マイクロソフトはクラウドコンピューティングで自然災害モデルの再構築を目指すが課題は残る

気象予測は難しい分野として知られているが、地球の日常機能の理解のためには、この分野がますます重要になってきている。気候変動により、山火事や台風、洪水やサイクロンなどの自然災害の規模や被害が拡大している。災害がいつ、どこで発生するかを正確に知ること(あるいは数時間前に知らせること)は、被災者の状況に大きな違いをもたらす。

この分野を、Microsoftは、自社のクラウドコンピューティングサービスであるAzureにとって、利益を生むニッチな分野であると同時に、良いことをする機会でもあると考えている。2017年の立ち上げ時にTechCrunchが取り上げたAI for Earthプログラムを通して、Microsoftは一連のサービスを「Planetary Computer(プラネタリー・コンピュータ)」と呼ぶものにまとめた。このプログラムは、物体や動植物の種類を識別するためのAPIを含んでいる。AI for Earthは、科学者などが自らの研究やモデリングにAzureを利用するための助成金を提供しており、このプログラムは、AI for HealthAI for Accessibilityといった他のMicrosoftのクラウドイニシアチブに加わる。

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私はこの数カ月間、災害対応のあらゆる側面に注目していたため、Planetary Computerと呼ばれるものの性能はどうなのか、自然災害のモデリングを改善するための障壁はどこにあるのかに興味を持っていた。このプロジェクトのプログラムディレクターであるBruno Sánchez-Andrade Nuño(ブルーノ・サンチェス=アンドラーデ・ニーニョ)氏は、このプロジェクトの野望はこれまでと同様に強いものであると語った。

「目標は、誰もが地球の生態系を管理できるようにするためのPlanetary Computerを手に入れることです。それは災害が起きた時の唯一の有効手段ですから」。このプログラムは「削減、対応、復興」に焦点を当てているが、できるだけ早く決断を下さなければならない「対応」が最も興味深い段階だ。

サンチェス=アンドラーデ・ニーニョ氏は、ここ2、3年の間に、特に環境に関連する領域でAIが驚異的な速さで進歩していると指摘した。「AIは多くの人が考えているほど多くのデータを必要としないのです」と彼は言った。「アルゴリズムに多くの進展がありましたし、私たちは、AIを理解し、非常に効率的な深層学習(モデル)を構築する方法を人々に理解してもらうために、多くの仕事をしています」。

地球システムにAIを適用する際の大きな課題の1つは、モデリングを成功させるために必要な専門分野の数だ。しかし、多くの分野は互いに隔てられており、科学者とAI研究者の間にはこれ以上ないほどのギャップがある。サンチェス=アンドラーデ・ニーニョ氏は、地球が直面する最も困難な課題に立ち向かうために、このプログラムがあらゆる分野の人々を継続的に巻き込む機会になると考えている。

「科学者のコミュニティには、より多くの知識を生み出したいというインセンティブがありますが、モデラーにとっては、良い答えをすばやく生み出したいというインセンティブがあります」と彼は説明した。「どうやって不確実性の中で迅速な意思決定を行えるでしょうか?」。

このギャップを埋める方法の1つが「アップスキリング」と彼が呼ぶ、科学者にAIのトレーニングを提供することだ。「これはすべて、環境分析をより速く、より良く行えるようにするという、同じ戦略の一環です」。特に地理分析分野ほど難しいものはない。「コンピュータは一次元を得意としていますが、近くにある複数のものを扱うのは苦手です」。彼は、もともと宇宙物理学を専攻していたが、GIS(地理情報システム)の「アップスキル」をしたと語った。

高度なAIスキルを身につけるための労力は、ライブラリが拡充し、一般的なAIモデルがうまく動作するようになり、さらにAIモデルを理解するための膨大な教材が用意されるようになったことで減少している。「かつては博士号が必要でしたが、今では10行のコードが必要です」。

そのAIの能力の増大により、人々はAIがあらゆる惑星規模の問題を解決できると信じ始めている。しかし、それは不可能であり、楽観的な見方をするとすれば、少なくとも今はまだ不可能だ。「私たちはAIの誇大広告を減らそうとしています」と彼はいう。「AIとは何かを知らなければ、それを信用することはできません」。このAI for Earthでは、科学者とAI研究者が一緒になってモデルのアウトプットを理解できるように、多くの取り組みで説明可能性を重視している。

このミッションは、関連する政府機関との連携を強めている。最近、AI for Earthは、米国陸軍エンジニア研究開発センターとパートナーシップを結び、同機関の沿岸監視システムの改善に取り組んでいる。

やるべきことが多くても、多くのモデリングの成熟度は高まっている。サンチェス=アンドラーデ・ニーニョ氏はこう言った。「今はまだ、発展途中の段階です。多くのプロセスで、必要以上にアドホックな処理が必要になっています」。良いニュースは、ますます多くの人々がこの分野に足を踏み入れ、点と点を結びつけようとしていること、そしてその過程で世界の災害対応能力を向上させようとしていることだ。

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画像クレジット:EDUARD MUZHEVSKYI / SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images 

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(文:Danny Crichton、翻訳:Yuta Kaminishi)

投稿者:

TechCrunch Japan

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