとのやりとりができます。ユーザーとのやりとりは機械が行っていて、そのコミュニケーション方法を活用したサービスが多数登場しています。デート、教育、プロダクティビティなどのアプリです」。
Butcherは、Telegramは更にサービスを多展開するかについて尋ねた。例えば、アジアのメッセージプラットフォームのLineやWeChatは、メッセージアプリを中核に、他にも豊富なサービスを提供するプラットフォームになっている。
「彼らのようなモデルを欧米で行うには、マーケットでの普及率をとても高くしなければなりません。大勢の人とソーシャルな関係を築く必要があります」とDurovは言う。「それは、TelegramやKikのモデルと合致しないかもしれません。Telegramはいくつか特定のマーケットでは一番普及していますが、中国のWeChat、日本のLine、韓国のKakaoのような独占ではありません」。
「まずはボットの決済システムやTelegramの上にサードパーティーのアプリを作ることを検証していきますが、Telegramが将来アジアのメッセージアプリと同じ方向に進むとは限りません」。
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