ビジネスSNS「Wantedly」を運営するウォンテッドリーが今日、ボットとのチャットを通じて仕事探しができるFacebookボットをリリースした。このボットはWantedlyが提供するメッセンジャーであるSyncのほうでも利用可能だ。
「恵比寿近辺で医療系の仕事はありますか?」などと自然文で案件や会社が探せるようになった。ただ、これだと単に検索オプションを使って「高度な検索」をするのと大して変わらないのではないか、という疑問がわく。実際、開発を担当したウォンテッドリーのリードエンジニア、相川直視氏と滝川真弘氏らによると、今のところボットといっても高度な意味解析をしているわけではないという。形態素解析(単語に分けること)をして業種や職種、地域などと思われる語彙について重み付けを付けた上で既存のデータベースにクエリを投げ、その結果を自然文に埋め込む形で返答とする仲介処理をしているという。今のところユーザー個別のプロフィールを覚えたり、直前の質問(文脈)を覚えることもしていない。雑談的な対話も、あえて取り入れようと考えていないという。
早く手を出す会社のほうが先に行ける
「地域」だけでチェックボックスが100個もありそうなイケてないUIの検索フォームに比べたら、チャットUIのほうが良いということはあるだろう。しかし果たして使われるほどの利便性が提供できるのだろうか? そもそもユーザーはどういう質問をするのだろうか? 今の段階で出しても、ユーザーはむしろガッカリしないだろうか? そういう質問に対して相川氏は、次のように語る。
「最初はガッカリさせることもあるかもしれません。でも、それを恐れていたら何もできませんよね。それにチャットだとクエリで検索できないことがどんどん入ってきます。チャットに早く手を出す会社のほうが先に行けると思います」(相川氏)
「チャットUIで何が出て来るのか、やってみないと分からないところがあります。アーリーアダプター層が、いろいろな質問を試してみるのかなと思っています」
Wantedlyで多い検索は、実は「在宅、未経験、リモート」だそうだ。これだと「なぜ在宅したいのか」という理由は、普通の検索窓では聞き出せない。
「検索クエリだと、ユーザーがどういう気持ちで検索してるか分からないんです。でも、チャットというUIは面白くて、ほんとに知りたいと思ってる文章を打ってくれます」
元Googleのエンジニアだった相川氏は、そもそも検索ボックスに空白区切りで複数の単語を入れるような人は少数派だと指摘する。多くの人は1つ単語を入れるだけで検索をする。
「それに、もしGoogleが生まれたときから検索が自然文だったら、本当に空白区切りで人々は検索したのかなと思います。ほとんどユーザーは1語で終わりで、2語を入れて検索する人はWantedlyでも数%しかいません」
なぜ「在宅」と検索しているのか、本当の理由は分からない
Wantedlyはもともと求人募集を出す企業に対して、給与や福利厚生を書くことを禁止している。それは条件よりもパッションで人を結びつけるところをやりたいからという。
「『町おこしの仕事がしたいけど、ワークライフバランスが崩れるようなことはしたくない』という質問が来たときに、ちょっと相反するようなこの問いかけに対して、『本当はどちらが大事なのですか?』と聞き返すような、今であれば転職エージェントがやっているようなことを徐々に実現していきたい」という。「仕事を探すのって、ほんとは単語で表せるわけじゃないですよね」
「例えば子どもができて仕事を辞めた主婦の方がいるとしますよね。アパレル系だったので、もう1度アパレル系の仕事がやりたいと質問があったとき、文章で返せるUIだと、『そういうのはないかもしれないけど、こういうのはどうですか?』という提案ができます。スタートアップ企業のカスタマーサポートの仕事なら電話対応なので自宅でやれますよ、とか」
「ですから、本当にやりたいのは回答として募集案件を返さないようなものです。あなたがやりたいことを教えてください、というようなチャットです。いまだと転職エージェントがヒアリングを通して求職者の本質的なニーズをつかみとってマッチングをしますが、頭の中にはクライアントが20〜30社しかないという状況があります。Wantedlyは会社情報とプロフィール情報は日本でいちばんあるはずなので、これを使っていきたいです。会社情報だけじゃなくて、どういう社員がいるかも分かるので相性マッチングすることも将来的にはやっていきたいですね」
Wantedlyの掲載案件数は3万件で、利用社数は1万5000を超えているという。
まずはクエリを蓄積して徐々に進化
チャットUIだと、通常の仕事探しサイトと異なるクエリが出て来る可能性があって、そうした面にも期待しているという。例えば「上司がいない会社」(フラットな組織)とか、逆に「強烈なリーダーのいる組織」とかだ。
こうしたクエリに、いきなり良い回答ができるわけではない。まだ始まったばかりのボットの進化は、どうもクエリを蓄積するところからスタートするということらしい。以下、実際にいろいろとぼくが質問を投げてみた結果を掲載しておく。なんだか、それなりに会話が成り立っているように思えるものも少なくない。
「Siriがどんどんクエリを蓄えましたよね。昔は答えられなかったことで、いま答えられるようになっているものがあるはずです」
これはぼくの推測だけど、Facebookも似たアプローチを取っているように見える。一部でベータ版提供を開始しているFacebookのコンシェルジュサービス「M」を先日試用してみたのだけど、あまりにもこちらの意図を正確に汲みとるし、返答も正しすぎるのだ。背後は明らかにボットではなく人間だった。賢すぎて拍子抜けした形だ。Facebookはユーザーが何を聞くかというクエリを集めている段階なのではないだろうか。ある程度の量が集まれば、類型化して、それを自動化する戦略が見えてくるだろう。そういう意味で、Wantedlyのボットもフタを開けてみてクエリをまず蓄積するのだ、という方向性は合理的に思える。
検索の精度はクエリの絶対量で決まる面もある。例えばBingが1カ月で集めるクエリ量をGoogleが1日で集められるとすると、ロングテールのマイナーな領域ではBingではクエリ量が少なすぎて精度が出ないが、Googleでは十分ということもある。ボット対応の競争がヨーイドンで始まっているのだから、当面はいかに多くのクエリをユーザーから引き出せるかが1つの焦点となっていくだろう。
そんなわけだからWantedlyが真っ先にボット提供に走りだしたのを見て、これで何か目の前の課題が解決されたと考えるのは早計だけれども、前のめりのスタートアップ企業としての注目の取り組みだと思う。