一般投資家にもプロジェクト投資の門を開く「FUELオンラインファンド」リリース

投資型クラウドファンディングのプラットフォームを開発・運営するFUEL(フエル)は2月4日、「FUELオンラインファンド」をリリースし、投資家の会員登録と口座開設受付を開始。第1弾案件として、物流不動産関連事業を営むシーアールイーのクラウドファンディングサイト「CRE Funding」を開設した。CRE Fundingについては、2月中に募集情報を公開予定だ。

複数ファンドに1万円から個人で投資「FUELオンラインファンド」

FUELは2016年10月の創業。サービス立ち上げのため、およそ3年かけて準備をおこなってきた。FUEL代表取締役(共同代表)の細澤聡希氏は、かつてドイツ証券で上場企業のファイナンスを支援する仕事に従事していた。「上場企業なら機関投資家からグローバルで安くお金を集めることができる。だが投資家から見ると、一般個人では良い(金融)商品、面白い商品には触れることができない。情報・商品の不均衡を感じていた」(細澤氏)

その後ベンチャー企業に転職し、CFOとしてファイナンスを担当するようになった細澤氏は、今度は事業者として「調達が簡単ではない」というシチュエーションを味わう。こうした金融・投資の世界を変えたいと考えた細澤氏。インターネットの普及でネットでものを買うのが当たり前になった今、投資の世界でもネットを活用することで、事業者側の資金調達ニーズと、一般投資家の投資多様性へのニーズの両方を満たせるようにしたいと、FUELを立ち上げた。

写真左からFUEL代表取締役(共同代表)徳毛雄一氏、取締役CTO 恵比澤賢氏、代表取締役(共同代表)細澤聡希氏、取締役 小川喜之氏

FUELがサービスを開始したFUELオンラインファンドは、資金調達などを目的としたファンド事業者とFUELとが連携し、ファンド事業者ごとの専用サイトをFUELが運営。各ファンド事業者が組成するファンドの募集を行うというサービスだ。提携先のファンド事業者は上場企業やそのグループ会社が中心となる。

投資家はFUELで口座開設をすることで、複数のファンド事業者のファンドに1万円以上、1円単位で投資することができる。投資したファンドや残高などの情報もマイページで一元管理される。

細澤氏とは大学時代の同期で、もう1人の代表取締役、徳毛雄一氏は「FUELでも当初は事業者としてファンドを組成して提供することを考えていた」というが、クラウドファンディングでは既に先行者がいる。「ポテンシャルはあるが、まだまだ小さい市場」に対して、同社は開発したシステムなどを他の事業者へ展開する方向へ舵を切った。

「クラウドファンディングをやりたい事業者は多いが、リソースやシステム開発などに課題を抱えている。不動産業界はまだまだテックと距離があり、内製化はハードルが高い。また一般投資家向けのマーケティングなどにも明るくないことが多く、実行するためのリソースや体制に負荷がある状態。我々には不動産や金融に知見のあるメンバーがそろっており、コンサルティングを含めて導入支援ができる。そこで、こちらで開発したシステムなどを使えないか、同業の不動産企業と話をしていった」(徳毛氏)

FUELオンラインファンドでは、不動産関連企業は従来通り、不動産の取得から建物管理、バリューアップや売却を行う。FUELは第二種金融商品取引業登録業者として、投資家の募集・管理と投資家向けのマーケティングを担い、提携企業をサポートする。

一般的な不動産投資クラウドファンディングと異なり、FUELはファンド営業者とは独立した立場になるため、第三者として営業者と投資案件を審査・モニタリングする。また審査委員会には、税理士または会計士を外部から入れ、FUELとも独立した立場で審査・承認を実施。「一般投資家がインターネットを通じて、気軽に安心して投資できる」よう、投資家保護の観点を重視した体制を組んでいるという。

「コーポレートへの貸付だけでなく、プロジェクト単位でのファイナンスというのは企業にとってもニーズのある部分。そうしたプロジェクトファイナンスの一部を個人の方に、リスクを切り分けながら提供するのは面白く、まだ誰もやれていない領域なのではないかと考えている」(徳毛氏)

プロジェクト単位の調達ニーズ、個人の投資ニーズに応える

他社の組成するファンドを束ねて、一般投資家向けに提供するサービスとしては、「モダンな個人向け社債」を目指して約1年前にローンチしたオンライン貸付投資の「Funds」などもある。

徳毛氏はFundsについて「非常に面白いアプローチ」と述べ、「2019年、投資型クラウドファンディングを牽引した1社として、我々も大変参考にしている」と話している。「Fundsは上場企業への貸付という形を取って、一般投資家への認知拡大や、株主に準拠するような企業応援コミュニティの醸成という、今までにないマーケットを作っていると感じている」(徳毛氏)

その上で「機能では重複する部分があるが、我々はリアルなファンドビジネスの延長線の一部を切り取ってやることが可能」として、コーポレート単位ではなく特定の不動産物件開発など、プロジェクト単位で事業者が調達を行いたいというニーズと、ミドルリスク・ミドルリターンで投資を行いたいという個人投資家の経済的な合理性とが合致する領域に対して、FUELオンラインファンドを展開していくとしている。

この「プロジェクト単位でファイナンスができる」という特徴を実現するために、関係省庁の審査の過程にも時間をかける必要があったそうだ。「外的要因としては、既存のクラウドファンディング事業者で行政処分も含め、大きな問題が起きていて、当局も慎重な姿勢となっていた。また、プロジェクトファイナンスを個人投資家に提供すること自体についても、当局への説明がなかなか難しく、そこに時間を要した部分もある。我々としては、不動産会社のリスク、プロジェクト単位のリスクなど、階層を分けて(ファンドの)審査を行う体制を整え、安心できる商品を投資家に提供する環境を整えた。この点は他社にはない要素だと考えている」(徳毛氏)

FUELオンラインファンドでは、まずは不動産に特化した貸付型クラウドファンディングを対象に事業をスタートする。事業者の数も増やして「3年で10社、1000億円を超える市場をつくりたい」と細澤氏。種類もオフィスや商業施設、ヘルスケア、物流、住居などへ拡充していき、商品の多様性を高めて、FUELオンファインファンドとしてのブランディングを図っていきたいとしている。

細澤氏は「ローン(貸付)型にこだわっているわけではなく、ゆくゆくはエクイティ型商品も提供したい」とも話している。「金融商品としてチャレンジできるところは、新たなライセンスを取得して拡大していきたい」(細澤氏)

また「問い合わせでは、不動産特定共同事業法(不特法)の中でクラウドファンディングをやりたいという不動産会社からのものが、非常に多い」(細澤氏)とのこと。「我々は不特法の事業許認可を保有していないが、システムの提供、本人確認や反社会的勢力でないかどうかといったオペレーションの部分を黒子となって支援することはできるので、不動産会社にサービスを提供していきたい」と細澤氏は話していた。

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TechCrunch Japan

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