ミュージシャンが自分たちのために作ったiPhone用音楽録音アプリ「Tape It」登場

2021年3月にAppleは、ミュージシャンがすぐに音を録り新曲のアイデアを育てることのできるiPhoneアプリ「Music Memos」の新規ダウンロードを正式に停止した。そして現在、「Tape It」という新しいスタートアップがオーディオの録音を便利にするアプリの空白地帯を埋めようと参入している。このアプリは優れた音質と楽器の自動検出、そしてマーカーやメモ、画像のサポートなどの機能を備えている。

Tape Itのアイデアはミュージシャンである友人同士の2人、Thomas Walther(トーマス・ワルサー)氏とJan Nash(ジャン・ナッシュ)氏から生まれた。

ワルサー氏は自身が共同で創業したオーディオ検出スタートアップのSonalyticが2017年にSpotifyに買収された後、3年半Spotifyに在籍した。もう1人のナッシュ氏はクラシックの教育を受けたオペラ歌手で、ベースを演奏しエンジニアでもある。

この2人に、デザイナーでミュージシャンのChristian Crusius(クリスチャン・クルシウス)氏が加わった。クルシウス氏はAccentureに買収されたデザインコンサルティング会社のFjordに在籍していた。

長年ともにバンド活動をしていた創業者チームが自分たちの欲しいものからTape Itの開発を思いついたとワルサー氏はいう。同氏はSpotifyの新しい部署であるSoundtrap(これも2017年にSpotifyが買収したオンラインミュージックスタートアップ)での勤務を終えた後、音楽制作に関わる仕事にもっと取り組みたいと考えるようになった。Soundtrapは一部の人には役に立ったが、同氏やバンド仲間が求めるようなものではなかった。同氏らが求めていたのは、スマートフォンで音楽を録音できるシンプルなツールだった。ミュージシャンが現在Appleのボイスメモアプリでよくやっているように、そしてダウンロード停止となるまでの短い間はMusic Memosアプリでやっていたように。

画像クレジット:Tape It

ワルター氏は「アマチュアであってもプロのツアーミュージシャンであっても、自分のスマートフォンでアイデアを録音するでしょう。スマートフォンはいつも持ち歩いているからです。カメラとまったく同じです。最高のカメラはいつも持っているカメラです。そして最高のオーディオ録音ツールはいつも持っているツールです」と説明する。

つまり録音をしたいときの最も簡単な方法は、ノートPCを開いて何本もケーブルを接続し、それからスタジオソフトウェアを起動することではない。iPhoneで録音ボタンをタップすることだ。

Tape Itアプリはまさにその通りに使えるが、iPhone標準のボイスメモアプリより優位な機能も備えている。

録音する際に、Tape ItはAIを活用して自動で楽器を検出し、カラフルなアイコンを付けて録音データを見つけやすくする。録音のファイルに自分でマーカーを付けたり、詳細を忘れないようにメモや写真を追加したりすることもできる。これは後で録音を確認する際に便利でしょう、とワルサー氏はいう。

画像クレジット:Tape It

同氏は「かっこいいギターのサウンドが録れたら、アンプのセッティングを写真に撮って追加できます。これはミュージシャンがよくやっていることです。サウンドを再現する最も簡単な方法です」と説明する。

シンプルでありながら斬新な機能としては、文章の段落を区切るかのように長い録音データを複数の行に分割できる。同社はこれを「タイム・パラグラフ」と呼んでいる。デフォルトでは水平方向にスクロールする1つの録音データになっているのが一般的だが、分割することで長いセッションを聴きやすくなると同社は考えている。

画像クレジット:Tape It

スマートな波形とオプションのマーカーや写真のおかげで、録音の目的の箇所に戻りやすい。録音をお気に入りに追加すれば、最高のアイデアやサウンドの一覧をすぐに表示できる。iOSのメディアセンターと統合されているので、いつでも時間があるときに音楽を再生できる。

Tape Itの際立った特徴は「Stereo HD」の音質をサポートしていることだ。iPhone XSやiPhone XRといった新しめのモデルに内蔵されている2つのマイクを利用し、社内で開発したAIテクノロジーやノイズ低減技術などを使って音質を向上している。この機能は年額2200円のサブスクで利用できる。

今後Tape ItはAIなどのテクノロジーを開発してさらに幅広く活用し、音質を向上させる予定だ。コラボレーション機能、録音データの読み込みやプロ用スタジオソフトウェアへの書き出しのサポートも計画している。こうなっていくと最終的にTape Itは、SoundCloudがコンシューマ向けサービスにシフトする前に目指していたのと同じ市場に参入していくことになるだろう。

しかし共有機能を追加する前に、まずはシングルユーザーのワークフローを確立したいとTape Itは考えている。

ワルサー氏は「自分専用の便利なものを作るのが重要であると判断しました。コラボレーション機能があったとしても、使うのが好きでないものは使われなくなるでしょう」という。

Tape Itの3人はストックホルムとベルリンに拠点を置いている。現在はブートストラップの段階だ。

iOS版アプリは無料でダウンロードできる。MacとWindowsで使えるデスクトップ版は後日リリースされる。Android版は計画されていない。

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画像クレジット:Tape It

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(文:Sarah Perez、翻訳:Kaori Koyama)

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TechCrunch Japan

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